まるでダメな男の日記

このブログでは趣味のゲームや読書感想など非生産的な駄文を書き連ねていく予定です。

第360回 境界線上のホライゾンⅣ(11) 

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(上)」 Horizon on the Middle of Nowhere :
Episode Ⅳ-Part 1 適当ダイジェスト⑪


第二十八章 将来の相対者」「第二十九章 不安定足場の疾走者」「第三十章 急ぎ足場の返し手達」
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 ミトツダイラが敵にぶち込んだ輸送艦は、幅7m、全長30mほどの小型のものだった。この敵を倒さない限り、避難の余地はない。自分だけならともかく、正純や王が一緒となると、この敵の移動力、戦闘力は輸送艦での離脱を容易としない。この場で叩くしかない。外交艦に戻る足として陸港上空で待機させていた船を銀鎖で掴み、力任せにぶん投げた。
 敵までは50m。全長30mの輸送艦なら一瞬だ。土を削り、道を刮いで高速で激突した瞬間、輸送艦が向こうからこちらに真っ二つに切り裂かれた。

 一瞬の破壊の中、浅間が見たのは巨大な光の刃だった。長さ10mを下らない光の片刃が滑走状態の輸送艦の構造材に全身で叩き込まれ、真っ二つにしているのだ。
 敵の両側を輸送艦の断面が走って行き、右に掴んだ光の刃を押し込みながら、左の加速器を後方に展開する。術式表示枠による加圧で前方に跳ねようとした瞬間、光の刃が上下に真っ二つに断たれた。砕音と共に散り消える獄厚の光剣に、“何故だ!”と驚愕する敵は、すぐその理由を悟った。

 二つに割れた輸送艦の左舷後部。敵から見て右の艦尾に《王賜剣一型(Ex.コールブランド)》の一刀を構えた武蔵アリアダスト教導院《第五特務》ネイト・ミトツダイラがいた。輸送艦を投げた際、銀鎖のホールドを解かず、そのまま自分を引き寄せたのだ。こちらの攻撃を砕きながら攻撃するとは、“見事な攻防一体だ!”と感嘆の声を上げる。
 《英国王の剣》は信頼できる騎士に全力を貸す。輸送艦を断ち切る光刃を上回る加熱で、こちらの光刃を断ち割ったのだ。そして、返しのフルスイングがこちらのウェストの高さで迫ってくる。両横は輸送艦の壁、下は己が穿った溝。ならば。“果てろ《カレトヴルッフ》!”
 
 「水戸」の町の住人達は高速で滑走する輸送船上に二つの影を見た。一人は青の装甲付き「M.H.R.R」制服を着た金髪巨乳の女子。もう一人は、“我らが領主様ぞ・・・”
 おお、と人々の歓声を浴びながら、ミトツダイラは領地の皆に見えるよう、宙で身を回して一礼する。そのまま、滑走する輸送艦の右舷上を敵に向かって瞬発した。

 遠ざかる輸送艦を見送る浅間は、不意に背後に風の音を聞く。鋭い鳴り響きが一直線に向かってくる。
 “高速の加速術?”と思った瞬間、手に槍のようなものを持った、見知らぬ少女が見えたような気がしたが、風と共に視界から消え去った。起動した義眼“木の葉”の追跡機能が照準を迷っているほどの高速だ。
 するとホライゾンが、“あちらでは?”と疑問符を付けながら指差す。そちらに視線を向けると、材木倉庫が爆発し、空に数mの木材が無数に跳ね上がった。その中に二つの影が見える。
 一つは「M.H.R.R」女子制服を上着無しで着込んだ槍持ちの少女。もう一つは《蜻蛉スペア》を右手に、薄い情報草紙を左手に持った本多・二代だった。

 二代は激突の際に生じた爆発から宙に舞っていた。正純達に向かおうとする敵に攻撃を叩き込んだ時、その槍のような武器で受けられた。その際、爆発が生じたのだ。どういう仕掛けか解らないが、自分も敵も共に宙に舞っている。その敵と、ほぼ同じタイミングで宙にある木材を蹴って並ぶ屋根に着地する。その距離は12m。
 次に動く体制を整えながら思案する。敵は二人。自分が一人を引き受け、もう一人をミトツダイラが引き受けた。正純の方には防御系術式が使える浅間と姫と馬鹿と喜美がいる。正純の判断力なら大丈夫だろう。
 宙に舞っていた材木が、町の各所に音を立てて突き立った。いきなり銀光が視界の中央を貫く。全く―――、自分は不抜けておらぬか? 自問しながら二代は敵の攻撃を槍で弾き受けた。鋭い一撃に、目が醒めるような力の反射。この御仁もまた強者(つわもの)に御座るか! 世界は広い!!
 “拙者、武蔵アリアダスト教導院《副長》、本多・二代。貴公は!?”
 強敵に会えた嬉しさに、つい呼びかけてしまい、いかんと思ったが、意外なことに、敵はこちらの言葉に身を震わせた。戸惑いではない。何かを堪え、力を入れて身を正すように答える。
 “拙者、A.H.R.S.所属。羽柴麾下《十本槍》が一番、―――福島・正則! 本多・二代! この槍、《一ノ谷》をもって貴女を倒す役目に御座ります!” 

 ミトツダイラは二代の相手の名乗りを聞いた。ならば、今更ながら、と
 “何者ですの?「武蔵」の騎士、ネイト・ミトツダイラが問いますわ!”
 遠く艦首側に下がった敵が、《カレトブルッフ》を振り抜きながら名乗った。
 “私はA.H.R.S.所属。羽柴麾下《十本槍》が二番。―――加藤・清正! 「六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)」の血を引く水戸領主! 貴女との相対は私の課題の一つです!”
 金の髪を風に巻きながら名乗った彼女に向け、ミトツダイラは速度に身を弾く。
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 正純は二人の名乗りを確かに聞いた。だが「羽柴」勢が何故「水戸」に居る? この「水戸」領地は「羽柴」の時代にはまだ出来ていない。羽柴本人ではなく部下が気を効かせてやって来たのか?

 高速で加速するミトツダイラに対し、清正は左の《カレトブルッフ》を背に収め、右一本での対決を望んだ。正面から《王賜剣(エクスカリバー)》を弾くように放つが《カレトブルッフ》に弾き上げられる。擦過で燃焼した金属臭が風に交じる中、そのまま《カレトブルッフ》が右脇から突き込まれる。御丁寧に片鎌の斜め刃が、こちらの胸を水平に突こうとしている。
 顔横の表示枠(サインフレーム)から“駄目よ!その攻撃に「貧乳回避」は使えないわ!「巨乳防御」よ!”と、喜美の声が聞こえるのを無視して、ミトツダイラは握った《王賜剣》を手放し、そのまま、柄より上がった手を下にスナップした。
 肩、肘、手首が鞭のように撓る。マクデブルクで相対した母が自分の頭を押さえつけた技だ。その高速のスナップに右手の人差し指と中指で挟んだ《王賜剣》が下に引き戻される。身体の右脇に立った《王賜剣》に片鎌の刃が当たり、快音と火花が散る。しかし、清正は動きを緩めない。
 ミトツダイラは右半身になり、《王賜剣》を右手の指でつまむようにして垂直に掲げる。左手を後ろに回してから肩上に上げ、鎌首のようにして力を抜く。その左手から手袋を咥えると、首のスナップで清正との間に投げ捨て、正式な決闘の申し込みが成立する。
 応じる動きで清正が頷き、槍を突き込んできた。直後、“Debut!!”、の言葉と同時に手首と肘の瞬発で高速の刺突連射が始まった。

 滑走する輸送艦の上で銀と青の色が激突する。
 半身を崩さず、攻撃主体のミトツダイラと、槍を短く持ち、防御主体の清正だが、ミトツダイラの後方には護るべき存在がある。そして清正には移動力がある。後ろに逃したら追いつくことは難しい。
 剣撃の火花は双方の間に弧を描き、金属音が連発して乱れ咲く。ミトツダイラが犬歯を剥き出しにして突き進む。「三方ヶ原」の敗戦の流れがあるものの、遂に主力である自分達が「羽柴」の主力たちと攻撃を交わし合うようになったのだ。ここで、敵を止めなければならない。

 二代も同じ想いで福島・正則と対峙していた。障害物として突き立つ柱の間を、互いに潜るように走り抜け、攻撃の火花を散らし合う。噛み合っている。こちらも女で、あちらも女。互いにポニーテールで、どちらも武器は槍だ。互いの武器には《蜻蛉スペア》と《一ノ谷》という名前がある。
 “なかなか出来るで御座るな!?”、“そちらこそで御座ります―――!”
 こちらもあちらも御座る語尾で御座る。何と貴重な―――。
 “二代! ボーっとするな!” という遠くから聞こえてくる正純の声に振り向き、“は?ボーっとして御座らぬぞ正純。拙者、周囲が気にならぬ程に考え事をして御座ってな。”、“前見ろ―――!!”と前を見たら、おや?敵が攻撃を。

 正純は街道の南側での二代たちの戦闘を見ていた。距離にして50m程先の屋根の上で正則が《一ノ谷》という槍を振り抜いた。その軌道上に居るはずの二代の姿が見えない。
吹っ飛ばされたかと思った時、背後から“心配めさるな。”と声が聞こえ、振り返った視界の中の二代の黒髪が一瞬だけ撓んで、跳ねる様に前に出た。

 累積加速型術式《翔翼》は接敵までの距離が速度を決める。敵は全身で槍を振り抜いた姿勢だ。石突き側を持った右片手突きは、最大限のリーチを活かしているが返しが遅いので邪道と言われる。隙だらけになるリスクを冒したのは、―――拙者を討つために御座るか!
 正則まで30mを切った時点で跳躍した。足前に《翔翼》の表示枠(サインフレーム)が現れ、加速を妨げる一切を排除する。一歩目で7m、二歩目で10m、三歩目で14mを消費し――、跳び過ぎたで御座るな?
 福島・正則は、こちらが槍を突き込んでくると思っていたらしい。槍を引き戻すことを放棄し、身を低くした顔面に、跳び過ぎた二代の右膝が迫る。
 宙で仰け反るように膝を前にした二代の眼前から、正則の姿が消えた。宙に浮いた《一ノ谷》に引かれるように右へ距離を取ろうとしている。背を見せているのは、今の二代の体勢では《蜻蛉スペア》を振れないことが判っているからだ。そして、もう一つ。正則は術式を発動する言葉を告げる。
 “逆落とし――”。その名の通り、正則は落ちた。前方へ、と。

 二代が見たのは力感のない、だが、確かな加速術式だ。正則の足元に青い表示枠(サインフレーム)が浮き上がり、“逆落とし”と表示されている。進行方向に落下するという加速術式は、発動したその後の身体制御が楽だ。宙で身体を半回転させた正則から槍の穂先が突き込まれた。投げたのではない。伸縮機構だ。その全長は9mを超えた。
 身を翻し、町の中に突き立った柱の側面に足を付けた二代は、力を貯めることなく《翔翼》に乗って身体を大地と水平にして走る。そのまま、《翔翼》の加速累積を途切れさせることなく、次の柱に渡り跳ねる。
 正則の周りをぐるりと回ったところで足元側に押し付ける力が安定したので、《蜻蛉スペア》の伸縮機能で正則を薙ぐ。正則は一気に上方へ“落ち”て跳ぶ。行先は二代が側面に立つ柱の天辺。まだ《翔翼》を切らしていない二代の方が速度は上だが、正則も一歩目から“逆落とし”を掛けた。二代の一歩が正則の五歩だったが、次の二代の一歩は正則の四歩となる。二代の一歩が正則の三歩となった時、交差する二人が擦れ違いざま激突し、隣りの柱に跳び渡りながら互いに加速していく。一辺20㎝の柱の側面を二代が、天辺を正則が駆けながら、その距離が詰まっていく。数合を打ち合いながら先行する二代に、遂に正則の速度が追いついた。

 二代は思う。正則の動きはただただ、ひたむきだ。先程の台詞どおり拙者を倒す役を果たすため、訓練を重ねてきたのだろう。「三方ヶ原の戦い」の時、正則も「安土」にいた筈だ。拙者は羽柴を注視していたが、他の九人のことを覚えていたか? 迂闊だ。最近、迂闊タイムが増えている。やはり不抜けているのか?
 思案中に、また攻撃が目前に迫っていた。正確すぎる、首を狙った突きを首の動きだけで躱した後、二代は正則の苦悶とも、呻きとも、憤りとも感じる声を聞いた。
 “本多・二代様―――”、名を呼ばれて二代は戸惑った。
 “拙者如きに、本気で打ち合う気が御座らぬのですか!?その不抜けた攻撃は一体、何で御座るか!!” 、福島が柱を蹴り、跳び込みながら叫んだ。その言葉に二代の身が竦んだ。

 いかん、そして、すまん、と二代は短く心に告げる。心の中に何か解らない引っかかりがあり、やはり、不抜けていた。自分に対し気を抜き相対の場に立てば、場を穢すことになる。昨日、足場を駆け登るとき、宗茂殿はこちらが不抜けていることに気がついていたはずだ。だから、落ちる拙者に手を差し伸べた。
 自分はあの手に助けを求めただろうか? 解らない。ならば考えるのは止めよう。そして上半身を後ろに捻り、全力のカウンターを叩き込んだ。

