まるでダメな男の日記

このブログでは趣味のゲームや読書感想など非生産的な駄文を書き連ねていく予定です。

第482回 テルマエ・ロマエ

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ヤマザキマリ「テルマエ・ロマエⅥ」(完) THERMAE ROMAE : FINIS

 堂々完結です。
 鉄蔵じいちゃんすげーー! いったい、何者?
 ついにルシウスに追いついたサツキちゃん。
 ルシウスよ! サツキちゃんと幸せに!!

 ええ!? 映画「テルマエ・ロマエⅡ」2014年GW公開ですか!!



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第481回 岳飛伝(5)

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北方謙三「岳飛伝(5)紅星(こうせい)の章」
岳飛伝 五 紅星の章


 宣凱は岳飛に会談を求める。黒字に「幻」の旗を揚げ、楊令の代理として。
 宣凱は岳飛に問う。岳飛は戦いが終わった後、どのような国を目指すのか。
 かつて梁山泊が掲げた「替天行道」の志は宋江、楊令の時代を経て、形を変えて受け継がれている。
 原型に近いのは岳飛の掲げる「盡忠報国」の志だ。

 南宋軍と金軍の戦線は膠着しながらも南宋が押しているかに見える。
 それは金軍に引き込まれているとも見える。
 兵站の関係から北上出来ない南宋軍と、漢民族の叛乱を危惧する金軍。
 岳家軍の長刀隊をどうしても兀朮は崩せない。 

 開封府を見据える岳飛に、兵站線の伸びきった南宋は撤退を命ずる。
 幕下の南宋正規軍と辛晃軍を返し、岳家軍のみで北進する岳飛。
 南宋も金国も疲弊している。
 金国との講和で戦を避け、交易で利を上げ続ける梁山泊のみが疲弊を免れている。
 もう南宋からの兵站は無く、梁山泊の王貴の船による輸送が頼みの綱だ。
 
 二十万対三十万で始まった戦いが、互いに兵力が四万まで減った戦場で岳飛と兀朮が激突する。
 楊令に腕を切り飛ばされた岳飛。楊令に脚を切り落とされた兀朮。
 未だに幻王・楊令の影が二人を包んでいる。
 共に梁山泊に負け続けた二人に、戦は急を告げる。
 顔に傷を負う胡土児。楊家の男に伝わる業なのか。二百名の精鋭も二十二名まで減る激戦だった。

 秦容の統括する、南の湄公河(メコン川)付近の居留地は規模を拡大させつつあった。
 梁山泊軍から退役し、移住を希望した者が次々と渡海してくる。
 梁山泊の交易地は西は西夏、西遼の果て、東は倭国にも広がりつつある
 張朔は倭国・平泉の北の王、藤原基衡、秀衡親子と謁見する。

 兀朮と岳飛は取敢えず矛を収めるが、講和には至らない。
 岳飛は南宋への帰順を是とせず、軍閥のまま残ろうとする。

 智多星の死と共に、何かが変化していく。
 新しき運命の歯車が回っていくのか。
 

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第480回 境界線上のホライゾンⅣ(51)

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(下)」 Horizon on the Middle of Nowhere
Episode Ⅳ-Part 3 適当ダイジェスト㉓


「第九十五章 途上の擦れ違い人」「最終章 新しき場所の宿り人達」
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 正純は、目の前に立った巨大な白と黒の弓に息を呑む。上空を見上げたホライゾンは、膝を折った一礼を見せた。そして巨大な弓を手に取ると
 ”試し撃ちは誰にしますかねえ”
 ”何で俺だけ見てんだ! 俺が何か悪い事したか!?”
 皆が揃って頷くと、ホライゾンが一発ぶち込んだ。ホライゾンの周りに認識用の表示枠(サインフレーム)がいくつも出ては消えていく。
 ”おかしいですね・・・。あ、バッテリー切れでした。インジケーターが真っ白に”“
 正純は「上越露西亜」艦隊が、既に数km向こうに遠ざかっていくのを眺めながら、四つ、という「大罪武装(ロイズモイ・オブロ)」の数を思う。
 “私達の為すべきも中盤に差し掛かったという事か”
 《焦がれの全域(オロス・フトーノス)》、《悲嘆の怠惰(リピ・カタスリプシ)》、《拒絶の強欲(アスピザ・フィラルジア)》、そして《憤怒の閃撃(マスカ・オルジィ)》。極東に四つの「大罪武装」が集まった。それは世界が終わりに近づいて来ている事の証明かも知れない。
 そして、「ノヴゴロド」の地下で見た「あれ」は、一体、何だったのだろう。

 浅間は思案していた。「ノヴゴロド」で見たもの。神道勢力として黎明の時代の情報は必要案件だ。調書など要求されるかも知れない。「IZUMO」や「白砂神社」に赴くのも難しいので、父を調査官にしてもらい、「関東IZUMO」でやって貰おう。
 あのレリーフから削られていたものは何だったのだろうか。そして「二境紋」。オラニエが攫われた理由。元信公が作った教導院で公主と友達になろうとした、とはどういう事か。考え込んでいると、不意に「武蔵」の各所から、防護障壁が立ち上がった。緊急事態だ。
 《上方、二次ステルスから出現する艦群があります! 進行は西北西から南、所属は、――「羽柴」です! ---以上》

 二代が見上げる空。「武蔵」を見下ろすように「羽柴」の艦群が南へ向かって行く。頭上を通り過ぎる軌道だ。先頭集団の大型艦は、砂塵障壁を構えた「鳥取城」だ。危害を加えるつもりは無いらしい。
 眼 鏡:「毛利」攻めのため、一度、「P.A.Oda」に補給に戻るんだね。「伊達」が関東の牽制に入ったから物資を「安土城」で輸送できなくなったんだ。そして、「毛利」からの大返しの練習も兼ねてる
 二代が成程と頷いた時、白魔女(ヴァイスヘクセン)が、険のある声を作った。
 “羽柴がいるわよ”
 「鳥取城」の左舷甲板に、こちらを見下ろすように立つ羽柴・藤吉郎がいる。その背後に《十本槍》の福島・正則と加藤・清正、それともう二つ。翼の重なりと、砲にも見える魔女の機殻箒(シャレベーゼン)だろうか。
 対するように「武蔵」上でホライゾンが《憤怒の閃撃》を構えた。羽柴に向かって眉を立て、鋭い視線を向けている。これが、姫の怒りで御座るか。

 グリップカバーが一瞬で顎を上げ、張られていなかった弦が、炎のような加熱流体の光で結ばれる。燃料不備だった《憤怒の閃撃》に、同時展開した《拒絶の強欲》が流体供給を始めた。そして、隣りに立つトーリの術式のラインが、ホライゾンをケープのように覆っている。
 《所有者:ホライゾン:アリアダスト:―――認識》
 《個体感情表現:通常駆動 超過駆動:コンバットプルーフ済可;自己進化解決》
 《ホライゾン様:第三セイフティ解除:「魂の駆動」:御願い致します》

 
 ホライゾンは思った。怒り、とは何だろうか。―――思い出すものがある。「「三方ケ原の戦い」の後、このように羽柴と向かい合った。自分達は多くの人達に助けられ、そして喪失した。喪失した対象への感情とは別の、喪失の原因への感情。
 これを怒りと呼ぶならば、誰に向けられたものだろうか。羽柴か。不甲斐ない自分達か。
 “ホライゾン、怒りは己を変えるために使えよ? 甘く、不備のあった自分を、二度と負けない為に、その事を示す為に、放てよ、ホライゾン。俺達が怒り、撃つべきは、―――運命への抵抗を忘れた連中だ”
 Jud. 澄みました。
 “人は、抵抗と再起、悲しみと喜びを重ね、・・・如何にして生き、死ぬのが正しいのか。―――それは、運命への抵抗!!”
 《セイフティ解除:「魂の駆動」:認識》
 ホライゾンが弦を引き絞っていく周囲に、莫大量の表示枠(サインフレーム)が展開する。十字と鳥居を重ねた黒い表示枠に
 《「大罪武装」統括OS:Phtonos-01s:第三段階:更新:認識》
 《ようこそ 感情の創世へ》

 感情に応じるように、ホライゾンは羽柴目がけて、白と黒の弓を射た。

 怒りは不可視だった。甲板から見下ろしていた羽柴に、斜め下から一直線に直撃したように見えた。その軌道上に光の大規模な飛散が咲いた。傘のように広がる流体のカケラの中央で、羽柴はじっと立っている。無傷だ。
 ホライゾンは息を飲んだ。左手に持つ《憤怒の閃撃》を握りしめ
 “まさか・・・、この《憤怒の閃撃》が、一発目から宗茂砲と同じになってしまうとは・・・”
 “宗茂様! 宗茂様!!“ 立花・嫁が夫に駆け寄った。
 かげV:マルファ! 膝をついてどうした! マルファ!!
 “おい、ホライゾン。仲間にダメージ与えどうすんだ一体”
 頭上を見上げていたウルキアガが声を挙げ上げた。
 “おい、羽柴を見ろ。あの猿子が持っているもの。「大罪武装」ではないのか?”

 羽柴は構えを解いた。彼女の背中の鉄扇に似た翼が、一枚の羽を伸ばし、光っている。そして、彼女の左腕に掲げているものがあった。
 “《拒絶の強欲(アスピザ・フィラルジア)》!?”
 皆が問うた先、福島がこちらに気付き、立てた右の掌を「違う」と左右に軽く振っている。
 《憤怒の閃撃(マスカ・オルジイ)》の光が散り切った後、「鳥取城」が加速を開始した。答える事はもう無いと言うように、再びステルスに入り、後続艦も続いていく。
 もはや空に「ノヴゴロド」は無く、「上越露西亜」や「最上」の艦隊も北東の空に去り、柴田艦隊は南へ移動した。ただ。「武蔵」だけが冷たい空に在った。

 
 「ノヴゴロド」戦を終え、「上越露西亜」の警備担当艦隊と「ノヴゴロド」回収艦隊が来るのを待ってから、「武蔵」は「有明」へ帰投航行を始めた。「上越露西亜」、「最上」、「伊達」、の三勢力が順に警護を務める、戦勝に近い形の帰投だ。
 午後半ばの陽射しの中、教導院前側校舎三階の生徒会室に、役職者他が集まっていた。梅組の教室と違うところは、里見・義康や大久保、加納の席もある事だ。話題としては修学旅行の事が上がる。アデーレが本気を出したというが、また、人類範疇外の反応が出そうだ。
 ホライゾンがずっと同じ方向に視線を送っている。浅間も、ミトツダイラも、鈴も視線の先を追う。そこには夏服姿な馬鹿が居た。彼は、自分の制服に幾つかの鎖を繋げて作った、細い鎖をつけている。その意味を問う者は誰もいない。
 ネシンバラは幾つかの表示枠を展開し、今後の予定を告げる。
 “「羽柴」の動きを追うなら、「毛利」側に加担しに行く事になる。追わないなら関東の解放だ。「北条」攻めを利用して、「松平」が関東を掌握する流れを組む”
 「北条」攻めという言葉に、皆がノリキを見た。窓から顔を突っ込んだナルゼが、アンタ大丈夫? と聞くのに、自分は「武蔵」の住人だ、とノリキが返す。
 ならば、と《会計》のシロジロが「北条」攻めを推す。関東掌握の方が閉鎖的でも広大な商業圏を構築できる。
 ウルキアガはどうしたのさ? と直政が聞くのに、「伊達」から来た成実を連れて「高尾」に住まい探しに行ったとハイディが答えた。

 “解ってて言う事じゃないけど、《不転百足》と貴方を持ち込める物件ってそうそう無いわね”
 “拙僧を持ち込むとか言うな”
 成実とウルキアガが行くのは「青梅」の地下の横丁だった。元々、物資を搬入出する倉庫の近くであり、扉がとにかく大きい。手にした鍵と、部屋のナンバーを見比べ、鍵を開けると小麦粉の匂いがした。六畳で、床は石作りだ。
 “拙僧、トーリのための毒見部屋が欲しいのだが”
 “私が話しかけたら返事するなら、別にいいとも思うわよ?”
 成実は入口の柱を軽く掴んで強度を確認する。半竜は既に部屋の隅で術式補強を入れ始めている。成実が周囲を知覚すると、午後半ばのこの時間は、男達は働きに出ていて、女は水場で洗濯や調理をしている。横丁の端なら、誰にも見られている事は無い。
 自分は「伊達」にいた頃、外に出る事を望んでいた。皆は必死に「伊達」家を保とうとし、持ち上げようとしていたのに、自分はあの場所から逃げようとしていたのではないだろうか。自分は咎人だ。成実はそう言うと、ウルキアガは応えた。
 “貴様の役目は、貴様にしか出来なかった事だろう。安心しろ。政宗はこう思っている筈だ。貴様にさせずに良かった、と。お互いに迷惑を掛けたと思っているのなら、両成敗。それくらいに思っておくのが、程々というものだ”
 上から目線の裁きだと成実が言うと
 “拙僧の名のあやかりは内藤・清成。松平政権における奉行の長だ。気分的に面倒な事の採決は、納得出来ずとも、拙僧に押し付けて身軽になって行けばいい。拙僧は面倒になったらトーリに押し付けるからな”
 成実は言葉を失って、数秒息を吸い、飲み物を買ってくると通りに向かった。

 小走りに横丁の橋を渡り、幾つかの商店が並ぶ場所に出る。
 どうしたものかしら・・・
 彼がこちらに抱いている思いに、応えられる自信が自分にはない。未だに過去に引きずられている。こういう事には不慣れだ。時間が解決するものだろうか。しばらくすれば、夏休み。明ければ二学期だ。そうなれば生活のリズムが変わり、自分の残滓も薄くなるだろうか。二学期。九月。
 そういえば、主庭で下着を貰った時、彼の誕生日は九月七日だと聞いた。六月生まれの自分より年下。だから、結婚したら姉になるからそれでいいのだと。無茶なことを言うものだ。
 目の前にある軽食屋の一件隣りに、男性物の下着が吊るして売っている。意趣返しに、あれを誕生日にどうだろうと思っていると、軽食屋から長剣を背負ったジャージ姿の女教師が、唐揚げを紙袋に詰めて出て来た。
 “あら、成実。男物? そっちが好き?”
 “いや、そういう訳ではなく、彼、キヨナリの誕生日祝いにと・・・”
 “あはは、気長なものねえ。来年の五月まで、まだまだあるわよー”
 は? と疑問したこちらに対し、女教師も首を傾げた。五月、「英国」から「IZUMO」へ向かう途中、ウルキアガの誕生日に「アルマダ海戦」の廃材を燃やすファイヤーで肉焼いて、火刑ごっこをして遊んだらしい。

成実は笑った。堪えを切った笑いを生んだ。首を傾げる教師に、気にしないでと手を振る。
・・馬鹿! 本当に馬鹿!! 聖職者が嘘をつくなんて、今後、辻褄合わせをどうする気なのか。どれだけ自分は、彼に欲されていたのだろう。 
 “有難う、先生。―――自分の不安が無くなったわ”
 一礼して背を向ける。嘘吐きと咎人。丁度いい。歩き出す。自分の家に。

 新居予定の場所に戻ると、何処から持って来たのか、テーブルセットを置いている半竜がいた。飲み物を買ってくると言って、何も買っていない自分に気付く。
 “貴方の好みを知らないのよ。一緒に二人で行きましょう。「武蔵」の事を知っておきたいし、貴方の好みを知っておきたいわ”
 半竜が、随分と上機嫌だなと聞く。彼の横に並ぶように身を置き成実は言った。
 “抵抗を経て、再起したのよ。―――そして決めたの。新しい所へ行くと。馬鹿の導きによってね”
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「境界線上のホライゾン Ⅳ(下)」END

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長かった・・・、こんなにかかるとは思ってなかった。
Ⅴはしばらく間を空けて、Ⅵが完結してからにするかな。
「境界線上のホライゾンⅤ」は上・下巻。
「真田」の里に三十年前、松平・元信が訪れた時、何をしたのか。
「大罪武装」はなぜ作られたのか。
「六護式仏蘭西」VS「M.H.R.R」の三十年戦争も激度を増していく。
次々と登場する対「武蔵」戦闘部隊、「羽柴」《十本槍》
「真田」十勇士のリヴェンジ・マッチ。
シロジロ・ベルトーニも注目する本多・二代の新技発動。
対・地竜、対・天竜の大戦闘。 
 盛り沢山です。

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第479回 オブ・ザ・ベースボール

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円城塔 「オブ・ザ・ベースボール」 EnJoe Toh:of the baseball

 2篇の中編が収められたSF中編集。
 2007年第104回文學界新人賞受賞のデビュー作である。
オブ・ザ・ベースボール

「オブ・ザ・ベースボール」

 約一年に一人の割合で空から人が降ってくる町、ファウルズ。
 周りを麦畑に囲まれ、一本の川とそれと交差するように一本の道が通っているだけの田舎町。
 どこから、なぜ、この町にだけ人が降ってくるのか。
 地面に激突した肉塊は喋らないし、遺留品からも身元は掴めない。
 国は対策としてレスキューチームを編成する。
 定員は9名。ユニフォームとバットが支給された。
 日々、空を見上げながら巡回し、夜は酒場で一杯ひっかけて寝る日課。(夜は人が落ちて来ても見えないのだ)
 ある日、俺は空にひとつの点を見つける。それはやがて線となった。
 (落ちてくる人間の高度÷落下速度)VS(落下地点までの距離÷俺の走る速度)
 落下する第8使徒に向かって走るエヴァンゲリオンのように俺は走る。
 落下地点でバットを構える俺は、落ちてくる人間をレスキュー、いや打ち返せるのか?


「つぎの著者につづく」

 作中に出てくるR氏とはレイフェル・アロイシャス・ラファティの事ですね。
 短編集「「九百人のお祖母さん」Nine Hundred Grandmothers、「つぎの岩につづく」Strange Doings を持っています。
 これは「つぎの岩につづく」へのオマージュですね。やたら注釈の多い内容といい、読んだ記憶があります。
つぎの岩につづく

 「つぎの岩に続く」は、煙突岩と言われる岩石を調査する発掘隊が、古い地層から様々な年代の地層で発掘されtるいわき刻まれた、絵文字を解読していく。
 どれも最後は「つぎの岩につづく」で終わっているというものでした。
 このラファティという作家は謎に包まれた作家で、著作はすべて彼の死後、発見され遺産管理人がその内容に驚き、発刊の手続きを取ったらしいというものです。
 これが事実なのか小説なのか解らなくなってくるあたりが、この小説の妙と言えるでしょう。

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 アニメ「進撃の巨人」が人気だが、OPを実写化した猛者がいた。
 ご苦労様である。

 

 

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第478回 軍鶏

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たなか亜希夫「軍鶏」30巻(以下続刊)

 旧版は読んでいなかったのだが、講談社から復刻されてから読み始めた。
 
 第1部 少年院編
 両親を殺害し、少年院に送られた高校生の少年、成嶋亮。
 少年にはどんな心の闇があったのか。
 少年はそこで、空手の達人・黒川健児に師事して「生き残るための空手」を身につける。

 第二部 リーサルファイト編
 出所し社会に出た亮は、裏社会で暴力に明け暮れる毎日の中、頭角を現していく。
 番竜会の主催する格闘技興行「リーサル・ファイト」を観た亮は、自分の「生き残るための空手」とは対極のショーアップされスポーツ化された空手に衝撃を受ける。
 「リーサルファイト」のヒーロー・菅原直人に対して憎しみをいだくようになった亮は直人との対決を望み、手段を選ばぬ挑発は、直人の恋人である船戸萌美のレイプにまで発展した。
 そして、数万人の大観衆が集まった東京ドームでついに対決のときを迎える。

 第三部 中国編
 半年後、成嶋亮は中国にいた。
 覚せい剤中毒で廃人となった妹のため、金のために戦い続ける亮。
 斉天大聖と呼ばれる。凄まじい身体能力と中国拳法の前に為す術もなく敗北を喫した亮。
 彼は復讐のため、斉天大聖の師である陳老師のもとで修行を行うことになる。
 だが、斉天大聖は、師の陳老師を惨殺し、妹弟子の燕を死に追いやる。

 第四部 グランドクロス編
 バレエダンサーとして成功を収めた高原東馬。
 彼は東京ドームでの成嶋亮の試合を見ていた。
 リョウの戦いに何かを感じ、格闘技の世界へと足を踏み入れる決意をする。
 天性の格闘センスをより、瞬く間に組み技系格闘技においてトップクラスの実力を得ていく。
 一方、成島亮は鍛錬を怠ったことによる肉体の衰弱と技術の喪失により、一般人並みの戦闘力に変わり果てていた。
 大観衆が見守る「グランドクロスのリング上で、ついに邂逅を果たした2人。
 東馬の光は、闇の底で喘ぐ亮に届くのか。

 第五部 青鬼ゴンと月夜姫編(仮)
 捨て犬ペロとの出会いで劇的な回復を見せる妹・夏美を見届け、亮は東京に戻る。
 縁深き者たちの相次ぐ死、発達障害を抱える少女、サキコと出会いは寮に何をもたらすのか。
 サキコの父親が雇った裏の掃除人兄弟。
 サキコと亮に新たな脅威が迫っていた。
軍鶏(30)


 既刊
 軍鶏完全版 巻之壱(旧1,2,3巻)
 軍鶏完全版 巻之弐(旧4,5、6巻)
 軍鶏完全版 巻之三(旧7,8,9巻)
 軍鶏完全版 巻之四(旧10,11、12巻)
 軍鶏完全版 巻之五(旧13,14,15巻)
 軍鶏完全版 巻之六(旧16、17巻)
 軍鶏完全版 巻之七(旧18、19巻)
 軍鶏 20~30巻(以下続刊)

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第477回 境界線上のホライゾンⅣ(50)

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(下)」 Horizon on the Middle of Nowhere
Episode Ⅳ-Part 3 適当ダイジェスト㉒


「第九十四章 天気雨の狐」
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 「ノヴゴロド」北東の空。「最上」艦隊の先頭、「山形城」の艦橋で二本の大扇子を携えた最上・義光が呟いた。
 “駒姫・・・、「約束」よのう。お前は賢い子よ。その「約束」、違えず果たしてみやれ。・・・母は逃げずに見届け、見守るとしようぞえ”

 駒姫は流体燃料が加熱延焼を始めた「聚楽第」の艦橋にいた。出力不備により破裂した流体燃料管が、艦内各所で熱気と火を上げる。駒姫は総員に緊急退艦指示を出した。既に、意を汲んだ皆は脱出艇で柴田艦隊に向かい、通信用の表示枠(インシャコトプ)だけが言葉を送ってくる。
 総員確認の報告を告げる《副艦長》の声に、更に遠方への退避の指示を出す。「ノヴゴロド」が落下、爆発すれば、現在の柴田艦隊の位置でも影響を受ける。「聚楽第」の防護障壁を全開で掛け、重力航行の出力の外部展開で落下速度を落とし、崩壊を遅くする。それが出来るのは、霊体である自分だけだ。
 既に「武蔵」の一撃の余波で被害を受けている「聚楽第」は、各部制御の自動化を《副艦長》達が設定してくれたお蔭で、駒姫一人でも何とか操艦出来るが、甲板には防護障壁を越えてきた巨大な瓦礫が落ちてき始めた。落下速度は落ちたが、反駁で「ノヴゴロド」の外殻が剥がれてきている。
 衝撃で「聚楽第」内部で爆発が起き、表示枠を見ると左舷側の加速器がやられたようだ。後は、落下までに「聚楽第」の全ての燃料を使い切ってしまいたいが、供給系にはリミッターが掛けられており、非常用の手動式操作機で解除するしかない。
 天井から火花の降り注ぐ艦橋内を奥へ走り、五つある物理仲介の直接操作制御弁のレバーを、後部側から押し込んでいく。これで出力が上がる筈だ。
 “ちゃんとしないと・・・”
 完全に支え切れるものではないと解っている。霊体といえど、爆発に巻き込まれれば自分は消えるだろう。秀次=小次郎様は《副艦長》達が安全なところへ退避させてくれた。もう、ここには自分一人しかいない。しっかりしよう。そう思った時、不意の熱が背中を押した。艦橋へ入るための扉が真っ赤に焼け、フラッシュオーバーによる爆発が、駒姫を吹き飛ばし、艦橋内を一気に焼いた。

 本庄・繁長は、退避する「上越露西亜」の輸送艦の懸架網に右腕一本で掴まりながら、「聚楽第」上部階層が流体光の焔にまみれたのを視認した。駒姫がやろうとしたのは、「聚楽第」の出力を全開にすることだと予想出来る。それが、逆の結果になっている原因は、上空からの瓦礫や、艦のダメージによる歪みのせいだろう。
 七km四方をカバー出来る「聚楽第」の出力による、防護障壁や緩衝術式が「ノヴゴロド」の下部を覆っている。重力制御を行う加速部からの出力もそれに当てられているため、「聚楽第」自体は単なる流体燃料庫で、防護も移動もできない状態だ。上下に突っ張った制御重力のバランス点として浮いているに過ぎない。助けに行きたいが、見ている前で「聚楽第」の上部甲板が、上からの見えぬ重さによって砕け、下層部においても火を噴いた。

 駒姫はふと、意識を戻した。操作機の前に立つ自分の左腰の辺りが崩れている。断面は流体の光を帯び、よく見ると左腕も無かった。床を見回すが、何処にもない。艦橋の天井構造体が柱のように落ちているが、手動の操作機は無事だ。五つの出力経路レバーの内、二つがまだ動かされていない。
 右腕一本で、崩れた身体をばねのように動かし、一つを押し込む。何かが引っ掛かっているような感触がある。押し切って、最後の一本も押し込んだ。金属の噛むような音が入る。やった、と息を吐き、身を起した駒姫は、二つ目の制御レバーが戻っているのを見た。
 手動操作機にはフィードバックは無い。物理的な留めを失って落ちたのだ。押し直そうとするが、入らない。艦橋自体も歪み、操作機が変形しているのだ。一定の位置まで行くが、そこから動かない。見上げる天井の、外を見る窓から光が消えていく。防護障壁が消えていき、その隙間から瓦礫が落ち、このままでは「聚楽第」も「ノヴゴロド」と一緒に落ちていく。
 “いやだ・・・”
 何故に涙が出るのか。脚を上げ、レバーを蹴りつけてみるが駄目だ。細い構造体を掴み、フルスイングで叩きつけるが、金属音と共に構造体が指を弾いて宙を舞った。涙が、息を吸うと更に大きく毀れた。艦橋の前半分が焼け落ち、崩れた天井から流体の飛沫が光のカーテンを作る。
 “「約束」、諦めないから・・・”
 駒姫は表示枠〈インシャコトプ〉を開き、操艦制御画面を出す。既に危険を知らせる赤の表示や、制御不能の黒の表示で塗り潰されているが、中央制御系は動いている。最小限の防護障壁を重力固定し、「聚楽第」を「ノヴゴロド」に激突させる。だが、それをすれば、一瞬でも「ノヴゴロド」の落下速度を相殺出来るが、「聚楽第」は自分の加速と重力制御の圧迫で自壊するだろう。
 遠い昔に交わした「約束」。名前を捨てて、遠く何処かで、ずっと生き続けよう。自分がいなくなれば、秀次の自害は間接的に成立出来る筈だ。秀次の襲名から解放されれば、彼は自由だ。そのきっかけを作れるのなら、これから為す事に意味もある。自分以外のものを守る事が出来たと。
 「ノヴゴロド」の底を見据え、「聚楽第」の半重力航行を全速に指定、艦の上昇角度を設定して表示枠に手を掛けた時
 “最上・駒姫!!”
 不意の通神が艦橋内に響いた。

 ・・・「武蔵」の《副会長》?
 何故、「P.A.Oda」の艦にオープンで通神が入るのか解らないが、疑問より、届く言葉の内容が身を貫いた。
 “最上・駒姫! 「武蔵」《副会長》、本多・正純が君に告げる! 「武蔵」はこれより、君を失わせないために行動する!!”

 その八艦構成の巨大都市艦は、その全容を「ノヴゴロド」と等速で降下させていた。中央後艦、「奥多摩」後部の橋上に、夏服姿の馬鹿が居る。前方に銀狼を、横に銀色の髪の自動人形を、背後に術式制御の巫女と踊り子を置く。
 右手側にいる《書記》は告げる。
 “「ノヴゴロド」の駆動系を「武蔵」の主砲で撃ち抜き、噴き飛ばす。そうする事で、墜落時の誘爆要因を無くするんだよ”
 左手前、望遠術式でメアリと共に測距を行っていた《第一特務》は、距離として有効で御座ると報告する。それを聞いて馬鹿は通神を送る。

 “なあ、最上の、えーと、・・・ウマヒメ”
 “コマヒメです!!”
 “おっし、じゃあオメエのテンション上げるの手伝ってやるからよ。ちょっとだけ時間欲しいんだわ。・・・セージュン、どれくらい? ええと、一分十七秒? それでオッケ-? 手を打てる? じゃあウマコ、それだけ持たせろ”
 “は? 駄目です。こっち、機械が動かなくて・・・”
 冷静さを感じさせながら、心配な感情もある不思議な声が響いて来た。
 “壊れているのですか? 動かせるのならば大丈夫です。今、手は貴女のものがあります。それがある限り、諦めは捨て、その手の代わりになるものを掴んでください”
 軽食屋の店員だという女の言葉に、自分の右手を見る。表示枠の通信制御できる出力系を見直し、現状に合わせた最大出力を設定していく。以前ほどではないが、防護障壁が外に戻ってきたが、「ノヴゴロド」の落下速度自体は上がっている。
 “やります!”
 口で右の袖を引いて肩まで腕まくりをし、改めて動かない二番目の制御レバーを掴む。押し込み、鉄の噛み合う音がする。ここが壁だ。この壁を抜くことが出来れば行ける。通信制御で落下速度の計算結果を「武蔵」側に送りながら駒姫は言った。
 “今から四十二秒以内に「聚楽第」が最大出力を得られなければ、「ノヴゴロド」は落下します”
 右の腕に力を込め、駒姫は制御レバーを押し込んだ。

 駒姫からの通信途絶と同時に、「武蔵」は変形を開始した。「武蔵野」艦橋上で全てを見渡し、“武蔵”が両手を後ろに広げる。宙から引き抜かれたのは黒鞘の二刀。片方は脇差、片方は刀。流体光の飛沫と共に“武蔵”の手に引かれ、鞘を宙に固定する。
 《では、「武蔵」の皆様、武蔵王、武蔵副王二名の要請により、進行方向障害物撤去の為、主砲を使用致します。試射ではなく、正式射撃です。当該行為は、障害物所有権利者、「ノヴゴロド」市長と「上越露西亜」《総長》の許可を得たものであり、既に示談成立。よって、主砲発射を総艦長“武蔵”がセイフティ解除します》
 “武蔵”が宙に浮かせていた鞘から、二刀をゆっくりと引き抜いていく。
《総員、対航空都市級障害物重力制御砲ACC-GC0021“兼定”展開準備。メインバレル状態、ACC-GC0021L“大兼定”にて行います。―――以上》
 八艦構成の「武蔵」が主砲発射態勢に変形していく。最初の変形は、全艦の重力航行用外翼が展開する事だった。基本的に外舷側だけの展開だったものが、内舷側まで翼を出す。
 続いて“武蔵”の視界が下がっっていく。外壁に纏う仮想海が消え、浮力を失い、全ての艦がゆっくり落ちていく。“武蔵”の周囲に表示枠〈サインフレーム)が開く。
 八艦全てが重力航行加速器、水平射撃展開状態に入った。“武蔵”がゆるりと刃を構える。
 《「武蔵」総艦、射撃姿勢固定。―――以上》
 左右一番から三番までの艦の外舷で、光が爆発した。重力航行の加速光だが、前に進むためのものでは無い。全て下に向けられ、上昇するための力となっている。

 繁長は己の旗艦に向かう途中で、その光景を見た。八艦の内、左右の六艦が外舷から下へ、広大な光と揺らぎを生んでいる。改修時に重力加速器を可動式にしたのだろう。一度、表に引き出して、回転するようになっている。
 だが、加速光を得ていない艦がある。中央の二艦だ。自然落下状態の二艦は、牽引帯で左右の六艦に吊られている状態だ。左右六艦の内舷側の重力加速器群は何のためのものであるか?

