第903回 虐殺器官
伊藤計劃 「虐殺器官(新板)」 Project Itoh:GENOCIDAL ORGAN
早世した伊藤計劃さんの長編第1作。
ベストSF2007、国内編第1位。ゼロ年代SFベストの第1位の作品。
第1回月刊PLAYBOYミステリー大賞受賞。
2010年に文庫化されたが、この度、新版がでた。
長編第2作「ハーモニー」と共に劇場版アニメ化するようだ。
年代は西暦2020年前後。
20世紀にフォード大統領が暗殺の放棄宣言した合衆国は、2001年9月11日のテロ行為に対してその方針を転回した。
陸軍(アーミー)、海軍(ネイヴィー)、空軍(エアフォース)、海兵隊(マリーン)と並ぶ情報軍(インフォメーションズ)の設立。
その中で暗殺(ウェットワークス)を受け持つ、特殊検索群i分遣隊のクレヴィス・シェパード大尉たちは、最先端技術装備で目標暗殺に向かう。
ほう、内乱を起こした武装勢力はニッポンから中古のピックアップ・トラックを買ったらしい。
側面に漢字でフジワラというトーフ・ショップの文字が書いてあるままだ。
標的A,Bの同時暗殺は、Bが現れなかったため失敗するが、シェパードが聞き出した国防大臣Aの「なぜこうなってしまったのだ」という発言は何を意味するのか?
2年後。世界のありとあらゆる場所で民族紛争と内戦が起こる。
この2年間で虐殺された非戦闘員の数はマスコミでもフォローしきれない。
幾度もミッションを行ったクレヴィスの標的には、ある人物の名が何度も浮かび上がる。
2年前に補足できなかった標的B。ジョン・ポールと名乗るアメリカ人は、この個人認証(ID)システムの整備された世界で、どうやって世界中の紛争地帯へ移動しているのか?
国家間の戦争ではなく紛争というレベルでは、民間業者がビジネスとして入り込む余地がある。戦地でも人々は生活をしていかなければならない。
戦略戦術をプレゼンするシンクタンクや、調査・訓練業務。捕虜収容所の建設・警備まで民間に委託する国家不在の狂った世界。
数万人の虐殺を行った軍部指導者は尋問に「なぜかこうなってしまった」と答える。
戦争をプロデュースする男、ジョン・ポール。
シェパードたちに与えられた任務はジョン・ポールの追跡行(トレース)であった。
「言語」とはヒトに発生した新たな器官(オーガン)である。ヒトはこの器官を特化させ、牙や爪の代わりとして進化する。
だが、一部の器官だけ肥大していくのは、サーベルタイガーと同じ運命をたどるのではないか?
主人公は自分の母親を殺したことを語る。
ここはヒッターには堪えた。同じ状況でヒッターも父親を殺しているからである。
脳死状態で人工呼吸器に繋がれているだけの肉体を開放してあげるのに同意するのは、死に水を取ると言ってもいいのだろうか。
機械のスイッチを切った時、自分は父親を殺したことになるのだろうか。
いまだにあの決断をした時のことを思い出すと、気分が悪くなる。
このまま「ハーモニー」を読もう。
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