 正則が感じたのは光のようなものだった。闇の中から小さな光が正確に、真っ直ぐに伸びてくる。先程までと明らかに伸びが違う一発が来た。二代の身体の動きは、今までと変わらないように見えるが、各部の関節が僅かながら伸びて、その統合された伸びは十数cmのリーチを追加した。
 正則は美しい、と思った。身体を伸ばし切るには余分な力が入っては駄目だが、やはり、芯となる力は必要だ。今、相手は武器と一体化し、攻撃という行動に特化した。
 首を狙った二代のカウンターに、勘だけで頬一つ分の回避を行い、さらに身体ごとぶつかっていく突撃を行う。落下速度を加えた最大の攻撃を与えようとする正則の目の前に異変が起こった。
 自分が着地しようとする、二代の立つ柱が向こう側に倒れていく。自分へのカウンターと、《蜻蛉スペア》の伸縮機構で、石突きで柱を穿つのを同時に行ったのだ。既に二代は次の柱に跳ぼうとしている。しかし、自分が降り立つ足場がない。
 卑怯とは思わない。自分が先行すれば同じ事をやるだろう。あらゆる手段を使って全力で勝利する。二代から腑抜けが消えている。ならば、と自分の中にある制限のようなものを解除した。
 躱したばかりの《蜻蛉スペア》の穂先近くを左手でホールドし、手繰り寄せる動きで己を前に飛ばす。右手に持つ《一ノ谷》を二代の首元目がけて突きだす。

 二代は咄嗟に《蜻蛉スペア》を手放した。バランスを崩し、《一ノ谷》の穂先が首元を掠めるのを逆に掴み、敵の背後の柱に跳ぼうとして目を見張る。正則の背後の柱が向こうに倒れていくのだ。伸縮機構で伸ばした石突きで木材を穿ち、反動を跳躍補助にしたのだ。見事だと思いながら敵の槍を手に収める。
 倒れ行く柱に、襟首が掴めそうな距離で互いの相手の槍を持って対峙した二人は、同時に柱の頂上側に向かって走り出す。疾走の近接攻撃が円運動を描く。二代は《一ノ谷》の穂先を手元に、正則は《蜻蛉スペア》の穂先を手元に。互いに変則持ちで振り回す槍を、二本のバトンを渡し合うように交わし合う。二人の足が頂上を踏んだとき、互いの武器は手元に戻っていた。最後の一合が二人の間で激突する。
 “結べ!―――蜻蛉切!!”、“落ちろ!---一ノ谷!!”
 両者の武器の刃が、互いの相手の姿を映した瞬間、二人の勝負が決した。

 遠くから聞こえていた剣撃音が消えたのを、ミトツダイラは悟った。最後に聞いた音は二代の攻撃タイミングで終わっていなかったが、こちらも清正と戦闘中で、気にしていられない。
 ミトツダイラの口から獣の咆哮が放たれ、身体を曲げて前に倒し、全身を弾くような動きでしなやかに前後させて《王賜剣(エクスカリバー)》を発射する。
 足の瞬発が生む身体の揺れを腰から背骨へ通して増幅。その反動を肩から先へ、手首を連射して刃を放つ。対する清正は《カレチヴルッフ》を身体の前に回し、正対したまま受け続けている。ミチツダイラが一歩前に進んだ時、清正も動いた。ミトツダイラから見て、左方向、左舷の残骸へと逃げるように身を飛ばすのを反射的に追ったが、左に跳んだミトツダイラの逆方向へ清正が動いている。
 え?と思った時には清正は空中で側転を入れていた。《カレトヴルッフ》を左舷の残骸縁の噛ませ、それを足場に蹴り戻ったのだ。右の《カレトヴルッフ》を左舷の残骸に残して、空中で左の《カレトヴルッフ》に手を回している。一瞬だけ時間を稼いだ清正は、構えていては間に合わないと判断し、下を向けて装着した《カレトヴルッフ》がミトツダイラに向いた瞬間、術式を放った。
 “果てろ! 《カレトヴルッフ》!!”
 身体に捻りを入れたため、薙ぎ払うような光砲の持続発射が、ミトツダイラの居た位置をスラストした。《王賜剣》の防御も間に合わない、直撃軌道だった。

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「境界線上のホライゾンⅣ(上)」 終了。
 続いて(中)巻に臨みます。
お楽しみに!

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第359回 それゆけ! 宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ 【完全版】 完結

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庄司卓 「それゆけ! 宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ 【完全版】(12)ハートウェアガール」 <完結>
それゆけ! 宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ【完全版】12


 【前回の記事】が去年の7月30日だったので、ほぼ7カ月で最終巻に辿り着きましたな。

  「無限の住人」も長かったが、こちらも長期中断を含めて19年と7ヶ月で完結です。
 
 コズミックエアウェイに突入するゼンガーたち。
 遂に帰還するオールドタイマー。
 最終決戦の場は銀河団の煌めきさえからも離れた大空虚(グレート・ヴォイド)。

 本編はこれで終わりですが、【完全版】の売れ行きが良いそうで、おまけを出すようです。

 『OPTION PLUS(仮題)』を楽しみにしましょう。

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第358回 ビブリア古書堂の事件手帳(3)

Posted by ヒッター7777 on   2 comments   1 trackback

三上 延「ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~」
ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~

 物語上はまだ平成二十三年四月。東日本大震災の翌月。
 遂に大輔と栞子の前に姿を見せる母、篠川智恵子。

 いやあ、懐かしいなー。ヒッターも小学生のころ、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズや、ポプラ社のアルセーヌ・ルパンを集めておりました。
 従姉妹がシャーロック・ホームズを集めていて、交換して読んだりしたものです。

 サブタイトルの”二つの顔”。意味深であり、納得のいくタイトルです。

 そろそろ物語は後半に入るとのこと。先行きが楽しみです。
 篠川智恵子が10年も家を空けるほど、追い求める古書とはなにか?

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第357回 境界線上のホライゾンⅣ(10)

Posted by ヒッター7777 on   0 comments   0 trackback

川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(上)」 Horizon on the Middle of Nowhere :
Episode Ⅳ-Part 1 適当ダイジェスト⑩


 (承前)
 一本の長剣にも似た槍がある。重量バランスは槍と言うより長巻に近い。刃と柄の長さがほぼ同じだからだろう。右の手指で引っ掛けるように回すと柄の方が重い。とりあえず槍として使おうと宗茂は考えた。
 “教えることが何もないねえ。”と、縁側に座っている酒井が背を曲げた頬杖で言う。“武蔵”が人数分の茶の湯呑みを持ってきて、“その《瓶貫(かめぬき)》の使用法を伝授なさらないのですか?―――以上”と言うのに酒井は答えない。
 “どういうことです?”と宗茂が問うと、屋敷の裏手から誾と、着替えた“浅草”がやってきた。誾は大型義椀に抱えた、まだ割られていない薪を“宗茂様。―――試しを”と、高くゆっくりと投じる。

 薪は1m強ある刃の半場まで貫かれていた。刃がぶ厚いため、貫通後に膨れたように割れる。ただ、少し気になることがあった。宗茂は誾に、己の眼の高さを示してもう一度、投げさせる。今度はオーバースローで、バルデス兄並の速度で投じられた薪を、柄を前後に持ち替え、縦に振る。薪は快音を立てて真っ二つになった。
 “切れ味が落ちましたね。”と宗茂は呟く。先程、貫いた時は無音だった。貫通力が高かったため、貫き終ってから薪が裂けた。二度目は刃に激突して勢いで割れただけだ。だから音もした。この差はなにか。
 三本目の薪は頭上を越えたところを追い打ちで貫いてみた。手応えから推測すると、“貫通時に加速する”という速度補助機能か?
 宗茂は酒井に問う。“貫通攻撃の限定補助。そう考えていいのでしょうか。”に対する答えは“惜しいなあ”だった。全く違うなら、発想も変えられるが、微妙な差異なら難しい。結局、酒井は真相を答えることなく、武蔵アリアダスト教導院の鳴らす、始業の鐘を聞く。

「第二十五章 過去への下がり手」「第二十六章 畳上の感情持ち」「第二十七章 街道上の跳ね娘」
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 真田十勇士のひとり、三好・伊佐は左舷機関部の更に左舷側。重力航行制御ブロックの設置された場所に居た。そこはブロック化された巨大な流体駆動機と冷却施設、それらの制御施設が並ぶ広大な場所だった。
 朝のひと仕事を終え、配給の朝食を食べている伊佐は、“重力航行機関か。初めて見るわー。凄いなー。”と素直に思う。
 真田の里でも技術系の伊佐は主に改良を担当していた。真田教導院には生産設備や保持施設もないし、需要もない。基本、大手企業座や他の教導院から譲り受けた銃や機動殻を、自分達なりに改造するのが伊佐の役目だ。
 そんな彼女に誰も居ない背後から話しかけてきたのは穴山・小助だった。伊佐にしか聞こえない声で“「武蔵」が気に入ったようだな。”という問いに、伊佐は唇を動かさず“とりあえず重力加速器の配線に鋳込みをする。”と答える。それで、「武蔵」が重力加速器を使用すれば「武蔵野」左舷後部の加速器を停止に追い込める。
 由利・鎌之介と根津・陣八は別の作業をしているようだ。だが、伊佐は由利の動きに微妙なズレを感じていると話す。まとめ役という中間管理職の穴山は、私見を保留する。
 “まあ、私は私の仕事をする。”と、伊佐は最後の漬物を齧って立ち上がった。

 里見・義康は「武蔵野」地下第一伽藍堂(ハンガー)と書かれた格納庫に居た。“義”と呼ばれる青い犬顔の重武神がそこにある。左右の鎖太刀に、いつもと違う白い女子用装甲服を装備した“義”を見て、整備を担当した《機関部長》三科・泰三に礼を言う。だが、横にある“八房を見上げ、”まだ起動方法は解らないのか“と問いかける。泰三は頭を掻きながら、どう説明したものかという風情だ。
 “八房”の制御情報術式(プログラム)は「八徳」を持つ人間しか受け付けないと言うが、それが何なのか泰三にも、義康にも解らない。そして、機体を制御する制御情報術式が、色々な部分に絡まりすぎていて、パーツの交換すら難しい。八つの出力系を積んだシビアなバランス調整を求める機体は、パーツを変えながら長く使おうという仕様ではない。
 現状では「四聖武神」クラスに匹敵するが、「里見」の先々代は二年持てば良いと言っていた。当時はなんでそんな弱気なことを、と思っていたのだが、今なら解る。二年前、“八房”が完成した時、「末世」を前に世界が一斉に動き始め、戦国時代が終わる。
 だから―――、「聖譜記述」によれば、「松平」が天下を取った時、「里見」は私の代で没落し、潰える。
 先々代は私が不備を残さぬよう、最強の武神を残してくれたのだ。

 アデーレが格納庫へ迎えに来た。「最上」行きの外交艦の支度が出来たらしい。《会計補佐》から馬鹿げた量の支度金がでたので、思わず家を買いそうななったそうだが、とりあえず服とか、土産の菓子など買わねばならない。
 義康は整備士たちに頭を下げ、従士の方へ小走りで向かう。

 ミトツダイラは顔を赤くして俯いていた。水戸領の町にある仕立て式の衣料屋で、「上越露西亜(スヴィエートルーシ)」行きの衣装をオーダー中だ。表座敷でオーダーを行い、奥座敷でそれを仕立てる。その間の待ち時間で、店の用意した茶なり料理なりを楽しむ。しかし、なぜか喜美や浅間までやって来て、母との戦闘で失ったチョーカーを選んでいるのは何故だろう?
 トーリが選んだチョーカーを喉に手を回してつけてくる。掠って喉に振れる手がくすぐったい。
 “ほーれ、ステイ、ステイ”と喉をくすぐるように掻かれて、犬扱いだが、喉を無防備に掻かれるのは、それを許してもいいという、主従関係感が重なり、かなりマズイというか、気持ちがいい。
 鏡を見ると以前つけていたものに似ている。シンプルで付属の銀の鎖が着いている。選んだ理由は御菓子の家で、トーリがネイトママンに着けられていたものと似ているからだそうで、うちの親は何をしていたのかと悩む。

 正純は仕立て屋向かいの茶店で、湯呑みに入った桃ネクターを飲んでいた。居残り組だから服の仕立てや買い物など必要ないのだが、葵姉に“たまには息抜きしろ”と強引に連れ出されたのだ。
 町の人口は五千人くらいと聞いた。「江戸」と「里見」が崩壊し、「水戸」の住民は不安がったが、今は「武蔵」を格納した「有明」がステルス状態で護ってくれているという感覚のようだ。「武蔵」八艦の住人は、改修作業に加わる者を除いて、全て下の陸港に降りたり、居住用に改装した輸送艦に住んでいる。地上での一息もマクデブルク以来だなと考えていると、仕立て屋から連れの面々が出てきた。
 「水戸」の領民たちはミトツダイラを見ると右手を挙げ、“我らが水戸の領地の繁栄は、領主様と納豆のために!”、“―――我らが水戸の領地の繁栄は、領主様と納豆のために!”、と復唱の上でミトツダイラに笑顔を向ける。
 口を横に開けたままのミトツダイラを横に、正純の表示枠(サインフレーム)に艦長式自動人形“武蔵”から連絡が入った。向井・鈴とウルキアガの「伊達」行きの外交艦、里見・義康とアデーレ・パルフェットの「最上」行きの外交艦が出港する。同時に「上越露西亜」、「伊達」、「最上」から受け入れの先導艦隊が近づいているらしい。
 では私達も、とミトツダイラが言い、正純も道路を歩み出した時、「水戸」の町を東西に貫く主街道が東から西へ掛けて、一閃の光と共に消滅した。