 “武蔵”は二刀を構え、刀の方の「兼定」を眼前に立てていく。彼女の構えに応じ、中央前艦「武蔵野」の先端バウに搭載された、直剣状の衝角〈ラム〉が光を帯びる。
 《仮想砲身、メインバレル展開します。“大兼定”メインバレル、オープン。―――以上》
 
 「武蔵野」艦橋下に仕掛けられた加速器から、流体で出来た砲身が前後に伸びていく。それは防護障壁を兼ねた交互旋回砲身だ。高音を立てて軸転する巨大な砲身は、塔を作るように伸びていく。
 《「浅草」、「品川」、「多摩」、「村山」、「青梅」、「高尾」、メインバレル・サーブ・スタート。―――以上》
 左右各艦の内舷側の加速器が重力制御の光の線で砲身を支えていく。
 《「武蔵野」、「奥多摩」、メインバレル・サーブ・スタート。―――以上》
 中央二艦の重力加速器が上向きにその力を開放し、砲身と左右艦の加速器の高さが等しくなった。
 “武蔵”が長い一刀をゆっくり眼前の「ノヴゴロド」に向ける。
 《「武蔵」《総長》。「武蔵」の武を預かる最高位に献上いたします。各所連動の為、補助を御願い致します。―――以上》

 “おう、任せてくんな” 言うなり、光が背後から来た。トーリが流体供給の術式を展開したのだ。
 橋上に立つ《総長》へと、巨大な砲身が届いていく。左右各二十本の流体供給ラインが、宙を鞭のように突っ走る。それは、左右艦の内舷や、中央艦の加速器を叩き、彼の背後に居る巫女が弓を奏で、踊り子が舞を踊り、術を加圧する。
 一気に倍以上に増えた光のラインが、加速器を楽器を奏でるように撫でていく。
 “接続〈コンタクト〉!!”
 銀狼が伸びてきた砲身を《銀鎖》で確保。砲身の尻を大きな動きで引き寄せる。直後に《艦長代理》が
 “接続、する、よ・・・!”

 柴田艦隊の旗艦「北の庄」の甲板上で、柴田達はそれを見ていた。全長八kmを超える大砲の形成に、柴田は奥歯を噛み潰すような笑みを作る。
 “防護障壁と重力加速制御だけで、あれだけの大砲を作れるってのは、どういう事だ”
 不破は各部の計測を光学、流体反応から検知していた。
 “あれは「武蔵」が就航し始めてから百六十年の巨大艦のバランス制御、重力障壁精製、近年の重力技術と、その使用実績の蓄積による、・・・経験による職人技ですね”

 駒姫は再び、飛びかけた意識を戻していた。艦橋直上部への瓦礫の直撃。それによって落ちた天井構造材に打たれ、一瞬、意識が飛んでいた。艦は傾きつつあり、足元の不確かさが、落下が始まった事を伝えてくる。カウントは20を切った。
 駒姫は右手で制御レバーを掴み、押し込むが、途中でやはり止まる。鉄の軋みが聞こえたような気がした。「聚楽第」が重い軋みと共に跳ねた。その衝撃で天井が張り裂け、「ノヴゴロド」の底面を作る石材が迫ってくるのが見える。その石材が崩れ、落ちて来る。
 “動いて・・・
 石が自分を潰しに来る。その時。自分の右手に誰かの左手が乗った。
 “不用かもしれないけど、救けに来たよ”

 駒姫は有り得ない姿を見た。 
“小次郎様・・・”
 “「約束」を果たしに来たよ。発着場で寝かされていてね。丹羽という人の置手紙があったよ。通神など、「武蔵」側と繋いでおくので、二人で事に当たるようにと。それこそが、―――夫婦の為す事だって”
 片竜角の少年は右手を上げた。その動きに合わせ、頭上に流体で出来た巨大な「青竜」の腕が現れる。青の鉄腕が降って来た石材を打撃し、轟音の傘が全てを防いだ。そして彼の左手から、青白い光がそよいで来る。
 本来の、正しくある「伊達」家の眷属の持つ竜神の力だ。その力が駒姫の失った左腕と、崩れた腰を修復していく。
 じゃあ、と駒姫と小次郎は二人で制御レバーを掴んだ。

 「関東IZUMO」西部の空。「伊達」家旗艦「青葉城」の甲板で、一人の少女が息を吐いた。彼女の背後に、青い光の門が薄く立ち上がっている。それは暴風を生まず、ただ、鼓動のように明滅しているだけだ。
 “小次郎。「青竜」の力を正しく使うのは、お前の方が先になったか”
 力の無い、しかし、確かな笑みを浮かべ、西の空を見る。
 “「伊達」家を救うためのお前の決断。私達は、・・・忘れないとも”

 《トーリ様。測位判定により、「ノヴゴロド」底部、「聚楽第」の出力が復帰しました。「ノヴゴロド」の高度が安定します。――以上》
 “武蔵”の通神と同時に砲身の向きが確定した。トーリの正面に照準の表示枠〈サインフレーム〉が展開する。
 “で、どうやって撃つの?セージュン、さっき、オメエ、やったんだろ?”
 “ショートバレルの試射は出力三割。真下撃ちだったから砲身の歪みも無しで、サーブもほとんど無しだった。弾丸も空砲に近い。正式に撃つのはこれが初めてだ”
 ふうん、と馬鹿が皆に、「武蔵」ビィームとか三秒以内に何かいい掛け声を考えろ無茶を言いだす。
 “おい待て馬鹿” と正純が言った時、馬鹿が何かの表示枠に手をついた。ミトツダイラと浅間が、あのう、と声を掛け、その表示枠に視線を向けている。
 馬鹿が手を掛けている実体判定付きの表示枠に、浅間が
 “え、ええ、トーリ君。ちょっとそれ、あの、マズいかも・・・”
 正純と馬鹿が、その表示枠を覗き込んだ。表示枠には《承認》の文字と手形があった。あれ? と自分の手と承認手形を見比べた馬鹿は、既に砲身が相互旋回を始め、コッキングした主砲を見て
 “あ、コラ、―――おい待て馬鹿!!!”
 “武蔵”は主砲を発射した。

 「武蔵野」艦橋内、突然、前後が逆になるように回転した座席に鈴は座っていた。主砲の発射で「武蔵野」と「奥多摩」が反動で後退する。鈴は背もたれに埋まる勢いだった。知覚していたトーリの流体供給は寸断され、左右の艦群が扇状に外に開いていく。牽引帯の引き出しと艦の挙動が鉤だ。
 鈴は「武蔵」の模造を出し、急いで各艦の動きを指示する。左右六艦から延びる牽引帯が切れないように、中央二艦が行き過ぎないように。「伊達」家で流体の風圧などに触れて来たばかりで、以前より風に対する感覚が強くなっている。
 「武蔵」全体が二km程後退しつつ、速度を落とす。その間に、役目を終えた術式砲身は莫大な光となって散り、全ての艦が周囲に仮想海を纏った。
 元に向きに戻った座席で、正面の「ノヴゴロド」を知覚した鈴は、その半球状の底部に丸い貫通孔を得たのを知った。

 最上・義光は、「武蔵」の主砲発射に対応した。緩衝術式によって衝撃波を抑え込んでいるが、音と風の発生は避けられない。
 “艦首、「武蔵」砲口部に正対。乗り切るぞえ!”
 こちらから見る南西方向の柴田艦隊も同様だが、向こうは風を受けるように更なる距離を取っていく。波打つ風を受け、表面の仮想海を散らされながら、義光は目を逸らさない。出力系を失った巨大建造物が、力無く落下していく下に、残骸としか見えない「聚楽第」が姿を現す。
 潰され、平たくなった艦の各所で炎が噴き、流体の光が散っている中、辛うじて残った艦首側に二つの姿があった。羽柴・秀次と駒姫だ。二人は手を繋ぎ、こちらを見ていた。

 駒姫は自分の終わりを悟った。死ぬのではない。死は、既に得ている。
 “残念が無くなっちゃいましたね”
 霊体を存在させる力は、現世に対する執着心だ。彼と一緒にいたいと残念した自分。私と一緒にいたいと残念した彼。共にいられると解った今、残念が消えた。自分達は現世に留まれない。
 隣の彼が言った。
 “やり残した事はたくさんあるけど、やっておかずに後悔する事がなくて良かった”
 “私もです”
 背後、「ノヴゴロド」が落ちていく。耐えていた「聚楽第」も落下速度が上がり、やがて下方から石のぶつかり合う響きと、土の堆積が崩れ、木々を薙ぎ倒す音色が届いてくる。
 駒姫は彼の手を取り、一度、北の空に浮かぶ巨大な「武蔵」へ笑みを向けた。
 “・・・有り難う御座いました”

 浅間は大型表示枠の中で、二人がこちらに頭を下げるのを見ていた。
 “トーリ君。二人は失われる事を選択せずに、それに抵抗して笑っていますよ”
 後ろを向いた馬鹿は、ああ、笑ってるかと言い、こちらを見ようとしない。
 浅間の見ている間にも、「聚楽第」の上に立つ二人の姿が、光を帯びながら透けていった。

 駒姫は最後に北東の空を見上げる。そこには見慣れた「山形城」の姿がある。母は厳しい人だが、今の私を祝ってくれる筈だ。大人になった狐は、親から離れていくのだから。
 “母様・・・。私、「約束」を守りました。もはや、私は駒姫ではなく、小次郎様でない人と共に行き、幸せになり、「最上」には戻りません。今まで、有難う御座いました。お体をお大事に・・・”
 駒姫は喉を開き、狐の親子が別れを告げる時の声を作る。
 “けえ――――――ん”
 響きが終わった時、駒姫は光を感じ、身体が浮き上がる感を得た。
 手を繋いだ彼と共に頷き、駒姫は去った。

 義光は空に昇る光を見る。自分もかつて、ああいう声を挙げて旅立った事がある。
 “元気でのう。・・・駒姫。
 それだけが願いだ。そう思った時、晴れた夜空から雨が来た。「武蔵」の砲撃で高空の大気が乱れたのだろう。夜の空に天気雨を降らせたのだ。「狐の嫁入り」だ。
 《これより、「最上」は全総力を持って、「武蔵」の支援に入る! それがこの秀次事件の、「最上」としての採決としようぞ!!》

 「伊達」の当主は頷いた。
 《「伊達」も「武蔵」を信用し、対「羽柴」の一翼を担う事を誓おう!》
 政宗は前髪を掻き上げ、刀鍔の眼帯で右の目を覆った顔に笑みを作る。「青葉城」の甲板に仲間達が並び、西の方角へ一礼する。
 “小次郎が望み、果たした「約束」は今後、我らの中で未来のものとなる。それが、極東を跨ぐ「武蔵」に対する「伊達」の約束であり、再起だ”

 《「上越露西亜」も、時が来たら続こう。手付けは今、渡しておくとも》 
 景勝の通神と共に正純の視界の中、天地逆さまになった艦隊が浮上してくる。百を超える艦群に、総員全てを甲板に並べ、旗艦上で左の腕にマルファを抱いた景勝が手を振っている。その姿に馬鹿が手を振りかえしている。
 《また会おう、「武蔵」の諸君・・・!》
 同時に景勝の傍らから、「上越露西亜」の棺桶型投下器が投下されてきた。橋上に落下するなり、快音で分解し、中身を晒す。
 “・・・《憤怒の閃撃〈マスカ・オルジイ〉!!”



 次回、最終回!

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第476回 That's! イズミコ ベスト

Posted by ヒッター7777 on   0 comments   0 trackback

大野安之 「That's! イズミコ ベスト」

 大野安之の革命的スラップスティックSF漫画、ベストセレクションとして復活!
 狂気の天才、正体不明のアナーキスト・極楽院和泉子。彼女とその親友・北上裕湖の日常をシリアスとギャグを渾然一体、変幻自在に描く傑作SF漫画『That's! イズミコ』が、約30年の時を経て復活! 大野安之氏自身による、選りすぐりのベスト・セレクションとして刊行します。
 さらに「That's! イズミコ」連載前に描かれ、イズミコが登場する前身的作品『バランタインBANG-BANG』を単行本初収録!
  新たに描き下ろされた、カバーイラストも見逃せない!!

 ということで、この作品が大好きだった 。
 かつてコミック劇画村塾に記載された作品郡。

 ヒッターの蔵書リストを見ると
 That’s イズミコ(全6巻)
 精霊伝説 ヒューディー(全3巻)
 LIP
 西武新宿戦線異状無し
 超電寺学園きらきら


 意外と作品が少ないな。
 最後が「超電寺学園きらきら」でこれ以降は買っていない。

 内容
 ・みるくすぷーん
 この北斗七星に対する南斗六星の話は「北斗の拳」より前に読んでいた覚えがある。

 ・星に願いを
 デブリを打ち上げてはいけません。

 ・PROGRAMMING-DANCING
 何言語でプログラム書いてるんですかw 人類の言語じゃないですんー
 当時はまだ、パソコンじゃなくマイコンだったな。

 ・曠野の向こう側
 こういうシリアスバージョンも好き。後の「精霊伝説 ヒューディー」のようだ。

 ・ざ♡すーぱーひーろー・ぷりてぃーずっっ!! 
 地球がせーふくされてしまった! 

 ・Many Many Today
 時間を超えた技術を有する極楽院一族。
 四季崎記紀もこの一族だったのか?

 ・サガ
 このイズミコシリーズに登場するパワードスーツの概念に、当時、納得した覚えがある。
 パワードスーツ自体は、パワードスーツの搭載する兵器そのものでも破壊される程度の防御力しかなかったんだよね。

 ・のぼる ほし
 シリアスドラマの中にもSF精神は忘れていません。

 ・としのくれのぷれぜんとっ
 さすがイズミコさん、希望の一言はそれですかw

 ・SAGA2
 彼の武器は「名状しがたきバールのようなもの」ですか?
 少し大人バージョンの嵯峨くん。

 ・CONFUSION
 神隠しモノ。近未来にはタイムトラベルしたくありません。
 自分は死んでるかも知れないから・・・

 ・バランタイン BANGBANG
 コミックス未収録作品。「劇画村塾」連載前の「SFマガジン」での読み切り。
 イズミコ、波虎質次、ゆーこ登場。
 大友克洋の「アキラ」もこの年代だったか。ぱろでぃですね。



 カガミコ編を読み返したくなったなあ・・・
Thats! イズミコ ベスト

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第475回 史記 武帝紀(三)

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北方謙三 「史記 武帝紀(三)」

 皇帝・劉徹は西域へと領土拡大を狙う。 
 負傷した大将軍・衛青に代わり、まだ若い霍去病が遠征に出る。

 先帝の二人の弟、淮南王と衝山王の謀反が起きる。
 果たして本当に謀反だったのか。
 劉徹が河南に匹敵する二人の叔父の領地を奪う罠だったのではないかと、桑弘羊は読む。

 霍去病は短期間に三回の遠征を目論んだ。
 西域への道を塞ぐ匈奴の休屠王と渾邪王の領土を狙う。
 一将軍としてではなく、総大将の判断の難しさを感ずる霍去病。
 匈奴軍の頭屠は対・衛青軍として鍛え上げた1万の騎馬隊で迎え撃つ。
 霍去病の放つ「離間の計」。
 河南に続き、河西も漢の領土に組み込まれ、敦煌に至る道が開ける。

 河南、河西を取られた匈奴は漢北に寄る。
 侵攻する漢軍に対し、匈奴軍は領土奥深くの砂漠へ誘い込む。
 衛青と霍去病、李広の軍は広大な漢北の地で分断戦闘を強いられる。
 匈奴が狙うのは大将軍・衛青の首。漢軍が狙うのは単于・伊稺斜(いちさ)の首。
 吹き荒ぶ砂塵に両軍の決着はつく。

 老将・李広の孫、李陵に衛青は一目を置く。

 長騫は再び西域の大苑国へ大使として赴く。敦煌、桜蘭大苑からさらに西へ、南の大月氏へ、北の康居へと目を向ける。
 皇帝・劉徹は匈奴を漢北へ封じ込め、西域に交易の道を望んでいる。


 巨星、堕つ。突然の英雄の死に呆然とする皇帝・劉徹。

               史記 武帝紀〈三〉

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第474回 境界線上のホライゾンⅣ(49)

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(下)」 Horizon on the Middle of Nowhere
Episode Ⅳ-Part 3 適当ダイジェスト㉑


承前

 「大罪武装(ロイズモイ・オブロ)」《憤怒の閃撃(マスカ・オルジイ)》は相手に対する怒りを、ダメージとして具現する。・・・意地だな。過去の粛清に対し、何か言いたいなど女々しいにも程がある。今更、何か言うくらいなら、当時、抵抗しておけば良かったのだ。
 “どれだけの効果になるだろうな”
 思い、目を伏せようとした、マルファの動きが止まった。自分の手が外から動かされている。正面にいる景勝が、錫杖を捨て置き、《憤怒の閃撃》を握る右手を掴み、自分に向けていた。
 射撃は彼に向かって果たされた。

 《憤怒の閃撃》の射撃を浴び、景勝は思った。
 ・・・こ、怖ぁぁ! マジ怖ぁっ!! この人本気で撃ったよ!
 自分がこんな事をしたのは驚きだが、内心で冷や汗をかいているのはマルファにも解っているだろう。
 “マルファ、―――痛くは無いとも” 言って景勝はマルファを抱き寄せる。
 ・・・怖くなーい! 怖くないのである!!
 緊張で相当に動きがぎこちない。だが、身をすくめる動きが腕の中にある。マルファも不慣れなのだ。
 “馬鹿者めが。私より先に自分を撃たせるなど、「英国」との付き合いをもって、理解しておらぬのか、レディファーストという文化を”
 「英国」のエリザベス女王は戦時において、とにかく《王賜剣二型(Ex.カリバーン)》を我先にぶち込みたがると言う。物騒極まりないのであるな、と景勝は思った。自分はもうちょっと平和裏に行きたい。
 “解っているとも。ゆえに言おう。我が君を、未来の幸いとする。それが我の幸いである。君の方が我よりも少しだけ先に幸せとなるのだ。マルファ・ボレツカヤ。その抜け駆けの「裏切り自由(ヴェージマ)」を、我は認めるものである”

「第九十三章 会合場所の先駆者」
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 そこは「花園(アヴァロン)」だった。エントランスホールと同様の広さを持った、円形の区間。入り口の通路は五m四方の黒い「門」だった。その内部は草原に、森、小川があり、天井側では太陽と見まごう灯りがゆっくりと自転している。「英国」のアヴァロンや、「仙台城」の主庭に似たものだ。つまり、どちらも黎明の時代から培った、環境構築技術が受け継がれているという事だ。
 “来てくれ。・・・時間が無い”
 南側、弧を描く大きな壁の前に黒板が掛かっている。そこに黒い服の影があった。浅間は用心のために左の義眼《木葉》を発動させた。一瞬で周囲をスキャンし、動体反応が無い事を確かめたが、その際、壁の表面構造に模様のようなものがある事に気付いた。
 彫り込まれた絵は、この庭の中央にいても全体を捉えるのが難しいほど巨大なレリーフだった。全体として八つの彫刻となっている。昨夜見た、黎明の時代の物語の衝立の枚数と同じ。順番も同じだ。だが、浅間は《木葉》がスキャンを止めていない事に気付いた。まだ、スキャンしていないものがあるのだ。
 「緊急:禁忌第一級怪異:発生推移・――進行」
 いきなり緊急事態を告げる表示枠(サインフレーム)が展開した。「三河」以来、怪異対策のため、「武蔵」住人には対怪異防護術式を「武蔵」から供給している。梅組の面々には全神社仲介で、自分が組んだものを加護として配布した。「公主隠し」のような引き込み型の怪異を想定し、流体の断絶による強制祓禊で、一時なりとも安全を確保する。
 今、成実以外の皆の背から、光の飛沫が上がった。巫女として自分に最大の防護が掛かる。その上で左右のバインダースカートに仕込まれた《片椿》と《片梅》が自動フリー化展開。ハナミが拍手で怪異の位置を知らせる。
目に見える箇所は三ヶ所。
 “正純! メアリ! ―――ホライゾン!?”
 手で描くような赤い光の円が、三人の背後に生まれる。浅間の視線の先、円の中央から左右に向かって赤光の線が伸びていく。
 “・・・二境紋!!” 浅間は《片椿》と《片梅》を同期させて構えた。バインダースカートから祓禊加工の矢を抜き、早打ちの起こしを行おうとした時、いきなり、「二境紋」が消失した。
 ハナミが辺りを見回し、表情に笑みを浮かべて拍手する。もう大丈夫らしい。
 遠く、大木の陰からオラニエ公ウィレムの声がした。
 “「公主隠し」か。二重の囚われだな。我々の責任とも言えるが”
 浅間は疑問するが、解らない。

 いつの間にか女装した馬鹿が、先頭を歩き出す。大木の方からオラニエの声が響く。
 “私達は「公主」と友達になろうとした・―――私達はそれに失敗してね。別の方法を考える事にしたんだ。そして、・・・そして、私達は無様な救いを得た”
 オラニエの言葉が、そこで息を吐くように停まった。起きた事の意味。それは犠牲だろう。正純がそう考えていると、女装が足を止めた。動かぬ背中からクロスユナイトとウルキアガに指示が飛ぶ。二人がオラニエの居た辺りに先行し、こちらに来いと手を振った。
 正純達が駆け寄ると、その場にあった黒板に、赤黒い、血のような色の「二境紋」と、「公主隠し」に付き物のメッセージが書いてある。
 《・・・みつひでくんはまだ?》

 黒板からゆっくりと消えていく「二境紋」。オラニエは「公主隠し」に遭ってしまった。浅間が「公主隠し」の証拠を採っておくというので、正純は承認する。なにしろ一国の《総長》だ。こちらが何かしたと疑われても困る。
 正純は両の頬を、両手で強く叩いた。何も聞かない内に攫われてしまった。ボーっとしている暇はない。
 “ホライゾン! 気合い入れに一発叩いてくれ!”
 歯を剥いた顔で右の拳を思い切り振りかぶられたので、慌てて止める。既に浅間とハナミが熱源探知術式で、オラニエの居た位置に人型の栓を描いて記録にとどめている。一方、表示枠(サインフレーム)から
 未熟者:とりあえず上に「英国」勢がいるから、彼らにも証人として検分を見てもらうよ。オラニエ公と対「P.A.Oda」の会議を持とうとして、その最中に「公主隠し」に遭ったと「阿蘭陀」には伝えてある
 助かる、と正純は返事をし、遺留品は無いかと捜査班に聞くと、インナースーツと下着が見つかったという。まさか、史上初の全裸「公主隠し」なのか? それとペンが落ちていたという。上着のポケットからだろう。浅間が指紋を付けないよう、ハナミに掲げさせると
 眼 鏡:待った! それ、「第十三無津乞令教導院」の卒業記念品に似てる!!
 未熟者:僕達はその教導院を脱走してしまったけど、卒業式にはそれに似たペンを貰う習わしだった。意匠は角を落とした十字架だから、「三征西班牙」のものだろうけどね
 よく解らないが、答えのピースになるものは幾つか得られた。今後。「阿蘭陀」と密に連絡を取るきっかけとなるだろう。

 浅間は現場保全のため、細縄型の警告注連縄を宙に張っていたが、視界に白光線の図形が描かれ始めた。《木葉》がよく解らないスキャン可動を始めたのだ。周囲を囲む巨大な壁には、彫刻で黎明の時代の出来事が彫られている。だが、見上げる巨大な天井に、この場所全てと同じ面積を持つ大彫刻が存在した。
 ドーム全周に人種や種族に関係せず、中央側を見て手を伸ばす人々が彫られている。誰もが中央にあるものを祝ったような表情をしている。だが、中央には何かを削り落としたような跡があった。あそこには何があったのだろう。
 疑問の最中に、不意に地響きが来た。地震かと、皆が顔を合わせるが、ここが「花園(アヴァロン)」と同じシステムなら、「ノヴゴロド」が揺れても影響は受けない筈だ。浅間は周囲を確認。何かが上から来る、と思った瞬間、天井が割れ、一直線の光が外部から差し込まれた。
 「花園(アヴァロン)」内の空間に干渉可能な地脈由来の刃。
 “《王賜剣(エクスカリバー)》!?

 「ノヴゴロド」の頂上から底部を、青白い流体光の刃が貫通した。市庁舎の屋根に立つ《十本槍》の二番、加藤・清正は《カレトヴルッフ》を左右合わせ、莫大量の光剣が見えぬ真下の手応えを伝えた。彼女が狙ったのは「ノヴゴロド」の出力駆動系だ。スカートから1m強の強化葦筒を抜き出し、《カレトヴルッフ》の柄頭に勢いよく嵌める。「ノヴゴロド」下部に突き出していた光剣が、一瞬先端を内に収め、直後に砲撃を開始した。下部半球体が直径三百m単位で崩落する。
 さらにもう一本、強化葦筒を取り出したところで、南の屋根上に飛び乗る影が一つあった。色白の魔神族。角無し。それは
 “本庄・繁長・・・!”

 繁長は屋根の上で《本庄盾》を構えた。数は十六枚。全てを正面に構え、砲撃状態だ。加藤・清正は双槍《カレトヴルッフ》を離す事が出来ない。だが、異変を察知したのは音だった。《本庄盾》を前方への打撃ではなく、足元の市庁舎の屋根へ分散して叩きつけた。
 市庁舎の屋根が赤熱し、膨張した。ホールの真上の部分が下から打撃され、爆発する。《本庄盾》が砕かれるというより、溶け、飛び散るほど力だ。高熱で焼け崩れた屋根から見下ろすエントランスホールには、北側に「上越露西亜」の仲間達が居る。景勝やマルファ、斉藤もいる。彼らは景勝の頷きと共に、通路の奥へと向かった。脱出するのだ。
 屋根上にもう一つ影が増えた。加藤・清正の隣りに立つ、一本の槍を携えた者。
 “福島・正則であるな”
 “早々に立ち去るが、よう御座りまする。「ノヴゴロド」は落下、消滅し、これが「魚津城の戦い」の結末。私達は退きます。
 確かに言う通り、「ノヴゴロド」は緩やかな傾きを得つつある。
 “再戦の準備をしておけ。「上越露西亜」と「P.A.Oda」の戦闘機会は歴史再現上、もう無いが、「武蔵」勢がこのまま終わると思っているのか”
 繁長がそう言った時、《カレトヴルッフ》の光剣が砕けた。いきなり割れ散って、柄頭に嵌っていた燃料層も光瀑した。
 “これは・・・!“
 “驚く事は無いであろう。連中は生きていて、下からその光剣を砕いた。貴様らは、不屈と抵抗、そして、―――再起という言葉を学び直すといい。「武蔵」はもはや我らの同志なのだから”

 “危ないどころじゃなかったな・・・”
 《カレトヴルッフ》が貫いた大穴を挟むように、《王賜剣一型(Ex.コールブランド)》を構えたメアリと、ミトツダイラが立っていた。「花園(アヴァロン)」の直接的破壊はされなかったが、頭上には夜空が見える。問題は帰りをどうするかだ。ホールの外縁には石材や階段の瓦礫がある。福島が砕いて行ったのだ。
 上からの連絡では戦いは収束し、「武蔵」勢、「上越露西亜」、「P.A.Oda」共に撤退に入っているという。「ノヴゴロド」墜落まで、もう余裕がない。
 上昇主体の脱出速度で、ウルキアガが運べるのは重量的に三人まで。成実の《不転百足》も三人。四人だと限界だ。ここにいるのは、トーリ、ホライゾン、二代、正純、浅間、ミトツダイラ、点蔵、メアリである。柴田艦隊の牽制に出ていたナルゼとナイトを大至急、呼び戻した。

 ナイトはナルゼを夜空の中で抱きしめていた。合体状態の《黒嬢(シュヴァルツフローレン)》と《白城(ヴァイスフローレン)》が高加速で「ノヴゴロド」市庁舎へ向かう。既に「ノヴゴロド」下部は、出力系の位置から、フレアのような光の弧柱を吹き出している。墜落と同時に残存燃料に誘爆するだろう。
 武 蔵:これだけの巨大建造物が爆破された記録は、神代の抽象的な記録しか現存しません。計算によると、被害範囲は最大半径七十km、有効威力圏は半径二十一kmに及ぶでしょう。―――以上
 賢姉様:フフ、詰んだ! また詰んだわね! 浅間! これから浅間神社行ってアンタの部屋に侵入させて貰うけど、詰む前に何かして欲しい事ある? 
 あさま:部屋の右に置いてある伝讃筐体(PC)の横に毒見のエロゲが積んであるんで、全部トーリ君名義で焼却しておいてもらえますか? あと、筐体内の「毒見」封筒(フォルダ)を削除して下さい
 ● 画:助けに行くのが間違いな気がしてきたわ・・・

 《双嬢(ツヴァイフローレン)》は市庁舎に真上から行くために、放物線を描くように上昇を掛けた。その瞬間、自分達の真下を突き抜けていくものがあった。それは見た事があるような形状をしていた。
 金と黒の翼。白と黒の翼。多重ウィングを有するその形状は、自分達の姿に似ている。違うのは自分達のようなボルト固定や展開関節の固定ではない。重力固定式だ。加速器もウィングも重力固定で、全体は鋭く大きい。ウィングには「見下ろし魔山(エーデルブロッケン)」の紋章(エンブレム)がついている。
 自分達と別バージョンの機殻(シャーシ)か? その可能性は高い。この《黒嬢》と《白城》も性能証明(プルーフ)は取れているが、試作段階のものだ。競合機があってもおかしくは無い。問題は所属だ。レールウィングや機殻箒(シャーレベーゼン)に「M.H.R.R」の紋章がある。更にエンブレムに、《SPEER-04》と《SPEER-05》。
 その二つの表記が示すものは、《十本槍》の四番と五番だ。敵は後部側に多くの加速器を集中し、大加速で一瞬で距離を空けられた。

 繁長はその一瞬に立ち会った。金と黒の翼が見えたが、機殻箒を上下中央に揃えた魔女(テクノヘクセン)達が風を壁のように叩きつけて行った後に、福島と清正の姿は消えていた。西回りで南の空へ消えていく。直後、「武蔵」の魔女達が減速無しで市庁舎の屋根穴に飛び込んだ。
 繁長は、結果を見ずに立ち去る。北部の港に、まだ自分を待っている輸送艦と合流するために。足元に浮くような感覚がある。「ノヴゴロド」が一気に高度を落とし始めたのだ。
 巨大な島影が、一瞬で百m程落ちた。下に押された大気が空に白い霧を作った。撤退中の「上越露西亜」の輸送艦隊は惑っていた。起きる筈の莫大な気流の乱れが生じていない。
 どうして?と崩れゆく「ノヴゴロド」下部を見て、彼らはそれを見た。
 “・・・どうして、「聚楽第」が「ノヴゴロド」を支えている!?”