 二代は「水戸」の町で思案していた。朝、酒井の屋敷で立花・宗茂と“浅草”の立会いを見て、それなりに思うことがあった。自分が未熟であるという事だ。何が足りないのか、それが解らない。だから“武蔵”から教えてもらった道場や訓練所を回ったが、「武蔵」の改修に従い、皆、陸港に降りてしまっていた。
 とりあえず「IZUMO」系列の訓練所へ行ったら、道場破りと間違えられ、襲いかかられたので全員張り倒したら看板くれたので、質屋に売った。一カ所行くごとに、自分への御褒美として極東スィーツ巡りを決めていて、疲れると甘いものが欲しくなる。なにせ、逃げ回る初心者を追わねばならないので御座る。
 初心者も熟練者も均等に扱うのが本多家の平等というもの。先日、神肖(テレビ)動画で見た父は、負かした輩を全員、流れ作業で割礼の刑にして御座ったなあ、とスィーツの店を探していたら風が動いた。
 二代の前方。街道のある方で、東西をぶった切る光が生まれたのだ。それは神格武装級の一撃だった。

 北へ向かって上昇して行く外交艦のテラスから、鈴はそれを知覚した。刃物の“鋭さ”が「水戸」の町を東から西へ貫いたように捉えられた。威力は長さにしておよそ500m。だが、幅は道幅ぎりぎりの6m。
 左右の店の軒を吹き飛ばし、道夫深く抉っている。一度、知覚したことのある《王賜剣二型(Ex.カリバーン)》に似ているが、エリザベスが「水戸」に来るとは聞いていない。鈴達の乗る外交艦はこの場を急ぎ離れることにしたらしい。鈴の知覚から、遠ざかる街道の吹き荒れていた破壊の熱が消え去ろうとしていた。

 正純は強い光に眩んだ瞳に、手を翳して前を見た。街道が深さ1m程の浅いV字に削られている。自分は道を渡ろうとしていたので直撃のはずなのに、自分の周囲には破壊の後がない。東側に立つ夏服のミトツダイラに“お前が護って―――”と言いかけると“残念ですが、私だけではありませんのよ?”と小さく笑って東の方向、正面へ身構えた。
 “「水戸」領主、ネイト・ミトツダイラ。「上越露西亜(スヴィエートルーシ)」に出る前に、我が領地を乱した相手を一つ成敗しましょう。”と先程の一閃を切り裂いた武器を掲げる。《王賜剣一型(Ex.コールブランド)》。「有明」にいる《第一特務補佐》メアリの元から飛んできたものだ。そしてミトツダイラが防御の構えした時、もう一つの動きがあった。

 “・・・・会いました!”、風を突き抜けて高速の五連射が通りの向こうの敵へ放たれる。浅間の右肩の上でハナミが柏手を五連射するのを確認して、ミトツダイラの横を抜けて飛ぶ矢の行方を義眼“木の葉”で追う。射撃は動体追尾、高速化の加護を入れてある。先端には着弾を知らせる衝撃術式を仕込んであるが、五本で大丈夫だろうか? 牽制でもう一回、撃つべきか悩んでいると右手横から馬鹿の声がした。
 “浅間!撃つなら今の内だぜ!”の声で、変なオーラが浅間に宿った。
 五斉射の四連射。そのどれもが術式による流体光を曳きながら、二段、三段に加速するもの、加速術式を横組して軌道をスライドするものとエグい射撃だ。
 その行く先、500mの果てに、ミトツダイラは確認した。青い「M.H.R.R」の女子制服に装甲類をつけ、金の長髪に長烏帽子を被っている。そして巨乳だった。いや、武器を一つ持っていた。十文字片レ型というのか、直線の穂先にレの字の副刃を当てた形だ。異様なのはその石突で、まるで杵のように長く太くなっている。
 敵が右脇に抱えた槍に光が生まれた。先程の砲撃かと思ったが流体光の蓄積量が足りていない。そして光の爆発は槍の石突から背後に向かって放たれた。浅間が最初に放った矢群に直撃コースで突っ込む。が、ミトツダイラは敵を見失った。敵は右脇に挟んだ槍に“―――果てろ《カレトヴルッフ》”と告げると、槍の後部、表示枠を重ね、加圧された加速光が爆発し、軌道をV字に抉られた道の中へ移して、一瞬で500mの距離を200m詰めたからだ。
 一直線に腕を組んだ直立で、立てた爪先が小氷の上を滑るような姿勢で突っ込んでくる。だが、浅間の放った矢群は追尾式だった。擦れ違いの後続20発が反転して追う。上から下から道溝の底を走り這う。躱せない、と浅間は思った。あの槍の加速器は魔女(テクノヘクセン)の箒と同じだ。瞬発的な方向転換は出来ない。だが、浅間の義眼は敵の左手の、もう一本の槍を見た。逆レの字型の副刃を付けた対の槍を振り回し、“果てろ”の言葉と共に、道右手に並ぶ屋根の上に跳び上がる。

 金の髪を大きく回し、彼女は動いた。《王賜剣一型》を持つ敵まであと300m。街道からは追尾の矢が迫ってくる。左右の槍を交互に加速し、追いすがる矢群を身に纏うように一本ずつ撃破していく。街道の左右の屋根を飛び跳ねながら、その高速移動が残像を残す。一瞬、影のように両者の中間で跳躍に身を伸ばしたり、宙で方向転換する姿が見えるが、矢を打ち砕く音と共にミトツダイラに迫る。
 残り50m。脇の下や脚の間、上げた顎の下まで纏わりつく追尾矢を潜らせ、矢尻を見せれば払い打ち、腹を見せれば蹴り上げる。最後に宙で身体を仰け反らせ、オーバーヘッドの浴びせ蹴りを決め、通りの溝に着地する。
 顔を上げ、正面を見た彼女は両槍の先端に光を与え、声を発する。“果てろ《カレトヴルッフ》!”
 加速した瞬間、正面から影が来た。避けようもなく、輸送艦が彼女を直撃した。


 「水戸」街道での二組の激戦!
 対「武蔵」戦闘部隊、《十本槍》の実力は如何に!

 お楽しみに!

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第356回 無限の住人

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沙村広明「無限の住人」(30)完結
無限の住人(30) 完

 連載19年半、ご苦労様でした。
 沙村さんの絵のタッチがとても好きで、毎月、読んでいました。

 万次さん、ジョン万次郎だったんですか(笑) 丹下左膳だっりもする。

 高橋留美子「人魚シリーズ」、ロバート・A・ハインラインの「メトセラの子ら」「愛に時間を」など不老不死を扱う作品は多いですが、普通の人間の数十倍も生きていたら、どんなに親しい人の思い出も忘却の彼方に沈んでしまいます。
 やはり記憶がぼけないうちに、寿命を迎えたいものです。

 「ベアゲルター」1巻を買いに行かないと・・・。

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第355回 人類は衰退しました(3)

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田中ロミオ 「人類は衰退しました」⑧
人類は衰退しました 8

 3巻以来の長編。「妖精さんたちの、ゆめであえたら」

 前巻で壊滅してしまったクスノキの里。早急に復興しなきゃならない。しかし?

 質問 働かずとも衣食住がそこそこ満たされた場合、人々の意欲はどうなりますか?
 回答 【                                】

 はい、正解です。よく、できましたね。

 妖精さんがいれば、電気料金値上げなんかないのではないか。

 おじいさんは発見されたシャトルで月旅行に行ってしまい、全権がわたしちゃんの肩に。

 わたしちゃんとY嬢とプチモニの「クスノキの里」再興計画(村おこし)とは?

 拡張現実とはこんなに恐ろしいものだったのか。「攻殻機動隊」が読めなくなるな。

 わたしちゃんもY嬢も20年以上の記憶を持っていることが判明。

 にっちもさっちもいかなくなり、不眠症になったわたしちゃんは、ついに学舎時代の巻き毛ちゃんにまで手紙を送るほど追いつめられる。

 遂にわたしちゃんのダークサイド全開の駆除作戦開始。

 ラスト。ええーーーーーー? 次巻に続く?

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第354回 境界線上のホライゾンⅣ(9)

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(上)」 Horizon on the Middle of Nowhere :
Episode Ⅳ-Part 1 適当ダイジェスト⑨


「第二十三章 青の場の青き思い人」「第二十四章 場違いの相談者」
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 武蔵アリアダスト教導院、前側校舎三階の生徒会室。「極東」女子の制服とエプロンと三角巾を付けた大久保と加納が、室内の片付けをしていた。“さて、これだけ片したらええやろ。変な人形やいやらしいゲームとか、そんなんばっかりで、ろくなもんやあらへんかったなあ・・・”、半目の大久保の横で“記録によると、ここが使用されるようになったのは酒井《学長》の代以来とか。”と、加納が言う。
 “酒井《学長》が《教皇総長》と抗争する際、移動手段として旧「武蔵」を使い、その時、ここに寝泊まりしていたとか。” Jud.と大久保は成程の意味で頷いた。
 “大したお人やな。あの当時で《教皇総長》に逆らって勝つとは。加納、折を見て動くで。「生徒会」、「総長連合」を主とした三国への大使派遣は、どういう手筈になっとるんや。”
 “情報によれば、先ほど、三国からの了承が暫定議会経由で届いたそうです。現在、「青雷亭本舗」で会議中とか。”

 「青雷亭本舗」は満員状態だった。本多・二代と立花夫妻は居ない。正純がそれぞれの食事が終わる頃合いを見て話を始めようとする。全裸エプロンが外に“非営業中”の看板を出そうとするのを、里見・義康
が“大使の選出なら私は関係ないから”、と表で見張りに立つ。アデーレ・パルフェットも犬たちを呼んで裏口の方を担当すると言い、一緒に表口に向かう。
 “では”と改めて正純は右の指を三本上げて告げる。“これから「武蔵」は三方面への外交作戦を展開する。皆の中から「上越露西亜」、「最上」、「伊達」の三家へ数名ずつ行って貰うことになる・”
 作業服姿の直政は左手を挙げて「武蔵」の改修を優先したいと言うが、正純の決定には従うと言う。「武蔵」全体の改修を行う直政が、正純を立てたことで反対意見は出にくくなったはず。有り難いと正純は思う。
 まだ「武蔵」は敗戦後の時間だ。どこかで明確に、新しい区切りを作らなければならない。
 “「武蔵」の基本方針は、失わせないこと。よって三国に対する基本方針は、奥州の和平と安定だ。”

 里見教導院《生徒会長》里見・義康は「青雷亭本舗」の入り口前に用意した椅子に座り、表示枠(サインフレーム)を見ていた。奥州は今まで、争いをなるべく抑え、それぞれの発展を競ってきた。「松平」が将来、「極東」の覇者たらんとするならば、奥州の列強が欲しいものを理解しておかなければならない。それを忠告しようかどうか、迷っていると、正純の次の言葉が出た。
 “和平と安定を望む。―――意味が解るか? 「武蔵」《副会長》として、ここにいる皆に厳命する。歴史再現については、基本、無視していい。また、「武蔵」に対しての攻撃は止めるな。こちらが防御すればいいだけのことだ。だが、それ以外の抗争や、歴史再現を用いて何かを失わせるという事については、絶対に阻止しろ。”
 正純は腰を上げ、皆を見渡し、口を開く。
 “「伊達」、「最上」、「上越露西亜」の三国と協動し、「松平」の作りうる和平と安定を提示する。「羽柴」によって起された抗争の流れを一時の夢とし、「羽柴」の朝鮮侵攻への歴史再現を終えさせ、時代を「松平」の世に進めるということ。未来を私達の手に掴むのだ。”

 「武蔵」《副会長》の宣言に対し、義康は何も言えなかった。眉根を詰めて息を漏らした彼女は、視線だけで横にいるアデーレを見る。眼鏡のジャージ姿はやって来た犬達に餌をやり、“じゃあ、あっちをお願いします。変なの来たらガブッっとやっていいですから”と三匹小隊を送り出していた。
 振り返るアデーレに、今の正純の発言をどう思うか聞いてみる。アデーレは、「武蔵」ではよくある発想だし、それが出来るだけの人間もいる。外道ばかりですが、と答える。
だが、昨夜は伊達・成実に内政干渉はしないと言ったばかりなのに、今度は抗争を止めるために介入しろとは、と考えた義康は、いや、自分は部外者だし、「武蔵」のお手並み拝見といこうと考え直した。
 そこへ表示枠(サインフレーム)から、正純の声が聞こえた。
 “じゃ、まずは「最上」行きは、「里見」《生徒会長》とパルフェットな。頑張れよ。”

 “待て―――!!” 義康は一歩目から全速力をぶち込んだ。ドア前にポーズを付けて立っていた全裸が、勢いよくドアと壁に挟まれた。
 “何を考えている!? 何故に、私が!”と問われ、正純は皆と一緒に顔を合わせた。ホライゾンが右手を挙げ、皆の了解の頷きを取ってから、“この反応は、新鮮ですね。”
 うん、と頷いた正純は、ふと、気付く。私は「武蔵」に染まってきちゃってるのかな?と思い、浅間・智に“えーと、浅間? 出来れば今度、外道メーターかなにかの検診を・・・」と言いかけると、あちらを向いた浅間が、走狗(マウス)のハナミと表示枠のメーターを見ながら、こそこそ話をしている。
 視線に気づいたハナミが手刀で表示枠を割り、浅間が“え、ええと正純! 何でもないですよ、比較的大丈夫ですから!”と言うのに、何と何を比較したのか疑問を持ちながら、義康に答える。
 “どうした「里見」《生徒会長》。なにか問題が?”
 義康は声を荒げて、“どうして私が「最上家」担当の大使になる? 「里見教導院」の人間だぞ?”
 正純は即答する。“「里見」と「松平」が組んだ、という意味を見せる。というのが理由の第1点だ。その上で、「里見教導院」が奥州の和平と安定に貢献したいという意思があることを示す、というのが別の1点。” 
 はっ? というように口を開ける義康に、“「里見」は現在の奥州になにもしないのか?”と追い打ちをかける。義康が“そういう訳じゃないが、領土が・・・”と眉を歪める。
 “まあ、「里見」の事情も解らないでもないさね。”と直政。
 “流石に「里見」の土地があれじゃあ、代表として鬱キャラになっても仕方ないわ。まあ、一コ下だし、私達がやることを見ていればいいのよ。”とナルゼ。
 “馬鹿にする気か!?”と息を吸い、義康は皆を見据える。