のこり、あと3章!

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第473回 エールストライクガンダム用パック

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 プレミアムバンダイに注文していた、「MG 1/100 エールストライクガンダム Ver.RM用 ランチャーストライカー/ソードストライカーパック」が届いた。
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 本体の「MG 1/100 エールストライクガンダム Ver.RM」は5月発売になったのだが、こちらはいつでも買えるので未注文だった。
 せっかくだからAMAZONで注文しておく。


 デカールが細かい・・・
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 まあ作るのは、ずーーーと先だな。

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第472回 横山光輝 「史記」

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横山光輝 「史記」

 北方謙三さんの「史記 武帝紀」を読んでいて、たしか、横山光輝さんも「史記」のマンガ読んでたけど、劉徹とか衛青の話に記憶がないな、と思い調べてみる。

 買ってあるものはダンボールに入れて仕舞ってあるので取り出せず、蔵書データベースから拾い出してみた。

  史記  1 覇者への道
  史記  2 復讐を誓った人々
  史記  3 悲劇の改革者
  史記  4 奇謀詭策
  史記  5 秦の脅威
  史記  6 乱世に生きる
  史記  7 若き支配者
  史記  8 始皇帝
  史記  9 天下大乱
  史記 10 秦 滅亡
  史記 11 劉邦東進
  史記 12 四面楚歌
  史記 13 呂后君臨
  史記 14 劉氏攻撃
  史記 15 漢大帝国

 サブタイトルから見るに、戦国七雄時代から秦の台頭と滅亡、項羽と劉邦の戦いから漢帝国の成立。二代皇帝のあたりまでか。
 七代・武帝の時代に司馬遷が編纂した「史記」は、多くの歴史書に影響を与えたが、漢王室の成立までを編集したもので都合の悪いところはカットされた確率が高い。
 中国は国家に都合の悪い文献などは焚書してしまうので、信憑性がイマイチだが大河ドラマとしては面白いね。

             史記 (15)

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第471回 境界線上のホライゾンⅣ(48)

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(下)」 Horizon on the Middle of Nowhere
Episode Ⅳ-Part 3 適当ダイジェスト⑳


「第九十二章 立場の超越者」
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 二代が見たのは、闇の中にある小さな光だった。「ノヴゴロド」市庁舎の地下、直径二百mはある円形の、石で出来た空間。広間の中央には下りの階段を持つスロープがあり、更に下へ行く事が出来る。広間には灯りがついており、先に向かった者がいるという事だ。
 “ようこそ、世界の深淵に至る者達よ。私が「阿蘭陀」の《抵抗総長》オラニエだ”
 男の声が響いた。術式による拡声だ。
 “現在、私はエントランスホールの下の「教室」にいる。ここまで到達して欲しい。見せるべきものがあるのだ。―――私の師である、松平・元信。―――先生が言っていた通りのものがここにあると、不肖の弟子が教えよう”

 市庁舎の中央ホールは、西と南の通路から柴田勢の攻撃を受けていた。ホールの中央で立った身を景勝に支えられたマルファは、小さく呟いた。
 “この地下に先代市長が「客人」を通した資料によると、それは松平・元信だった。先代も地下にある遺構の正体と真実を知りたがっていたからな”

 “かつての事を話そう”
 オラニエの声が反響する中、ミトツダイラはホールから地下に落ちる大穴に向けて、先頭を走っていた。先に本多・二代と福島・正則が向かっている。背後には《銀鎖》で巻いた自分の王がいる。そして、《第一特務》とメアリ、北面から合流した「上越露西亜」本体に護衛されたホライゾン、浅間・智、本多・正純が続く。自分の《銀鎖》二本が砕かれているため、浅間と正純の護衛をウルキアガと彼に並んで走る「伊達」の《副長》に頼んだ。
 直後、階段が切れ、踊り場となる。
 “あれは三十年ほど昔の事。私達はある場所で「末世」解決の方法を研究していた。各国の優秀な者達が、身分を隠し、二年の期限で集まった。元信公が一人一人訪ねて呼び掛け、誘ったのだ”
 ミトツダイラは《銀鎖》で王と姫を両の肩に担ぐようにし、踊り場から大穴に向かって飛び込んだ。
 “そして「末世」を救うために、私達は、ある者と知り合った。私達が、―――「公主」と呼んだ、友人だ”

穴の底では二人の槍使いが戦闘を行っていた。正則は焦っていた。時間が無い。オラニエが余計な言葉を止めようとしないし、頭上からは「武蔵」勢の主力が落ちて来る。対空攻撃をしたいが、そんな余裕はない。
・・・この「武蔵」の《副長》は、先日と違うで御座ります。
 最高速度は、さほど変わりはない。だが、低速度での崩れが無い。彼女の加速術は、祓禊の累積型の筈だ。だから、加速方向が乱れれば、術は暴発する。彼女の慌てたように見える動き、不確かな足の捌き、振りまわす腕、紐で結んだ髪の大きな靡き。どれも緩やかであり、乱れたようにも見え、全てが一人の身に収まると、統一される。
 これは風のようだ。吹き荒び、荒れるが散る事は無く、手を翳しても止められず、ただ行き続ける。回り込むかと思えば擦れ違い、ぶつかっては抜けて、絡むように身を寄せる。以前とは違う。
 だが、戦場とは願いの適う場所。自分は相手を倒す事を願うだけだ。
 “《逆落とし》・・・!”
 正則は風を回り込むように落下した。

 伊達・成美は《不転百足》の背翼に力を入れ、「武蔵」の巫女と《副会長》を抱え、動力降下(パワーダイブ)を敢行する。着地時に隙が生じるのを、ウルキアガがカバーに入る態勢だ。最短距離で降下する成実の目に入ったのは
 あさま:随分と噛み合ってますね
 同感だ。自分は「武蔵」の《副長》も、《十本槍》の福島の事も良く知らない。だが、互いに達人として、槍という近似の武器を持ち、一度相対しているので手の内が見えているというのもあるだろうが。
 ・・・綺麗だわ
 互いの回避と攻撃が、違う動きなのに噛み合っている。「武蔵」の《副長》の槍捌きは、基本的に下段から上に振り上げて一回転し、槍の向こうへ自分を送ったりする円の動きだ。「見切り」においても緩やかに、しかし、身体全体は体重移動として何処かに回り流れ、時折、一直線の澄んだ通過を放つ。まだ、不安定で、伸び代の豊かさを感じさせる動作。突然の緩急。これが「武蔵」の《副長》か。
 対する福島は、緩急の連続だ。落下型の加速術《逆落とし》で、降下距離制限する事で短距離と長距離を使い分けている。地面を蹴り続け、まるで大気に腰掛けるような姿勢で身を跳ばす。攻撃は左右の薙ぎと、身を回す動きを利用した突きだ。
 突然の緩急と、連続する緩急。速度を保ち続ける事と、連続の加速。加速を壊さぬための体術と、加速を続けるための体術。縦の攻撃と回る攻撃。それらは互いを交差させ、足先を絡めるように回し、成実が見ている間にもその速度が上がっていく。

 二人が選んだのは時計回りだった。二人の間に火花が散り始める。接触が多くなって来たのだ。完全に噛み合った戦いに、散る咲く花の量が一気に増える。
 直径五mの円上で二代が追い、正則が下がりながら互いの攻撃が交差する。長物の槍という武器を至近で振り回しながら打ち合い、加速しながらも互いに相手から離れない。既に間合いは穂先や石突きの軌道の内側に入り、加速の「見切り」と落下の「見切り」が手の届く距離で応酬する。爪先が当たり、行き先が無い状態で、二本の槍が互いの周囲を回っている。だが。二人の加速術は壊れない。
 正則は旋回するような《逆落とし》を発動し、二代は呟き、唄った。二代は同じフレーズを何度か繰り返し、不意に言葉を変えた。
 “―――揺らぎ”
 告げた言葉に、正則は表情を変えた。
 “・・・それは、貴女を表現するもので御座りますか?” 
 その表情は口の端が上がった顔。しかし、そこには嫌味は無い。
 “―――停まらず” 二代はゆっくりと言った。
 “ずっと・・・” 速度が上がった。
 “行く先―――” 二代の姿が一気に正則へ距離を詰めた。

 正則は降るように来る二代の姿に息を詰めた。現在、自分は《逆落とし》を制御限界で使用している。それを容易く無視するだけの速度を、どうやって敵は出しているのか。否、理屈は解っている。そして引き鉄はあの唄だ。この速度技術を手に入れる際、タイミングを得るために得た唄だろう。今まで以上の速度を得る技。
それは
 “軸線の先鋭化―――!”

 二代は追いついた。そして正則に問うた。
 “拙者、不抜けて御座るか!?”
 正則は一瞬だけ眉を撥ね上げ、目を見開き、次の瞬間に笑みを見せる。答えは得た。だから二代は前に出た。身を一瞬反らし、頭突きをぶち込む。そして二人は腰溜めにした石突きを放つ。正則が二代の身体中央を狙ったのに対し、二代はその突き込んでくる石突きを狙った。火花が散り、互いの身体が揺れる。
 “そして・・・” 二代は床面につけた爪先を捩じるように踏み込む。
 “―――停まらず” 揺れる身体が、爪先を基準に持ち堪える。
 “ずっと・・・” 足先から足首、膝、腿、腰、腹、背、肩、腕が弾けるようにアジャストされた。
 “行く先―――” 回した穂先が、正則の持ち直した《一ノ谷》の柄を穿つ。既にバランスを崩していた正則は《逆落とし》を制御出来なかった。術式が砕ける音と共に光が弾け、正則の身体を包み、加速の暴発に押されて吹っ飛ばされた。

 正則は空中で捻じれる身体を、膂力と体術で引き戻し、膝から着地する。石の床面を後ろ向きに滑り止まる。彼我の距離は五十m。新たな敵が上からの降下を果たしつつある。だが、こちらの背後には、地下への入り口がある。ならばここで勝負だ。
《一ノ谷》の能力は二つある。一つは展開した内面に攻撃を吸収し、無効化する。そしてもう一つは、吸収した力を展開面より砲撃する事。正則は迷わなかった。
“逆落とせ、《一ノ谷》!”

 動力降下から音も無く着地した《不転百足》の腕の中で、浅間がふと前を見た一瞬、そこにいた二代の姿が消えていた。え? と更に前を見ると、二代の姿があった。五十mを一瞬で跳躍した位置で、福島・正則の槍が砲撃システムを展開するより早く突撃し、金属の激突音が生ずる。
 二代の《蜻蛉スペア》が福島の展開穂先を穿ち、福島の身が地下入口の向こうへ跳ね飛ばされた。浅間は知っている。今の二代の移動は、喜美との訓練の後、足場から虚空に落とされた二代が使った技だ。
 落ち行く身が、辛うじて垂直の足場に足裏を掛け、なおも落下を止められない時、二代は無意識に爪先の一点に身体の軸線の集中を行い、そこに加速を全てぶち込んだ。義経公の《八艘跳び》にも似た、まさに《翔翼》だ。
 勢いを殺さず着地した二代に、向いの壁に激突した福島が、なおも攻撃を掛けようとする。既に福島の槍は展開しており、砲撃を兼ねた突貫だ。そして、二代の澄み、落ち着いた声が響いた。
 “結べ、―――《蜻蛉スペア》!”

 二代は迷わなかった。《蜻蛉スペア》が、今まで一度も起動しなかった事は重々承知している。だが、《翔翼》による大跳躍は、使ったばかりで再起動が間に合わない。だから、着地と同時に《蜻蛉スペア》の刃に敵の姿を映した。
二代は《蜻蛉スペア》に疑問を抱くのを止めにした。《蜻蛉切》もそうだった。その強力な力を持つ「神格武装」ゆえに、主人が自分に相応しいかどうか判断する。今、手の中にあるのは力だ。自分の腕や脚と同じもの。自分に預けられた力を表に出すだけだ。
 直後、《蜻蛉スペア》の穂先に蜻蛉型の表示枠(サインフレーム)が展開する。
 「―――御了解」 それは刃に映った相手を既にロックしていた。
 福島は反射的に槍を立て、防御の構えを取ろうとしたが、遅かった。槍の柄を斜めに割り、減衰した力が福島を打撃して、今度こそ背後の壁に叩きつけた。そのまま三十mに渡り、壁を砕き、崩落させる。
 一礼した二代は皆の前に戻った。正純がいて、姫がいて、馬鹿がいる。その馬鹿が手を上げた。
 “おう、ようやく調子戻ったかオメエ、救かったぜ”
 “Jud.少々、足手まといで御座ったからな。今後は改めて宜しく頼むで御座る。――今後の事で御座るが、拙者、―――本多・忠勝の襲名を目指そうと思うで御座る”

 そっか、と言う馬鹿の言葉を正純は聞いた。本田・忠勝の襲名は相当の苦労を要するだろうが、覚悟の上の事だろう。同級生が己の進路を決めたのだ。期待と、喜びと、寂しさのようなものを感じ、ふと、先程の二代の攻撃を思い出した。
 “さっきのは「割断」なのか?”
 “いや、割って断つ、と言うよりも、割って打つ。「割打」で御座ろうな”

 “さて、地下にて勝敗は決したようだ。後は「武蔵」勢がそこに何を見るか、だ。私達も決着しようか”
 “どうする気だ、マルファ”
 未だ、ホールへの攻撃をやめない柴田勢と、バリケードで迎撃する「上越露西亜」戦士団の中。景勝は覚悟を決めたのだろう。マルファの述べる罪状を聞く。
 “長尾・景虎の襲名を私に課した上で、当時の情勢で「P.A.Oda」への対抗として「聖譜連盟」の力を借りるため、「ノヴゴロド」の粛清と、上杉家の跡目争い、「御館の乱:を重ね、その敗北者である景虎派の粛清を同時に行った。私が、大事にしていた部下や友を、どれだけ失ったか、理解しているか?”
 “君の部下や友は、我の部下や友でもあった”
 “ならば、私がどれだけ怒っているか、解っているか?”
 マルファは背中から一つの武器を出した。
 “《憤怒の閃撃(マスカ・オルジイ)》。―――意味は解るな?”
 景勝はTes.と言い、錫杖を眼の前に立て、両手を重ねる。抵抗の色は無い。迎撃隊の指揮を執っていた本庄・繁長が振り向いて、眉を立て
 “景勝! それはしてはならぬ行為であるぞ!” と叫ぶ。
 “いいのだ。恐れる事は無い。何故なら、マルファ、―――君は撃たない。我を撃つな、マルファ。我を撃つ事で、・・・我だけは楽にしてやろうなどと、そのような事は思うな、マルファ”
 “馬鹿な。この期に及んで自惚れを聞かされても、心の振れは変わらぬぞ”
 “君は撃たない。我は君と共にある。そういう約束だ、マルファ”

 景勝は思った。ほんの数時間前、出会ったばかりで、一切を無視してこちらの懐へ飛び込んで来た馬鹿の事を思った。その馬鹿は、かつて、過去に犯した失敗を後悔し続け、同じ後悔をしないように前に出て来たのだと。だが、その馬鹿は今、違うものを見せようとしている。後悔を捨てる事無く、ただ、昔の事として、自分や皆が幸いになる世界を得ようとして、前に出て来た。
 景勝は、「武蔵」の《総長》が自分の過去を拂拭しようと動いているのならば、動じなかった。だが、彼は我と同じものを、後悔として抱えながら、こう言った。
 ・・・俺が一緒に謝ってやるよ
 後悔の拂拭ではない。後悔を無くしても、そこには何も残らない。後悔をそのままにしてでも、幸いを得る事。未来を見る事。願う未来が正しければ、皆はついて来る。「武蔵」《総長》はそれを教えてくれた。
 彼は仲間達と下へ行ってしまったが、それでいい。我は「上越露西亜」の王だ。前に出る事は、一人でも行けると、教えてくれただけで充分だ。
 だから、景勝はマルファに言った。
 “約束は、未来に果たされるまで、我らを繋ぐものだ。―――ならば、マルファ。我と共に後悔を懐かせ、幸いの手綱を取りに行ってはくれまいか”

 マルファは息を詰めていたが、黙っていては肯定と取られかねない。ゆえに
 “―――撃つぞ”
 “何故だ”
 “意地だよ、景勝”
 口の端を上げ、マルファは《憤怒の閃撃》を射撃した。景勝にではなく、手首を返して自分に。
 “全く、―――怒りの最大は、常に愛せぬ己だ”


残り、あと4章!

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第470回 予告 「悲惨伝」

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西尾維新 予告 「悲惨伝」


 発売日はいつだろうかと調べていたら、もう表紙が発表になっていた。
 6月27日発売という情報と6月28日発売という情報の二つがあり、どっちが本当なのかわからないが、講談社ノベルスの発表の28日説を信じよう。
 http://bookclub.kodansha.co.jp/kodansha-novels/1306/news/

 表紙に八十八とあるのは、四国一周する気なのか?
    悲惨伝


 さて、伝説シリーズの第2作「悲痛伝」からは四部作だそうで、最終作まで一連の話となるのだろうか?
 タイトルの付け方になるほど! と意味が解りました。

 「悲痛伝」悲2(ツー)
 「悲惨伝」悲3(サン)
 「悲報伝」悲4(フォー)
 「悲業伝」悲5(ゴ)
 だったのですね。

 よく、「Yahoo知恵袋」なんかに、物語シリーズをどの順番で読めばいいのか解らない、という質問が上がりますが、確かにあれは不親切ですよね。
 困った質問に、「ソードアート・オンライン」をどの順番で読めばいいのか解らない、というものがありましたが、タイトルに番号打ってあるじゃん、と突っ込みたくなります。

----------------
余談
「Yahoo知恵袋」で思い出したが、「はだしのゲン金術師」ってなんなのだろう?
兎追い師・加野山、小鮒釣り師・加野川って誰なんだろう?

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第469回 アルスラーン戦記

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荒川弘×田中芳樹「アルスラーン戦記」

 なんと、あの「アルスラーン戦記」が荒川弘さんの手でコミック化されるそうで、どうなるか楽しみであります。
 (田中先生、早く完結させてください・゜・(ノД`)・゜・)

 荒川弘さんといえば、7月から「銀の匙」のアニメ放映も始まるから、そっちも楽しみだ。
 上に3人の姉、下に弟がひとりの四女だそうで、あの自画像は丑年、牡牛座生まれだからだとか。
 すでに「鋼の錬金術師」連載中に、ふたりのお子さんをご出産されているそうですな。
 荒川さんの描くダリューンとナルサスの掛け合いを楽しみにしております。
 ナルサスの描く絵が見たい!
                 アルスラーン戦記
                   ↑は万騎兵ダリュ-ンかな?

 本編は主人公のアルスラーンより十六翼将の方がキャラ濃すぎたので、目立たせてやって欲しい(笑)
 
 「アルスラーン戦記」 既刊
 第1巻「王都炎上」、第2巻「王子二人」、第3巻「落日悲歌」
 第4巻「汗血公路」、第5巻「征馬孤影」、第6巻「風塵乱舞」、第7巻「王都奪還」
 第8巻「仮面兵団」、第9巻「旌旗流転」、第10巻「妖雲群行」
 第11巻「魔軍襲来」、第12巻「暗黒神殿」、第13巻「蛇王再臨」

 全16巻(第1部7巻、第2部9巻)予定なんだから、あと3冊書いてくれー!

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第468回 境界線上のホライゾンⅣ(47)

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(下)」 Horizon on the Middle of Nowhere
Episode Ⅳ-Part 3 適当ダイジェスト⑲


「第九十章 間合い中の無双」「第九十一章 集合場所の夢待ち人達」
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 「ノヴゴロド」市街の北東側。道や屋根上、門壁の上を跳躍し、行き交う三つの影の交差がその速度を上げていた。
 誾は、今の戦場の厄介を知りつつあった。これはもはや、自分が出せる勢いの限界を超えつつある。膂力では駄目だ。宗茂もそれに気が付いている。彼の足を引っ張るようでは、二人で戦う意味がない。だが、宗茂はこちらを信頼しているのだ。二人で戦う意味を理解している。自ら動き、考え、役に立っていかねばならない。
 御市の武器は全て現地調達だ。身を回す勢いで拾い上げ、叩き込んでくる。まず、地面から遠ざける事。宗茂と二人で御市をトスし合うように位置取り、壁際に追い込み、上に跳ねさせる。自分の速度が追いつき切れないなら、宗茂の居る位置へ下側から追い込むようにする。
 屋根上の並びに着地した御市が、屋根向こうへ逃げようとするのを宗茂が牽制する。酒井から預かった《瓶貫》の能力は未だ不明だ。しかし、貫通補助の力は、御市を突き崩すのには有用だった。御市の刃の陰を縫い、真っ直ぐ狙い通りに飛ぶ穂先に、御市は身を振り回して回避する。そこに自分が追いつき、双剣の連撃を叩き込む。
両腕の剣は流体の加護を受けているが、「聖譜顕装(テスタメント・アルマ)」の方が流体加護としては上位存在だ。これで御市に手傷を負わせるのは難しい。止めは《瓶貫》に任せるよう、足首や膝、手首という、行動時に僅かに遅れる部位を狙うが、御市の技はもはや、人の技ではない。
 浅井家を一人で滅ぼし、魔神族を切り殺し続けた技。攻撃を全身で行い、必要な時は自らの姿勢を崩し、重心を片寄らせる事で身の振り回しを制御する。下手に対人仕様の剣で受ければ砕かれる。だから自分は受け流し、打ち払う。どのような力であろうとも払い斬り、魔であろうとも断つ。雷切の娘が、人の化けた魔に屈する意味は無い。

 誾は跳び込んだ。左の双剣を前に突き込み、御市の右腹を狙う。御市が旋回の中央に上半身を伏せるように身を沈め、動きを速くする。使用しているのは魔神族用の長剣二本。厚みと長さがある。突き込んだ左の双剣を躱した御市が予想以上に傾いだ。こちらの左双剣と御市の身体の隙間、ほぼ真下から魔神族の長剣が発射された。ただの振り回しではなく、しっかりと手首のスナップまで入った一撃だ。
 こちらの顎を割るようにすくい上げの刃を、誾は左の義腕を外し、身を右に捻って躱した。左義腕と身体の隙間を御市の刃が抜けていった。誾は右膝を着いて己を支え、右の双剣で御市の足から腰を刈るように振る。しかし、御市の姿は消えていた。
 視界の上に影がある。全身の旋回から、本来なら不可能な直上への跳躍。振り抜いた刃に吊り上げさせたんか?! 宙で身を回した御市の左手の長剣が、バックハンドで顔面狙いに来た。カウンターのタイミングのため、回避出来ない。だから、誾は空振りした右腕を、肩から外し、仰け反った。 
 眼前を空振りする御市の刃が通り過ぎた時、誾は外した左腕を再接続していた。左の双剣を御市の右長剣にカウンターで合わせる。剣が砕かれるが構わない。そのまま五指を開き、力と重量任せに御市の刃を受ける。巨大な盾ともなる義腕の半ばまで刃を食い込ませ、動きが停まった。
 “《十字砲火(アルカプス・クロス)》”
 下腕部が破壊されても、召喚には困らない。一瞬だけ、動けなくすればいい。至近で召喚したそれを御市に向け、誾は発射した。
 “宗茂様!!”

 宗茂は誾に応えた。《十字砲火》の攻撃だけでは御市は死なない。だから、当たった直後に《瓶貫》で止めを刺す。屋根を《駆爪》で蹴り、一直線に御市へと跳んだ。それで倒せる。その筈だった。《十字砲火》の砲弾が御市の頭上を抜けていった。躱す事の出来ない御市が、いきなり身を沈めたのだ。
 宗茂は御市の頭上に輝く天輪、《天渡りの信仰(カプトファイデス)が光るのを見た。それは所有者を修復する時、光るものだ。そして宗茂は、御市が自らに姿勢を低くした方法に気付いた。御市は己の左脚を、左の一刀で裁ち落としていたのだ。
 左の脚か、膝上で裁断され、ズレ崩れた御市の身が回る。朗らかな笑い声と共に、膝が吸い付き、血が糸のように粘り、結ばれ、立ち上がる。立ち上がった時には、誾が外した右義腕の双剣を拾い上げていた。
 《十字砲火》発射直後の誾から、大きく飛び離れまがら、その双剣を銀に向かって投げた。義腕を砕かれ、《十字砲火》直後の再装填中の誾は即座に動けない。だから、左義腕を再び外して回避態勢に入った。そこに、御市のもう一本の長剣が飛んだ。
 武器を完全に捨ててまで誾を狙う意味。一つは自分に対する牽制だと宗茂は悟る。もう一つは武器だ。御市の背後で先に《十字砲火》が放った砲弾が炸裂した。衝撃波を伴った大音と共に、道上、合成死体の戦士団が、文字通り散らばっている場所に砲弾が炸裂した。土塊や、死体の一部と共に、莫大量の武器が宙に舞った。
 宗茂は御市の方へ跳んでいた。そして、長剣の飛翔を前にした誾を見る。駆けつける事が出来れば救えるだろう。自分の持つ加速術《駆爪》は、宙に浮いている埃を蹴りつけ、跳ぶ事が可能だ。だが、それをやれば再び脚をやられ、御市との戦闘は不可能となる。だからだろう、誾がこちらを見て笑みをつくっている。解っているのだ。彼女は自分に全てを任せたのだ。任せた結果は受け入れる、と。
 だから、宗茂は誾を見て、身体を捻り、宙を蹴る用意をする。空気抵抗を減らすため、《瓶貫》を誾に向けるように抱えた。

 馬鹿な・・・、と誾は思った。宗茂がこちらを選択したのは、感情として嬉しくはあるが、それは甘えだ。戦場で相手から目を離すのは、軽蔑に値する行為だ。更に・・・、《駆爪》で足場のない空中を蹴ったら、また脚が破壊される。なんて馬鹿な選択を、と思っていたら堅い音と共に、彼の身体が飛び込んで来た。御市の投じた長剣が、弾き飛ばされている。
 “大丈夫ですよ、誾さん。貴女は、間違いなく、私の勝利の女神です”

 御市は宙に舞いあがった武器を手に取った。右の手に前反りの長剣。その重さを確かめてから身を回す。左手の先に斧があった。その柄を掴もうとして、・・・斧が、離れた。空中で、確かに、勝手に自分で遠ざかったのだ。意味が解らず、斧への執着をやめる。舞い上がって落下してくる武器は百近くになるだろう。だから、雨を浴びるように左の手を伸ばした。
 跳音が響く。自分の背後。身を回す先から金属の喝音が鳴り、武器が全て遠ざかって行く。
 ・・・?!
 数十の武器が、全て、金属音と火花を持って宙を去った。意味が解らなかった。何が起きているのか、理解の外に会った。

 誾が見たのは宗茂が空を飛び、全ての武器を弾いている場面だった。実際は《駆爪》も使用しているのだが・・・。誾は《瓶貫》の能力を理解した。御市が飛ばした武器に向けられた《瓶貫》の穂先。宗茂が構えによって狙いを定めると、その武器に向かって《瓶貫》が飛ぶ。貫通補助の能力ではなく、貫通物に対し、距離を縮めていく能力だ。

 夜の下。「武蔵」上、中央後艦「奥多摩」の後部。右舷にある酒井の屋敷。警報や砲撃音に揺れる庭園の中で、酒井は呟いた。
 “宗茂君、気付いたようだねえ”
 Jud.と頷くのは、縁側で表示枠(サインフレーム)の管理を行っている“武蔵”だ。
 “武装なのに、能力はどちらかといえば移動関係ですね。変わった槍です。―――以上”
 “貫通強化の研究で、対象をロックオンするところまでは大体行けてね。自動で高速に突けるようにすれば初心者向けの槍になるんじゃないかと思ったのさ”
 煙管から煙を吐きながら、酒井は苦笑し、顎に手を当てる。
 “高速で狙った位置へ自動で突き込めるように重力操作系の術式を入れたら、強力な移動力を持った自動突撃槍が出来てしまった。砲弾のように飛んで行ってしまうと困るから、持ち手がいないと発動しないようにしたんだ。だから、戦場では相手の武器に向かって跳躍補助をすることになる。頑張って欲しいねえ。―――西国無双”

 背後に敵がいると悟った御市は、右手のバックハンドの一撃を振り抜き、身体を追随させ高速の旋回を行った。そして更に加速するように、柄を左に持ち替え、後ろから前に振り抜く。当たらずとも、見えぬ後ろの敵への牽制になった筈だ。前に出て、武器の山がある街道側に跳ぼうとする。だが、振り切った左手の長剣の先に敵がいた。長剣の切っ先に、槍の穂先を当て、止めるような構えをしている。
 御市は長剣から手を離さず、鍔を下から右上へ蹴り上げた。風を切って長剣が起き上がり、右上段の構えとなる。その刃を叩きつけ、旋回の動きを作ろうとして御市は敵の姿を見失った。いや、風の気配が右手側からする。振り構えた長剣に、突きつけた穂先で追随してくる。ロックオンされ、剥がれない。加速術でこちらの旋回についてくる。回る自分を中心に、敵も回る。そして、自分の旋回速度を上回る加速が、長剣を外から回しに掛かった。圧倒的な速度差から来る加速の押しつけ。
御市はそれに対抗して、速度を上げようとし、・・・失敗した。

 僅かな乱れだった。先程、自分で裁とした左脚の修復による力のズレだ。存在しないと言っていいほどの乱れだった。だが、御市ほどの達人にとって、彼女の動作にとって致命的だった。微かな乱れが敵の加速によって増幅されていく。己の乱れを潰そうとして、抑え込めないと気付いた時には遅かった。
 身を撥ね上げられるような一撃が、加速の中に差し込まれ、確かに食らった。欠損したのだ。

 誾は宗茂が《瓶貫》の刃を収めて背負い直すのを見た。そして、屋根に落ちていたものを拾い、両手で御市に差し出した。
 “・・・勝家様と同じものです”
 “ん。・・・有り難う”
 御市は笑みで自分の右腕を受け取り、左腕で抱いた。直後、右の肩から、色の濃い飛沫が弾けた。
 “これで、勝家様と同じ”
 良かった、頭を下げ、一礼するように身を倒す。ふ、ひ、と笑い、血飛沫が瞬発し、彼女の姿が消えた。宗茂が虚空に一礼し、勝家様と仲睦まじく、と呟くと、それが別れだった。

 “戦場の流れが変わって来たわね“
 「ノヴゴロド」南部外縁の空。キャベンディッシュ艦と連携を取りながら、ナイトとナルゼは南部方面から見た動きを「武蔵」に送っていた。「武蔵」からは浅間がミトツダイラや二代、立花夫妻からの情報をまとめて送って来ている。
 “忍者がおちんこ出したのをミトツダイラが蹴り飛ばしたところ柴田の右腕を切断して、二代が負けたら左腕も甘切断。立花夫妻は愛の力で御市の右腕断って、何よコレ一体”
 御市は下がったものの、柴田は未だ「ノヴゴロド」市街で攻撃の指揮を執っている。利家と成政は西側から南を押さえており、全体の優勢は柴田側にある。だが、柴田艦隊に動きが生まれた。撤退の準備と「上越露西亜」艦隊の追撃阻止への牽制砲撃だ。
 「ノヴゴロド」側でも三つの動きがある。一つ目は前田勢と佐々・成政を中心とする「P.A.Oda」戦士団が「ノヴゴロド」中央を制圧した。北東から市庁舎に向かう「上越露西亜」突撃隊との交戦状態に入っている。二つ目は「ノヴゴロド」東側で、前田の「加賀百万獄(カガ・ビリオネン・ガイスト)」により、「上越露西亜」の増援と「武蔵」、「伊達」の武神が足止めを食っている事。三つ目は「ノヴゴロド」北東部の合成死体戦士団が突破されつつある事。
 ナルゼは眉をひそめる。“突破? 少人数なの?”
 “羽柴麾下《十本槍》の福島・正則と、加藤・清正です。このままでは市庁舎入りを先行され、「武蔵」《総長》達が突入しても、撤退は不可能です”

 「ノヴゴロド」北西部を疾走する視線が二つあった。清正が《カルトヴルッフ》を加速させ、敵を散らすようにラッセルし、正則がその後ろに続く流れを取っている。
 市庁舎前。馬車の通行を確保するためのロータリーに、大量の合成死体の姿がある。
 “あれは私が相手します。ノリさんは奥へ行ってください。後は上で” 
 “任せるで御座る”
 清正は敵に向かい、正則は市庁舎の中へ飛びこんでいった。

 「ノヴゴロド」市街の北部から、信号弾の白い光が上がる。「P.A.Oda」の部隊が市庁舎に届いた事を示す合図だった。それを見る「地摺朱雀」の肩上の直政は、武神の指示と制御で手一杯だった。相手は森とか言う変な武神の、恐らく補助機だろう。その七機は主人の管理外にあるのは確かで、突然、仰け反ったり、がくがくしたりで挙動不審だ。
 しかし、「伊達」の武神の砲撃を受けても、吹っ飛ぶだけでダメージになっていない。面倒を感じつつ、直政は近づくものを投げ飛ばし、地面に叩きつける。 

 “あのね、森君? 私の横で不意に仰け反ったりして、あんっとか、んひぃとかビクンビクンするのやめてくれると嬉しんだけど。計算の邪魔だし”
 「ノヴゴロド」南門の内側で、戦闘の損耗率の計算をしていた不破に言われ、森は慌てて首を振った。
 “な、何を僕を見ていやらしい想像をしてるんですか不破さん! 大体僕は今、制御出来ない分離体の頑張りを、痛みとしてうけとめあああああんっ! あっ、駄目駄目っ直政さんっ!!””
 “工科に頼んで埋めてもらおっか?”

 直政は、森の補助機を一体、地面に杭打ちするようにぶち込んだ。「地摺朱雀」の手首を加速し、敵機を頭から腰まで地面に埋める。あと有効な手段と言えば、飛翔器を持たない補助機を「ノヴゴロド」から落とす事だ。今まで九体ほど下に落としたが、最近はなかなか捕まらない、と思っていたら、下で墜落部隊の救助を行っていた佐久間艦隊の一艦が上昇してきて、下に落とした筈の九体の補助機を無造作に全部落として行った・
 “嫌がらせさね―――!!”
 ふたたび十七体となった全機が、全部揃った事で共通意志のようなものが整ったのか、狙いと動きを明確にしてきた。先程、地面に叩き込んだ一機が消えている。と、いきなり地面を吹き飛ばして、真横に補助機だ現れた。地面を掘り進んで来たらしい。直政の反応が遅れた。
 「地摺朱雀」が左肩にいるこちらを、右手でカバーするように動く。命令していない行動。自立系の制御を無視し、明確に「朱雀」が自分で動いた。恐らく「白虎」との戦闘から始まり、「青竜」の影響を受け、「朱雀」のOSが活性化し、自我のようなものが育ちつつある。だが、これは「朱雀」の自我なのか、眠る妹のものなのか?
 解らないけど、現状はヤバい。横の一機は対処不能、前方、上から来る二機は何とかなる。後ろ上方の二機は難しい。何とかなるさね、と動こうとした瞬間、宙にいる四機が打撃された。
 煙草女:アサマチ! アンタ四連射とか、何ハシャいでんのさ?!
 あさま:あれー? 私、ピンチ救った筈ですよね? なんでお咎めを!?
 さらに四機が吹っ飛んだ空に、無風の巨影が通り過ぎた。直後、吹っ飛んだ四機が断裂した。「伊達」の武神ですら刻めなかったものを、上下二つに分割してのける存在。
 “「里見」の《生徒会長》さね・・・?”
 
 夜の野に音も無く着地した里見・義康は、そのまま「義」の歩みを進めた。
 未熟者:その武神、結構弾力合って強敵なんだけど、君、平気でぶった切ったよね? どういう仕掛けだい?
 賢姉様:フフフこれはきっと相性! 相性よ! ペタ子の属性に会う敵が出現したという事ね! つまり貧乳斬撃よ!
 どんなスキルだ、と思いつつ、義康は正面から突っ込んでくる二機に身構えた。
  義 :先程、空中で刃を当てただけで解った。この武神、恐らく「北条・印度諸国連合」に生息するか、それに近似する生物に由来する設計が成されている。「北条」の連中が嫌がらせに投下して行くので、私がぶった切れるのは慣れだ。一度、刃を当てたら引き切らず、押し込むのがコツだ。
 そうやって向かって来た二機を義康はぶった切った。
  義 :表面の厚い皮に刃を食い込ませる事で、粘液やらなにやらを無視して刃が直接触れる。後は押し込みながら切ればいい。―――「最上」組、帰還した。ここを確保するが、それでいいな?

 外を守る清正が響かせ始めた金属音の連続を、正則は背で聞いた。顔前に出した非発光型の表示枠(レルネンフィグーア)は、行先の向こうにメインホールと、地下への入り口がある事を教えてくれる。そこには世界で初めて作られた教導院があるという。「阿蘭陀」の《総長》オラニエはそこに向かった。自分達の使命はオラニエの討伐と、地下遺構の破壊だ。
 「P.A.Oda」に干渉したものは討つ。干渉の原因となる場所は破壊する。
 “邪魔立てするで御座りますか、「上越露西亜」の元・《副長》、マルファ・ボレツカヤ様・・・”
 “正直、相対するつもりはない。私が相対したいのは、景勝一人だしな”
 円形ホールの中央に、一刀を携えた黒い影がある。彼女は背後の壁に開いた大扉を、守るように両の腕を広げ、口を左右に裂いて笑う。
 “しかし、貴様らのみを通すというのも卑怯であろう。歴代《市長》、誰も彼もがこの深淵を探り、薄々、真実に気付いて類推を重ねてきた。――恐らく、歴代《市長》の見立ては合っていた! 黎明の時代、「非衰退調律進行」で何が行われたのか”
 ホールに飛び込んだ福島・正則にマルファが告げる。
 “恐らくは「幸い」、恐らくは「救世」、恐らくは「偽善」。―――否、全ては決定的に「大罪」だ!!”

 直後、正則は視界にそれを見た。マルファの背後の全域に、虎が生じた。
 “「裏切り自由(ヴェージマ)の不自由を受けてくれ”
 虎に見えたのは数にして千を超える「腕」だった。そのどれもが二つの色、どちらかを持っていた。
 “祖先から受け継いだ魔神族主筋、我が家の護衛の腕だ。死後、保全を望んだものは体液の変性で黄色に、加工を望んだものは血液の凝固で黒に、両者を順列して出来た模様を先祖は「虎翼」と呼んだが、私は敢えてこう呼ぼう。―――「影虎」と”
 穿て、とマルファの声に従い、四桁越えの斬撃と打撃が、虎の咆哮として正則に激突した。

 マルファは、己が叩きつけた虎の攻撃を見ていた。床を砕き、壁を削った千超えの「腕」の向こうに、髪を揺らし、装甲ごと服が千切れた福島・正則が立っている。
 “貴様、己の加速術を持って、「見切り」まで可能とするか”
 達人級が戦闘にて行う、自己速度制御の「見切り」。それを得る方法は一つではない。言い換えるなら、それは特殊な技ではなく、自己を動作させる事を意識し、習熟すればやがては至るものだ。だから、マルファは四桁越えの「影虎」全てに、攻撃術式を発動させた。
 「見切り」も無効な範囲系から、直線系、弾丸系、浸透系など全て重ねた。
 “不可避の一撃、《影虎咆哮》” 莫大な力を敵一人に叩きつける、「影虎」の極大の技が直撃した。

 “落とせ、―――《一ノ谷》”
 正則の言葉と共に、《一ノ谷》の穂先が開いた。Tの字の熊手のようにも、トンボのようにも見える平刃の展開穂先の正面で、ぶつかった術式が消えていった。それは消滅ではなく、熱気も冷気も重力も光も、全て
 “―――蓄積されるのか!?”
 “Tes. それが防御系「神格武装」《一ノ谷》の力に御座ります”
 叩き込んだ力が、喰われ、抉られ、刮ぎ取られて行く
 “《逆落とし》!!”
 もはや爆発となったピークの《影虎咆哮》の中を、正則がこちらに向かって加速した。真っ直ぐに、落ち、飛び込んで来た。マルファは口の端をつり上げ、笑った。
 “成程、流石は新時代の武将! トビーが拘る訳だ!!”
 マルファは「影虎」を収束しながら、右の刃を振り上げ、迎撃の動きとした。

 “すまぬ。―――この場は我に譲れ、人間”
 横からの声が響き、《一ノ谷》の一撃が鉄の音に弾かれた。マルファは、正面に立つ影を見た。黒塗りの「上越露西亜(スヴィエートルーシ)」制服に身を包んだ、高位魔神族の男。
 福島・正則の速度に介入し、その穂先を錫杖で弾いた者。
 “・・・景勝”

 正則は迷った。戦闘への介入は無粋な行為だ。だが、「上越露西亜」《総長》兼《生徒会長》、上杉・景勝殿に御座るか・・・! 手合せしてみたいと、心から望んだ。今、「上越露西亜」は「P.A.Oda」の敵なのだ。今こそが機会だと言える。
 “この場を欲するので御座りますか?”
 “Tes. ―――先からの予約だ。我が遅れていただけでな”
 つまり、邪魔なのは、自分だ。元よりあった筈の、上杉・景勝と長尾・景虎の相対の場。自分は要らない。そういう事だ。ならば、譲るしかない、と思った時、左横を槍を持った姿が一直線に通り過ぎて行った。「武蔵」《副長》の本多・二代は、お? と一瞬だけこちらを見ると、走りながら
 “地下のナンタラ教導院はこちらの入り口で良いので御座るか?”
 Tes.と答えるマルファに、一番乗りで御座るかと笑みでホール奥へ飛びこんで行く。正則は大慌てで彼女の後を追った。同時にホールへ駆け込んでくる影の群があった。「武蔵」勢だ。先頭にいる「武蔵」《総長》が声を上げる。
 “おお! 景勝君! 格好よくキメたみてえじゃねえか!”
 景勝はそう言われ、照れた。
 ・・・格好良いとか、て、照れるであるぞ・・・! 葵君・・・・!
 だが、彼らが陽動役となった御蔭で間に合った。景勝の主力部隊は、北側の断崖ルートから入って来たのである。

 「武蔵」から、ホライゾンと正純が北部ルートで合流した事により、「ノヴゴロド」は二分された。分割ラインは、北端から東端への斜線上。北部にある市庁舎を北西から南東に切るラインだ。面積では「P.A.Oda」の方が広いが、重要度では「上越露西亜」と「武蔵」側の方が高い。
 南端側にいる不破は、北部断崖を登攀してきた「上越露西亜」本隊の戦力推移を計算し直し、「P.A.Oda」の戦力を北部集中に切り替えた。
 勝家の号令一過、機動力のある柴田勢の者達と、白骨の戦士団が北部の密度を上げる。
 一方、南部の空では「女王の盾符(トランプ)」のグレイス・オマリとキャベンディッシュが柴田艦隊の四分の一を引きつけて立ち回っていたが、西部にて煙を上げながらも浮上状態を保っていた「聚楽第」が防護障壁を張る事で、「上越露西亜」艦隊の「ノヴゴロド」上空への侵入を阻んでいた。
 上空では、全ての流れが互いを牽制し合うものとなっていたが、「ノヴゴロド」の地下では、「天津乞神令教導院」を巡る戦闘が、最終局面に入っていた。

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第467回 史記 武帝紀(ニ)

Posted by ヒッター7777 on   0 comments   0 trackback

北方謙三 「史記 武帝紀 (ニ)」

 連勝を重ねる常勝将軍・衛青。
 弟が武勲を重ねても、帝の寵愛を受ける姉の庇護のお陰だと言われなければ良いと、あまり喜ばない衛子夫。
 頑なな姉弟である。
 大人の振りをして軍に紛れ込もうとする、衛青の甥、霍去病(かくきょへい)。衛青の従者となるが非凡な素質を見せる。

 西の地、汗血馬の産地、大苑に到達した長騫(ちょうけん)は劉徹の命を守り、帰路に就く。
 だが帰路も匈奴の支配域を通らなければならない。

 東から韓安国が四万の兵を北上させ鮮卑の地から単于庭を窺う。
 その隙に衛青が三万の兵で河南(オルドス)を制圧した。
 だが匈奴の動きはおかしかった。単于(ぜんう)に何かあったのか。

 病で死んだ単于・軍臣の息子、左賢王・於単(おぜん)と単于の弟、左谷蠡王・伊稺斜(いちさ)の跡目争いが勃発する。
 ここで匈奴の地に攻め込みたい劉徹。せっかく割れたものが一つにまとまるという衛青。
 果たして新しい単于になるのはどちらなのか。

 再び捕えられた長騫は単于の死を機と見て脱出し、長城を超えて長安へ向かう。

 衛青と長騫の初邂逅が行われる。

 遂に登場。司馬遷。彼は劉徹とどう関わっていくのか。

 新・単于に就いた伊稺斜は子供達だけで鹿狩りの指揮をする少年、頭屠(とと)と出会う。
 漢の衛青将軍。匈奴の誰も勝てない不敗の男を倒すため、伊稺斜は単于直轄軍の編成を考え始める。

 漢では十七歳となった霍去病が、匈奴では十六歳となった頭屠が頭角を現し始める。

 河南を奪回した劉徹の目は、西方に向けられようとしていた。

 匈奴の地に侵攻する衛青の十万。迎え撃つ伊稺斜の二十万。
 単于という最高の囮さえ躱す衛青と頭屠の頭脳戦。
 激戦の中で運を拾ったのはどちらだったのか。

史記 武帝紀 2

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第466回 ニャル子

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(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー! (」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!
(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー! (」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!

 CD買ってしまった。ヴォリュ-ム最大でお聞きください。
這いよれ!ニャル子さんW OP 「恋は渾沌の隷也」 FULL


這いよれ!ニャル子さんOP  太陽曰く燃えよカオス  再掲載

アニメ2期は真尋=ヨグソトス編まで行くのだろうか?

 これ、笑ってしまいました・・・

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第465回 境界線上のホライゾンⅣ(46)

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(下)」 Horizon on the Middle of Nowhere
Episode Ⅳ-Part 3 適当ダイジェスト⑱


承前

 斎藤の視界の中、馬鹿は首を傾げた。
 “あっれー? おうい” また手を叩く。が、三秒ほどしても、何の反応も何処からも来ない。
 ”おっかしいな。普通、ノリとしてはここで誰か来る筈だろ“
 ふ、と笑い声が聞こえた。御市が口に手を当て
 “二人がかりでも、別にいいですよぉ”
 “―――爺さん、盾になれる?”、“諦め早いぞ貴様!”
 襟首掴んでがくがく揺らすと、動きがあった。ふ、と息を吸った御市が、俯き、髪で顔を隠したのだ。だが、完全に下を向くものではなく、髪の間から赤い三日月の口が見えている。
 軽く、来た。力を抜いて、重さが無いような動きで。報告とは違う。それはもっと勢いのある、重みを振り回す動きだと聞いた。
 この敵は、感情に振り回されるのか!
 喜びと不安を抱いた、震えるような軽さが、飛びつくように疾走した。

 御市は、混濁した心の中で、浸る解放感を得ながらそれを見た。飛び込み、右の刃を叩きつけた先に、二人分の身体が転がっている筈だった。緩い疑問と不満の行く先、こちらの剣を受けているものがある。槍だ。長い穂先の一直線。一人の男が掲げるもので、その背後に極東の夏服を着た、巨大な義碗の少女がいる。
 “おお! ムネムネとムネ嫁か!”
 “Jud. 間に合ったようですね”
 立ち、構えるのは夫婦だろう。・・・いいなぁ、とそんなことを思いながら、地面に落ちている剣を左手で拾い、二刀とする。
 “二人がかりで、丁度いいですよぉ。―――卑怯な手、ありますからねぇ”
 頭上の天輪を見て、嫁の方が眉をひそめる。
 “あれは、・・・「聖譜顕装(テスタメント・アルマ)」?”

 未熟者:解説! 解説欲しいよね! 解説ないと、ちょっと不便だよね!? 解説行ってみようか!
 誾は表示枠(サインフレーム)を音声入力応答にして言った。
 “―――うるさい”
 未熟者:ひいっ
 横に立った宗茂が問うてくる。
 “誾さん、あれは何ですか?”
 誾は、宗茂様にはなるべく詳細を説明せねば、と思う。何しろ、「聖譜顕装」だ。
 “―――あれがあると死にません”
 彼は一度考え込むように視線を下げ
 “成程、あれがあると死なないんですか”、“―――死なないのです”
 “では、《瓶貫》は準「神格武装」ですが、これだとどうでしょうか”、“―――死にます”
 “死ぬんですか”、“―――死にます”
 あさま:な、何か、私、ちょっと気が狂いそうなんですけど、この流れ・・・
 “狂うんですか”、“―――狂うのです”
 あさま:ひいっ
 “気兼ねなく行けますね”、“Jud.そうですね” だから、行った。

 第八十九章 間合い外の無双」
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 遠く、「ノヴゴロド」の北側へと、ミチツダイラはメアリを抱きかかえた点蔵と共に走っていた。行く先に王の匂いがする。それだけでなく、この音は、剣戟の応酬だ。少なくとも二対一。二刀使いの堅音が連続を立てる。立花夫妻特有の和食の匂いもついてくる。和食なのにハムとか炒めものの香りがするのが特徴だ。だが、連撃の音が異常だ。自分の両腕と《銀鎖》を使った六重撃に匹敵する速度の打ち合い。
 ・・・どういうレベルの高速戦闘ですの?
 
 宗茂が最初に理解したのは、御市の動きが曲線の繋ぎである事だ。武器を振り回し、身体を旋回させ、スピンして跳躍する動きは、自分の動作を途切れさせず、速度と重さを保ち続ける。
 こちらは御市に対して、高速に立ち回る。彼女の動きに追随していけば合わせられ、反する動きをすればカウンターを食らう。敢えて直線の動きで、御市が身を回すのを削るように突っ込んでいく。
 気を付けるべきは、彼女は体術だけで戦っていて、加速術を使用していない。自分達のように加速術で勝利をもぎ取っていくのとは違う。達人や、それに至るものだけが獲得出来る、ただ戦う事そのもので勝利の道が開けるような戦い方だ。
 
 勝家は、ウォルターとの撃ち合いに応じていた。打ち合いではない。ウォルターの放ってくる十数本の重力刀は、実際の刃が無い。刃で受けようとしても通り抜けて来るだけだ。対応は、遠距離からの攻撃か、至近での遣り取りしかない。
 既に右腕は霊体に運ばせた。左腕一本で、しかし用いるのは《瓶割》ではない。宙にジャグリングするように飛ばすのは、脇差や刀、長剣や短剣、戦場に落ちているものを左手で弾き、足でトラップして膝でかち上げる。
 お互いは全ての刃を、振り、突いては戻し、一瞬で持ち替えて時には投げもする。七連射の刃でウォルターを攻撃するが、敵はただ、身を緩やかに傾け、重力刀を放つ構えを幾度か直すだけで当らない。見切られている。いや、自分の隙のある場所を理解して、組み替えているのだ。ゆえに足裁きが特殊だ。歩くのではなく、踵と爪先を交互にズラして滑るように移動することで、膝や腿を自由にし、そこにも隙を作り替えていく。
 山中・幸盛。どちらかというと忍者の素質を持った侍だ。歴史再現として尼子家の御家再興を「P.A.Oda」が手伝った事がある。幾度となく「六護式仏蘭西」の「毛利」に少数で立ち向かい、捕えられる事があっても、自力で生還して来た。両者共に当たらぬ攻撃を交わし合いながら
 “昔に、こういう勝負が出来てたらなあ”
 今の戦いの意味も違ったものになったろう。と、いきなりウォルターが顔面狙いの一発を送ってきた。無言の攻撃、顔ど真ん中など、初の攻撃だ。敵の言わんとした事が理解できる。
 今がベスト。今が最高の状態だ。右腕があった時以上の攻撃量を、それ以上の集中力を、速度で行う。だが、勝家はふと計算違いを感じた。なにか解らないが、ただ、数が合わないような、そんなズレだ。それを察知するなり、異質が来た。先程の顔面狙いの一刀が、燃料切れで刃を消したのだ。
 どういう事だ? 危険な疑問に、勝家は勘で動いた。無手の左腕をただ前に放つ。ウォルターは右の背に大重力刀を背負っている。何か決め手の攻撃を放つならば、それを使用する筈。左手を軽く握り、インパクトの瞬間、貫き手とする。叩き込む一撃が、堅いものを穿つ。大重力刀の柄となっている燃料層だ。身を乗り出したぎりぎりの一発は、その速さにおいて、右腕があったら不可能な貫通撃だった。
 だが、爆発する大重力刀の鍔側。巨大な不可視の刃が、流体の光に散る中、勝家は思った。
 ・・・やべえっ!!
ウォルターの右腕は、大重力刀の長大な柄の端を握っている。だが、左腕は何処だ。散る光で見えない。勝家は距離を取ろうとした。鬼の膂力が、強引に上半身を引き戻す。だが、足を踏まれた。更には、足先に冷たいものが上から下に通り、地面を貫いた。ウォルターがこちらの左足を踏んだ自分の足ごと、脇差で上下に貫いたのだ。
 今、自分は身を後ろに仰け反らせている。対するウォルターは、身を低く、右の重力刀を一本放った。狙いは縫い止められた左脚の膝だ。勝家は仰け反った身体の勢いを利用し、縫い止められた足を気にせず振り上げ、後方一回転の宙返りを放った。

 ウォルターも勝家の挙動に気付いて、自ら跳んだ。ウォルターの刺した脇差は、刃を自分の方に向けていたので、蹴り上げた勝家の足は、刺さった場所から爪先まで裂けたが、刃が抜けた。ウォルターも宙で一回転し着地するが、刃は刺さったままだ。だから、勢いよく踏んだ足から脇差が真上に跳ねあがった。その脇差を掴み、垂直に構えた眼前に、鬼の貫き手が顔面狙いで叩き込まれる。
 直後、ウォルターの背後から光が来た。合成死体の戦士団に、分解状態で潜んでいたウォルシンガムだ。
 “重力刀の刃の砕けた光に隠れて、組み上げてやがったか!”
 “Nice Answer”
 十字剣を合わせた砲から、ウォルターの首を掠めて勝家の顔面に光砲が来た。

 動きが三つ生まれた。一つはウォルシンガムの砲撃。もう一つは、その瞬間、《百合花》の癒使(イスラフェル)を纏った佐々・成政が、彼女の十字双剣を砕いた事。最後は、突きを放った勝家が、強引に左腕を内側に捻り曲げた事。
 黒く硬い頬肌を削ぎ、番犬の砲撃が逸れた。勝家の貫き手もウォルターに届かなかったが、そのまま捻った勢いで、尖った肘打ちの一発を放とうとした。そこに、新しい動きが入って来た。
 “―――あ、すまんで御座る”
 飛び込んで来た足蹴りと言うよりも、疾走の足裏がウォルターを吹っ飛ばしていた。ウォルターを蹴り倒しながら、身軽に跳ねていく姿。それは
 “「武蔵」《副長》か!?”

 ・・・はっ? 二代は辺りを見渡した。とりあえず宗茂達を追って突っ走って来たものの、こっちが近道で御座るかなあ、をやったら、川の流れのように自然に道に迷ったで御座る。
 向こうに「英国」で見た自動人形がいて、つい蹴り飛ばしたウォルターがいて、確か、佐々・成政とかいうのがいる。「IZUMO」で見たから一応覚えている。しかし、あちらにいるのは、・・・柴田・勝家だと思うで御座る? 鬼型長寿族には知り合いがいない。顔の区別がつかないので、体格とか、個人差の少ない種族だったらどうすべきか。自分が知っている柴田・勝家は両腕があったのだが、この鬼型はちょっと違うというかかなり違うで御座る。だから、二代は問うてみた。
 “あのう、どちら様で御座ったか?”
 “柴田・勝家だ! 馬鹿野郎!!”
 叱られたで御座る。随分とルックスが変わったように見受けられる。
 “サウスポーに転向で御座るか”
 “貴様んトコの忍者に切られたんだよ馬鹿野郎!”
 成程、あのメアリ殿の横にいるあの忍者が・・・。
 “あの忍者、最近聞いた話だと朝からおちんこ出してたそうで御座るが、それに!!”
 “え? 俺・・・、そんなのに切られたの?”
 二代がははは、と笑うなり、勝家が《瓶割》を突き込んで来た。

 成政と距離を取ったウォルシンガムは、勝家の一撃が完全に不意をついたものだと判断出来た。だが、勝家の横に二代が回り込んでいる。ウォルシンガムの目にも、ただ、二代が歩いたようにしか見えなかったが、二代の足元には《翔翼》の術式陣が表示されている。確かに一度、加速術を使ったはずだが、彼女の速度は上がっていない。
 ウォルシンガムは疑問した。二代の動きが軽い。立っている動きまで軽い。まるで体重が無いかのように、勝家の横に立っている。勝家が半歩、横に離れた。逃げたのではなく、表情は目を軽く細め、視界を真っ直ぐ前に、全域を捉える目付きだ。勝家も気付いたらしい。
 “おい、突っ走って来たって言ったな?―――何歩でここに来た?”
 馬鹿げた質問だと、ウォルシンガムは基本的な判断を下す。北の空に浮いている「武蔵」から上陸し、ここまでどれだけの歩数がいるのか。だが、ウォルシンガムの非常用思考。首の後ろからぶら下がる走狗(マウス)の本体は、勝家の問いが本気だと判断した。
 告げた思いに応えるように、二代が一瞬だけ上を見ると左の手を上げ、指折り数え始める。
 数えるその姿に、今こそ勝家が動いた。左手一本、《瓶割》を横薙ぎに叩き込む。

 高速の、大気を滑るような横一直線の刃を、二代が避ける動作を取ったのを勝家は見た。《翔翼》だった。《翔翼》や、その派生は神道として代表的な加速術であり、その特性は祓禊による引き上げ型の累積加速。古来から使い手は多く、勝家も戦闘経験の中で幾度も当った事がある。だが、長いストロークが必要で、短い距離での方向転換は不可能だ。
 ・・・おいおい、何だこの面白えのは!?
 相手は緩かった。まるで速度なく、歩くというより体重移動で三十七枚の《翔翼》を割り、《瓶割》の刃を避けた。遅いのに避けた。いや遅いから避けられたのだ。速度を落とし、抑え込む事で「見切り」を作りやがった。よく見て、無駄の無い回避をする。剣技の中でも無刀の技として、上位クラスの者が可能とする技。それを、どういう手法か、砕けぬ《翔翼》で成している。
 勝家は思い出した。「マクデブルクの掠奪戦」でナメた攻防を行われた憶えがある。あの時、この娘が浮かべていた冷めた表情が無い。己の力に油断しない、最大限の力を常に出す事で、そうでなければ行きつけない所に行こうとしている必死の顔。
 ・・・貴様、ようやく、こっちに来たな。
 よし、と勝家は思った。御市様と約束しているのだ。最後まで、ずっと楽しく行こう、と。だから、手を抜かねえよ。何しろ、「聖譜記述」では鬼柴田と呼ばれる猛将だ。向こうが「見切り」と妙な動作を使うなら、こちらは己の力を最大限に出しつつ、制御する。鬼の「見切り」だ。

 成政は、勝家の「技」を確認した。「武蔵」の《副長》が「見切り」と判断出来る動きを取ったのは見た。だが、勝家は、一瞬の交差で敵の実力を計り、いつもと違って手を抜かず、・・・手を加えてきやがった。鬼の膂力を、爆発的な運動ではなく、「静」の技に置き換え、最低限の速度、最低限の動きで敵の攻撃を完全に捉え、認識し、対処を行う。
 「武蔵」の《副長》と「P.A.Oda」の《副長》が位置を入れ替えた。まるで、演武の披露だ。自分も未熟な時には茶番に見えたが、最善と最短の距離と動作を示すものだと解り、そこに多くの参考を感じた。今、目の前で行われているのは、相手に致命の攻撃を与えるための最善と最短の距離と動作があり、それを回避するための最善と最短の距離と動作だ。最強の攻撃が、最高の回避によって幾度も成り立つ濃密な空間。
 ・・・だが、柴田先輩、半端ねえな!
 「武蔵」の《副長》は加速術を使用しているが、勝家は膂力のみ。左手一本。小柄な相手に合せている。そして、転機が来た。

 勝家が、左から振り上げられる二代の槍を、右にゆっくり身を反らして回避する。そのまま、カウンターで左腕を上げていくのに、二代は勝家の左側に、遠回りで回避しようとした。最短距離で《瓶割》を回避し、左肘の外側に擦れ違おうする二代の槍に、勝家は《瓶割》の鍔を引っかけた。そのまま、放るというような動きで、宙に紙飛行機を飛ばすような動きで、確実に二代は飛んだ。

 距離にして四十m。放物線を描く先は、戦闘によって砕かれた家囲いの壁の、一本だけ残った柱だった。傾いで、不安定なそれに二代は構う事無く着地した。身を地面と水平に、膝を縮め、勢いを殺しながら《翔翼》を展開する。足裁きでゆっくりと、確かに柱を踏み直す二代の前。今の姿勢では上となる真正面で、勝家が《瓶割》を向けていた。

 成政は二代の負けを想定した。彼女の加速術は祓禊により、加速の行先の不純物を払う技だ。加速のために踏む必要がある。勝家に正対するように着地した柱は、軽く押すだけで引っ繰り返るように倒れるだろう。今も、着地の衝撃で傾きつつある。
 展開した《翔翼》が砕かれずにいるのは、その力を蓄積累積しているのだろうが、柱が倒れ、足が空振りすれば二代は失速し、蓄積した加速が暴発する。前に飛んでも《瓶割》のカウンターが来る。自分の姿を刃に認識されたら割り砕かれる。無理だ、と思った時、成政は声を聞いた。
 歌だった。この濃密な最善と最短の中で、「武蔵」の《副長》が歌を朗じている。その歌を断ち切るように勝家の声が聞こえた。
 “かかれ。―――《瓶割》”

 破壊の後、静寂が来た。勝家の正面、三十mほど先まで《瓶割》に割砕力がその力を開放した。さて、と勝家は《瓶割》を下げたまま、後ろを振り向く。十数m程先を一度見て、ふむ、と頷き、そっちかと言って、三十m程先の古びた家屋の屋根を見る。ひとつの背中が膝を着いている。
 一本の鉄槍を己の支えとして、辛うじて倒れずにいる彼女に、勝家が問うた。
 “その《蜻蛉》のスペア、使うにはまだ自分の心が至たらねえのか? 否、今の貴様の速度だと、俺を映すのも難しいだろうな。槍の処理速度を上げておいた方がいいだろう。俺もそうする”
 言うなり、二代の髪を結んでいる鹿角型の髪留めが割れ、身が前に倒れかけた。
 “《瓶割》の認識速度を超えてくるってのは、どういう事だ?”
 二代が槍にすがり、息を入れ、立ち上がった瞬間、勝家の左肩。その前面部が裂け、血飛沫を破裂させた。左の腕は半ば近くまで断たれ、もはや、両の腕は使えない。
 “もうちょっとやっか?”
 “否、拙者、行くところがあるので御座る。今回は自分の負けなれば、いずれ”
 “俺は途中のついでかよ。確かに、俺は左肩、貴様は髪。身体の中央に近いのは、俺の攻撃だ”
 だがまあ、と
 “俺は今度、両腕だ。貴様は《蜻蛉切》持って来い。そしたら相手してやる”

 既に《翔翼》を蓄積していたのだろう。忝いと、二代は頭を下げ、そして消えた。


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第464回 マルドゥック・フラグメンツ

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冲方 丁「マルドゥック・フラグメンツ」 Mardock Fragments

 ここ数ヶ月、なんか忘れているという感覚がずっと付き纏っていた。
 その原因が発覚した。正月明けに、そろそろ読まねばと未読の本の山から20冊ほど取り出して、避けて置いたのだ。
 さらに整理しているうちに、まだ読まなくていいやと思う本が、その一番上に乗ったらしい。
 偶然から、その一番上の本を取った際、宝の山が現出した。
 いや、もう読む本がいっぱいありすぎるんですが・・・

 昔、ヒッターが読んで熱狂した作品、「マルドゥック・スクランブル」
 第24回(2003年)日本SF大賞受賞作品。
 (この年の星雲賞は野尻抱介「太陽の簒奪者」だったか。これも好きだな)

マルドゥック・フラグメンツ

「マルドゥック・スクランブル”104(ワン・オー・フォー)”」
 マルドゥック・スクランブル プレストーリイ 1
 ボイルド(固茹で卵)、ウフコック(半熟卵)、ドクター・イースターは、自分の務めた会社を違法クローン薬製造で告訴した女性、アイリーンを《スクランブルO-9(オーナイン)》法により、保護した。
 セーフハウスとして使ったホテルを急襲する200人の兵士。ガードに徹するボイルドとウフコック。
 だが、彼女は104(ワン・オー・フォー)、「銃器撲滅を推進する非政府団体」に所属していたのだ。

「マルドゥック・スクランブル”-200”」
 マルドゥック・スクランブル プレストーリイ 2
 ソルヴェ社のCEOだった祖父が死んでから、一族の者が次々と殺されていく。それも血を抜かれて。
 最後の生き残り、ローズは《スクランブルO-9》の保護対象となった。
 ソルヴェ社は死者の血液を抜き取り、マイナス200度の冷凍保存で未来での復活を事業として展開していた。
 ローズを狙うのは誰なのか? 
 ウフコック、ボイルド、イースターは謎の暗殺者を迎え討つ。

「Preface of マルドゥック・スクランブル」
 シェルの周囲では既に6人の少女が自殺、または行方不明になっていた。
 7人目の少女はルーン・バロット。
 ウフコックはシェルのカジノに潜入する。
 バロットとウフコックの最初の邂逅が訪れる。

「マルドゥック・ヴェロシティ Prologue & Epilogue」
 うーん、これを読んで、もう一度「ヴェロシティ」を読み返したくなった。
 10人と3匹で始まった「O-9」法案。
 過激なる戦闘と罠、オクトーバー社の支配するマルドゥック・シティ。
 ボイルドとバロットの死闘。
 これもアニメ化されたら、改訂新版だすんかな?