 乗って来たな、と正純は皆とアイコンタクトを行う。さらに、葵姉が言葉を継ぐ。
 “だってペタ子。あんたの言う通りなら「里見」は何もしないんでしょう? いや、出来ない訳よ。領土や民や、金とか、胸とかいろいろ足りないものがあるもの。”
 “いや待て、胸は関係ないだろ胸は!”
 正純は義康に告げる。“さあ、大体のところはわかっただろう?”
 “解るかあ―――!”と言い、吐息で肩を大きく落とした義康は一言、“―――解った”と呟く。
 “国もない。民もない。金もない。あるのは私自身と、私を存続させている歴史再現だけだ。だが何も持たない私にも、出来ることが一つある。「里見」の全てを持って外交に望むことだ。そうだな?”
 “そうだ。国力が無いが故、「里見」は歴史再現が交渉材料の基礎となる。そして、「武蔵」の代表として行動することで、外交予算が出るし、「武蔵」を国としてバックにできる。”
 義康は改めて肩の力を抜き、正純を見て頭を下げた。
 “よかろう。「最上家」には私が行くことにする。諸処の手配を頼むぞ。”

 正純は入口から覗き込んでいる、アデーレに声を掛ける。“パルフェットは今回のみ、《第五特務補佐》とする。ミトツダイラは「最上」に行かないが、「里見」《生徒課長》の補佐役と考えてくれ。”
 Jud.と答えるアデーレと共に、里見・義頼はドアに手を掛け、“今後は外で聞いている。”と表に出る。

 正純は「里見」《生徒会長》とアデーレが出て行ったドアが、ゆっくりと閉じ、外にいる二人と通神回線が確保できたのを確認した上で、次の大使の話を始める。
 “次は「上越露西亜」に行く人員だが、ここは少々、難しい問題を孕んでいる。なにしろ、「P.A.Oda」と抗争中だし、更に「上杉家」は後に親「羽柴」となり、天下分け目の「関ヶ原の決戦」で、「松平」と長く敵対する勢力だ。”
 正純は腰を上げ、数歩動き、“メアリ、クロスユナイトと共に「上越露西亜」へ行ってくれ。そして、葵とホライゾンもだ。”
 浅間は正純の顔を見ながら、疑問を呈する。“「上越露西亜」と交渉しても、得にはなる部分は無いんじゃないですか? それに、戦地へトーリ君とホライゾンにメアリまで・・・”
 その疑問に正純は“―――オーゲザヴァラー、頼む。”とハイディに声を掛ける。ハイディの頭の上の走狗(マウス)のエリマキが天井に概要図を大写しする。ハイディは説明を始める。
 “要はものすごく簡単。現在、「極東」の中央部を「P.A.Oda」が押さえ、その東側暫定国境は「清武田」になっていたけど、滅亡しちゃったから―――”と、「P.A.Oda」を示す赤の色が関東の西部まで届いてきた。
 “この侵攻を押さえるように、北東側に「上越露西亜」、南東側に「北条」、東側に「清武田」の「清」側勢力と、私達、「松平」の「武蔵」がいる。だけど、「清武田」はさらに東に押され。「北条」は「羽柴」に滅ぼされる。”ここで概要図の関東から西、南の海に面する地域が一気に赤くなる。
 ここでシロジロが話を継ぐ。“これで「武蔵」は「上越露西亜」を通ってしか、西との行き来が出来なくなる。だが、反ムラサイの「上越露西亜」は親「羽柴」になるがムラサイ派の「P.A.Oda」になるわけではない。そして、「三河」の一件以来、「武蔵」は各国の蓄財を管理する巨大な銀行となっている。”
 ハイディが概要図を操作すると、「極東」の西側に赤い丸が幾つも表示される。
 “「三方ヶ原の戦い」以降、各国は「武蔵」に預けた金の自己凍結を行った。「P.A.Oda」が「K.P.A.Itaria」を乗っ取ったことで、いつ、自分の国が侵攻されても、金をとっておけば復興できるだろう。だがら、「武蔵」に金は預けておくが、使うな、という事だ。また「武蔵」が負けるかもしれないからな。”
 正純は続けて言う。“西側勢力は、現在、「武蔵」が西側に来ることは、今後無いという前提で動くだろう。だが、「武蔵」と「上越露西亜」が友好関係になれば、金融凍結解除を視野に入れることが出来る。そのため、ホライゾン達要人が「上越露西亜」に向かう意味がある。”

 店の外にいる義康は表示枠(サインフレーム)に次々と現れる正純の言葉を追っていく。
 “経済面、通行面で「上越露西亜」との敵対関係は作りたくない。なにしろ、「大罪武装(ロイズモイ・オブロ)」の保持教導院だしな。それに「上越露西亜」を西に行き、「波蘭(ポーランド)」を抜ければ「M.H.R.R(神聖ローマ帝国)」や「阿蘭陀(オランダ)」が近い。”
 ミトツダイラが“「阿蘭陀」まで行けば、「極東」一周ですわね・”と言う発言を読み、義康はこの連中よりは自分の見聞が狭いのは確かだと、そう考えるのは嫉妬だろうかと思う。
 正純は水戸領主の言葉を受け、続ける“そう、出来れば北海通行を獲得し、ヴェストファーレンの戦勝国、「瑞典(スウェーデン)」の《女総長》クリスティナや「阿蘭陀」の《抵抗総長》オラニエ公と会う道も確保したい。だから、ミトツダイラ。お前も「上越露西亜」に行ってくれ。メアリとお前は護衛役だ。実質的な力量もあるが、立場的にもな。”
 隣のアデーレが、“どういうことです?”と聞いてきたので、義康はその意図を語る。
“水戸領主は「六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)」の重鎮の娘。メアリ・スチュアートは次期「英国」の王の母だ。「上越露西亜」としてはこの二人にもしものことがあれば、「六護式仏蘭西」と「英国」を敵に回すことになる。逆に言えば、この二人の覚えが良ければ「上越露西亜(スヴィエートルーシ)」としても二大国の心証が良くなる。立場とすれば、最強の護衛だろう。”
 使える人員は使い尽くす。是が非でも「上越露西亜」との安定を取り付けたいのだろう。と、思ったとこに全裸の発言が目に入った。
 “しょうがねえ。初夏だっていうのに冬服を用意しねえとな。だけど、おい、テンゾー、どこだよ?”

 メアリは皆の注目を浴び、どうしようか迷った。そこへナルゼとナイトが疑問を挟む。
 “昨夜の襲撃現場の検分に行ったのよね。独自調査?”、“大体の検分は昨夜で終わってるから、テンゾーが行く意味はあまりないとナイちゃんおもうな。”
 口ごもるメアリにミトツダイラが“《第一特務》の身でありながら、昨夜の情報収集などで後れを取ったので、少々、思うところがあったのでしょう。”と助け舟を出す。確かに点蔵は朝食の時に無言で考え事をしていた。もっと、相談してくれても、構いませんのに・・・。ほう、と吐息をつくと、周囲の皆が、何故か互いを扇ぎ始めた。
 メアリは点蔵がこの場に居ないことを前提として、皆に相談しようと決意する。今朝のような事があった場合、彼にどんなことをしてあげればいいのか。
 “あの、ちょっと、点蔵様のことで、御相談宜しいでしょうか。今朝のことなんですが。”
 女子連を中心に、“どうぞどうぞ”と前のめりになってくる。彼についてのベテラン達に相談できる安心感に、メアリは言葉を作った。
 “あの、今朝、私が朝に起きた時に、点蔵様が・・・”
 極東弁は不慣れだ。いつもと違う、という言い方では通じない気がする。端的に言うために言葉を選ぼうと、メアリは考える。朝、彼はベッドの上に座り込み、腕を組んで俯いていた。なんか落胆したような、いや、残念とも、自戒とも違う、落胆に似たニュアンスの言葉、失望のこと。
 “点蔵様、今朝、起きた時から、その・・・・” 
 メアリは頬に手を当てこう言った。
 “点蔵様、―――おちんこでてましたので。”

 皆が沈黙したまま、内輪だけで相談し、正純が一歩前に出た。“あの、メアリ?そ、そのクロスユナイトだが、―――あの、本当に、その、あの、ちん、ちっていうかあの―――”
 頬を真っ赤にした正純に、メアリが会釈して言う。
 “御心配有難うございます。でも、確かに点蔵様は、今朝方早々からおちんこでてましたから。”
 正純が肩を落として憔悴した顔をしているのを見て、大変ですわね、と同情の声を掛けようとしたら、“任す。”とネタ回しされたミトツダイラは、どう質問しようかと考えた。《第一特務》のの朝の健康状態や硬度状態を聞くつもりはない。もっと客観的にと、無理に作った笑顔でメアリに問う。
 “メアリが朝起きた時、《第一特務》はどうしてましたの?”
 “点蔵様は、こう、胡坐をかいて、壁の方を向いて俯き、―――一人静かに、おちんこでてました。”
 朝から壁を相手に何をやっているのかと、感情的になりかけて、ミトツダイラは一つ深呼吸をした。
 “他に、―――見ていて妙なことは?”
 “妙というか、私から見たら―――酷く強くおちんこでていたようで、以前にも時たまおちんこでていた時はあったんですけど。それで、点蔵様?と声を掛けたらビクッてされて。朝御飯の最中もそんな感じですので、私、ちょっと耐えられなくなりまして―――”
 “メアリ様、ホライゾンが思うにそれで正常です。メシがマズくなりますからね。”
 “そうですよね。大事な人がおちんこでていたら、心配するのが正常ですよね。”
 皆の同意が得られて、メアリは安心したらしい。だがメアリは肩をすぼめて、
 “でも、点蔵様、どうしておちんこでているのか教えて下さらないんです。それから、おちんこでたまま、昨夜の襲撃場所の検分に。”
 皆が嫌な想像をしたとき、店のドアが開いた。
 “遅れてすまんで御座る。《第一特務》、合流に御座るよ!”

 点蔵は、皆が向けてきた、初めて見るタイプの視線に軽く引いた。蔑みと期待がともになった視線で御座るよ? 何故か顔を赤くした正純がこちらに対して右手を挙げた。
 “何で御座るか?正純殿。”
 “ああ、お前、業務に差し支えあるし、風紀にもいろいろあるから、自分をコントロールする時は普通の方法で行けよ?それと、―――表で出すな。”
 浅間が手を挙げた。
 “正純、風紀委員からすると、「上越露西亜」に点蔵君を派遣するのは考え直した方がいいんじゃないでしょうか。―――会議の席で出されると厄介なことになります。”
 “ナイちゃん思うに、「上越露西亜」でそんなことしたら、ソッコーで凍傷になんるんじゃないかな。”
 何の事だか解らないが、メアリが目尻を下げた笑みをむけているので、今朝のことかと気付く。
 “大丈夫で御座る、少々、思うところがあって現場など見ていろいろ思案した結果、スッキリしたで御座る。”
 周囲で皆が表示枠で何かを話し合ったり、ナルゼがトンボ枠型表示枠に、もの凄い勢いで何かを描き始めたが、正純が頷いた。“詳しいことはログでまとめて送るが、「上越露西亜」行きの大使としクロスユナイト、お前とメアリ、ミチツダイラ、ホライゾンと葵に行って貰う。―――頼むぞ。次は「伊達家」へ向かう者だが,―――向井とウルキアガ。二人に頼む。”

 鈴は身を引き締めた。驚きがある。何故自分が、という不意打ちだ。だが、何となく正しいとも思う。なぜなら、“「英国」、―――の時?”
 “そうだ、既に外交役としての前例がある。更には「武蔵」《館長代理》だ。役職として充分だろう。それを預けるという事は、つまり向井、―――お前は「伊達」側から見たら人質という観点が強い。”
 ここで“「武蔵野”の割り込みが入った。”介入します。ぶっちゃけ、「武蔵野」艦橋の実務からすると、鈴様=浅間様>アデーレ様>その他の皆さま>ネシンバラ様>《総長》、という区分です。浅間様は通神関係でお世話になり、浅間様がおられませんと、大部分の通信補助が無くなり、私どもの負担が大きくなります。鈴様は周辺感知によってこちらの負担軽減を、アデーレ様は航行の実務。以下、ネシンバラ様:悲観的推測と強引な飛行指示がかなり危険。《総長》:邪魔、スカートをめくる、全裸、寝る、艦橋のモニターでエロゲする等々、というところですね。―――以上。“
 鈴は正純の方へ顔を向け、“「伊達家」の人たち、って、わ、悪い人?” その問いかけに答えたのは正純ではなく、己の尻尾を立てて、それに座っていたウルキアガだった。“姉がいないのが悪だとするならば、悪であろうな。”
 “ウルキアガ、言っておくが、「伊達」の《総長》政宗は女性で、弟がいるぞ。”
 “「伊達」は善人だ。向井外交官。”
 “じゃあ、い、行っても、何もない、よね?”
 “その筈だ。なにしろ「伊達」は将来、「松平」の認可をもらっって奥州の覇者となる。この時点で両教導院に問題が起これば、「伊達」は将来を放棄したようなものだ。”
 鈴は“ん――、そ、そう出来るよう、頑張る、ね。”