「マルドゥック・アノニマス”ウォーバード”」
 有名カジノで、かつてルーレット台を任されていたという老女。
 殺害された元同僚の最強のディーラー。
 刑事に送られてきた「匿名の報告(アノニマス・レポート)」
 刑事に危険を知らせる謎の銃。
 暗殺、誘拐、拷問、脅迫、監禁をビジネスとする組織《クインテット》。
 敵は警察内部にもいる。刑事を救う異能の男たちは新しい「O-9」のメンバーか。
 襲いかかる不死身の犬と見えない犬。刑事を救ける、空間を精密スキャンする少女。

 本編を早く読みたい。

「Preface of マルドゥック・アノニマス」
 ガス室から送られる、ネズミの最後の通達(レポート)
 「天国への階段(マルドゥック)」を登ったネズミは警鐘を鳴らす。
 表の世界では、オクトーバー社、フラワーカンパニー法律事務所、法曹界に台頭する二人の検事、メガバンクのトップに躍り出たロックウェル兄弟、《コンダクター》・ヴィクトル・メーソン市長。
 アンダーグラウンドでは、ウフコックに匹敵する「匿名の存在(アノニマス)」、《五重奏(クインテット)》の統括者《マスターマインド》・ヴァージル。不死身の犬シャトーに率いられる「POH(パック・オブ・ハウンド)」。禁じられた科学技術によって変貌した異形の子供たち「ウェンディ・エンジェルズ」
 そして、ネズミの最大の宿敵となった《シザース》。
 ネズミのレポートの宛先は、ルーン・《バロット》・フェニックス。
 多くの登場人物が三部作の完結編に登場する。

 作者がダンテの「神曲」になぞらえれば「ヴェロシティ」が地獄編、「スクランブル」が煉獄編、「アノニマス」が天国編になると言う。
 ウフコックの死を描くと公言されているので、どのような展開になるか楽しみですね。

「古典化を阻止するための試み」
 十年を経て完全改稿版、改訂新版を出すに至った経緯。
 アニメ版とコミックス版に触発された沖方さんは、原作が悪い意味で古典化するのを恐れたらしい。
 ① 旧版のデータを全部、プリントアウトする。
 ② 修正箇所に赤字をいれて、全部最初から打ち直す。
 ③ それをプリンタうとして、編集者の提案や修正案を盛り込む。⇒完全改稿版
 ④ 改訂新板にするため、二百ページ分削る。⇒改訂新板

 このため、最初の5ページが改訂新版と完全改稿版で違うものになっているという。

 これで買ってある完全改稿版を読む決心がついた。
 どこが変わったのか、旧版がどこかに仕舞われているので比べられないけど、沖方さんが二十一、二歳の時に書いた旧版とは、作品自体が成長しているようだ。
 次の改訂は十年後ですか(笑)

 「天地明察」、「光圀伝」を前から買おう買おうと思ってるのだが、なかなか、買うタイミングが掴めないなー。

「事件屋稼業」 
 「マルドゥック・スクランブル」の初期原稿、冒頭部。
 多少、初期設定が変わっているようだ。
 まあ、タイトルがダサい(笑)


 さて、とあるマンガ大賞受賞作品が、この「マルドゥック・フラグメンツ」内の短編を盗用をしたということで、受賞取り消しとなりました。
 読んでないんですが、そんな作品を大賞に選んだ編集部や選出委員って、本を読まない人たちなんですかねえ・・・。

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第463回 天元突破グレンラガン

Posted by ヒッター7777 on   0 comments   0 trackback

天元突破グレンラガン

 宇宙戦艦ヤマト2199の第15話「帰還限界点」を見ていて思い出した惑星攻撃大型ミサイル。
 このシーンがふと脳裏に浮かび、動画を探してみる。

 劇場版では生き延びたメンバーは、TV版ではここでほとんどが散っていきました (´;ω;`)
 ヒッターが最も涙した回です。


Gurren Lagann Parallel Works が好きで集めてました



 今でも、何度見ても涙するアニメですね。

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第462回 境界線上のホライゾンⅣ(45)

Posted by ヒッター7777 on   0 comments   0 trackback

川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(下)」 Horizon on the Middle of Nowhere
Episode Ⅳ-Part 3 適当ダイジェスト⑰


「第八十七章 戦場の分断者」
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 点蔵は、人生で一番の無理を感じていた。市庁舎に向かうトーリ殿達を守るため、柴田・勝家殿と剣戟とは・・・。歴史再現では有り得ない。正直な事を言えば、歴史再現に則ってこの戦いは無しと言いたいが
 “《第一特務》、今ですの!”
 後ろのミトツダイラが完全に「入って」しまっていて、退けない。前門の鬼、後門の狼。黄門の狼とかも考えたが、正純殿のようなので言わないで御座る。
 ミトツダイラは《銀鎖(アルジョント・シェイナ)》四本と、「上越露西亜」突撃隊から借りてきた長剣と槍を携え、合計六本の刃が攻撃手段だ。こちらはメアリ殿から借りてきた《王賜剣一型(Ex.コールブランド》を使い、ミトツダイラの影から飛び出したり、下側から腹を狙ったり、後ろに回り込んだり、荒れた街道の石を蹴りつけたり、忍者の「勝利に至る効率的戦闘術」を駆使している。
 “やるじゃねえか、忍者小僧・・・!”
 “好評に御座るか・・・!”
 それくらい、勝つ事への執着心があってこその勝負だと、好評そうなので応えるしかない。背の高い相手。忍者の剣技では足首切りや、逆袈裟、馬上への攻撃のセオリーもあるのだが、全て凌がれた。こちらの技を全て受けて、そして攻撃してくるとなれば、敵として、一つの理想像だろう。

 傷あり:点蔵様、頑張って下さいね? 帰られましたら、御夕食ですから
 十ZO:Jud.で御座るよ! 楽しみで御座るな!
 あさま:ちょ、ちょっと、点蔵君! 今のそれ死亡フラグです!
 十ZO:絶対生きて戻るで御座るよ!!

 ながら戦闘も忍者の基本技に御座ると、そんな事を思うなり、風が来た。勝家が、ちとパターンを変えるかと言って、前に出て来たのだ。

 ・・・こいつは面白え。自分の周りにも滝川・一益のような忍者がいるが、指揮官クラスになってしまっている。《瓶割》と脇差を両手に、勝家は前に出る。と、忍者が攻撃を変えてきた。足狙い。それも回避しにくい、下から上に打つタイプだ。忍者は腰を落とし、膝から下を柔らかく使って距離を制御。引きながらこちらの膝や、脛、脹脛を回り込むように打つように見せ
 “おお・・・?”
 不意に、こちらの右腿に差し込むような一撃を突き込んで来た。自分の目に刃の切っ先を正面に見せるような斜め突きだ。立体としての距離感が捉えにくく、威力よりも当てる事を考慮したもの。だが、用いる武器は、鬼の装甲をも割るだろう、《王賜剣(エクスカリバー)》だ。
 武器頼りというのは、悪くない判断だ。何しろ俺を相手にしてるんだからな。だが、こちらとて、当たる気は無い。左脚を前に。その足先を軸に左前の半身にする。忍者は突きを外し、後は右手の《瓶割》を置くように薙ぎ切ればいい。簡単すぎる。だから罠だ。しかし、万が一がある。
 敢えて《瓶割》を手首のスナップで振った。低い姿勢の忍者には回避不能の一発だ。当たった。断った。手応えがあった
 勝家は振り抜いた己の手応えの先を確認した。
 何だ・・・? 忍者は断たれていなかった。
 こちらの内腿に差し込もうとしていた《王賜剣》と、腰後ろに隠していた短刀をクロスさせて《瓶割》を挟み込み、切ったと錯覚させる。忍者の代名詞と言われる《代わり身の術》には視覚的、聴覚的、感触的なものがある。今のは三番目のものだ。クロスした二本の刃で《瓶割》を受け、それを鋏のように開閉させながら、ぶった切る感触を再現したのだ。

 ミトツダイラは瞬間的な隙を見逃さなかった。勝家は点蔵に対して左を前にした半身で、《瓶割》を振り下ろし、点蔵がそれを受け、流した。ミトツダイラは勝家に対し、六重の長剣をぶち込んだ。《瓶割》を振る右の肩を突きだして首をガードしても、脇腹が無防備になる。だが、勝家はガードをしなかった。
 “かかれ! 《瓶割》!”
 《第一特務》ごと、こちらを割り砕く気ですの?!
 直撃をミトツダイラは悟った。 ・・・強引な! 勝家が《瓶割》を防御に使うのは知っていた。だが、この段階で、自分の負傷を前提の回避行動を取るとは、無茶苦茶な話だが、それは、負傷してもこちらを消す事を選んだという事だ。
 このままでは割砕力が直撃する。だから、取る方法は一つ。自分も攻撃を止めない。
 “メアリには後で謝りますわ!”
 目の前にいる《第一特務》を蹴り上げ、勝家に叩き込んだ。

 勝家は笑った。呼吸が乱れるため、表に出さず、心で笑った。 ・・・やりやがった。
 自分も以前、小物を盾にしたことがあるが、これはちょっと違う。これは面白い。これは結構いいので、今度自分もやろう。
 忍者が右腕から脇に掛けて、激突してきた。意外に重いのは、この忍者自体、銀狼の動きを悟り、当たりに来たからだ。面白い連中だ。《瓶割》を相手に向けるため、手首を回していたため、肘から先の動きが乱れた。
 “仕方ねえ! 褒美をくれてやらあ!!”
 割砕の力が、右正面から前に出ようとしていた自分に、カウンターで激突した。

 ミトツダイラは、右の《銀鎖》二本を割砕の爆発に対するガードに変更。左の二本を放つが、一本は勝家の右肩に弾かれた。もう一本が、割砕をガードするためだろう。左手に持つ脇差に弾き切られた。同時に割り砕きの力が、至近で爆発する。流体光の飛散を含んだ圧のある風の、その端の部分が、勝家を直撃した。
 ガードした左肩が裂け、左腕にひびのような断裂が走る。ミトツダイラは左手の長剣を手首からのスナップで高速投射した。狙いは右脇腹。しかし、強風の中で勝家が動く。前に出していた《瓶割》を戻すように、ガードの右肘を下ろす。ゆえにミトツダイラは追い打ちの、右の長剣を突出し、先行する長剣の柄頭を押し込んだ。
 だが、勝家の肘の打ち下ろしも加速した。《瓶割》のホールドを緩めて、肘を軽くしたのだ。放った二連の長剣が打ち落とされる。同時に、地面から跳ね上がったものがある。それは、ミトツダイラをして、地面にしか見えなかったもの。《第一特務》の二度目の《代わり身の術》。隠形として、地面に己を見せかけた彼は《王賜剣一型》を月を描くように全身で振り切り、勝家の右肩を下から切り落とした。

 ・・・成した! 点蔵は極度の緊張状態から、崩れそうになる全身を前に出した。視界の隅に、勝家の右腕が宙に飛んだ。肩周辺の筋肉は、上から覆い被さるようについているが、脇はその接合が弱く、隙間が多い。だが、真下から狙える機会はほとんど無い。
 ミトツダイラが重連の攻撃を叩き込む事で、勝家をガード姿勢に誘導した。忍者として、この全身を晒す一撃は、暗殺術として捨て身の一撃だ。しかし
 “《第一特務》!”
 点蔵はミトツダイラの声を聞いた。勝家が巨大な武器を振り上げている。無事な左手で掴むもの。それは
 “・・・右腕!?”
 鬼が、断ち落とされた己の右腕を掴み、振り抜いていた。
 鎖が砕ける音と共に、ミトツダイラが吹っ飛ばされ、そしてこちらに、左腕の握った右腕の持つ《瓶割》が、槍を振る軌跡でぶち込まれた。

 点蔵は、斬撃によって前に投げ出していた身体を動かせない。ガードも出来ない。もう一本の《王賜剣》はメアリ殿の守護に回っているので、こちらには来ない。いかん、これまでの人生、死亡フラグを重ねすぎたか。ここで死ねば、メアリ殿を泣かす事になろう。死ぬ前に遺言で、動画は全て処分しておくように告げていくべきで御座ろうか。コレ、死ぬ直前の現実逃避で御座ろうか。
 “死ね、忍者・・・!”
 そう言われましてもと思いつつ、点蔵は前に振り抜いた《王賜剣》を引いた。手元に引きつけるのではなく、そちらに己の身を持っていくために。

 ● 画:忍者逝った―――!
 不穏な叫びを通神から聞きつつ、砕かれた《銀鎖》と、それでも消し切れなかった衝撃の中で、ミトツダイラは一条の光が、勝家の《瓶割》を弾き逸らしたのを見た。
 ・・・流体砲撃!? ミトツダイラは発射地点を確認するが、そこには誰もいない。このタイミングと攻撃、移動の隠密性。ミトツダイラは知っている。脇に感ずる鈍痛は、肋骨が折れた証拠。その痛みの向こうにいたのは
 “「女王の盾符(トランプ)」の2、―――F・ウォルシンガム!?”

 点蔵は身を前に起こすのではなく、這うように行った。逸れて上がった《瓶割》の切っ先が右背を斜め一直線に走る。背骨を断たれないよう、身を捻ったのは忍者としての勘だ。
 “動画消去――!” 生き残ったら何をするか叫びつつ、点蔵は地面を転がり、《王賜剣》を抱きながらミトツダイラの方へ退避を行う。そして、点蔵もウォルシンガムを見た。
―――何故ここに「英国」が? そう思った瞬間、背後から縛めず、ただ身を寄せてくるものがある。
“やっぱり、・・・急いで連れてきて頂いて、幸いでした。点蔵様”
頭上を二つの速度が突っ走っていく。南側、柴田艦隊への牽制に行く、白と黒の魔女(テクノヘクセン)だ。「ノヴゴロド」の防護障壁が消えたので魔女達がメアリを連れて来たのだろう。そして、「英国」がここに居るのは・・・。「上越露西亜」と「英国」は友好国だ。そして、「英国」の後継者の保護。それを予測したエリザベスが、先に「女王の盾符」を派遣していたに違いない。
確かに、この戦闘間際でも「ノヴゴロド」から退出しない艦が二国分あったと聞く。一つは「阿蘭陀」。ならば、もう一つは「英国」。それは、メアリがここに来ることを条件とし、介入するという事か。

 屋根上に立つ、重力可動式の自動人形。ウォルシンガムが双の十字剣を重ねて柄を通した槍は、流体砲となる。その十字砲から直線を描く一撃が飛ぶ。自動人形が勝家に放った砲撃が、間に立ち塞がった流体の白骨の並びに命中し、減衰していく。
 “すまないけど、ちょっと待って貰おうか。今回は転機の大盤振る舞いだ。この狭い町並み限定で、一気に五万、行ってみようか”
 利家が言うなり、町が白に染まった。

 “メアリ殿、服に血がつくで御座るよ!?” 退避のために、彼女には一度離れて貰いたい。その為に点蔵は言う。だが
 “構いません。今、治療中ですから。それに、・・・傷跡は残しませんので。あの、点蔵様? 前に一歩出て頂けますか?” 
 意味は解らないが、身を剥すという事だろうか? 点蔵が一歩進むと、メアリがついてきた。離れない。どういう事かと思う視界の中、白骨の群が迫ってくる。殺到と言う言葉を点蔵は思った。そして、あるものを見た。
 一歩離れた事で、自分達の影が、並ぶ家の門壁に立っている。夜灯りに照らされて生まれた青黒い影が、ふと動いた。
 “まさか・・・” 一人の侍が、影の中から現出した。
 “「女王の盾符」の1、―――ウォルター・ローリー殿か!”
 長い前髪、高く結った髪、肩などに提げた重力刀、右肩に担う大重力刀。その持ち主は、こちらに無言で一礼すると、周囲の全てを薙ぎ払い、戦場に飛び込んだ。

 「ノヴゴロド」の西の貿易港から、一隻の大型輸送艦が出港する。外側を覆っていた外殻、木材の張られた姿が不意に緩み、布として下に落ちる。代わりに、鋭角な形の帆が上がった。
 “《海賊女王》グレイス・オマリ、―――キャベンディッシュ艦にて出航するよ!”
 高速型のクレイヤー。上方に広がる鋭角帆の内側から、一度陽炎が噴いた。艦首側のブリッジにいるオマリは、後方の操艦クレイドルに浸る人魚に振り向く。
 “キャベンディッシュ、「武蔵」からの特殊武装は搭載出来たのかい?”
 “Tes.シェイクスピアも搭乗しました。「ノヴゴロド」解放に向かって下さい”
 オマリが息を吸って術式舵輪を掴むと、咎めるように南から砲撃が来た。オマリは飛来する砲弾に目をくれると、声を放った。
 “行くよ、どいつもこいつも!《妖精女王》の友好国を救いに行くんだ!!”
 
「第八十八章 逆転劇場の支配人」
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空に砲撃が音を立て、市街では足音と激突の音が響き出した。利家の霊体戦士団を見ながら、勝家は舌打ちした。切断された右肩は、力を込めっぱなしだ。そうする事で筋肉が締まり、止血となる。
 しかしまあ、切断とはな。今まで、打撃を受けたり、血ダルマになった事はあるが、欠損は初めてだ。自分の油断と、相手の組立の結果だ。この結果を拾った相手にとっては「御褒美」でも、自分としては「残念」でしかない。
 右に並んだ成政が、馬鹿が調子に乗って腕切られたから笑いに来たと言う。己の右腕で己の肩を叩きながら、合成死体の戦士団を見る。「ノヴゴロド」市庁舎の守りについていた精鋭が、表に出て来たのだろう。恐らく羽柴の《十本槍》が市庁舎に向かっている筈だ。ならば、俺達は陽動として動くか。
 “「創世計画」もヤツらの世代のものとなるネタだしな”
 そうスね、と成政が頷く。前から来る敵の波を見る。前後に、およそ三千ずつ。勝家は右腕を前に振り抜いた。飛来した流体砲の光を《瓶割》で砕いた向こう、通りの左壁上にいるのは、「英国」の番犬、ウゥルシンガムだ。

 成政の視界の中、ウォルシンガムが通りを流れて突っ込んでくる合成死体戦士団に飛び込んでいった。
 “千本薔薇十字(War of the Roses)”
 番犬は空中で携えた十字槍から、無数の両刃ナイフを宙に放った。そして彼女自身が死体の群に沈み、ナイフも全て、突撃の陰に隠れた。隣の勝家が仰け反り、笑う。
“いいねえ、暗殺仕様! 今度、「P.A.Oda」のアサシン部隊の参考にさせようぜ”
“敵が来てんの見ろー!” 叫んで指差す先に風が来る。重力刀の刃だ。
 “―――山中・幸盛! 一時期なりと「P.A.Oda」の手を借りて御家再興を狙った事、後悔しているか?”
 「英国」制服を着崩して動く侍は、成政に答えず、ゆるりと歩みを作り、鋭い一刀を放って来た。

 戦闘の流れが混沌としつつある事を、ナイトは感じていた。ナルゼと二人で「英国」のキャベンディッシュ艦と連携し、柴田艦隊への射撃を行ってきたが、ナイトは「ノヴゴロド」の動きを見逃さない。
 “・・・こりゃあ、ちょっとやられてるかなあ”
 全体の動きとしては、表向き、こちらに傾きつつあるが
 ● 画:前田の白骨戦士団が更に湧いて来てるわね。それも外縁側に
 御 毬:おい、帆の上停まるな、高圧時は余波があるから吹っ飛ぶぞ。とりあえず、白骨共を一掃する手段はあるから、やってみっか。―――キャベンディッシュ! 用意は出来てんだろ?!
 キャベンディッシュ艦の左右舷で音が鳴った。艦首部の垂直投下ランチャーがコッキングした音だ。
 琴人魚:「武蔵」の産業委員の方々、危険な空域の輸送、有難う御座います。―――キャベンディッシュ艦、新型投下弾を「ノヴゴロド」に対し、使用します

 空に弧が走った。キャベンディッシュ艦からの直上型射出煙は三十二。一度天に上がってから、誘導術式の表示枠(サインフレーム)を先端で貫き、高速の一直線で夜を落ちていく。「ノヴゴロド」市街の三十二方向の端で、確かに突き立つものがある。
 琴人魚:―――着弾確認。「武蔵」IZUMO謹製、竹槍投下弾三十二本。全弾誤差二十cm以内で着弾! これより、対霊広域武装を展開します!

 不破は戦場の中でそれを見た。「ノヴゴロド」内部を囲むように突き立った二十m程の竹柱が、その全節を開放した。直後、戦場に大規模な破壊が起きた。利家の白骨達が、竹柱の周辺から広がるように、高速に散っていく。それも、両腕を広げ、歓喜の状態での成仏だ。
 “なにこの広範囲成仏攻撃!? 化学系の広範囲武装!?”
 だが、不破は敵の攻撃の正体に気付いた。匂い。鼻に通るその香りは
 “カレー?!”

 83 :カレーの匂いをクンカクンカしただけで昇天確実ですネー
 不退転:え? どういう事? 何が起きてるかよく解んないんだけど・・・
 ウキー:フ、まだまだだな成実。このくらいで動じていては「武蔵」では生きていけんぞ
 副会長:コレ考えたの誰だ!? 露西亜でカレーぶちまけるなよ!
 未熟者:フ、常識を超えたところに闇の中に光るような血色の勝利があるんだよ・・・
 副会長:お前かあ――!!

 ミトツダイラと点蔵は、「ノヴゴロド」北東の建物の陰でメアリの治療を受けつつ、白骨戦士団の大量成仏を見ていた。鼻にやたらとカレーの匂いが来るのは如何ともし難いが。だが、《第一特務》の話では、この対霊攻撃のカレーは調合方法が謎で、ハッサンにしか作れないらしい。何が入っているのだろう?
 夏服のインナースーツの胸をはだけた状態で、左胸の下側に痣になりかけた赤い腫れがある。骨折した場所にメアリが唇を寄せ、反対側の背中、肩甲骨の下側に手を添える。
 “背の方から押して吸いますから”、“吸う?”
 痛みのある部分から、何かが抜けていくのが解った。しばらくして唇を外したメアリが、スカートのポケットから薬草と符を編んだものを重ねる。それで口を拭い、口内にあるものを舌先で添える。
 もう大丈夫だと言うので、左腕を動かし、脇を締めてみるが痛みは無い。軽さを感じるのは、ナイトの痛覚減衰とは違う。
 “肋骨自体は一応固定していますが、折れている事に変わりはないので、あまり無茶しないで下さいね。流体を蔦のように絡めるんです。舌でチェリーの蔕を結んで訓練するんですよ”
 ほう、と《第一特務》を見ると、既に視線を逸らされている。
 あずま:そんな風に器用な事が出来るのが、いやらしい事になるの? どうして?
 金マル:・・・ガっちゃん、ガっちゃん、戦闘機動中に鼻血ヤバいって
 皆元気で何よりだ。しかし、ミトツダイラの視界の中。「ノヴゴロド」の各地から四角い檻を作るような、流体光の箱が立ち上がった。いきなり建ったそれは、急速に拡大していく。術式としては旧派(カトリック)型の両面防御型結界だ。そうすると、「武蔵」や「上越露西亜」のものではない。「M.H.R.R」が脱出不可能な両面型結界で、成仏しつつある白骨戦士団を囲ったのか? まさか・・・
 ミトツダイラが、何が起きるか気づいた瞬間、朱色の爆炎が結界内に発生した。

 前田・利家が上陸時に準備していた小麦粉の粉塵と、術式火薬が結界内でぶちまけられた。一瞬で粉塵に満ちた大気を火が突っ走り、閉鎖空間内に真空と衝撃波を生む。霊体の戦士団と共に、合成死体の戦士団も、火と風の直撃を受けた。そして結界が解けた後に残るのは、砕けた霊体白骨から上位転化した大猿型、大型骨格型の戦士団だ。その屹立を支え、押し上げるように利家の声が響く。
 “どうだ? 前回の反省を生かした戦術は! 僕は今、神の味覚に勝利したよ! カレーの恐怖を克服した! ああ、涙が流ている! 香辛料がチョイしみてる!” 

 未熟者:保身のために先に言っておくけど、常識を超えたところに勝利があるというのは、敵にとっても同じだからね?!
 83 :カレーを粗末にする輩は許せませんネー
 約全員:お前だ――!
 煙草女:つーかスマンさ! こっち、さっきいた武神の分身みたいなの相手にしてるから、トーリ達の援護に回れない!――誰か早く、フォローに回ってくれさ!

 点蔵は直政の言葉に頷き、風の動きを読んだ。ウルキアガと成実が、既にトーリ達の警護に向かっているが、敵の量が量だ。「英国」勢が柴田達を引き受けているならば、自分達がトーリ達と合流し、「ノヴゴロド」の中枢、地下に行かねば。
 行きましょう、点蔵様、ミトツダイラ様、というメアリの言葉に、Jud.とミトツダイラが頷く。砕かれた《銀鎖》をオベリスクに仕舞い、残りの二本に長剣を提げさせる。と、点蔵は妙な音を聞いた。ミトツダイラが北の方を見る。トーリ達の進行方向の方だ。泣き声、震えて、長く響くもの。
 点蔵は「上越露西亜」との情報交換の際、聞いた事を思い出した。「P.A.Oda」には、泣き叫び、戦場を破壊する狂戦士の婦人がいると。それは
 “御市の方! 浅井家を単独で滅ぼすだけの戦力に御座る!”

 魔神戦士団の精鋭を連れ、「武蔵」《総長》と共に「ノヴゴロド」市庁舎に向かっていた斉藤は、敵の出現を予測していた。既に先日、「上越露西亜」国境警護の部隊や、一向一揆衆を重ねた外縁師団が、この御市の方一人に対して、壊滅的な打撃を受けている。
 だから、確実に来ると、そう思っていたが・・・、確かに来た。黒の髪の靡きが、南側の通りから白の飛沫を蹴立てて突っ走ってくる。利家の幽霊戦士団をも砕き、手にした長剣を半ば引きずるように、声は泣いていた。
“ひど・・・ぃ・・い”
と。何が酷いと言うのか。その斬撃は、一つの答えを見せていた。
 仲間であろうと、もはや切断する対象でしかない御市は、すれ違う存在の右腕のみを断っていた。これは勝家の意趣返しだ。先程連絡があったが、「武蔵」の《第一特務》と《第五特務》が、戦闘の結果、勝家の右腕を根元から断ち切ったらしい。その結果がこれだ。
 “どうするのよ・・・? もし、勝家さんの右腕、満足に繋がらなかったら、勝家さん、・・・私の事、殺せないじゃないのよ”
 女は泣いた。肩を上下させ、動こうとした。直後、御市の左胸に穴が開いた。穿たれ、膨らむように広がった穴は、銃撃によるものだった。

 斉藤の目は、御市に与えた致命の一撃を確認した。こちらの背後、三十人ほどの後ろから、全員の身体の隙間を穿って行った狙撃だ。御市の身体が揺れ、衝撃に全身の筋肉が震える。今なら首を取れると、斉藤が一歩前に出るが、すぐ、足を止めた。
 御市の身は、顔は俯き、腕も脚も力無くなっているが、空中に穿たれ縫い止められたように吊られている。そして、―――傷が修復していく。回復ではない。散った血が戻り、裂けた血管が結ばれ、紡がれ、肉が閉じていく。ゆっくりと身体が起きた。直後に銃撃が三発入った。しかし、御市は身体を修復して立ち上がる。
 背後で誰かが、再生能力か、と言った。違う、と斉藤は思った。何故なら御市の背から頭上に浮き上がってくるものがある。銀色の羽根を編んだような輪。月桂冠とも、天使の輪とも見えるものは、斉藤クラスの人間ならば、「聖連」の情報で知っているもの。
 “「K.P.A.Itaria」の「聖譜顕装(テスタメント・アルマ)」《天渡りの信仰・旧代(カプトファイデス・ウェストス)》か・・・! だが、「聖譜顕装」は所有国内でしか使えないものでは無かったのか!?”

 “「聖譜顕装」《天渡りの信仰・旧代》、―――展開、開始しています”
 「ノヴゴロド」南の門内側にて、不破は表示枠(インシャコトプ)の操作を行いながら、現状を確認した。オリンピアから貸し出された「K.P.A.Itaria」の「聖譜顕装」の一つを、技術者たちと研究を行なった。
 「聖譜顕装」の駆動は、所有国の「聖譜」から伝わる流体によって行われる。初めは「P.A.Oda」の有する「第六顕装:勇気(フォーティチュード)」による駆動を試したが果たせず、「K.P.A.Itaria」の「第一顕装:信仰(ファイデス)」の流体パターンをコピーし、「K.P.A.Itaria」からこちらまでの要所に流体経路となる要石を打ち込み、三割減衰で流体を繋いでいる。
 出力は足りないが、効果は充分なようだ。「聖譜顕装」《天渡りの信仰・旧代》の能力は
 「信仰ある者の命を、信心に預ける事」、つまり、「信心ある限り、その者は負傷や病にて死ぬ事が無い」。
御市の信心とは、「聖譜記述」に書かれてある「柴田・勝家の手に掛かって死ぬ」事。つまり、「聖譜」に殉死するような信仰だ。だから、御市は死ぬ事は無く、傷一つもつかない。

 斉藤は、御市が頭上の天輪に照らされながら立ち上がるのを見る。負傷が、衣装ごと修復されている。彼女は左手に握っていたものを宙に放った。魔神族の突撃部隊。その一人の右腕だった。自分の身体ほどもある一本を宙に放り、両の足を肩幅に開き、前傾姿勢でこちらに出ようとしている。恐らく、その右腕が落ちた時、その影から来る・
 “是非も無し。人の戦場、鐘馗の前に、悪魔も神も全て揃い試されるか”
 全く、引退間近だというのに、覚悟ばかり決める事が多い。左右か、上か、または武器の投射か、数手先を読み、斉藤は身構えた。
 そして右腕が落ちてくる。と、不意に
 “おいおい、粗末に扱っちゃいけねえ!”
 横手からいきなり飛び込んで来た影が、落ちていく右腕を空中で拾った。 
 ・・・は?  「武蔵」の《総長》だった。

 馬鹿はキャッチした右腕の重みに引っ張られ、しかし地面にはつけまいとして振り回す。斜め軌道で不安定に回転し、何とか止まった馬鹿はこちらを見て、両の腕で魔神の右腕を掲げる。
“これ誰のだー? おれも経験あるけど、傷跡残ったりで面倒だから、持ち主いたら手ー上げろー“
 気楽な言葉に、御市から退避してきた一人が三本となった腕の左上側の一本を上げる。負傷した彼は、窺うようにこちらを見るが、馬鹿は構わず笑みで頷き、右腕を担いで来る。
 近づく彼の背後。斉藤は御市を見た。御市は、いた。だが、突然の事に動きを止めている。・・・これは。「機」を失ったのだ。馬鹿の乱入が、戦場の構図を横切り、間は外したが故に、・・・戦いに泣く女が、拍子を外された。一歩でも踏み込んでいたら、勢いで行けたかもしれないが、契機とすべき右腕が横から攫われた。
 だから、と言うように御市が顔を上げる。涙の顔を、前に向ける。斉藤は息を詰めた。情報によれば、彼女は戦闘中、動きを止めないという。動きを柴田に捉えられ、止められた時、正気に戻ると。
 馬鹿のやった事は違う。彼女が動く前に起点を止めたのだ。己は《鐘馗》と呼ばれる身で、経験によって戦闘の先を読む事が出来る。だが・・・、戦闘を戦わずして止める事は。
 今、泣き声は正気に戻った。そして、馬鹿は御市に振り向き、こう言った。
 “早く帰ってやれよ。旦那、治療してやっとけ”

 御市は無言だった。泣き顔を、こぼれる涙を止める気も無い。
 “不安、あんのか”
 問われても、御市は無言だった。しかし、馬鹿がセリフを重ねてきた。
 “何か怖い事、あんのか?”
 “だって・・・、勝家さん、腕、元通りは無理よ”
 御市は言葉をしゃくり上げながら言う。すると馬鹿が肩をすくめた。
 “オメエの旦那は、俺と違って頑丈っぽいから大丈夫だろうよ。---だけどよ、旦那に殺されるとか、そういう事のために治すのなら、ちょっと考えとけ。いつでも殺される準備があるのなら、死ぬまで安心して生きろよ”
 馬鹿が、負傷の仲間に右腕を渡しながら、言葉を生み続ける。
 “アンタ、いい人だ絶対。―――自分が殺されたいって言い訳で、アンタ、旦那の身体を心配してる。旦那も同じだろ? アンタを殺さなければ、って言い訳で、ずっと一緒にいる。ずっと一緒にいてやれよ。それでも不安だってなら、まあ、当座は相手が俺達だからな。アンタのストレス解消に付き合ってやるよ”

 待った、と声が生まれた。斉藤は馬鹿に声を掛けた。
 “今、誰が彼女の相手をすると?! まさか貴様か?!!”
 “いや、俺一人じゃねえし、呼べば誰か来るよ”
 と馬鹿が手を二度叩いた。
 “おうい” 手の音が響いて、しかし、無反応だった。

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第461回 アクセルワールド(6)

Posted by ヒッター7777 on   0 comments   0 trackback

川原礫「アクセル・ワールド14―激光の大天使―」

 表紙はパドさん。ネタバレ嫌いな人は読まないように。
アクセル・ワールド14 ―激光の大天使―

 大天使メタトロン攻略編改め、ISSキット編と改名されたパート(アニメなら第3期だな)。
 本巻では終わりませんでした(笑) ラストに《続く》の文字が・・・

 「移動要塞(モービル・フォートレス)」強化外装《ドレッドノート》を動かす《赤の王》スカーレット・レイン。
 かつて囚われた《帝城》の中で、シルバー・クロウが、《緋色弾頭(テスタロッサ)》アーダー・メイデンに紹介したかった、ともに”赤”を象徴する少女。
 彼女の移動要塞にはある弱点が存在した。ブレーキが付いていなかったのである!

 シアン・パイルすごいぞ! しっかり笑いをとったね!!

 対超級エネミー《セイリュウ》戦。。
 ブラック・ロータスの≪ヴォーパル・ストライク≫って《奪命撃》って書くんだっけか。前に読んで気がするが忘れてたな。《スザク》戦の時だったかな?
 十六連撃《スターバースト・ストリーム≫は《星光連流撃》だった。

 なるほど、「強化外装が攻撃を受け止めている間は、所有者の体力ゲージは減らない」ですか。
 強化外装は攻撃よりも、防御のためにあるんですね。

 《矛盾存在(アノマリー)》グラファイト・エッジはやはりバ、無鉄砲だったらしい。バ、お調子者のグラファイト・エッジさんも早く復帰して欲しいものだ。

 アクア・カレントはブラッド・レパードの”親”であり、リアルの従姉であった。

 スカイ・レイカーさんの旧東京タワーの天辺のお家は、「楓風庵(ふうふうあん)」というのですか。典雅な名前ですねえ。
 レイカーさん! 《鉄拳》アイアン・バウンドさんになんて事したんですか・・・、拳ちゃんって・・・

 パドさん。《壁面走行アビリティ》は「ヘルメス・コード縦走レース」で使ってませんでしたか?
 通常アビリティ設定ですか?

 対《大天使メタトロン》戦・・・の前哨戦。
 マゼンダ・シザーと13人のISSキット寄生者たちが、メタトロン攻勢化ラインの手前に立ち塞がる。
 マゼンダの理想とは別に、ISSキットが集める悪意は、《災禍の鎧マークⅡ》を創るためのものなのか?
 初代《赤の王》のアビリティ《銃器創造(アームズ・クリエイション)》を利用した、「強化外装を作る強化外装」は存在するのか?
 《黒の王》以下9人vsISSキット寄生者14名の集団《心意技》戦が始まる。

 対《大天使メタトロン》戦。
 ついに地上に降りた神獣(レジェンド)級エネミー《大天使メタトロン》。
 極太即死レーザー《トリスアギオン》。太陽光を吸収し、無制限持続発射可能の反則技なレーザー攻撃にシルバー・クロウの《光学誘導(オプティカル・コンダクション)》は通用するのか?
 そして戦いのさなか、シルバー・クロウに語りかけてきた謎の声の正体は?

 急襲するアルゴン・アレイとブラック・バイス。倒されるアーダー・メイデン。連れ去られるスカーレット・レイン。
 今、シルバー・クロウに新たな二つ目の”翼”が開く。
 本来の金属翼の上部に、さらにもう一対の翼が形成される。
 刃のように薄く、しかし恐るべき力を秘めた「大天使の翼」。
 時間の壁をも貫く、新・強化外装《メタトロン・ウィング》(AN ENHANCED ARMAMENT : METATRON WINGS)である。
 ・・・続く。

 おまけ
 ブラッド・レパードさんの本名は掛居美早(ミャア)さんでしたか。リアルで豹の子供を飼ってるんですか!
---------------------------
 SAOの14巻は「アリシゼーション・ディバイディング」に決定だそうですが、本巻の予告を読むと、おおっ!? この展開はWeb版にあったっけ? というシーンが書かれてました。
 銀髪全裸美少女アドミニストレータのお色気に屈してしまったのかユージオ! (文庫版じゃ服着てるだろうな)
 どうやら、Web版既読者も楽しませてくれそうです(^^
SAO14

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第460回 第零話 虚刀・鑢(三)

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「刀語(カタナガタリ)」 第零話 虚刀・鑢

 本伝の20年前を語る全十二章の物語

 第九章「汽口 慚愧」 朗読:伊藤静(汽口 慚愧)
第九章

 天童将棋村に道場を構える「心王一鞘流」。活人剣を標目するこの流派は、大乱の部外者であった筈だった。
 だが、たった一度だけ、大乱の「英雄」と「部外者」が交わった事があった。
 「心王一鞘流」当主、十一代目・汽口 慚愧。
 平和主義者で非戦主義者を、どうやって飛騨鷹比等は引っ張り出したのか。
 悪魔の囁きによって接点がで出来、活人剣と殺人剣の殺し合いが始まる。

 青白い肌の女、鑢六枝の道を塞いだ枯れ枝のような老人。
 笑みを浮かべる七十を超えた老人に、六枝は圧倒されていた。
 錆黒鍵の方がまだマシだ。その腰にあるのは木刀なのに。
 どうした、若いの。通らんのか、と挑発する老人。
 ただ立っているだけの老人に、鑢六枝は切り込んだ。
 六人全員で。
 「虚刀流・蒲公英(たんぽぽ)!」
 「虚刀流・鬼百合(おにゆり)!」
 「虚刀流・雛罌粟(ひなげし)!」
 「虚刀流・銀杏(いちょう)!」
 「虚刀流・山茶花(さざんか)!」
 「虚刀流・蓮華草(れんげそう)!」
 縦横無尽、天地無用、六方から六向に、さながら居合抜きのように切り込んだ。

 温いのう、老人が笑った時、その木刀の一閃で鑢六枝は吹き飛んだ。
 老人は一歩も動いていない。
 無様に着地した六枝は、虚刀流・七の構え、杜若をとった。
 何故、飛騨鷹比等の味方につく。大乱の大元を作った虐殺者だ、と六枝は問う。
 残念ながら、虐殺の原因、大元の意味を問うような、意味の無い事はしない、と慚愧は答えた。
 私達は剣士であろう。ならば剣で語るのみ、と腰の木刀に手をやる。
 このまま対峙を続けるつもりのようだ。
 目的はあの真庭毒組の三人や、否定的な童女と同じ、時間稼ぎか。

 二人が対峙を続けている時。飛騨鷹比等は「迷宮城」を抜け出し、ある人物の元へ向かっていた。
 「誠刀・銓」の所有者、彼我木 輪廻のところへである。


 第十章「彼我木 輪廻」 朗読:伊藤みやこ(彼我木 輪廻)
第十章

 全身傷だらけのいけ好かないひょろっちょろい仙人・彼我木輪廻と向かい合っているのは、飛騨鷹比等だった。
 人の苦手意識を映し出す鏡のような存在、彼我木輪廻。
 その姿を見る限り、飛騨鷹比等は自分自身が苦手なのか。
 悟りを開き、この世に怖いものなどないと言う輪廻に、鷹比等は、自分達がいるのがこの世なのか、と言う。
 興味を持った輪廻に、鷹比等はこの世は違和感に満ちていると言う。なんか、嘘くさいと言うか虚構じみている。
 例えば、あなたという仙人の存在。例えば、無刀なのにあらゆる剣術を凌駕する虚刀流。
 筋が通っていない。まるで、誰かが書いた物語の筋のようだ。
 そんな誇大妄想のような発案を、何時から思っていたのか、と輪廻は問う。
 物心ついた頃から、すでに違和感を感じていたと鷹比等は答えた。
 何故、誰も何も考えずにいられるのか、世界の全てに文句をつけたくてしょうがなかった。
 作り物のような世間、台本のような世間。そんな世間から自分ははみ出したかった。
 そんな鷹比等に、台本を書いた人物に心当たりがあると輪廻は言う。
 鷹比等もわざとらしく、虚刀流の名を出したのは心当たりがあったからだ。
 伝説の刀鍛冶、四季崎記紀とその一族の影がある。
 だから、この世に彼我木輪廻も飛騨鷹比等が現れたのだ。
 鷹比等は問う。輪廻はともかく、自分にも影響があるのかと。
 なぜならば、「迷宮城」の地下に埋められた「誠刀・銓」が、飛騨鷹比等という個性を生み出したからだ、と輪廻は言う。
 そして、全ては四季崎記紀の台本の上なのか。
 飛騨鷹比等が大乱を起こしたのも、筋書きの上なのか。

 鷹比等は輪廻に問うた。
 あなたは本当はもっと多くの事を知っていながら、僕に隠しているだけ。都合のいい部分だけを開示しているんだろう?
 輪廻は答えた。
 その読みは正しい。だが、正しいだけで、その指摘だけで、ボクがその情報を開示することはない。だって、今、ボクはキミなのだから。

 話を戻そう。何故、四季崎記紀とその一族は、僕にそんな役割を与えたのだろう。
 歴史上最大の恥さらしとして、大乱の失敗者としての役割を。
 この大乱の成功は未来に繋がっていない。
 敵は尾張幕府や家鳴将軍家ではない。本当の敵は四季崎記紀、いや、鑢六枝なのだろう。
 鷹比等は六枝を味方につけたかった。それが出来なかったのは、やはり砌のせいだろう。あれは時代の徒花だ。
 だから自分は大乱を起こした。成功しても意味はない。未来や歴史は幻想だ。自由なんてものは存在しない幻想だ。

 そんなことを考えるキミだから、「歴史の修正装置」としての役割を与えられたのかもしれないな、と輪廻は言った。
 仙人はそう思っただけ。なんの信ぴょう性もない、と前置きして輪廻は告げる。
 歴史の台本を書いた作者が、何のために飛騨鷹比等に大乱を起こさせたのか。
 歴史の流れが予想だにしない方向へ流れてしまった時、その方向を修正させるために置かれた、意図的な分水嶺。
 旧将軍のあたりで、恐らくすれ違いが起きた。この大乱はその修正のためだろう。

 何故、飛騨鷹比等は彼我木輪廻に会いに来たのか。
 その本当の目的は?
 この時、飛騨鷹比等は二十年後の未来のために伏線を張った。
 歴史の作者の意図するところではなく、いわゆる登場人物が勝手に動いたのだ。
 彼を知る誰もが想像しなかった行為。これが後の歴史を大きく変える事になる。
 飛騨鷹比等による、歴史に対する最後の革命。この時を境に反乱軍の勢いは衰えていく。

 そして遂に決着の時は訪れる。


 第十一章「飛騨ゆる/首」 朗読:置鮎龍太郎(真庭鳳凰)
第十一章

 鑢六枝の「迷宮城」襲撃と飛騨鷹比等の暗殺は、唐突に起こったものではなかった。
 その日、飛騨鷹比等は自分に起こる事を理解していた。
 天守閣でひとり、徳利を傾けていた鷹比等の、死にたくないなあ、殺されたくないなあと独り言に、口を挟んできたのは妻のゆるだった。
 鷹比等の徳利を奪い取り、そのまま口に運ぶ。
 逃げないんですか? と問うゆるに、反逆者としての僕が死ぬ事で、この物語が終わるから。いや、始まるからさ、と答える。
 せっかくの機会だったのになあ、とやり残した事があるように言う。
 台本通りに演じたつもりだが、大根役者なので作家の思惑通りに動けなかったかも。容赦姫にも、その大根ぶりが受け継がれてるだろうか。、
 鷹比等はゆるに問う。
 お前は逃げないのか。容赦姫と砌を連れて、と。
 その答えは明白だった。自分も容赦姫も、鷹比等と共にいると言う。
 では、最後に容赦姫と話でもするか、と腰を浮かしかけた時、城の外から大きな音が聞こえた。いや、既に城の中に侵入している。
 「来たか、六枝くん。相変わらず無粋な男だよ」
 嬉しそうに言う鷹比等の顔を、ゆるもまた嬉しそうに見ていた。

 鑢六枝は、かなり長期にわたり汽口慚愧に足止めをされたが、結局、六枝はその場を引き、天堂どころか出羽を大きく迂回し、予定より数ヶ月遅れで「迷宮城」に辿り着いた。
 城門で待ち構えていたのは、錆黒鍵や汽口慚愧に匹敵するような、真庭忍軍の棟梁格、”首”。
 ”右腕”は鑢砌の見張りをしていると言う。
 この場で”首”を倒せば、そのまま、飛騨鷹比等の元へ六枝は行くだろう。それが刀というものだ。
 鷹比等を殺せば、砌の未来はない。
 
 鑢六枝。たった一人の城攻めが始まった。


 第十二章(最終章) 朗読:細谷住正(鑢七花)
第十二章

 燃えている。赤々と、メラメラと燃え盛り、燃え尽きていく。
 飛騨鷹比等の「飛騨城」、いや「迷宮城」が。
 大乱は終わり、これからも尾張幕府家鳴将軍の世が続いていくのだ。
 だが、まだ終わっていないものがある。
 無刀の剣士、虚刀流当主・鑢六枝と大乱の首謀者・飛騨鷹比等の末後の会話が、まだ終わっていない。

 「やあ、やっぱり、僕を殺しに来たのは君っだったかい。六枝くん」
 燃え盛る天守閣で、鷹比等は言った。それに対し”僕”は言った。
 「意地を張るんのも大概にしな、大将。まるで、待ち兼ねていたみたいだな」
 「城門を守っていた”首”はどうした?」
 「切ったよ、この”あたし”が。無残に、六斬にね。お前が参謀扱いしていただけあって、よく戦ったがな。」
 六人の六枝は次々と万華鏡のように入れ替わりながら、対話を重ねる。
 鷹比等は楽しげに続ける。既に呼吸も困難なほど、火が回っていた。
 鷹比等は六通りの自分を実現する六枝を、羨むように言う。
 全ての可能性を実現する「六刀流」は悪魔の技だ、確率の悪魔だ。
 千通りの戦術から最善の一手を選ぶのが鷹比等なら、千通りの剣術を千通り選ぶのが六枝だ。
 鷹比等はただ笑った。笑うだけだった。彼がこれまで犠牲にした者たちへ、これから犠牲にする者たちへ、そして家族に恥じないように笑うだけだ。
 鷹比等は六枝に殺されるしか無いし、六枝は鷹比等を殺すしか無い。
 どれだけの可能性を実現しようと、六枝は誰よりも歴史に縛られている。いや虚刀流が縛られている。
 それを六枝の娘や息子に引き継がせるな、と鷹比等は言った。それは十字架を背負うとい事だ。
 六枝は言った。六人の声が重なる。
 「「「「「「あいつらは、人間として育てる。お前を切って、天下泰平な世の中でな 」」」」」」

 それは無理だと、鷹比等は解っていた。
 もう鷹比等は立ち上がる気もない。
 鷹比等は自分の娘に、六枝と同じことを願いながら、それも無理なことが解っていた。
 鑢六枝は踏み切った。唯一、終わっていなかった二人の関係が、これで終わった。
 「虚刀流・鏡花水月!」
 「虚刀流・花鳥風月!」
 「虚刀流・百花繚乱!」
 「虚刀流・柳緑花紅!」
 「虚刀流・飛花落葉!」
 「虚刀流・錦上添花!」
 「「「「「「虚刀流・落花狼藉!」」」」」」
 無抵抗の飛騨鷹比等に、一本の日本刀である矜持であるかのように、鑢六枝は、躊躇なく七大奥義を七つ同時に繰り出した
 「容赦姫!」と飛騨鷹比等は叫んだ。
 「僕はこれで途中退場だ。だがこれだけは忘れないでくれ。僕は君の事が大好きだった」
 娘に対する愛の言葉が、飛騨鷹比等の最後の言葉だった。
 各してこの国に再び平和が訪れる。

 って言う話が二十年前にあったって話なんだけど~、と否定姫とかつて呼ばれた金髪碧眼の女がそう言った。
 隣で団子を貪り食っている、かつて鑢七花と呼ばれた、傷だらけの大男に笑いかけている。
 髪飾りのように被っている仮面を撫でながら、右衛門佐衛門の調査能力も大したものでしょう?、と言う。
 大乱の真実。あんたが親父や、とがめの親父に会っていたとは思わなかったよ、と大男は言った。
 ああ、あれは四季崎 記紀の一族の別の人間よ。今は私だけだけど、当時はまだ何人かいたのよね~、と女は言った。
 なんか嘘っぽいなと大男は言うが、真実など誰にも解らない。

 飛騨鷹比等を切った後、六枝は誘拐されていた妻を救出。
 ”右腕”は真庭忍軍に戻ったと言うけど、十二棟梁の一人にでもなったのか。
 鷹比等の娘のあの不愉快な女が、七花を刀に選んだのは運命だったのかねえ、と、いまは、傷だらけとなった大男を見て、女は言う。
 なんだ、やっぱり知り合いじゃねえかと大男は言った。
 その後も雑談は続いたが、二十年前の大乱の話は、二度とふたりの口の端に登ることはなかった。
  
 鑢六枝はその後、命懸けで助け出した妻を殺したという罪で、無人島に流された。
 彼の戦いはそうして終わった。
 その後、二十年の間、虚刀流は歴史の表舞台から完全に姿を消す。
 それこそが、飛騨鷹比等が大乱を起こした真の理由だと言っても、誰が信じるだろう。
 かように暗い過去は終わり、明るい未来へ繋がっていく。


 細谷さん、一人9役、お疲れ様です。

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第459回 境界線上のホライゾンⅣ(44)

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上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(下)」 Horizon on the Middle of Nowhere
Episode Ⅳ-Part 3 適当ダイジェスト⑯


承前

 掠れた老女の声が、赤い部屋に生まれた。「K.P.A.Itaria」、現インノケンティウス十世、オリンピアの部屋だ。 ”全く、貴方も行ったり来たりで大変なものねえ”
 部屋の中、用意された朱塗りのテーブルセットには、一人の男がついている。現神聖ローマ皇帝アティアスだ。彼はエプロン姿で、テーブルに乗せた鍋、乾燥牛肉の赤ワインとトマト煮の蓋を開けながら
 “傀儡だからね。行ったり来たりも観光のついでに、手紙や連絡を行っているようなものだよ” と。器とスプーンをオリンピアに差し出す。辛いわねえ、と言うオリンピアに、マティアスは、どうだ、贅沢だろう、と言った。
 “自分で最高だと思える素材を探して掻き集め、最高だと思える調理器具を探して掻き集め、そして自分の判断で調理して、出来はそこそこもしくは失敗だ。―――どうだい? 私は昔と違い、誰かから与えられた現実にはしていない。理想の味を追って行ける。これは贅沢だろう”
 “貴方、夢を見る人なのね。そして、見るだけなのね”

 さて、とマティアスは手元に表示枠(カデナフィルマ)を開いた。オリンピアは、今、現場はどの辺が面白いのかしら、と問う。そうだねえ、とマティアスは表示枠に映る「ノヴゴロド」の概要図を指差した。
 “ここで、森君という、変わった人が頑張っているようだね”

「第八十六章 足場の確認者達」
086.jpg

 森・長可は戦闘を行っていた。・・・頑張らないと・・・。今。「ノヴゴロド」の下の方では、佐久間が囮になる事で残存できた艦隊が、落下した彼女を探している。彼女が生還した時、「ノヴゴロド」を制圧していなければならない。だから森は動き、分化した自分の宿る武神と共に戦闘した。
 利家も一時期は様子を見ていたが、今は丘上に至る坂に戻って来ている。敵の「伊達」の武神が結構頑張っていて、四機は破壊したが、二機が遠距離戦のみに切り替えた。局地戦用の移動砲台として、北へ回り込んだ突撃隊の補充を援護している。大型白骨を砕かれるのが厄介だ。
 だが、自分がここに居る事で「伊達」の武神や、「上越露西亜」の術式隊も前に出る事が出来ない。こういうのを戦術的になんて言うんだっけ? 痴態行為?
 その時、左手側に大規模な着弾があった。危ない、と右にステップ回避で森は思った。当たったら危ないじゃないですか。急ぎ振り返る先、着弾によって地面が粉塵として巻上がり、夜の中を煙らせている向こう。そこに朱の色があった。
 森は半身で振り返り、叩きつけるのは左の腕。充分な旋回を入れたコークスクリューブローと、それを相手に絡め、投げとばす技だ。
 “貰った・・・!”

 丘上に至る道に立っていた利家は、有り得ないものを見た。「武蔵」の武神、「地摺朱雀」に触れた森が消えたのだ。
 は? 何が起きたのか、いきなり過ぎて、利家にも解らない。それどころか
 “・・・・?”
 当の「地摺朱雀」も、肩に乗っている《第六億務》と一緒に、慌てて左右を見渡している。分離体の武神は動いているが本体、いや、一番太い森君は何処だろうと言った途端、右横七cmに空から森が轟沈した。
 土塊を吹き飛ばして地面に激突した森は、そのまま起き上がり、身を捻らせて再び倒れ、こちらの左横三cmあたりで野太い腕を振るわせた。
 “く、くそ! 衝撃が抜けない! ひくんひくん言っちゃって、ぼ、僕、おかしい・・・!”
 “あの、森君。さっきから僕の方、結構スリルあるんだけど、いいかな?”
 言っている間に、こちらに気付いた《第六特務》と武神が身構えた。距離にして百m程向こう。森は立ち上がりながら、分離体六体を「地摺朱雀」に突撃させる。どれもこれも、全身の弾性を利用した、跳ねるような疾走と、丸太のような腕による攻撃を重ねていった。
 だが、利家は空に六つの影が舞ったのを見た。「地摺朱雀」に触れたかどうか、という動きは解ったが、なんでこんなに吹っ飛ぶんだ。思う直後、背後十五cm程の位置に分離体が撃沈した。

 直政は、よく解っていなかった。・・・どうなってんのさ、コレ。こちらは迎撃として投げている筈だが、投げた、と自分が思うより先に、この変な武神が空を飛んでいるのだ。こいつら、実はこっちの味方で、わざとやられに来てないさね?
 “どちょおおおおおおお!!”
 直政は受けて投げようとする、が、「地摺朱雀」の手が触れた途端、夜空高く回転しながら舞い上がった。
 “ぬちょおおおおおお!!”  投げるまでも無く、吹っ飛ばした。
 “ぽきいいいいいいん!!”  触れただけで吹っ飛んだ。
 いや待て。直政は額に手を当てた。今、自分と相手に起きている現象の正体は。あー、大体解ったさね。
 “ずっこおおおおおん!!” 投げ飛ばして、直政は自分の中の推論を確かめる。コイツはあたしが相手の力を利用して投げる、その方向と完全に同じ向きの力の入り方をしている。本来、あたしが投げに使用する力を、コイツ自身で賄ってるんだ。
 だが、コイツ、吹っ飛んだだけじゃダメージ薄いようさねえ・・・。
 本来やろうとしていた投げを、直政は「地摺朱雀」で放った。直後、超高速のスピンと、跳ね上がる事のない急弧を描き、敵が大地に叩きつけられた。

 “・・・!?” 森の人生にして、初の衝撃が全身を襲った。体中の血が体の表面側に集まるような高速スピン。天地が逆になるような旋回。全身が潰れるような叩きつけ。身体が弾力でバウンドする事すらない、完全なまでの叩き込みだ。
 吐き気と言うより、全身が外にぶちまけられたような衝撃が森の身体に来た。気が付くと、身が空中に倒立している。手首一つ掴まれ、振られただけで、持ち上げられたのだ。そして、森は、自分が大の字になって大地に深く食い込むことを知った。

 お前田:森君! 森君! 正直百m程逃げたけど大丈夫かい?
 モリー:あ・・・、ちょ。ちょっと、駄目、かも、です・・・。大地、あったかい・・・
 お前田:寝たら駄目だよ森君! えーと、森君が今、戦っている相手さ、「武蔵」の《第六特務》で直政って言ってね? 井伊・直政って知ってる? 森君、「小牧長久手の戦い」でその井伊・直政の手勢に狙撃されて、眉間貫かれて死ぬんだよね
 モリー:ええ!・ なんですかソレ! 僕、眉間無いですよ! 「武蔵」の《第六特務》って、噂、聞いた事ありますよ!
 どんな? と利家が聞いた質問に、森は答えた。
 モリー:話によると、煙草ぷかぷかやって、あたしとか乱暴な言葉使いで、服とかも油で汚れたままで、デカい義腕つけて、戦闘させたら半端なく強いって! そんな悪条件の塊みたいな人に、僕は殺されるんですか!!
 直後、森は持ち上げられて地面に打ち込まれた。

 叩きつけられ、呼吸も何も失うような感覚を得て、森は見た。女性型武神の肩の上、一人の女が立っている。極東夏服姿の彼女は煙草をくわえた口から煙を零している。こちらに掛けてくる乱暴な言葉使いの彼女の衣服には、油の染みや焦げ跡がある。義碗は朱色の武神の側頭部をホールドしているが、人ひとりくらいなら殴り殺せそうだ。
 森は呼吸を詰めた。彼女の黒い髪や、切れ長の目、引き締まった体躯、義腕。高い位置にある彼女は、こちらを見下していない。鋭い、敵意すらある視線は、しかし真っ直ぐこちらを向いている。
 ・・・綺麗だ。僕が望んでいたのは、こういう人だろうか。そんなことを思った瞬間
 “・・・・っ!?”
 森は鼓動が跳ね上がったのを感じた。おかしい。撃たれるのは眉間の筈だ。それも、今じゃない筈だ。それなのに何故、循環器の中心が、撃たれたように跳ねるのだろうか。この人は僕の知らなかった女性像だ。
 ひとしきり想像して悶えつつ、直政のスカートの裾をちらァしながら、森は思った。このままでは駄目だ。このままでは、僕はおかしくなってしまう。好きですと言えるほど、自分の感情に自信は無い。相手も迷惑だろう。だが、人生が掛かっている。今、戦っている彼女の心をほぐす言葉。短くて、安心させて、信頼を得る言葉。自分は触手だ。正真正銘の純血種だ。することは大体決まっている。
 “すいません! 手始めに揉ませて下さい!!”
 森は叩きつけられた。

 “もう面倒だし、こうした方が楽かねえ?” 
 え? と疑問した直後、森は宙を飛ばされていた。全ての力をもって、「ノヴゴロド」外縁から、外に落ちる軌道にぶん投げられたのだ。森の武神には飛翔器が無い。彼女から離れてしまう。森は焦りを感じた。今会ったばかりの彼女は、こちらをどう思っているのだろうか。それを確かめたくて
 “あ、あの! こ、今度、また僕と会ってくれますか!?”
 そうさねえ、と直政は頷いた。
 “ああ、まあ、アンタとはこっち、相性いいみたいだし、相手してやるさね”
 妙な武神は遠くの地平の向こうに落ちて行きながら、声を作った。
 “ほ、本当ですか!? じゃ、じゃあ、また今度!!”
 直政は首を傾げたが、先程の武神の分離体らしい僚機は生きている。それらを潰さないと、「ノヴゴロド」の東は制圧出来ない。直政は北側に布陣した「上越露西亜」の突撃隊の補充と、「伊達」の武神に手を振り、南側の白骨戦士団に対峙した。上に行きたいが、これを放置することは出来ない。
 直政と「地摺朱雀」が身構えた時、空に傘のような光が走った。「ノヴゴロド」の防護障壁が破られたのだ。「ノヴゴロド」を流れるヴォルホフ川を手取川として、市街地にて「手取川の戦い」の歴史再現を行うため、柴田勢が乗り込んで来た。

 数分前。「ノヴゴロド」南部。市壁を半球状に覆う大規模障壁は、接地部周辺で垂直な形となる。不破の取った方法は単純だ。その垂直部分に水平位置から艦砲射撃を集中する。「ノヴゴロド」は夜は自転しないのが有り難い。不破の計算では、瞬間的に主砲クラスを二十七発、一点集中で障壁の一部を無効化出来る。そこを工科学生で確保すればいい。

 “来たか、「マクデブルク」の反省を生かし、術式か何かで来るかと思えば、主力艦隊を破城杭に使うとは、戦術というものは変わっていくものだな”
 マルファは暗い市庁舎の中央ホールで、大型の椅子に座って足を組んでいた。外の状況を示す表示枠(サンクトアグノー)で計算したところ、南側の門に開けた橋頭堡から市街への浸透は四分後に始まる。が、「ノヴゴロド」の南側で爆発が起きた・
 “柴田の《瓶割》か。あれで一気に道を開くというのは、流石は鬼柴田。強引で泣けてくる。―――喜びの涙がな。さあ、動くぞ。これからの楽しい歴史が!”