 これで三国へ派遣される大使が決まった。
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 時間が無くて予定の半分しか進まなかった。
 とりあえず三国への大使が決定した。
 《十本槍》の登場は次回に。

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第353回 バンシィ(12)

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バンシィ(12)

 両脚部のデカール貼り。数が多いので片側分で3時間ほどかかった。
 トップコート(半光沢)を吹いて就寝。
 翌日、反対側をぺたぺたと貼る。

 延べ、6時間ほど。

 外側、内側
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 前側、後側
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第352回 史上最強の弟子 ケンイチ

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松江名 俊 「史上最強の弟子 ケンイチ 」 50巻
史上最強の弟子 ケンイチ 50


 ちょこちょこ買っていたら、いつの間にか50巻になっていた。
 「一影九拳」同士の戦いも決着。美羽ちゃん奪回作戦終了です。

 息の長いシリーズもいいですが、他の作品も書いてほしいな。

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第351回 境界線上のホライゾンⅣ(8)

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(上)」 Horizon on the Middle of Nowhere :
Episode Ⅳ-Part 1 適当ダイジェスト⑧


「第二十一章 未明の不明人」「第二十二章 霧立つ庭の冴え者」
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 また悪い想像をしてしまった。彼は家の中にいる。絶対いる。と、浅間は自分の怯えを正した。
 もともと、リビングとして用意された八畳ほどの空間。廊下とはカーテンで仕切られただけの空間はトーリの部屋だ。ベッドで寝ている野生じみた寝相のミトツダイラを見つつ、浅間は素足で床板の上に立つ。横の机には電纂筐体(PC)のエロゲの箱が積まれて充実しているのを見て、“あ、これ、私が毒見したやつですね。ちゃんとプレイしているんですか。” よしよし、と自分の苦労が報われたと納得し、カーテンをずらして喜美の部屋を確認する。
 同じように泊まった鈴を、抱きしめるようにして喜美は眠っている。だが、トーリの姿が見当たらない。両親の寝室にも気配がない。店の方かと思い、ドアに手を掛ける。“いますよ、ね。”

 思い出すのは昔のこと。この不安が生まれたのは、―――ホライゾンがいなくなったとき。トーリも「三河」へ連れ去られ、いなくなったのだ。浅間は事故現場を見ていない。だから、ホライゾンとトーリがどうなったか、当時もよく解っていなかった。
 “ホライゾンが死んだ”ということが伝わってきて、喜美以外が理解できた順に泣いたのだが、泣かなかった喜美が“泊まりに来て”と頼んできたのは、それからしばらくのことだった。浅間の父が、喜美が浅間神社に泊まりに来たほうが良いと諭したのだが、“トーリが戻ってきたときに、誰もいないと駄目だもの”と譲らなかったそうだ。当時は自分とホライゾンと店舗内で四人で布団を敷いて寝たりしたものだ。だが、喜美に誘われて泊まった最初の夜、喜美のベッドで二人で寝て、たわいもない話をしながらどちらともなく寝てしまった後、丑三つ時と言われる時間に“それ“は来た。
 誰もいないのに誰かいるような気がする。自分達が知覚できないものが、こちらを捉えて、見ているような気がする。気がつけば喜美がこちらにしがみついてきていた。そして理解したのだ。喜美が泊まりに来てと、そう頼んだ理由を。
 “ねぇ、ホライゾンが、来ているのかしら。” 喜美が小さい声で問うてきた。“それとも、トーリなのかしら。” 家鳴りが起きたことを発端に、このドアを開けに行った。ひょっとしてトーリが返ってきたのかもしれないと。だが、誰もいないのに誰かいる気配がした。巫女の修業は行っていて優秀だと言われていて、射撃は特に優秀どころではなく轟秀くらいの勢いでしたが。なにも出来ないと悟って喜美のベッドに戻り、二人で頭から毛布を被った。
 しばらくして、彼は戻ってきたが確かに一時期なりとも“いなくなった“。あの頃の自分は、彼に何もしてあげられなかった。このドアの向こうに彼がいなかった場合、自分はどうすればいいのだろうか。

 「青雷亭本舗」の中は疑似の陽光だけが光源で薄暗かった。
 “おお、浅間。早かったな。“ 影が三つあった。正純とメアリと、もうひとつ。”いた。良かった――“ 力を抜いた肩の動きに引っ張られるように、目尻から粒がこぼれた。
 思わず泣いてしまった浅間に気付いた三人で、最初に動いたのは正純だった。“葵、お前、浅間に何をした!? 「武蔵」の貴重な遠距離攻撃系通神管理者兼うちのツキノワの親元だぞ!”、
 “いえ、違いますよね?”とメアリが自分の目の前の空いた席を指して言う。“よく解りませんが、嬉しかったのですね?” その言葉に思わず頷きそうになって思いとどまる。
 “ちょっとすいません、メアリ。食事の前に水垢離があるので。”と誤魔化す。“じゃあ、オメエの分、適当な頃合いに作っとくぞ。早く行っとけよ。”とのトーリの言葉に、浅間は“これから学校に行く前に会議ですか?”と正純に問いかける。
 “外交官として派遣する大使を決める必要がある。早ければ今日中に出立してもらうことになるから。メアリ、クロスユナイトと立花夫妻は?”
 “点蔵様は思うところがあって、昨夜の襲撃の現場検証に。立花様お二人は、先ほど酒井学長から呼集があったとかで―――” メアリは首を傾げて、“「武蔵」の戦力としての強化を考えたい、とか。”

 “と、まあ、そういうわけで、一人でも《無双》の戦力が三人揃うとワクワクするね。”
 酒井家の屋敷内。ジャージ姿の立花夫妻が玉砂利の庭で片膝をついていた。“どのような御用件で?”と誾が問うと、酒井は二代にさっきの申し出はホントにいいのか、と話を振る。二代は《蜻蛉スペア》を掲げ、“拙者には、―――これがあるので御座るから」と己を納得させるように言う。
 そう言うと思っていた、じゃあ、と酒井は笑みを立花夫妻に向け、“《副長》が不要と言うし、いいものがあるんだよね。”と背後にいた“武蔵”を促す。“武蔵”はサンダルをつっかけ、庭に降り立つと、一本の鋼槍を地面と水平に掲げた。
 “酒井様が現役時代に使用していた「準神格武装」《瓶抜(かめぬき)》です。―――以上。”

 その2m強の槍を見て、誾は呟いた。“確か、敵城内にて、瓶の後ろに隠れていた戦闘員を瓶ごと貫いたという酒井様の武勇伝に基づくものですね? ぶっちゃけ、似たような名前が結構ありますね。”すると宗茂は“仕方ないですよ。戦国武将や剣豪は何か割ったり切ったりぶち抜いてないと我慢できない可哀・・・、貴重な生き物なんです。”
 “よく考えると拙者の《蜻蛉切》も一種の動物虐待に御座るなあ”
 “いえ、《蜻蛉切》は停まった蜻蛉が勝手に切れただけで除外です。「武蔵」《副長》。”

 “宗茂君。これ欲しい?”と酒井が聞くと、“いいのですか?”と宗茂は聞き返す。すでに腰を上げかけている彼に、酒井は笑みで言う。“おじさん。ちょっとワクワクしたいんだよなあ。”
 酒井が手を叩くと庭の中央に人影が生まれた。その自動人形の名を誾が特定した。“浅草“だ。
 “一番艦艦長、参上しました。”と短い髪を揺らし、腰のハードポイントからあるものを外し抜く。
 “「三河」製重力刀。これにて、試験としての御相手を仕ります。―――以上.。”

 玉砂利の庭の上で、二つの影が向き合っている。
 “立花・宗茂。―――試験を御願い致します。”
 “一番艦艦長式自動人形として、精査いたします。―――以上。“
 離れた位置。屋敷側に立つ誾が鳥居型の表示枠(サインフレーム)を出し、紋章陣を展開する。
「武蔵上旧派(カトリック)技術承認:浅間神社にて仲介承認:確認」
 旧派紋章陣が重なり双剣が生えてくる。それを宗茂に向かって放り投げるが、無造作な義椀の投擲は風を割って宗茂への激突コ-となる。宗茂はその双剣を手指を引っ掛けて上空に跳ね上げ、続いて投げられた三本目、四本目をの長剣を直に手に取り、腰のハードポイントにセット。同時に落ちてきた二本の長剣を両手に持つ。
 対して“浅草”の両手には刀身のない刀の柄鍔が一本ずつあり、その柄先に白い霧が立ち始めた。その霧の中に“何もない”刃があるのが解る。長さは60cm。
 “「武蔵」左右舷一番艦、後寄せより認められた輸送艦なれど、如何なる時も「武蔵」の行く手にあり、水先、方向において先頭を行く身分に御座います。その役目は、ただ行くだけでなく切り拓きの防人の役に御座います。がから―――”と言う言葉と共に重力刀の長さが変わった。自動人形の特徴である《重力制御》、その力を加圧補助として、二刀の厚みと長さが増す。見えぬ刃は長さ2mを越え、“「三河」製自動人形専用重力刀《霧拓き》。「武蔵」の武装としてグレーゾーンなれど、この度、訓練の一環として使用許可をいただきました。―――以上。”

 一歩のステップで“浅草”は宗茂との距離を無にした。その動きを宗茂は見ていた。自動人形との戦闘は初めての経験だ。人間とは違う相手。《重力制御》、痛覚無視前提、身体も人間の関節の可動範囲を無視した動きを取るという。だが、判断の累積は持っていても、心というものをほとんど持っていない。機能として組み込まれた術式か、外部燃料式の術式しか使えない。興味深い、と宗茂は思った。
 “浅草”は右正面から飛び込んできた。身体を前傾低めにして、右の重力刀が胸前から体外側に下腕ごと回転する。人間には不可能な関節可動で、宗茂側から見て八時の位置で止まった重力刀が逆袈裟で切りかかる。僅かなバックステップで躱した宗茂は、通り過ぎた“浅草”の右腕と逆方向の左側から背後に回ろうとした。その背を見ながら相手の体重移動や、踏込の無駄を読む。その直後に“浅草”の右腕が追撃してきた。
 いきなりの追い打ちの一撃は、右腕が右の肩どころか、肩甲骨部分まで動員し、背越しにこちらに突き込まれてくる。躊躇いのない顔面狙いの突き込みに、下ろうとして堪え、左に全身を跳ばす。その判断が身を救った。“浅草”が右の一刀を手放したのだ。宗茂の顔の在った位置を、砲弾のように重力刀が深く抜いた。
 だが攻撃はまだ終わっていない。全力で“浅草”の背後に回ろうとする宗茂に、“浅草”の左の重力刀がカウンターで回ってくる。こちらも関節の動きを無視した動きだ。そして、放たれたはずの右の重力刀が、《重力制御》で引き戻され“浅草”の手に収まる。顔は正面を向いたまま、背中を抱くように左右の重力刀が、宗茂の胴と腰の位置を挟撃する。上下に逃げても補正してくるだろう。ならばどこへ回避する? 宗茂は判断した。これから取る行動は自分が、かつて受けたことがあるものだ。
 
 二代は視界の中央で宗茂の動きを捉えていた。“失敬”と言葉をつけ、前傾で階段を上るようにな動作で“浅草”の腰に足を掛け、歩いて行く。それは「三河」で自分が宗茂に対して行った動作。
 二代の加速術式《翔翼》は速度を上げるのに邪魔になる要因を祓禊いしていく神道術式だ。累積展開することで高度化すると、障害物は平地と変わらなくなり、激突の攻撃すら単なる足場とできる。
 しかし、旧派(カトリック)の宗茂はその術式を持っていないはず。術式なしの体術だけでやっているなら、それは自分と実力が違うということだ。

 屋敷の方で酒井が誾に問い掛けている。“体重制御だね。誾君。そういうことだろう?”
 “Jud. 宗茂様の得手は、元々、バランス感にあります。そしてリハビリの壁上りや、収入源の揺れる足場での作業、襲名解除によって失った収入ゆえの節制。空気中の埃を蹴って真っ直ぐ跳ぶような、私達の理想にはまだ届いていないのですが。”
 宗茂が“浅草”」の肩を越え、向こうへと降りていく。縁側に正座した“武蔵”がそれを横目で見て、“ですが、うちの一番艦艦長も、大したものですよ。―――以上。”
 ・・・霧? 霜を纏うような薄霧が大気に舞っていた。宗茂に乗り越えられた“浅草”が、二つの動きを見せたのだ。

 “浅草”は動作した。振り抜き、躱された両の攻撃を背から前に大きく回し、身を起す。その両袖から追加の二刀が、スカートやエプロンの裾から脇差型の重力刀、二十四本が宙に出る。さらに大刀四本が現れ、“総数、三十二。経路の安定が見込めましたので、御提供致します。―――以上。”
 周囲一帯を白く染め、振り返ろうとする宗茂に、宙に浮く全ての重力刀で攻撃を狙う。本来ならば単体でこの数の重力刀を制御することは出来ない。負担が強いため、後の業務に支障をきたす。それを可能としているのは“浅草”の同型艦”品川“のバックアップがあるからだ。左右舷の対艦はそれぞれ同じものであり、どちらも一番艦艦長である。三十二本の重力刀の出力負担を分け合い、宗茂の動きのデータ化を共通記憶で”品川“が行って、”浅草“が動く。