 南門周辺の敵を建物ごと一気に割り砕いた勝家は、軽い足取りで前に出た。
 大先輩:利家、「手取川の戦い」ってあるが、どの辺まで、そうしたらいい?
 お前田:それがですね、柴田先輩。「手取川の戦い」では、僕達は「七尾城」まで侵攻できず、撤退した事になっています
 大先輩:おいおい、早く解釈言えよ。歩いてるだけで端まで行っちまうぞ
 お前田:「七尾城」を「ノヴゴロド」市庁舎としたら、僕達は市庁舎を制圧出来ませんし、羽柴の要請にある、市庁舎地下にある「天津乞神令教導院」の遺構と、オラニエ《総長》の始末が出来ません。つまり
 大先輩:つまり?
 お前田:僕は提案します。この戦いを、次にある「魚津城の戦い」に変更することを。「魚津城の戦い」では、僕達は二の丸まで占拠したという「聖譜記述」もありますからね
 ふわあ:ちょっと待って!「魚津城」やったら、御館様の暗殺に繋がるのよ!
 お前田:でも、僕達がそれをやらないと、羽柴が次の動きを取れなくなる
 ふわあ:・・・・、羽柴が毛利攻めに動くという訳ね

 「七尾城の戦い」で羽柴は先に離脱する。後方支援として物資などは送ってくれるが、関東から「安土城」を呼び寄せて、そのまま琵琶湖から毛利攻めに向かう。無血開城した「鳥取城」と引き換えに、《人狼女王(レーネ・デ・ガルウ)》の益田・元祥の襲名が厄介だが、次の段階に進む事が出来る。
 ここで「魚津城」をやっておく利点は
 お前田:羽柴はこう考えているのさ。御館様の暗殺の際、僕達に動きを縛られず、自分が毛利攻めから大返しで一気に駆けつけられる事は出来る、と。だけど
 だけど、今は違う。羽柴の望みはこうだ。「本能寺の変」の際、「魚津城」で「「上杉」の抵抗に会い、柴田勢は駆けつけられなかった「聖譜記述」がある。しかし、羽柴は、「P.A.Oda」総員が全ての準備を終え、「本能寺」に駆けつけるべきだと。
 御館様暗殺の際、「武蔵」や他国の干渉が必ずある。「P.A.Oda」の地盤を守るために総員の力が必要だ。だから、「魚津城の戦い」は、今、やらなければならない。

 “成程な” 勝家は「ノヴゴロド」の街道の中央で足を止めた。雑草の生えた道に白樺材を並べた歩道がある。だが、ここは死んだ町だ。
 “「P.A.Oda」のために、上手く活かして使おうってか”
 この方法のリスクとして、自分達が「魚津城の戦い」を終えた後、他国や「聖譜連盟」から、御館様の暗殺を早くしろ、と言われるって事か。
 大先輩:おう、小物共。―――御館様の暗殺を、これ以上引き延ばす利点って何だ?
 お12:勝家さん・・
 大先輩:おう、御市様。解ってるぜ俺はよう。俺達は「織田」家の中で内乱のような状態になる。つまり、―――、この楽しい日々も、終わりに向かう
 ふわあ:待って!ちょっと落ち着こうよ! 何で今をやめる必要があるっていうの!!
 お前田:「創世計画」だよ。「創世計画」を進めなければ「末世」が来る
 通神越しだが、皆の反応が止まるのが利家には解った。

 「ノヴゴロド」西側。市壁沿いの荒れた道を西門に向かう影が呟いた。 
“これは・・・、少々厄介で御座りますな。ここの補給地点で、羽柴様達と合流するつもりで御座いましたが・・・”
 先行する影に対し、続いて来る双槍持ちの姿が
 “ノリ殿、どう見ますか?”
 そうで御座りますな、と《十本槍》の一番、福島・正則は逆側から「上越露西亜」勢が流れ込んでくるだろうと告げる。そのまま、跳躍し、高い市壁の上に足を着いて西門へ走る。その背後に双槍、《カレトブルッフ》の加速圧で続いた加藤・清正が行く。
 “柴田殿には申し訳ないが、羽柴様の望みが御座ります。―――敵の中枢、「ノヴゴロド」地下の「天津乞神令教導院」の遺構を破壊。そこにいるオラニエ公を確保する”
 “確保が先に来るならば、失敗による始末は私達の責任範疇ですね”
 二人は西門に辿り着いた。西の空、「聚楽第」がいる。福島が右手を上げると、応じる動きで援護射撃が来た。砲弾の光が来ると同時に、二人は西門側の街道へと跳躍した。直後、街道の向こうで爆発が起きるが、それは、援護射撃によるものでは無い。
 “柴田様の、・・・《瓶割》に御座りますな!!” 柴田が接敵したのだ。その相手は
 “「武蔵」の《第一》、《第五特務》に御座りますか!!”

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第458回 大宇宙を継ぐ者(11)

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大宇宙を継ぐ者(11)

 やっと翻訳版434巻「《バジス》発進」まで読み進んだ。

 ダイジェスト版で大まかなストーリーは解っていたのだが、ちゃんと翻訳版を読むと、やはり面白い。
 詳細な部分が解って、登場人物や他の話のつながりが理解しやすい。


 前半は第13サイクル「バルディオク BARDIOC」の最終話。
 第867話「バルディオクと女帝」 Bardioc und die Kaiserin
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 遂にローダンは死にかけた超越知性体《バルディオク》の脳を、超越地整体「テルムの女帝」の元へ運び込んだが、第四具象《ブルロク》は攻撃の手を休めない。
 さらに世代型宇宙船《ソル》生まれのソラナーはローダンに反抗の姿勢を示す。
 意外な反応を示す中央ポジトロン脳《セネカ》。
 《テルムの女帝》と接触して以来のローダンの謎の行動が解明される。


 後半は第14サイクル「《パン=タウ=ラ》 PAN-THAU-RA」の第1話。
 第868話「《バジス》発進」Aufbruch der BASIS
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 クレタ島で発見され、数千年ぶりに目覚めた謎の異人《デメテル》。
 数千年にわたり、古代ギリシャで崇められた「豊穣の女神」は、ルナの大工廠で極秘裡に造られた長距離遠征船《バジス》に乗り込んだ。
 分子変形能力者MVすら容易に退ける彼女は何者なのか。
 超越知性体《それ》が、超越知性体《バルディオク》がテラナーに探せと命じた《パン=タウ=ラ》。
 あらゆる災厄をもたらすというそれは、伝説の「パンドラの函」なのか。
 謎のメッセージを残す「Es(それ)」。
 《バジス》に潜むアフィリカーの罠。


 そろそろ、第37サイクル「ニューロバーズ」のまとめに入らねば。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 SAO13巻は
 「ソードアートオンライン 13 アリシゼーション・ディバイディング」に決定のようです。

 前巻で二手に分かれたキリトとユージオ。
 それぞれが最上階を目指すという事ですね。

 本当の別れは14巻に持ち越しでしょう。
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第457回 風雲児たち 幕末編 第22巻

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みなもと太郎「風雲児たち 幕末編」(22)

 「桜田門外の変」後、幕府、水戸家、細川家、薩摩藩は大混乱に陥った。
 多くの志士が辞世の句を残していて、現代まで伝わっています。

 勝海舟の咸臨丸は、初の太平洋横断でアメリカはサンフランシスコへ到達した。
 同じ頃、ポーハタン号も布哇(ハワイ)経由でアメリカへ向かう。
 面白いなー、大量のコメを積んでいったんですねー。
 そのため、炊飯用の薪、鍋釜、味噌、納豆、漬物、蜜柑、餅、夏冬の着物、草鞋、提灯、蝋燭、etcを何トンも積み込んでいったという。
 長い航海でイエローピクルス(たくわん)、ブラウンス-プペースト(ミソ)、ローテン・ソイビーン(ナットウ)が腐り、全て、太平洋の魚の餌になったそうです。
 
 日本とハワイの初の外交を終え、咸臨丸はサンフランシスコから日本への帰路につく。

風雲児たち 幕末編 22

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第456回 境界線上のホライゾンⅣ(43)

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(下)」 Horizon on the Middle of Nowhere
Episode Ⅳ-Part 3 適当ダイジェスト⑮


第八十四章 到着の追撃者」「第八十五章 空の脱落者」
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 ミトツダイラは、丘上に至る道を切り開きながら、南の方から来る武神団に気付いた。「P.A.Oda」の武神が数にして十七機。前田・利家はその列に振り向き、ここは任せるよ、森君、と言って、何故かしなを作ってジャンプ去りしていった。ミトツダイラは、それに異常を感じながら周囲を見渡す。
 丘の中腹は、大部分を白骨と合成死体の戦士団で埋められているが、こちらは、「伊達」の竜騎士団がいる意味が大きい。「聖譜記述」では騎馬鉄砲隊に当たるもので、敵が遠間にいれば銃で、中距離なら槍で、懐に入られたら刀を用いる。その竜騎士団が「P.A.Oda」の武神団に向かった。
 三機一組で、敵十七体を左右から一体ずつ、交差射撃で打ち倒す。装甲が割れ、上半身が仰け反って倒れる。その間に、また一機、更にもう一機と、六機の武神が破壊される。そちらは「伊達」の武神団に任せても大丈夫だろうと、誰もが思った。
 しかし、「伊達」の武神がいきなり動いた。飛翔器を使っての、強引な後退機動だった。

 四機は無事だった。残り二機が、超重量物の落下によって、大地に穿たれた。倒したはずの「P.A.Oda」の六機の武神が、上から降って来たのだ。飛翔器を使った形跡はない。距離は二百mはあった筈だ。
 降って来た六機の武神が、ゆらりと、うねるように立ち上がる。「伊達」の武神が倒れている僚機の上にいる二機に突撃した。だが、槍を腰溜めにし、突撃した四機中、新たに二機が吹き飛ばされた。腹や胸に槍を半ばまで突き刺された「P.A.Oda」の武神が、それをものともせず、裏拳一発で「伊達」の武神を吹き飛ばしたのだ。
 無事だった隊長機と副隊長機、そして吹き飛ばされた一機が復帰して身構える。
 “なんだ、今の感触と、あのしなりは・・・”
 彼らの視線の先。六機の「P.A.Oda」の武神は、どれも身体に四つの文字を刻印していた。
 「人間武骨」。二百mを超える大跳躍。槍の一撃を受けても動く事。重量級の武神を一発で吹っ飛ばす膂力。それは
 “骨格無しの、人工筋肉主体の武神か!!”

 佐久間艦隊最後尾の旗艦で、佐久間は指揮関係を扱う表示枠(インシャコトプ)を操作しながら笑っていた。
 “森―、どうよ? どうなのよ? メジャーどころとの戦闘”
 モリー:あ!、はい! 武神の中は気持ちよくて、ふとすると欲求のままになってしまいそうです! でも、僕、我慢しますから!
 触手生物の森・長可の全身。その大部分が筋繊維だ。彼を捕獲した羽柴が提案したのだ。機動殻か武神に乗せたら、もの凄い事になるんじゃないかと。森専用インナースーツも開発されたのだが、なんだ、このデカいゴム製品・・・、ああ、森のか、似合ってんぞ、と成政が要らぬフォローをして、森が心に傷を負ったので無しになった。結局、専用の武神に乗せたのだが。
 “まだちょっと、乗り慣れないかな? どーだよそのあたり”
 モリー:大丈夫です! ちゃんと右曲がりとか左曲がりとか上反りとか万全です!
 なんかいろいろ駄目な気がするが、「人間武骨」の特徴は、その防御力だ。骨格を持たず、筋繊維を間接に該当する要所で束ねているだけで、潤滑系もなにも、骨格に縛られず一括化出来る。単純な刃物の攻撃を食らっても再生するし、打撃を受けても弾力のあるゴムのような筋繊維の塊だ。そして、共通記憶で分離体が何体も同時に動く。敵は未知のモンスターに出会ったようなものだ。
 モリー:佐久間様! 空の方は任せます!

 防御陣形で前進する佐久間艦隊に対し、上陸部隊を保護しながら、景勝は全体の迎撃指揮を執る。表示枠(サンクトアグノー)に映る全艦隊の陣容を確認して、小艦隊レベルで位置を補正していく。被弾面積を最小にするため、東に直江の第一艦隊、西に繁長の第四艦隊を置いて一直線の陣列とする。
 地上では、「ノヴゴロド」の東側を、空に至るまで制圧していた六天魔軍の第二位、丹羽が退いたが、まだ、前田・利家の白骨戦士団と、「ノヴゴロド」の合成死体戦士団、森・長可の武神団が押さえている。
 “《総長》、南部から敵次陣が低速で接近中!”
 柴田の艦隊だ。まだ、「七尾城の戦い」が継続中なので乗り込んでこられないが、牽制としては充分だ。だから、東側からの上陸は出来ない。予定通り、北からの上陸作戦を継続するしかない。
 景勝は指揮を放つ。
 “全艦隊、「ノヴゴロド」基準で高度二百を急速降下。・・・良いか? これからの戦闘をもって、「上越露西亜」は自国と奥州、そして新しい時代を繋げる「約束」を、ここに提示する”

 「ノヴゴロド」を中心として、南から柴田艦隊が緩やかに進行し、北西から佐久間艦隊が東に向かって押している。上陸部隊や「武蔵」《総長》を見捨てて、北へ逃げる事も出来ない。だから、下へ逃げるといいうのか?
 通常、航空艦の艦底には仮想海を出すために砲台がつけられない。下降してこちらの艦底部を狙うつもりか。佐久間は右腕を上げる。
 “甘いんだよ! 防御用砲撃というものに、何があるか見せてやるとも! ――対下降船団用、追尾砲撃、用意・・・!”
 佐久間艦隊の各艦が変形する。側面砲撃用の重連無筒砲群が、一度交互並びに外へ突きだす。佐久間の指揮に合わせ、前線の十二艦が真上へ砲撃を開始した。自軍の防護障壁を飛び越えるように、直上八百mまで術式砲弾が曳航付きで飛び、頂点で先端に停まっていたガルーダ達が、一鳴きして術式砲弾を下へ蹴りつける。降下速度のあまり乗っていない砲弾だが、それは新開発の衝撃波弾だった。
 下降する「上越露西亜」艦隊が上面防御の障壁を出すが、艦隊の隙間を抜けて横や下で破裂し、前線から三分の一ほどを連打した。

 景勝の第三艦隊は衝撃波に揺れ、補正しながら下降していく。旗艦も後部から火の手が上がり、警報が鳴り続けている。だが、真っ直ぐ敵を見上げ、景勝は指示を放つ。
 “上出来である。―――各艦、砲門を正面に構えろ。そして、上面に・・・、良いか。防護障壁ではない、緩衝術式を展開しろ”

 佐久間は第二撃の砲撃指示を行う直前に、「上越露西亜」の判断を見た。
 “緩衝術式・・・?” 防護障壁が一定面積への攻撃を弾くものなら、緩衝術式は艦体などの全体を守り、受け流す効果がある。衝撃波砲弾に対する防御としての選択肢はありうるが・・・?
 佐久間は視界に異変を感じた。下降していく「上越露西亜」艦隊の遥か後方に影がある。
 “「武蔵」だ!!”
 衝撃波弾で打撃を受けた「上越露西亜」艦が煙を上げているが、その煙の先で「武蔵」が消えた。ステルス航行に入ったのだ。
 “航法! 索敵は?! 風紋の最終的な動きを見て、位置予測!”
 “無理です! 衝撃波弾で、艦隊前方の気流が乱れています! 「武蔵」、完全に反応消失してます!”
 佐久間は判断を下した。南に柴田艦隊がいて、「上越露西亜」艦隊が下降している今、「武蔵」はこちらの上方を飛び越し、「上越露西亜」艦隊との挟撃を狙う筈。
 “対下降船団用、追尾砲撃用意! 敵位置入力! 直上無限射程! 狙いは「武蔵」だ!!”
 
 佐久間艦隊から、天上に向けて莫大量の術式射撃が放たれた。直後、空に色が見えた。ステルス障壁が解除される際に生まれる、流体の雲や飛沫の白い色だ。
 そして姿を現した「武蔵」は、佐久間艦隊の上方を通過していなかった。巨大艦は、その先端を真下に向け、倒立状態で、まるで空から佐久間艦隊を睨むような威圧を送っている。
 “側転だと?! 直上に防護障壁展開!! 後部艦隊は後部側に防護障壁を展開! 上方の攻撃を凌いだら一気に東へ行く。「上越露西亜」艦隊を押し潰し、盾にするぞ!!”
 「武蔵」は戦艦ではない。武装は同クラスの「安土城」に比べれば足りないものだ。この位置で致命打は無いと佐久間は判断した。だが、不意に寒気を感じた。冷気とも言えるものが、空から降って来たのだ。

 「武蔵野」艦橋内。ウルキアガに運ばれて到着していた鈴は、中央のシートに座っていた。鈴の知覚は、ステルス状態の「武蔵」が倒立していく姿を捉えている。
 “ど、どうするの?”
 副会長:ああ、これから「武蔵」の主砲を出力の低い状態で発射する。本式は葵がいないと駄目だから、《艦長代理》が葵の代わりだ。
 鈴は“武蔵野”に肩を支えられながら、号令の言葉を急ぎ、口にする。
 “「武蔵」主砲、《兼定》、ショートバレル、《小兼定》モード、――発射・・・!

 それは打撃ではなかった。天から叩きつけられた不可視の塊だった。佐久間艦隊七十三艦。五kmの範囲で広がる艦群の内、四十三艦が崩落した。上からの圧力で、艦のフレームが反動し、下から跳ねた。歪んだフレームから装甲が多重に剥離する。崩れる全てが、全域の威力によって押し切られる。
 防護障壁は役に立たなかった。上下の多重構造で組まれた艦隊は、幾つかの艦が下の艦に激突し、更にそれも大面積の圧力に潰される。その範囲は直径にして四kmを超えた。一番後部の佐久間の旗艦と、その周辺。「聚楽第」と数艦を除き、超巨大な鉄槌で打ち抜かれたかのように、空から外れ落ちる。
 さらに落撃の大範囲を白い霧が染める。白の鉄槌にも似た、柱状の霧が落ちていく艦群に届いた瞬間、鉄槌が爆砕した。上から下に水蒸気爆発の輪を伴い、空が破裂した。それは残った艦を大きく揺らし、軽量艦は大気の渦に引き寄せられていく。
 落ちていく艦が、乗員たちを脱出させながら爆発し、佐久間艦隊の残存は「聚楽第」を含めて十一艦になっていた。空に残る事が出来た者達は、多くの艦がクリアになった空の向こう、西の空の一つの姿を見る。「武蔵」が側転から身を捻り、艦首を東に向け水平状態に戻っている。その姿は重力航行状態から、通常航行状態に変形している、闇の中で、通神が「武蔵」全域と周辺空域に向かって放たれた。
 《市民の皆様、周辺に皆様、準バハムート級航空都市艦「武蔵」が、夜九時をお知らせします。これより、「上越露西亜」の依頼により、商業的傭兵活動に従事しますので、御協力御願い致します。――以上》
 鐘が九つ鳴った。
 《では、始めましょう。―――以上》

 佐久間は、自分の中の熱と冷え込みを理解しようとした。警報が響き、艦が断続的な振動をする甲板上。必死に、自分が理解出来ている事と、理解出来ない事を判断しようとしていた。
 “何だ!? 何だ、一体、今のは・・・!?”
 結果は明白だが、その仕組みが解らない。だが、佐久間は気持ちを切り替えた。自艦隊は大きく削られたが、生きている艦はいるし、戦闘は続いている。残存艦隊は指揮官の声を待っている。
 “我が艦隊、全艦に告ぐ! よく聞け! 全残存艦、防護障壁を張ったまま東に全速前進せよ!!”
 「上越露西亜」艦隊の上を行く。下からの砲撃を受ける筈だが、後ろから「武蔵」に打撃されるよりマシだ。だが、問題は「聚楽第」がまだ「ノヴゴロド」の西側にいる事だ。防護障壁の加圧が無くなる。
 前線艦が動き出した時、行先から強烈な衝突音が生じた。東の空から飛来した大質量が激突したのだ。「武蔵」が随伴する輸送艦だった。

 駒姫は、東に移動しようとする佐久間艦隊の前線艦に、「武蔵」所有の輸送艦が正面激突するのを見た。だが、「聚楽第」から加圧された防護障壁は、まだ存在している。「聚楽第」も先程の一撃でダメージを受けたが、そうであっても、輸送艦の直撃ですぐ壊れる事は無い。
 “耐えきります・・・” そんな自負の証明として、展開した防護障壁は光を薄くしながらも凌ぎ切った。
「武蔵」の攻撃の余波を凌ぐのに、大半の一時出力を使用したが、輸送艦の激突から受けた歪みが戻れば、元に戻る筈だ。
 だが、駒姫は防護障壁に激突し、砕けた輸送艦の甲板上に立っている人影を見た。一人の少年。作業ベストを着込んだ彼は、眼前となった防御障壁の前で両の拳を構えた。声が聞こえる。
 “―――三発殴って、防護障壁を破壊しろ!”

 佐久間艦隊を守っていた防護障壁が、砕かれた。輸送艦による面の打撃を吸収しようと歪んだところに、少年の点の打撃を穿たれた。高速コンビネーションの三発目がぶち込まれ、「聚楽第」から全ての艦の防護障壁の出力や管理が繋がっていたため、全てにその結果は波及した。
 そして上昇してくる「上越露西亜」艦隊の砲撃が、僅かに残った防護障壁に撃窒する。管楽の重奏に似た音が鳴り、防護障壁が一斉崩壊した。いま、佐久間の残存艦隊の前に、「上越露西亜」の艦隊が長大な列として向き合っている。即座に出来る事ではない。
 “緩衝術式で大気の乱れを受け止め、艦隊の姿勢を保ったんですね・・・”
 駒姫は、影勝と「武蔵」の協働を悟った。破壊された防護障壁からのフィードバックで「聚楽第」の出力機が火を噴き、宙に白の装甲が吹き飛ぶ。さらに、駒姫の視界の中、「上越露西亜」艦隊が作り始めた動きは、“車掛かりの陣・・・”
 「アルマダの海戦」でフェリペ・セグンドが行ったものだ。直江・斉藤の艦隊が無防備となった残存艦隊に鉄弾の応酬を飛ばす。

 破壊が散る中、一つの直線が南東に向かった。佐久間艦隊の旗艦、佐久間の乗るクラーケン級が進路を逸らし、柴田艦隊に向かう。残存艦隊を見捨てたと見える進行だが、佐久間は単艦で「上越露西亜」艦隊に砲撃を開始した。敢えて防護障壁を再展開しない。
 《「退き」の佐久間が身を晒すのに、「上越露西亜」の「愛」は応えないのか!? どうだ!?》
 《その告白、本気と判断するよぉう――》

 直江の声と同時に車輪の流れがこちらを向き、莫大量の砲弾が夜を貫いて来る。撃たせなければいけない。直江艦隊に向けた左舷側の装甲が宙に飛んだ時、佐久間は残存艦が回頭などせず、急速降下での撤退を選んだのを見た。
 良い判断だ。下方には「武蔵」の攻撃で撃沈された艦群がある。その乗員達を拾う目的もある降下だろう。良い部下を持った、と佐久間は思った。
 “「退き佐久間」の名に恥じる事なし・・・! 無いともさ!!”

 駒姫は「聚楽第」を南西側に退避させながら、その光景を見ていた。佐久間の旗艦が甲板の下から火を噴き上げ、流体の光を纏った爆炎が艦を揺るがし、夜の空を赤く照らす。落ちていく旗艦の上空に在るのは「上越露西亜」艦隊と、八艦構成の巨大艦。それは、「ノヴゴロド」の北半球側が、「上越露西亜」側に、ほぼ制圧された事であり
 “「武蔵」が、「上越露西亜」や奥州と組んだという事ですね・・・”

 まずい、と不破は思った。「武蔵」が「ノヴゴロド」に到着したならば、同等の速度を持つ「安土城」もこちらに向かっている筈だった。毛利攻めを行う羽柴への補給物質や人員を積み、その内、幾らかを自分達に寄越していく予定だったが、広域流体反応情報に「安土城」の動きは無い。
 代わりに奥州から関東へと、また、「上越露西亜」の中央南部へと動く二つの艦隊があった。それは、
 “・・「最上」が「上越露西亜」の空域保護を、「伊達」が「安土城」への牽制と「有明」の保護に南下して来たって言うの!?”