 宗茂は跳躍し、距離を取る。危険だ!。出力強化で長さは自在の無刃刀の重層攻撃が白い霧を切り拓いて飛んでくる。飛んできた大刀を身を低くして躱すが、そのまま左に低姿勢で跳んだ。なぜなら、頭上で止まった大刀が《重力制御》でまっすぐ落ちてきたからだ。そこへ“浅草”が打ち水をするように手を振ると、小刀十六本が飛んでくる。振りかけられる刃は左右に逃げても回避できず、頭上には二本目の大刀が飛んできている。後ろに跳躍するのは、今の前傾姿勢では不可能だ。足元は玉砂利が敷き詰められ、強く踏み込めば崩れて乱れるかもしれない。それでも行くしかないのだ。
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 “浅草”は玉砂利の庭に大刀が叩き込まれ、十六本の小刀が突き刺さるのを見た。“品川”も知覚データを共有したはず。霧の間に小さな流体光の残滓が漂っている。
 “浅草!左です!”振り向くより早く、左手の最速の一撃をそちらに疾らせる。しかし軌道を変えられた。位置を補足する“品川”から宗茂の追撃パターンが八十四通り送られてくる。自動人形の高速判断によって絞られ、七番目を選ぶ。膝関節を抜き、身体を前下に落として左の一刀を“品川”に指示位置に叩き込む。カウンターになったはずだが、何かが左から右へと飛び越えていったことしか判らなかった。
 知覚系を任せていた“品川”が右手を確認しろと言う。見ると右手の手袋が無くなっていた。そして右肩の上にその手袋が載っていて、その上に載っていた物は頭部に付けている、髪飾り型間隔補助素子だった。
 今の擦れ違いの中で行われたのだろう。自動人形の《重力制御》は主に手や腕の動きをモーションコントロールするものだ。そこに干渉できるという警告だ。
 宗茂は30mほど離れた位置に、玉砂利を長く引っ掻いて着地している。こちらに対して前傾姿勢だ。
 肩に載っていた手袋を、自分と宗茂の間に投じ、告げる。
 “続行です。さあ、見せてください、新しい防人の力を。貴方が何をして、先程の攻撃を躱したのかを。
 何故なら、私は、試験管だから。―――以上。“

 右舷一番艦「品川」の前部甲板で“品川”が動きを止め、目を伏せる。今までの戦闘データより、重宗は最短距離を一直線に来ると判断した。この若者は「試験」において、迂曲するような道を選ばないだろう。霧の谷を作り、中央に刃を置くよう“浅草”に情報を送る。彼に対し、「試験問題」は一つだ。三十二の刃を全てカウンターで叩き込む。

 宗茂は霧の中の低く構えられた刃の構えを防護と見た。居合いにも似た刃の群れに対し、確実な速度を己に叩き込む。

 刹那の時間ですでに《霧拓き》の半ばまで宗茂が到達したことを“浅草”は悟った。自動人形の判断速度は人間の一千倍以上を基礎とし、最速で百万倍近くに達するが、苦手なものがある。「初見」の事実だ。対応マニュアルも何もなく、幾つかの対処は列記することは出来るのだが、何が最善なのか判断できない。
 宗茂が作ったのは“浅草”にも“品川”にも不知の速度だった。宗茂の足。両踵の後ろに現れては消える鳥居型の紋章がある。何のデータも無い術式をもって宗茂が加速した。

 二代は妙を感じていた。自分の《翔翼》がそうであるように、神道式の加速術式ならば移動先に出ていなければならない。神道は祓禊の術だ。不要なものを祓うというルールにより、「行く先にある加速の邪魔をする因子を祓う」ので《翔翼》などは膝前や足の甲に展開する。しかし、宗茂の術式は足の裏・爪先や踵に表示されている。
 それに誾が答えた。試験段階だが、と。
 旧派(カトリック)術式の加速術を神道式に叶えようとしても、根本から考え方が違うので不可能に近かった。重宗が好むのは踏み込みに応じた強い加速である。ならば、己の「行く先を祓禊ぐ」のではなく、「加速する足場の不純を消す」という考え方をした。それが逆式加速術《駆爪(かけづめ)》である。
 この術式単体では何の加速力も持っていない。足の踏む場所、加速用の足場から加速の邪魔となる不順を全て消し、踏むごとに踏んだ分だけ加速力を累積していく。その加速力は、それを踏んだ者の脚力に従う。
 だが累積された加速力は制御されなければ、術者そのものを吹っ飛ばすだろう。それを制御できるバランス感覚を持った者でなければ。
 宗茂の元来の脚力はまだ戻っていない。だが、壁上りや悪い足場で培ったバランス感は着実に育っている。
 “頑張って下さい、宗茂様・・・!”
 誾が告げた直後、霧の群れが動作した。宗茂の初速に対応出来ていなかった“浅草”が迎撃動作に入ったのだ。既に宗茂に抜かれた刃が追撃に入り、カウンターの斬撃が宗茂に迫る。

 宗茂の判断は一つだった。上下左右前後からの重力刀の連撃に長剣程度では防御にならない。宗茂はただ足場を踏む。霧を割る透明な刃を回避し、重力刀の柄を掴み、《駆爪》で蹴りつけ、加速する。全身を振り、身体の向きどころか、上下さえも逆転させ、地面と重力刀を蹴っていく。追撃の刃さえも、その鍔元を蹴り、爪先を削られながらも加速していく。咆哮を上げ、宗茂は前に全身をぶち込んだ。そこには“的”がいた。

 “浅草”の迎撃は残る二本の大刀によるものだった。二刀を交差するように宗茂に叩き込む。対する宗茂は右の剣を右前の地面に付き刺し、更に加速して“浅草”の交差する大刀を一瞬で潜り抜ける、。敵の懐に入ったと宗茂は思ったが、“浅草”は重力刀の位置はそのままに、己の位置だけをバックステップで下げていた。その位置から先に投げた大刀を《重力制御》で捉え、背後から宗茂に真っ直ぐ打ち込んだ。宗茂は交差して打ち下ろされていた大刀の柄を蹴って右に跳ぶ。その先を追う“浅草”の眼に入ったのは地面に突き立つ二本目の長刀だ。既に刃が振動していて、術式が散った光を放っている。
 “浅草”は手元に戻った二本の大刀を肩の駆動系を解除し、勢いに任せて真後ろに回し落とす。

 誾は最後の動きを見ていた。宗茂は腰のハードポイントから、残り二本の長剣を外し、一本を横にして宙に放つ。そして、もう一本でその長剣を上に跳ね上げた。
 落下してくる二本の重力刀の鍔元に、横になった長剣の刃が喰いこみ、下から長剣が担ぎ押す感じで柄を断ち割った。削音と共に重力刀が破裂する。
 “失敬。出力系の解除をさせて頂きます。”
 最後の長剣で“浅草”首と脇、そして腰のハードポイントを突き抜いて砕いた。

 “庭を直す費用は何処から出ますか? ―――以上。” “いや、俺の家だから、俺の懐かなあ・・・” “学長職の給料の出元は、税金ですね。―――以上。”という酒井と“武蔵”の会話を他所に、長剣を腰に戻した宗茂に“浅草”が一礼する。
 同じく一礼した宗茂が尻から玉砂利の上にへたり込んだ。空を見るように胡坐をかき、“誾さん、すいません。何か食べるものありませんか?”
 誾は苦笑して立ち上がり、座り込んでいる彼を見て「武蔵」に来て良かったと思う。「三征西班牙(トレス・エスパニア)」では、『八大竜王』として「大罪武装(ロイズモイ・オブロ)」《悲嘆の怠惰(リビ・カタシリプレ)》の使い手として、また《西国無双》立花・宗茂として随分、重圧を得ていた。
 自分との訓練でも疲れて座り込む光景なんてなかなか無かった。それが、今、人前で自然と行えるようになったのだ。しかし、
 “宗茂様。先ほどのような勝負の付け方は良くありませんよ。”
 “え?―――ハードポイントパーツは、その人の生命維持など預かるものですから。”
 “Jud. わたしに死を与えたと、そう解釈していいかと。―――以上・”
 と“浅草”が告げた瞬間。先ほど突き抜かれたハードポイントに接続されていたエプロン、肩のフリル袖などが、一気にパージした。何が起きたのか理解出来ていない“浅草”が胸と脚の間を隠して座り込む。不慮の事態へ対処できないためか、思考熱で頬が赤くなっている。
 立ち上がり、平謝りする宗茂の方へ行こうとして、ごく小さな、聞き取れないような呟きを誾は耳にした。
 二代は一歩去って立っており、頭を皆に下げた。
 “拙者、先にお暇致すで御座る。”


 次回。三国へ大使が出発。誰がどの国へ行くことになるのか?
 そして《十本槍》の二人目とは?

 お楽しみに!

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第350回 魔術士オーフェン プレ編

Posted by ヒッター7777 on   0 comments   0 trackback

秋田禎信「魔術士オーフェン プレ編」
オーフェン0

 「魔術士オーフェン はぐれ旅 新装版」全巻買った人だけが手に入れられる特典本。
 旧文庫版の「魔術士オーフェン 無謀編」に収録されていた「プレ・オーフェン」の全エピソードをまとめたものです。
 当時のカラー口絵や挿絵が入っていて懐かしいです。

 現在、オーフェンは新大陸に渡って子供もいちゃったりしますが、学生時代の二人の姉の話はここでしか読めません。
 青春の1ページ・・・じゃなく13幕でした。


・魔術士オーフェン 青春編 思えば俺も若かった 
・魔術士オーフェン 血風編 リボンと赤いハイヒール
・魔術士オーフェン 純情編 馬に蹴られて死んじまえ!
・魔術士オーフェン 暗黒編 清く正しく美しく
・魔術士オーフェン 失楽編 タブレムの震える夜
・魔術士オーフェン 憂愁編 超人たちの憂鬱
・魔術士オーフェン 望郷編 天魔の魔女と鋼の後継
・魔術士オーフェン 無常編 天使の囁き
・魔術士オーフェン 邂逅編 袖すりあうも他生の縁
・魔術士オーフェン 確執編 今がチャンス
・魔術士オーフェン 立志編 向かない職業
・魔術士オーフェン 事件編 かよわい彼女のまもりかた
・魔術士オーフェン 最終編 ぼくのせんせいは

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第349回 信長協奏曲 8

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石井あゆみ 「信長協奏曲(コンチェルト)」 8巻
信長協奏曲 8

 信長包囲網は厳しさを増していく。松永弾正の裏切り、比叡山焼き討ち、武田信玄の出陣と面白い巻でした。
 新たなタイムスリッパ―、弥助も登場。

 三郎信長の手紙に感激した竹千代くんに生涯最大の危機が迫る。
 次巻は「三方ケ原の戦い」からスタートです。

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第348回 境界線上のホライゾンⅣ(7)

Posted by ヒッター7777 on   0 comments   0 trackback

川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(上)」 Horizon on the Middle of Nowhere :
Episode Ⅳ-Part 1 適当ダイジェスト⑦


「第十七章 会議場前の板書男」
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 「青雷亭本舗」前、立花・嫁が運んできた厚さ10cm,5m四方の外殻用装甲板を皆が見る。普通の装甲板に見えるが一点だけ無意味に普通ではない所があった。ホライゾンが見つめる先に「武蔵」の「生徒会」《書記》トゥーサン・ネシンバラがプリントしてあった。上縁に腰かけて検分するナルゼは“結構、崩してある。”と批評するように写実ではなく戯画に近い。
 全裸がネシンバラの前にしゃがみ込み、股間の部分を平手打ちして“おーい、出て来――い”とたたき出すとホライゾンが全裸に直蹴りを入れ、装甲板に叩きつける。骨肉の音が響いて揺れ、ナルゼが後ろに倒れ落ちる。
 浅間の分析では文章による描写術式を用い、自分を情報化してパターンとして焼き付けた上、防護も掛けてあるらしい。相手を絵に封じる神道術式を、臨時のアドリブで行ったようなので解除方法が判らない。ホライゾンが全裸を裏側に連れて行って、装甲板に叩きつける音がした後、正面に来て“間接衝撃でも出てこない、一休メソッドが通じない。”と呟く。
 ホライゾンが指を鳴らすとアデーレの「機動殻」《奔獣》がリフトで上がってきた。“さあ、後ろから前から御存分に”と促されて、アデーレは全裸に“いいのか?”と聞くと、全裸は“湯に漬けたら三分くらいで戻らねえかな。”と言う。ふたたび、ホライゾンが指を鳴らすと、煮えたぎった湯に揺れる半径4mほどの巨大な釜が上がってきた。
 
 一緒についてきた大久保と加納は、自分が人として正常な範囲に居ることを自覚した。比較的まともと思っていた浅間神社の跡取り娘も“ネシンバラ君、グシャグシャにならなくて良かったですね。心配しました。最近、妖魔凌辱系エロゲでああいうシーンをよく見るので。”と言っている。とりあえず《《副会長》の正純に、これからどうするか聞いてみる。
 正純は二人に“もう帰ってもいいぞ”と答える。大久保はさらに資材現場での襲撃の対処を問うと《第一特務》の点蔵が、現場の警備より、要人をまとめて警護したほうが手間がかからないと答える。理にかなっていると大久保は《第一特務》を以外にまともだと評価する。さらに点蔵は“相手は《賊》とは限らない。”と続ける。「総長連合」側としては柔軟な対応だ。この忍者は「英国」で王女奪取を成し遂げ未来嫁にしてしまった者だ。それなりに力を持つ者の余裕だろう。
 とりあえず納得し、お土産のタルトをもらって大久保と加納は帰っていく。