 晴れた夜空を行く三胴艦、「山形城」の艦橋で、一本の扇を手に狐が舞っていた。軽く宙を回り、風を揺らす身は、背後に続く警護艦隊を支えるように舞う。
 “今回の南進は、「上杉」への攻撃の歴史再現を利用した、「上越露西亜」南部国境の保護よのう。「安土城」や「白鷺城」が「ノヴゴロド」に行こうとしたならば、その横面を張り飛ばすのよう”
 さあ、と踊りながら義光は表示枠(サインフレーム)を開く。
  義 :風が来た。行くとする
 その一言を置いて、中央甲板から空へ飛翔した影があった。青の武神“義”は、肩上に大きな風呂敷堤の土産を背負った従士を乗せている。
 貧従士:余裕がありましたら、「ノヴゴロド」で!!
 義光はそれを見送り、東の空に視線を向ける。そちらに見えるのは
 “「伊達」の・・・、ようやく自由を得て、動いたかのう”

 政宗は低空を航行する旗艦「青葉城」の甲板で風を受けていた。低空を行くのには理由がある。
 “もし、敵が「有明」に攻撃を仕掛けるとしたら、高空にいる「有明」に対し艦を上げるか、砲を上げねばならん。こちらは、そんな敵の下にいれば自由に撃てる。そして、もし、敵が「ノヴゴロド」に行こうとするならば―――”
 景綱君:西側で「最上」が突っかけるから、足止め食らった敵の背後から襲えばいい。そういう事だね! やったね政宗ちゃん! 卑怯極まりないよ!
 “軍議は片倉に習ったからなあ”
 景綱君:えらい! でも、卑怯って事一切否定しないのは何でですか!? まるで僕が卑怯みたいじゃないですか! 先日、鬼庭さんが些細な事で僕を始末しようとした時、僕は正々堂々と鬼庭さんの飼い猫を人質にとって難を逃れたくらいですよ! やべえ卑怯だ!!
 政宗は無言で表示枠(サインフレーム)を消した。さて、と政宗は大刀を前に立て、背筋を伸ばす。東の空に巨大な白い平面がある。「有明」だ。そして、正面の空、ずっと向こうの江戸湾に「安土城」の巨大な姿がある。今、出航準備を終えたところだ。
 “青葉艦隊。―――「安土城」の「ノヴゴロド」最短航路に艦首を向けたまま駐空待機”
 待機指示を出して、一息入れる。風が冷たい。夜の空気だからという訳ではない。「青竜」の保護下から外れたからだ。青の武神は流体空間で破損修復中だろう。空虚感があるが、これは寂しさと言うのだろうか。
 “小次郎―――。お前が、奥州を動かした。そう言っていいのだぞ・・・”

 「ノヴゴロド」の東の空。控えていた柴田艦隊の旗艦の甲板上に立つ巨躯の影。柴田・勝家は腕を組み、目を弓に、口を緩やかな三日月にして言った。
 “おい、不破。羽柴に言ってやってくれ。「七尾城」、もう終わりにしようぜって。「ノヴゴロド」を「武蔵」の変な攻撃への盾として、南部と西部、東部の抑え込めてる地域から上陸させろ。ここからは地上戦。「ノヴゴロド」の制圧戦だ”
 それに
 “羽柴言ってたよな。「ノヴゴロド」の地下に、「武蔵」勢に見せちゃいけねえものがあって、「阿蘭陀」の《総長》オラニエってのがそこに向かったと。羽柴の御願いだ。「「武蔵」」勢、叩き潰そうじゃないか、なあ、不破君”

 「上越露西亜」と「P.A.Oda」の戦闘に対し、「聖譜連盟」から「七尾城の戦い」の終了が告げられたのは、柴田艦隊が「ノヴゴロド」頭部から南部へ接岸を終えた後だった。以後は「手取川の戦い」の再現になる。前田・利家の白骨戦士団と協働していた合成死体戦士団が、白骨の破壊を始め、白骨の側も市街外壁に殺到し始めた。
 敵と味方が入れ替わり、白骨戦士を上位転化させるため「P.A.Oda」側からの砲撃が躊躇いなく行われたので、トーリ達は丘を北東側に迂回し、その速度を低下させざるを得なくなっていた。
 柴田・勝家が南東側の平原に足をつく頃には、丘上の市街を守る死体戦士団は、白骨の戦士団に包囲され、防護障壁を頼りに、波状攻撃を受けつつあった。
 今や戦場は二つに分かれていた。東側で「上越露西亜」の進攻を防ぐ森・長可の武神を中心とした迎撃部隊の戦場。もうひとつは、「ノヴゴロド」の丘上を包囲し、市街の防護障壁を崩そうとする戦場。
 「ノヴゴロド」の陥落は、時間の問題という状況になっていた。

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第455回 蔵書管理2013年5月

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蔵書管理 2013.05

 月イチの個人ネタ。単なるメモである。5月に読んだ本をチェックする。
 ACCCESSデータベースに登録した蔵書は2013年5月31日で 20,948冊(先月増+44冊)となった。
 先月と横ばい状態。全盛時の半分である。

 内訳は
 小説  6,548冊
 コミックス 13,962冊
 エッセイ、NF他 438冊 である。
  

・6月の予定

 買い置きのハードカバー「史記 武帝紀」2巻以降がなかなか読めない。
 
 ペリーローダン消化中。原書が新サイクルに入ってしまった。

 短編集が速く読めるかと思ったらそうでもなかった・・・。1冊あたりが分厚すぎた。
 
 なんとか6月中に「境ホラⅣ」のダイジェストを終わらせて、読書に集中したい。

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 ホタテ貝焼き味噌
ホタテ味噌貝焼き

 卵が貴重だった昔は、風邪をひいたときに食べたりする栄養食でもありました。

1. 貝殻に水を入れ、焼きぼしでだしをとる。
2. 味噌を入れてとく。
3. 卵をときいれ、煮えてきたらネギを輪切りにしたものを入れる。

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第454回 第零話 虚刀・鑢(二)

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「刀語(カタナガタリ)」 第零話 虚刀・鑢

 本伝の20年前を語る全十二章の物語

 第五章「鑢砌」 朗読:小山剛志(校倉必)
第五章

 隣国まで知れ渡る悪評を持つ徹尾家の娘、砌(みぎり)。
 両親をして、昔は可愛かったのにどうしてああなってしまったのか、と言われる。
 趣味は切腹の見物、どこかの藩で切腹の沙汰が出たと聞くと、かぶりつきの席でウキウキと見ていたという。
 切腹少女と悪名高いが、三国一の美貌を持つ娘に言い寄る者は数知れなかった。
 両親は困り果て、半ば罠にかけるよう婚姻を成立させた。
 徹尾家に仕えていた鑢六枝である。

 深夜、砌の寝室に現れ異形の怪人。その男は右肩から先が直刀になっていた。
 鷹比等四天王の一人”右腕”である。
 飛騨鷹比等、鑢六枝の戦いは六枝の方が優位であるらしい。
 ”右腕”は砌を人質に取りに来たのだが、主の鷹比等が言っていたのを思い出す。
 鑢六枝は人の形をした刀だが、鑢砌は人の形をした悪意だと。
 砌は眠そうに問う。ここに来るまでの廊下を死体で満たして来たと言うが、二人の子供、七実と七花も殺したのか、と。
 ”右腕”は少し安心する。悪意の塊だというが、やはり人の親だなと思ったのだ。
 その様子を見て、砌は言った。「なあんだ、殺してくれなかったのか。特に七実の方を、ね。だけど、あんた程度じゃ七実に勝てっこないか」
 さらに「人質になってあげるけど、眠いから明日まで待ってくれない」とのたまう。
 待てぬ、と言う”右腕”に、仕方なく布団から這い出して来た砌は一糸まとわぬ全裸であった。
 六枝の妻を人質に取る、という任務を果たせたと早計な判断した瞬間、砌が首筋に噛み付いてきた。
 食いちぎった肉を吐き捨て、なんだ死なないかと言い捨てる砌は、眠っているところを起こされて、ムカついただけだったらしい。
 よくこんな性格で、今まで誰かに殺されなかったのは不思議だ。

 砌はそのままノリノリで人質になったが、六枝がそれを知るのは、まだ先のことである。
 その頃、六枝は残る四天王の内三人の、三方攻撃を受けていた。


 第六章「否定姫」 朗読:戸松遥(否定姫)
第六章

 飛騨鷹比等の四天王。勝手に名乗っているだけだが、その出自は真庭忍軍に求められる。
 稀代の策士、飛騨鷹比等の周りを固める、かつての真庭毒鶴=”右腕”、真庭毒蟻=”左腕”、真庭毒河豚=”右足”、真庭毒蜘蛛=”左足”。
 そして、真庭毒蛇=”首”の五人の忍びは、この時代の真庭忍軍の頭領格に匹敵し、真庭毒組と言われていた。
 逆にこの五人を鷹比等に引き抜かれた真庭忍軍は、この時代に勢力を弱体化させていた。
 この時、”首”は鷹比等の護衛に、”右腕”は鑢砌の誘拐に向かい、残る三人は鑢六枝の足止めに向かっていた。

 そして、その三名は今、因幡砂漠で鑢六枝に切り捨てられていた。
 千歳の子供のような少年は危うく殺されてしまうところだったと呟いていた。
 真庭忍軍の生粋が三人なんて、勝てるのは娘の七実くらいのものだろう、と。
 その少年の後ろから棒のような男が、一対一でも勝てるかどうかの強敵が、一気に三人もだからな、と言う。
 刃のような歯を持つ犬が、六対三で良かった、と言った。
 鑢六枝が「六刀流」の使い手だったとは、四天王に知られていなかったようだ。
 だが、飛騨鷹比等はこの状況を予測していなかったのだろうか。
 この戦力が失われるのも予想済みだったのではないか。この三人は捨石なのではないか。

 六人が考えているところに、突如、割り込んできたのは、至極、否定的な童女だった。
 童女は、こんなところで考え込んでいていいのか、今頃、鷹比等はあんたの刀の所有者、砌をかっさらっていると言う。
 童女は異端の佇まいで、砂漠地帯で非常に高温だからなのか、袴を履いただけで裸足。上半身は裸の野性的な姿だった。
 しかし、この砂漠のど真ん中で白い肌を晒しているのは異常だ。忍者か?
 そう問うた棒人間の六枝に童女はせせら笑った。こんなエロかわいい忍者がいる筈がないと。
 得体の知れない童女に、六枝にこの場を逃走するかどうか悩んだ。
 だが、自分の娘と同じくらいの年頃の童女に、虚刀流当主が逃げてもいいのだろうか。
 童女がぱあんと言った。
 その瞬間、「僕」の右肩が吹っ飛んだ。血と肉と骨が混ざり合って爆散する。
 「もちろん、このあたしと、あの剣聖の突きからあんたが生き残れるかどうか、あたしは否定的なんだけどさあ。」

 因幡砂漠のさらに外。ただの木の枝を構える、錆黒鍵(さびこっけん)の姿があった。


 戸松さん、一人八役、お疲れ様。


 第七章「鑢七実」 朗読:中原麻衣(鑢七実)
第七章

 史上最強、剣聖の中の剣聖。名高き錆家の最高傑作、錆黒鍵にも当然、弱点はある。
 世界に完全は概念としてさえ存在しない。
 伝説の刀鍛冶、四季崎記紀も完成と、その先にある完了を目指したが、決して完全を目指そうとしなかった。
 それを目指すことは、闇に落ちるのと同義だ。どこかで諦めなければ行けない。
 だから、彼の作る刀は切るものではなく、区切るものだったのか。
 究極はあっても完全はない。それが彼の断固たる主張だった。
 
 錆黒鍵の弱点。それは手加減できない、という露骨な致命的なものである。
 制限ができない。自分の力を制御できない。制動できない。
 錆黒鍵の実力では、錆黒鍵の力を抑えられないのだ。
 本来、飛騨鷹比等が大乱を起こさなければ、彼女の出番などなかった筈である。
 だが、彼女は、その手加減できないという弱点を気にしなくていい相手と戦うことになる。

 鑢六枝を狙った超遠距離からの二発目の突き。その衝撃波が叩き折られたのである。
 黒鍵の前に幼女がいた。
 父が英雄になるところを間近に見たくて、ストーキングしていたのであるが、はぐれてしまったのだ。
 偶然、父を攻撃する黒鍵に、つい、手を、いや刀を出してしまったのである。
 鑢家長女、鑢七実は錆黒鍵と対峙した。互いに容姿は幼女である。
 だが鑢家と錆家は対極の存在である。そして今、対局する。
 刀を必要としない虚刀流。
 棒状のものなら全てを刀とする全刀流。
 四季崎記紀が最後まで、どちらを完了型変体刀にするか迷っていた刀。

 上段に構えた木の枝を黒鍵が振り下ろした。
 それに対し、七実は虚刀流「蒲公英(たんぽぽ)」。右手刀を突き出した。
 生まれて初めて食らう攻撃に、ふにゃっと声を出し、木の枝を取り落とす黒鍵と、突き指をしてしまった七実。
 七実は技の名を言ってしまったが、習った訳ではないので突き技ではなく、突き指です、と言う七実。
 誰からの教えも受けず、最強の剣士の技、突きをへし折り、切りを無視し、一撃を食らわしたというのか。

 笑って黒鍵は本気になった。拾った木の枝を下段に構える。
 全力を出せるのは、これが最初で最後だろう。
 「よろしく、お願いします。刀の錆にしてあげます。と言えばカッコいいですか?」と言う七実。
 黒鍵は、全刀流・完全刀一。
 七実は、虚刀流・鏡花水月・・・のつもり。

 全力を出せねば殺される、と弱点を完全に克服した錆黒鍵と鑢七実の戦いは、後世に伝えられていない。
 だが、この後、半年に渡る戦いに、尾張幕府の最高の剣士と、鑢六枝の最強の守護者は封印された。
 この進行と展開は、飛騨鷹比等の計算通りだったのか。
 結果として鑢六枝の足止めは成功した。
 その頃、奥州に攫われた鑢砌と、飛騨鷹比等の娘は遊んでいた。ウマが合うようだ。


 第八章「容赦姫」 朗読:小山力也(左右田右衛門左右衛門)
第八章

 奥州の「飛騨城」と正式名称で呼ぶ者はほとんどいない。城主や 地元の人間はこの城を「迷宮城」と呼ぶ。
 慣れないものが入ると、まず迷う。
 慣れているものでも迷ってしまう、だまし絵さながらのような城内こそ、存在しない城「下克城」、見えない城「暗黒城」と並ぶ、日本三名城の一つに数えられる謂れだった。
 すなわち、入れない城。
 警護している兵士にしたところで、自分がこの城のどこを守っているのかわからなかった。
 事実上、迷わずここで暮らしているのは、地球最高峰の頭脳を持つ飛騨鷹比等だけであった。
 ちなみに、この「迷宮城」は遠い未来、宮城県の由来となる。
 今、この城の地下牢に虚刀流当主の妻、鑢砌が幽閉されていた。

 檻の外にいる、年端もいかない黒髪の少女。
 その少女に、憎悪と悪意を込めた言葉で砌は話していた。
 天地開闢以来、どんなに策を凝らしても、奇策を凝らしても成功した人間はいない。
 飛騨鷹比等は、失敗を解っていて成功を望んでいない。ただ目的を追い求めているだけだ。
 あの天才くんの一人娘なら、それを理解していなけりゃねえ、と邪悪に言う。
 貴女はどうなの?あなたも成功者じゃないの? と少女は聞く。
 自分は失敗者だ。だが失敗するのが楽しい。そういう意味ならこの状況は成功なのだろう、と、砌は言う。
 成功するにはどうすれば一番良いのか、少女は砌に問う。
 砌は邪悪に断言する。
 「成功と幸せとを切り離して考える事よ」
 同時に不幸になるための最上の方法でもある。成功する事と、幸せになる事は違う。二者択一だ。
 だから、将来、成功したかったら幸せになる事を諦めろと砌は言った。

 娘に変な事を吹き込むな、と割り込んできたのは大乱の首謀者、飛騨鷹比等だった。
 鷹比等は砌が苦手だった。できれば、人質になど取りたくなかった。
 砌は鷹比等に、六枝はどうしたと聞く。
 鷹比等は早く砌を連れ帰って欲しいものだが、出羽の天童、「心王一鞘流」の防壁を突破できるかな? と答える。
 砌は、あの流派は鷹比等の味方ではない筈。この大乱に参加する筈がない、と考える。
 鷹比等はその考えに、平和主義者を戦わせる方法など、幾らでもあるさと、邪悪に微笑んだ。

 活人剣対殺人剣、「王刀・鋸」対「虚刀・鑢」。
 十二代目・汽口 慚愧と鑢七花に先立つ事二十年、その戦いが、飛騨鷹比等の計らいによって行われようとしていた。

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第453回 境界線上のホライゾンⅣ(42)

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(下)」 Horizon on the Middle of Nowhere
Episode Ⅳ-Part 3 適当ダイジェスト⑭


「第八十二章 王道の通過者」「第八十三章 離れ場の試練者」
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 闇の中に色が走る。色彩は絵によるものだ。斉藤が左手に持つ、鐘馗の絵が描かれた四枚刃の屏風刀が、先端部の間合いを空け、広げた四指のような形で丹羽に走る。刃はどれも先端速度を変えてあり、更に、軽く基部を押すことで、二枚目と四枚目が腕一本分、外に出た。
 丹羽の身体を三枚目が叩き切る。が、浅い。深さ五cm程で腹下を削いだだけだ。斉藤は新たに右の四枚を展開し、先の左と交差するように振る。丹羽ごと草群を割り、地面を抜く双撃をぶち込んだ。
確かに切った。割った。手応えもあった。しかし、斉藤の正面にいる丹羽・長秀は無傷だ。  
 “危ないなあ” 長い髪の先端側。巻き布の一本が切れ、黒の流れから外れて宙に泳いでいる。正面に立つ彼女の右と左の足元に、自分の双屏風刀が食い込んでいる。
 真上からの攻撃が無効化された? どういう理屈か。丹羽の身は夜闇の中ではっきり見えるが、流体光を纏っているのでも、霊体とういうわけでも無い。丹羽についてはある程度の情報が、「聖連」経由で年鑑を通して開示されている。そこで確定した彼女の戦種は、精霊や走狗(マウス)を己に宿らせ、力や加護を得るもの。
 “近接依代士(エンチャント・フォーサー)! 憑依ではなく、本当の借体か!”
耳が獣様のものになり、尻尾もある。爪も伸び、精霊や走狗の力を借りているのではなく、彼らそのものになっている。自分の屏風刀にも対霊加護が掛かっているが、それすらも効かないとなると
 “上位、・・・否、大精霊クラスか。それも、雷獣系”
 ああ、と丹羽が右肩の上、子犬にも栗鼠にも似た獣を出し、手で撫でる。
 “平安の世を騒がし、渡辺・頼綱に諌められた雷獣。それに刃を叩き込めばどうなるかまでは、鐘馗の範囲外だったと言う事だ”
 言葉と同時に屏風刀が破裂した。そして、斉藤の両腕も、手指の爪が弾け、手先からの血管が膨らみ、肩までが裂け、破裂した。体温に等しい血の蒸気を上げ、斉藤が腰を落とし掛ける。だが、斉藤は逃げない。
丹羽が軽く身を揺らして言う。
 “気付いているだろう? この要所に、何故、私しかいないか。その意味が解っているな?”
通る声。身の揺らしに繋がって作られるのは、舞だ。
 “走狗雷獣。稲妻の大精霊に風越して奏上する。創作術式、都市制圧舞踏《蒼雷囲い》!

 「ノヴゴロド」の東側にいた者は、「ノヴゴロド」上、艦上、隔てなくその声を聞いた。歌声が揺らぎなく駆けていき、進攻に合わせて空気が変わる。空気が澄んだと、誰もが思った瞬間、天上に生まれた光が一気に大地に落ちてきた。
 「ノヴゴロド」の東を走り抜ける流体の雷撃は、東側の空で対地攻撃をしていた「上越露西亜」の艦隊まで巻き込み、直撃部分の砲台を破壊する。そして、雷撃に足止めを食っている上陸部隊に、「P.A.Oda」の増援部隊が襲い掛かった。

 斉藤達、上陸部隊はそれを見ていた。自分達を食おうとする放電現象の下、丘の麓が白い色に染まっている。前田・利家の亡霊戦士団は既に、大猿にも似たもの、雷撃に砕かれた骨群から大型骨格になるもの、更に地面から湧き出る霊体で、丘へ向かう道を埋め尽くした。
 白の色の向こう、朱色の「M.H.R.R」制服を着た前田・利家は、腰の棒金刀から幾枚もの銀貨を落としつつ。笑みを浮かべる。
 “さて、上に行ける人はいるのかな、応援するよ。戦闘はまだ始まったばかりだ”

 「ノヴゴロド」東側の丘の麓に、巨大な蒼光が発生する。激戦は一方的な攻撃の場となっていた。中央にいるのは丹羽だ。ステップを踏むように歩き、声を高鳴らせながら腕を振る。それは宙をただ薙ぐように見え。次の瞬間には数条の雷が水平を掻き毟る。
 幾人もの魔神族が、正面や空からの稲妻に打撃され、瞬間的な高熱と振動で内部から焼かれ、沸騰した血と肉が甲殻の内側から身体を破裂させる。そして砕かれた彼らに、白骨の大猿や大型骨格が殺到する。
 斉藤隊は突撃部隊として、「マクデブルクの戦い」を参考に突破能力を上げる訓練をしていた。しかし、全周囲から来る雷撃に、既に数は半数を割っている。降る雷光を避け、来る敵の最も浅い場所を進む「越後の鐘馗」の背後で、愉悦を含んだ女の声がした。
 “舞台は出来たよ。自然との合一を見せよう”
 丹羽の髪から巻き布が一枚散った。数にして二枚目の術式符。
 “舞台劇限定解除。―――二枚目。宿し、力を重ねて己のものとすれば、放つ打撃は雷撃の速度となる。―――大精霊、雷獣の格闘術。鐘馗の経験の中におありか?”
 今までの舞の動きだが、速度が違う。今まで放出していた雷撃が、四肢や肘の外にある。一瞬で斉藤を守ろうとした魔神族の精鋭達が吹き飛ばされた。斉藤が急ぎ構えた屏風刀ごと。胸骨の砕かれる音がして、斉藤の身が宙に舞う。

 老骨は、まだ、動いた。胸骨の破砕の内側で、肺に満ちた血を咳として吐き、“皆、先に行け!!”と叫ぶ。血を飲み込む事で息の代理とし、身体に力を込める。数秒でいい。この化け物を数秒でも引きつける事が出来れば、多くの者達が数歩の距離を前進し、自分達の目的に近づけるだろう。
 “本懐・・・!” 斉藤は改めて血を吐き、身体を軽くして前を見た。
 そこには丹羽がいる筈だった。しかし、そこに見たのは、白の半袖、男子制服、飾りの鎖を纏った後ろ姿。しこにいる筈のない、有り得ない人影。
 “「武蔵」《総長》兼《生徒会長》・・・!!”

 おう、と、戦場にいる者はその少年の声を聞いた。彼は傍らに並ぶ忍者と銀狼を一瞬だけ見て
 “悪いな。―――死んでもいいやって空気があったからよ。三人で先行しちまったよ。これもまあ「武蔵」の方針ってやつだ”
 馬鹿は笑みで言った。“「約束」ってのに、俺達も混ぜろよ”
 その言葉に頷く者はいなかったが、動く者はいた。
 丹羽が、両腕に宿していた加速用の雷圧を、「武蔵」の《総長》兼《生徒会長》に叩きつけた。直径十八mの巨大な雷球が、彼の左右の二人と、背後の斉藤を巻き込む勢いでぶち込まれた。

 雷圧の塊が砕け散った。熱風と火花で全てが一度、白く染まった跡地に二つの影が立っている。それは、上から一直線に飛び込んで来たもの。直上から雷球を砕いて地面に激突し、平然と立ち上がったもの。
 “何だ。最近は雷撃が流行か? 楽でいいな、同じ装備と戦い方でいいから”
 半竜が言うのに、緑黒と朱の機動殻が、そうね、と女の声で頷いた。
 “仙台伊達教導院、《副長》、伊達・成実。――《総長》命令により、「武蔵」と合流、そして、《総長》の「約束」を代理として果たしに来たわ”

 斉藤は「武蔵」《総長》がこちらを振り向くのを見る。
 “なあ、爺さん。ちょっと上、一緒に行こうぜ。このよく訳解んねえ戦場、先進めねえといけねえんだろ? 爺さん、ちょっと、道つけてくれ”
 “何故だ? どうして我々にそこまで加担する?”
 馬鹿は笑った。
 “一番解りやすいのは爺さん死のうとしたろ? あと、景勝な。傷つけた女に謝りに行こうってじゃねえか。俺も同じ様な事したんだ。景勝と一緒に頭下げに行ってやるよ。だから、爺さん。先に行って、マルファってのに教えてやってくれ。景勝が来るぞ、って”

 “上に行かせると思うのかい? 現状見ようよ。――危機ってやつだよ?“
 丘上に至る登り道の前。前田・利家は、棒金刀から銀貨を落としながら敵を見る。丘の麓、道だけでなく、斜面の草群からも白の骨格が生える。更に丘上の道から降りてくるものがある。合成死体の戦士団だ。
 “「ノヴゴロド」側は、「七尾城」の奪還まで「上越露西亜」側に心を赦す事がない。・・・家の呼び鈴を押せば済む話じゃないんだよ。「武蔵」《総長》”
 
 「武蔵」《総長》は笑みの顔で言う。
 “昔にいろいろあって、一緒にいたいけど、納得いかない部分は納得いかない。だから、納得いくようにうやむやにしない。奥州の黎明ってやつの反省なんかな。―――うやむやにしてたら、あんまりよくねえって。・・・後の恨みも何もかも、自分達が全力で、ここでぶつけるから、以後は無しにしろよ。しっかりやろうぜ、後のためにもよ”

 “ほう・・・” 夜をも煙らす霧の中。長寿族の古老の女は息を吐いた。「IZUMO」経由で送られてくる「武蔵」側の通神から、「武蔵」《総長》の声が聞こえる。
 藤原・泰衡は、その証印がついた通神文(メール)を各所に送っていく。
 “「武蔵」の望む戦争とは、全力でぶつかり、全力で受ける。・・・それは、後の憂いを無くし、晴らすための、今の闘争ですかなあ”

 さて、とトーリは言った。戦場の中、敵ばかりの中心で、ウルキアガと成美に顔を向ける。
 “ウッキー、そのゴツイの着てる姐ちゃん、オメエの彼女?”
 “彼女ではない。―――嫁だ”
 トーリは口笛一つで頷いた。
 “姐ちゃん、ウッキー、旧派(カトリック)だから浮気も離婚もねえけどよ。エロゲは許してやってくれ”
 “比較対象にしないのと、時間決めてるなら、別に構わないわ”
 “ウッキー、そんじゃ、そっちの任すわ。で、ネイト、テンゾー”
 Jud.とミトツダイラが前に出る。
 “我が王? こういう闘争の場において、我が王の道行きの前に立っていいのは、私だけですの?”
 “Jud. 俺の正面はオメエに守って貰わねえとな”
 銀狼は鼻を軽く上に向け、ふふ、と微笑した。“ようやく、ですわ”
 《銀鎖(アルジョント・シェイナ)》の給鎖装置は夏服用なので、排出機構だけだが、引き戻しをせずに出した分を利用するだけなら変化は無い。二本をまず両手に構える。
 “行きましょう、我が王。道をつけますわ。貴方の騎士が、それを支えるために”
 ミトツダイラが顔を上げる。先程から音が聞こえる。それは「約束」を果たす音だ。

 前田・利家の召喚した骨の戦士団や、大型骨格が撃音と共に叩き潰された。超重量物が降って来たのだ。数は六つ。濃い灰色の装甲の竜に似た武神。「伊達」家の武神団、主力十八機の内、三分の一が外征として来たのだ。「伊達」家を守るとかの戦闘ではない。「上越露西亜」の援護に主戦力の三分の一を割いたのだ。
 “《副長》!、《総長》から、大丈夫だから行って来てくれと、そう言われて来ました! 《副会長》の承認つきで、《副長》の「武蔵」転出許可が出ています。正式に、《副長》は出奔となります。―――おめでとう御座います”
 “一体何がめでたいのかしらね” 苦笑で言うと、丹羽の雷撃を砕いていた半竜が
 “何もかもが幸福だと、何がめでたいのか解らなくなるのだ” と言う。
 “政宗に言っておいてくれるかしら。伊達・成実は、出奔の際も不転であったと”
 言葉を作りながら、成実は丹羽の作る雷撃の連打に、身を当てるように突っ走った。

 丹羽は敵の実力を悟った。《副長》と言う肩書だけではない。《不転百足》という機動殻を纏ったこの相手は、テンションが高い。音と動きを司る丹羽には、よく解る。こういう時の敵は危険だ。
 “雷空!・・・重ね撃て!!” 叫んで振った腕に応じるように、突っ込んでくる成実の前に、青雷の縦列が立つ。直進すれば五連続で雷撃を食らう。左右どちらかに回る事を考え、さらに正面に三連撃を重ねる。しかし、百足は八連電撃の下を、真正面から突っ走って来た。稲妻を恐れず、尻を上げ、顎を落とし、這うような疾走だ。青光の八発を、宙に抜いた三節標準の顎刀の連射が避雷針のように受ける。光の散華が八連続し、その下を一直線に百足が丹羽に迫る。
 丹羽は両翼と言う言葉を感じた。身を低く突撃する百足の左右から、翼のように放たれた顎刀の数は二つに見えた。しかし、すぐに八つに増え、瞬時に百を超える。
 “万千道百・・・!”
 百対の百足の義腕が、二百の五節の顎刀をぶち込んでくる。丹羽は両の拳に宿らせた雷撃を、五指を広げた展開で左右に叩きつけた。それも地面に対してだ。
 “・・・発蒼!!” 大出力の雷撃力が地面に反射して空へ跳ね上がり、左右から来る百対の打撃を飲み込む。 更に、丹羽の右肩に雷獣が出現し、主人を守るように長い尾を立てて咆哮する。さらなる出力展開で強化された雷撃が、確実に百対の顎剣を外へ吹き飛ばす。
 だが、丹羽は相手を見逃していなかった。今のが本命じゃない筈。舞による下がりの動きを入れながら、丹羽は見た。左右に散った百対剣の向こうから、闇を抜いて追い打ちの対剣が来ている。一体、どれほどの戦闘意識なのか
 丹羽の捉えた視界の顎剣の表面に符が貼ってある。旧派(カトリック)の対霊術式の重ね張りだ。それも審問官仕様。旧派にとってムラサイは怨敵だ。その対霊術式ならば、と雷撃の使用を止め、防御用の風術の紋章を展開し、横薙ぎに来る顎剣を真下からぶち抜く。双の顎剣は上に跳ねてぶつかり火花を散らす。そのクロスした顎剣の柄を丹羽が握った。
 “こちらが本命でしょう”
 直後、降って来たのは剣戟ではない。雷撃だ。最初に放った蒼雷八発を受けた顎剣を、成実は捨てていなかった。刃に雷撃を宿らせたまま、射出した義碗で確保していた。さらに百対の顎剣が散らした雷光を、八本の雷剣に誘導収束させた上での八斬撃が降ってくる。
 こちらが放った雷撃が、自分に通じる筈はないが、同じ雷相ならば雷撃による防御も効かず、対霊術式の刃だけがこちらに通る。だから、丹羽はクロスした顎剣で、上からの八の剣を受けた。重量と勢いの一瞬が来る。丹羽は思った。伊達・成実は史実でも武勇に優れた者だった。耐えられない。咄嗟に両肩の関節を捻り、肩を抜く。いきなり抵抗の抜けた斬撃が力の方向を乱した。雷撃の八拳剣がクロスした顎剣の上で力を爆発させる。肩の抜けた両腕を広げたまま、丹羽は眼前の百足の頭を踵で踏み抜いた。
 反動で跳躍し、宙で後方回転する丹羽の直下で、百足が顎から地面に穿たれている。

 あれは・・・。 ミトツダイラはその戦いの推移を見ていた。伊達・成実。水戸領地ではたびたび聞くことのある、「伊達」家の《女副長》だ。その彼女の纏う機動殻《不転百足》が、丹羽によって大地に打ち付けられている。
 しかし、“不転ですわねえ、その百足は・・・”

 丹羽は、踏み砕いた百足の向こうに立つ伊達・成実を見た。両の義碗が無く、上半身から上が、赤い千切れたドレスを纏っている。だが、臍から下は《不転百足》の下半身と繋がっている。頭部と胴体を義腕ごと、こちらに飛ばしてきたのだ。そして、囮として踏ませた。自分は着地態勢で、身体が伸びきっている。
 視線の先で、成実が召喚した両義腕は既に顎剣を握っており、俊速の双撃が左右からの斬撃となった。

 成実は敵を見た。丹羽・長秀。「P.A.Oda」六天魔軍、五大頂、共に第二位の武将。その右腕が、脇から鎖骨辺りまで深く裂け、今にも落ちそうな揺れ方をしている。左の腰も大きく抉られている。しかし、血がさほど流れていない。蔦や蔓といった植物の様相が、彼女の傷口を結び付けている。
 大精霊を宿す事による流体化。木々の精霊を身に入れたのだ。その丹羽の右半身が吹き飛んだ。遠く、南の空に控えていた「聚楽第」からの一撃が、丹羽を貫き、成実に直撃した。

 「聚楽第」の甲板上で、駒姫は荒れた息を作っていた。指揮をしただけ、指示をしただけだというのに。
 砲撃命令を出したのは初めてだ。それも、自分の自害に繋がる「P.A.Oda」の武将を守るために。
 “大丈夫ですか! 《艦長代理》!” 甲板にいた女子生徒や男子生徒が心配そうに、気を使ってくる。私は「最上」を離れ、「P.A.Oda」の水を汲んだのだ。
 戦場、丘の上に丹羽が立っている。砕けた流体の半身は、ゆっくり修復しつつある。その正面に流体砲の一撃が穿った跡がある。伊達・成実。知らぬ仲ではない。むしろ、よく知っている方だ。小次郎の事を相談する年上の存在として、言葉も良く交わした。誕生日や時候の贈り物も互いに送り合う仲だった。
 だが、今は敵だ。その視線の先に無傷の成実が立っている。いや、成実の前にもう一つの影がある。巨大な対艦刀を半壊状態で前に翳しているのは、半竜だ。

 丹羽は目の前の飛び込んで来た半竜を見ていた。タイミングは完璧だった筈だ。幾つかの指示を駒姫に送り、カウンターで流体砲をぶち込む手筈を整えた。いくら半竜でも、タイミングや狙い場所の指示が無ければ出来る事ではない。
 “貴方か・・・”
 遠い草群の中、数名の魔神族に囲まれた、一人の老人が立っている。
 “鐘馗の力、攻撃だけのものではないと知れ”
 丹羽は後ろへ大きく跳躍する。
 “よく覚えておくとも。そして、―――残念。私の上演時間は終わりだ。何しろ、―――次の舞台が始まる” 丹羽が着地した瞬間、大地が動いた。
 「P.A.Oda」が新しい動きを開始した。丘の南側の麓や中腹から、この東の戦場へ行進してくる巨影は武神の列だ。
 遠ざかる丹羽が苦笑しながら言う。
 “―――森・長可の「人間武骨」だ”

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