「第十八章 夢奥の小娘」
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 石の通路がある。赤い絨毯が敷かれ、その上を二つの人影が行く。一人は「M.H.R.R(神聖ローマ帝国)」の制服を着こんだ細身の男。もう一人は猿面を被り、同じく「M.H.R.R」の女子制服を着ている。
 《神聖ローマ皇帝》マティアスと羽柴・秀吉である。「M.H.R.R」と「P.A.Oda」の食文化の話をしながら歩いていると、秀吉の顔横に表示枠(レルネンフィグーア)が浮かび上がった。ハンドル名が「成成成」となっている。秀吉の補佐の一人、まだ人格形成中の《制御情報術式(プログラム)》であるが、石田・三成を襲名する予定だ。
 そして二人の背後に人影が追加された。「M.H.R.R」の女子制服を上着なしで着込んでいる。黒い髪を横長の銀板のような髪留めで高く結んでいる。
 “おはよう御座ります。福島に御座ります。何用に御座りますか。”
 “福島さん、・・・・無理に語尾に御座るをつけなくても。」
 沈黙が生まれたが、羽柴麾下の《十本槍》のリーダー、福島・正則(ノリちゃん)である。
 
 マティウスは正則(ノリちゃん)に事情を話す。この先には現・「K.P.A.Itaria」《総長》インンティウス十世の部屋だ。だが、本人は行方不明で義姉でもあり義妹でもある女性が臨時襲名をしている。名をオリンピアという。「K.P.A.Itaria」の保護と引き換えに、「M.H.R.R」への同意を声明したが、なかなか謁見してくれない。“なんで?”って聞いたら“部屋から出られない”そうなんだ。
 その先の部屋から地響きと足音、何かを押しのけるような風と共に、大扉の向こう側の壁に何か激突したものがある。半ば開いた大扉の向こう、広い石造りのホールにいるのは身長7mを超える二足獣だ。角と尾がある。
 “あれは彼女ではないからね。あれが君を呼んだ理由だ。”
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 正則が飛び込んだのは、奥行き100m、幅50mの広大なホール。奥には赤い絨毯の敷かれた壇がある。“ここは聖堂か”と考えている間に右から来た。
 新大陸(蝦夷)に多く生息する獣の一種。機獣ではなく生物型の竜だ。正則は息を吸い、相手に対し足を前後に開いて構えた。だが、攻撃は打撃ではなかった。竜が仰け反りながら見せつけるように開けた顎の喉奥から放たれる“竜砲”だった。体内器官に蓄積された流体の咆哮攻撃だ。
 白の光が聖堂内で炸裂する。直径1mの光柱が正則に激突した。光の爆発が起き、音が鳴り、壁も床も震動する。そして、竜が変形した。伸ばしていた首を縮め、骨格を組み替える。砲身の口径が拡大した。
 先ほどの攻撃を出力調整と導線として、直径5mは下らない光の球弾が炸裂する。砲撃を終えた竜はそのまま首を下げて前傾し、未だ光の破裂収まらぬ破壊の渦中に疾走した。背部と腰部の甲殻装甲を背後に展開し排熱孔から突撃加速用の二次咆哮を行い、一直線に額の角から獲物に激突した。

 閉じた扉の向こうから激震が音として届いてくる。マティウスは秀吉に問うていた。
 “羽柴君。―――福島君は単純に言って死んだんじゃないかな?”
 “・・・どうしましょう?”
 ややあってから、マティアスは咳払いをひとつして、“最悪の場合は君の麾下を、今度は三人ばかり呼んでくれるかな。”そう言って大扉を開けた向こうには、壁際で動かなくなった竜の巨躯と、こちらに気がついて振り返った福島・正則がいた。無傷である。
 マティアスは“――ほう。”と感嘆した。“勝ったのは君ということか。”
 正則は一つの武装を掲げている。長い柄を持った槍にも似た銀飾りの武器。だが穂先には幅15㎝、長さ60㎝ほどの銀板がついていて、先端を尖らせていない。四角い形で、まるでノミのようだ。正則は長さ2m半はあった柄を一気に60㎝ほどに縮め、それを《一ノ谷》だと答える。鉄板の打撃武器に見えるが、その実体を聞くのをマティアスは断った。聞かない方がいい。

 一行は聖堂の奥へと進んでいく。先ほど、正則が倒した竜は消えていた。正則が《一ノ谷》から届いていた手応えを思い出して、“あれはどう捉えても本物だった”と言う。
 マティアスは、それが彼女の種族が持つ能力だと答える。精霊系の種族、眠りを欲し、そこで見た夢を喰らって成長する。成長には莫大な夢の量が必要で・・・と言っていたら、聖堂が消えていく。
 そこは薄暗い、木の壁で覆われた円形の寝室だった。絨毯が敷かれ、本棚が壁を覆い、至る所に人形が置いてあり、服が散らばっている。その中央の赤い天蓋付きのベッドにいたのは老女だった。
 “あらまあ、騒がしくしているから、目が醒めてしまったわ。だあれ?貴方達。あら、貴女、夢の中で格好良かったわねえ。”と顔の皺を歪める。
 正則は先ほどの竜は何だったのかと尋ねると、老女は“あれは夢だ。”と答える。寝る前に竜退治の本を読んでいたそうだ。老女は夢を喰って若返ると言う。生まれた時はもっと皺くちゃだった。歳をとって若返っていく「逆齢の民」、“若返りの精霊“オリンピアは笑みを浮かべて告げる。
 “私の夢をかき分けて、ようやくここまで来たわね。新・イノケンティウス十世として、若返ってなんでも忘れていく私に対して、何を要求するの?”

「第十九章 朝日落ち場の正座娘」「第二十章 岩場の宿り人達」
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 巨大ドック「有明」の中。中央後艦「奥多摩」の武蔵アリアダスト教導院の西側に、小さな平屋と四方を囲む庭を設けた屋敷があった。その縁側に座る部屋着姿の中年男と二体の自動人形が、大型ワイドの表示枠の神肖筐体(モニタ)の前にいた。中年男は酒井・忠次、自動人形は“武蔵”と“奥多摩”である。観ているのは「平和戦隊アウグストゥス」といって「聖人合体バレンタイン」の続編のようだ。酒井が子供の頃、見たかったのが“箱”で発売されたので買ってきたらしい。
 “武蔵”にもそういう衝動はないかと酒井が訪ねると、十年前に一度、大改修でリニューアルしているので記憶がないと言う。もともとは「奥多摩」で“武蔵”が指揮をとり、前方に「武蔵野」、左右に「高尾」と「青梅」を置いて四艦態勢だったらしい。それに外交用、輸送用の艦群を付けていって、大改修時に“武蔵”が総艦長になり、“奥多摩”、“多摩”、“村山”、“品川”、“浅草”が各艦長式自動人形として加わった。
 “武蔵”はなぜこんな早朝に呼び出されたのか、酒井に問うと、「武蔵」全体に詳しい知識が必要な案件が生じたからだと答える。疑問した“武蔵”が顔を上げると、屋敷の入り口の方から入ってくる人影がある。“二代様?―――以上。”

 二代は縁側の前に回る。その動きは静かに乱れない歩みだ。ふと“武蔵”は二代の育成に関わった自動人形“鹿角”のことを思う。修行というものを通して、これまで乱れない動作を与えることが出来るとは。世界において“有数”といえるレベルの存在を間接的に悟る。彼女の師匠役であった自動人形のレベルを察するに自分達の動作など、無駄が多いことが推測できる。
 だが、二代が訪ねて来たことと、自分がここに居る意味は何なのだろう。酒井にそう尋ねると代わりに二代が答えた。“師事できる御仁、または道場や組織を探しているので御座る。”
“無茶な要求だ“と”武蔵“は判断した。「武蔵」内にある各種道場を一瞬で検索し、試合映像なども一気に確認する。二代ほどの使い手が満足できるような場は「武蔵」内には無い。
 二代は単純な鍛錬の場を求めているのではない。「三河」時代の鍛練に、オリオトライ教師の訓練を加えて我流としているのだが、実際に自分が何を欲しているのかわからない、と言うのだ。
 オリオトライ教師の訓練は、人類としてアンフェアかつアグレッシブな部類だが、それでも不足なのか。成程、今の自分のままで伸ばすべきか、別のものを取り入れるべきか判断がつかない、ということか。
 “武蔵”は役に立ちそうな場をリストアップすると約束し、それで酒井は肩から力を抜く。そして、“あれ“を出そうかねぇ、興味ある?ダ娘君、と二代に聞く。
 “あれ”とは酒井が学生時代に使っていた「神格武装」だった。

 陽がゆっくりと登っていく中、一つの影が斜め軌道で大地へと降りてくる。「伊達家」《副長》伊達・成実の「機動殻」《不転百足》だ。彼女が下りて向かう方向に幾つもの鳥居型表示枠が生まれた。防疫や気づかれぬ間に掛けられた術式の解除を行う誘導路である。下に広がる市街地に向き合うように、そこにある岩山。その東側の断ち切られたような断崖に開く幅30m、高さ15mほどの主滑走路口に《不転百足》は飛び込んだ。
 この岩山そのものが要塞「仙台城」である。航空機動で飛び込んだ《不転百足》は、一本目の確保注連縄(アレステイングロープ)を掴んで制動を掛ける。そのまま、カタパルト・レーンを運搬されていくと、反対側のレーンを《第二特務》鬼庭・綱元が三体の武神を率いて巡回に出るのと擦れ違う。“女の朝帰りとは不埒な。後輩達に示しがつかんぞ。”と一言言われ、Tes.と応える。
 カタパルト・レーンの終端に近づくと《不転百足》に解除指示を出し外に出る。《不転百足》は流体光を放ちながら二律空間に格納されていく。滑走路の防護扉が閉じていく。その数は術式強化紋章も入れて十二枚。全展開すれば「竜脈炉」や、「K.P.A.Itaria」、「弁慶」に加えられた正体不明の攻撃にも耐えられるだろう。「仙台城」は臨戦態勢なのだ。
 迎えに出た女生徒に《副会長》片倉・小十郎・景綱の在所を尋ね、主庭に向かう。

 山を削り取って作られた「仙台城」。内部補強された閉鎖空間の中に、光が満ちる花畑と小川と池を持つ庭園があった。空を映しているのは何枚も張られた薄型石版筐体の神肖筐体(モニタ)だ。通気口から出入りする風は花の甘い匂いを運んで来る。
 花畑の中の玉砂利の道を進んでいくと、眼鏡をかけた麦藁帽子の少年が立ち上がった。その手に持っているものを見た成実は
 “片倉。―――公共の花畑にジャガイモを植えるのはどうかしてるわよ。”
 “あのなあ成実君。常識に縛られちゃいけないよ。せっかくこんな引き籠り要塞を作ったんだ。悪の組織としては歴史再現無視でジャガイモ栽培したっていいじゃないか。”
 この時代、ジャガイモは御禁制品である。(「境界線のホライゾンⅡ」参照)
 “で、悪の幹部は麦藁帽子で園芸?”と冷やかすのに、“別の幹部が正義の味方を単騎で脅しに行ってくれてますから。”と答える。
 “―――姉じゃないんですよね?”といきなり問われ、成実は昨夜のことを思い出した。”悪の幹部が思わず戸惑って、正義の味方の議論に乗らざるを得なくなるとは想定外。まだまだ人間らしいところがあるようで万歳ですね。“と指差した片倉は、地面に置いてあった鍬の刃を斜めに踏んだ。柄がてこの原理で跳ね上がり、下前から股間を直撃する。
 “――ふ” 中空を見つめたまま、片倉は花畑に沈み込んだ。ややあって、下腹を叩く音と一緒に“大丈夫?大丈夫よ?機能、生きてる?生きてるわ?”と女言葉の片倉の声が聞こえる。成実は表示枠(サインフレーム)を開いて「仙台城」管理システム・留守に繋ぐ。“留守さん。また片倉がおかしくなったからどうにかしてくれないかしら?”
 具体的に言ってくれないと処理に困ると言われ、とりあえず脳かしらと答える。片倉が「一生覚えてろノート」と書かれた表示枠をを開いていろいろタイプしている。この男は・・・と思いつつ、“政宗は?“と問う。片倉が指し示す方向には、青葉の桜木の下で木刀を振っている少女がいた。
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 やや長身の細身の少女は近づく成実に振り向いた。素振りで汗ばんだ額に貼りついた髪を手で梳き上げ、笑みを見せる。
 “小次郎見なかった?朝から見ないんだ。朝食の時も、さ。”成実は言い淀む。“え?いや、小次郎様は・・・”応答を止めるように片倉の声が飛んだ。“成実君。ぼくのジャガイモの収穫を手伝ってくれませんか!”
 見れば片倉・景綱は四つん這いになって尻を突き上げ、“さあ、収穫して、僕の種イモってあぶねえ! どこから鎌、出してんです! 投げるかフツー!?”
 “片倉はいつも馬鹿だなあ。”と笑みを浮かべ、“成実は強いなあ”と政宗は言う。成実は政宗に向き合い、“貴女は今でも充分、強い力を持っているわ。悲観しないで。”と肩に手を置く。
 “でも、―――じゃあ、どうして私は、日々、痩せて、弱っていくんだ? 《保健委員長》も原因不明だって言う。私は小次郎と一緒に竜の力を継いだはずなのに。私、どこかおかしいのかな? それが何処か誰も解らないから、私は衰弱していくしかないのか。”
 成実は咄嗟に言葉を作れなかった。ただ、言えることはある。この世界のルール。「聖譜記述」だ。
 “貴女はおかしいところなんてないわ。奥州の覇者、伊達・正宗の正式襲名者よ? おかしなとこがあったら襲名できないわ。”
“でも、片倉は?”
“あれは―――うん、あれはおかしくていいの。”

“言うわねえ、成実。”不意に女の声が政宗の向こう側から響いた。
“義姫学長。”庭園の向かいの入り口から入ってくるのは、政宗の実母。額の右から一本の角を伸ばし、極東式に組んだ「上越露西亜」の制服を着た彼女は、間に政宗を挟んで成実と向かい合った。笑みを作っているので成実は警戒する。この人が笑ているときは、大体、良からぬことを企んでいるのだ。
 “少し、今後のことで、貴女と話し合っておくべきことがありましてね。”《副長》である以上、《学長》命令は絶対だ。
 “「武蔵」が派遣する大使について、向こうに逆提案も出来るだろうから、実際に見てきた貴女の意見を聞きたいの。どんな人が来た方が円滑かしらね?――――姉好き?”
WORD4 -7

 「武蔵」の朝は早い。町は機関部に合わせて動いていると、三好・伊佐は前から思っていた。伊佐の感覚からすると、ここは航空船というより、やはり都市だ。伊佐が向かっているのは「武蔵」の中央前艦「武蔵野」の地下だ。他の作業員と一緒に機関部に向かう。
 リフト前にいるまとめ役は「有明」の代表、三科・翔一で、集まった皆に対し表示枠(サインフレーム)を開いて、諸処の説明をしている。伊佐は日雇いの補充要員なので何処へ行けばいいかと、警備役の作業員に尋ねていると、リフトの上から少女の声がした。“情報領域(データバンク)制御関係の物理配線できる?”という問いに、できると答えると“じゃあこっち-”と声のする方へ向かう。
 声の主は背の低い自分より、更に低い少女だ。「清武田」の制服に白衣を着た彼女は、五班・班長の三科・大(ひろ)と自己紹介する。「有明」代表の娘らしい。伊佐は五班の作業員達と共に作業場へ向かう。構築中の居住区、輸送区も、どれも作業の人々が動いている。“既に改修自体は相当進んでいるな”と伊佐は判断した。

 次回、立花・宗茂が得る新しい武装とは? 艦長式自動人形「浅草」とのバトルが始まる!
 お楽しみに

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第347回 バンシィ(11)

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バンシィ(11)

 足首部分にデカールを貼る。片側4カ所。1箇所に5分ほどかかった。
 マークセッターをちょんちょんと塗り、デカールが浮き上がるのを待つ。
 4カ所貼ったら、トップコート(半光沢)を吹き、30分ほど待つ。
 反対側を4カ所貼って、またトップコート。これで2時間が過ぎる。

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 つづいてバックパック部も貼ってみる。

 ユニコーンモード
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 デストロイモード
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 作業時間、3時間半。今日はここまで・・・

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第346回 彷徨える艦隊 8

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ジャック・キャンベル 「彷徨える艦隊 8 無敵戦艦インビンシブル」
The Lost Fleet:Beyond the Frontier:Invincible

彷徨える艦隊 8 無敵戦艦インビンシブル


 シンディックを操っていた謎の種族の領域から脱出し、第二の異星人の星系に突っ込んでしてしまったアライアンス艦隊は、侵入したジャンプ点を守る要塞に迎撃されろ。弧を描いて別のジャンプ点へこの星系を脱出するための手段を探し求める。
 どうやら体長1mのテディベアに似た異星人は草食性らしくベア=カウ族と名付けられたが、通信に応じずただ戦いを仕掛けてくるばかり。
 他星系へのジャンプ点を護る要塞と、追撃してくるスーパー戦艦を詭計により躱し、アライアンス艦隊は さらに第三の異星人領域へ入ってしまった。技術系種族らしい、外見からスパイダー=ウルフ族と名付けられた彼らは敵なのか味方なのか

 「万能固定物質」には笑った。
 タイトルの無敵戦艦「インビンシブル」の意味は途中で判明します。

 第1部ではアライアンス対シンディックの図式で良かったのだが、第2部に入ってプレイヤーが大幅に増えた。
 アライアンス内部の勢力抗争。シンディックも政治体系崩壊による分裂抗争。謎の種族は本当に人類間戦争を仕掛けたのか。
 そして、まったくコミュニケーションの取れないベア=カウ族。新たな連盟相手になるのか、スパイダー=ウルフ族。
 アライアンス政府も軍部に内緒で何やらやっているようだ。シンディックが解放した捕虜とは誰のことなのか。

 五月には「彷徨える艦隊 外伝」の登場です。

彷徨える艦隊8

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第345回 境界線上のホライゾンⅣ(6)

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(上)」 Horizon on the Middle of Nowhere :
Episode Ⅳ-Part 1 適当ダイジェスト⑥


 「第十四章 二重場所の一息娘」「第十五章 崩れ場所の観測者」「第十六章 崩し場所の捏造屋」
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 八つの巨大な槽に、それぞれ全長1km超過の船形を置いた補修の場。その一角に作業とは別の音と光があった。資材置き場の一角だ。その空間中央を渡る主橋の上から見ている影がある。
“着いてから四時間も経っていないのに、「武蔵」の《書記》を始末するのに刃傷沙汰ですか、根津君。”
 “穴山先輩、何かが起きるときには起こるものです。「有明」はイベント会場でもありますし。”
 倒壊した資材置き場を、見聞が終わった場所から作業用の武神達が順次復旧させている。
 “資材倒壊に作業員や警備員が負傷。しかし、詳細不明。あれは由利君が単独でやったんでしょうか。ずいぶん派手ですが。”、“手筈では由利君が出て、補佐で伊佐君ですが、結果が不明ですね。心配ですか?由利君のことが”
 姿を見せない穴山・小助が答える。“行き場のない僕達が、お互いを心配しない道理がどこにあります。”、“いいじゃないですか、優しい場所に辿り着けたんですから。”
 穴山は闇の中から問う。“そのシリアス人生としゃべり好きで、よく、この「有明」に三週間近く居られましたね・”、“ええ、来てから一時間ほどで作業現場の縦穴を全裸が上から下に落ちていって、また鎖で下から上に釣り上げられていくのを見たんですが、周囲の人たちがまばらな拍手をしていました。”
 “だから、その時、早期判断できました。ここは人生の在り方が違う場だと!”
 “成程、成長しましたね“と言いながら、情報収集担当の穴山は“あの極寒少年が自虐ネタを扱えるようになるとは「有明」の洗脳効果は尋常じゃない。”と考える。
 そして根津・陣八に告げる。“そろそろ下の方でも動きがあるから、連携してくださいね。―――「武蔵」《副長》への、ね。”

 「多摩」表層区の軽食屋「BLUETHUNDER」。食事を終えた本多・二代は店主にお茶を出されて会話していた。御座る言葉がテンゾーより本物っぽいと言われ、あの忍者のことで御座ったかと得心する。あまりに気配消して常時存在するため。“動く背景”みたいに感じていたあの忍者だ。メアリ殿は良く知覚出来るなと思いながら、それが出来ない自分は未熟なのだろうかと思う。
 傍らの椅子に立てかけてある「関東IZUMO」製の《蜻蛉スペア》を見る。主OSの思考部分は本物と同じ制御情報術式(プログラム)が使われており、本物が修復されれば記憶を引き継げるらしいが、本物と同等ゆえ、二代をまだ主人と認めていないらしい。
 「BLUETHUNDER」の店主は喜美とトーリの母親である。この店は彼女の友人がやっていたのだが、いなくなってからも保っていた方が良いと思い、こちらをメインにして開業したのだ。絆創膏や湿布だらけの二代に背中を打ったりしたかと問いかける店主。“壁走り”の訓練で足を滑らしたと二代は答える。最近、立花夫妻と三人で、よく、セッ〇スしているで御座る。との言葉に店主の応答が5秒ほど止った。
 “ご、御免ねー。オバさん、不意を突かれちゃって。あー、うんうん、あとで誰かをテキトーに叱っておくから。で、二代ちゃん、誰か、いい師匠や道場、見つけてる?”
 思っても無い言葉だった。おらぬで御座る、と返答すると、店主は“優秀な御家族の薫陶を受けてきたと思うが、それから離れれば基礎部分にも緩みが出る。成長期だし身体能力の向上に合わせたプランも必要だし、そういうことを管理してくれる場所や人が必要だろう。”と言ってアイスココアを持ち帰り用の竹ボトルに入れ、“いろいろ考えてみるといいよ。「武蔵」の《副長》として、そういうのも大事な仕事だから。”と送り出す。

 直政が駆る「地摺朱雀」の右手の上。正純と浅間・智はネシンバラが行方不明となった資材倒壊現場に向かっていた。上下左右に揺れる手の上で「地摺朱雀」の中指にしがみ付いていた正純は、手首のところに平然と座っている浅間を見て、これはバラストがある者と無い者の差だろうかと悩む。ふと、「地摺朱雀」の進行方向にいる人間が慌ててこちらから逃げていくことに気づき疑問を覚える。
 工事現場で作業をしていたノリキは印籠型携帯社務を開くと、三年梅組の通神帯(チャットルーム)に“「地摺朱雀」が中指立てて歩いて人々を恐れさせてるが、直政は何かいらついてるのか?”と問い合わせする。
 そうこうしている間に倒壊現場に着いた。先に来ていた点蔵が、今、ナルゼ達が検分していると伝える。どうやら、ただの倒壊事故ではないらしい。怪我人は刀傷を負っているようだ。正純達が現場に入っていくと、立花夫妻も検分に立ち会っていた。高所作業もできるし、警備の衛士達が手傷を負っているなら、この二人が居たほうがありがたい。
 だが《副会長》の自分が現場にいることで、護衛とかで役職持ちが拘束されるのは問題がある。一般人とは違うからなと《砲撃巫女》を見るが、そこで一般人の基準が判らなくなった。そういえば、元・皇族の東、元・北条のノリキ、毛利系の疑惑が出てきたペルソナ君、不規則発言の多い葵姉、対艦戦闘できるハッサン、駄目な御広敷、堅いパルフェット、向井は「武蔵」動かす担当だし、インキュバスやスライムが一般人なのだろうか。
 “ともあれ、確認を頼む。”の言葉に上方にいる立花・夫と立花・嫁が検分結果を伝える。下方から打撃を与えて資材を落下させたようだ。衛士を切った剣術と資材の山を吹き飛ばす打撃力を兼ね備えた人間が怪しい。皆、ゆっくりと顔を見合わせ、立花・嫁の顔を見る。ややあって、点蔵が立花・嫁から視線を逸らすと、傍らを材木を担いだ御広敷と、巨大な鉈とハンマーを持ったペルソナ君が通り過ぎていく。
 “まあ、その程度のことをできる人間は、何処にでもいると言うことだ。”と正純はまとめる。

 その頃、二代は「多摩」艦尾の暗い道を歩いていた。左手にはパンとアイスココアの入ったの紙袋を抱えている。倒壊現場の検分報告は「武蔵野」の「青雷亭本舗」で行うらしいので、そちらに向かうことにする。
 各艦を結ぶ空中回廊として太縄通路が何本も設けられているので、その一本を選ぶ。袂の衛士に一礼して重力制御によってつくられた幅3mほどの流体力場の道を進む。半ばまで来て向こう岸を見て、二代は首を傾げる。なぜ出入り口の衛士が居ないのか。振り返ると先ほどの衛士が倒れている。嫌な予感がして急いで渡ろうとした時、なにかが来る、という不確かな感覚を得て無音の一撃を左脇腹に受けた。
 銃撃だ。防具の上からでも一点から全体へ、そして裏側へ抜けていく打撃は物理銃弾のものに他ならない。射撃手は艦尾側にいる。右の半身を艦尾側に回し、《蜻蛉スペア》立てて遮蔽物とする。すると背後からの人の気配が濃くなった。反射的に艦首側へ左に飛ぶ。
 後ろから襲いかかったのはフードを被った長衣のの姿。足音も立てず軽快な足捌きで動いている。武士の技ではない。忍者か? 間合いが悪い。バックステップしながら店主に謝り、左手の紙袋を敵の顔に放つ。その紙袋が濡れているのは、銃弾を受けたアイスココアの竹ボトルが割れたせいだ。
 さらにもう一歩バックステップした空間を二発目の銃弾が通過した。だが、今度は左の艦首側からだ。狙撃手は二人いるのか? と、今度は正面のフード姿が先ほど投げつけた紙袋を投げ返してきた。切り払うかと思っていたら、虚を突かれ、視界が塞がる。迂闊と油断が二重、三重に事態を悪化させていく。
 自分は不抜けているのか。紙袋が引き裂きれたが、なぜか手前から敵の方へと破けていく。その下を這うようにフード姿が飛び込んでくるのを、三度目のバックステップで躱そうとした時、背後から右側に影が来た。
 背後からの新手が持っているのは破砕槌だった。女の声で“少し、眠ってもらうよ。”と言いながら二代を打撃した。最初に二代が感じたのは風だった。ついで衝撃の塊が来る。破砕槌の形状よりも大きい衝撃が潰れる空気の動きで見える。打撃系の「神格武装」。無音の暗殺用と言ってもいい武器が完全なヒットとなる前に二代は跳んだ。太縄通路の外へと。
 衝撃の余韻で薄れゆく意識に導かれるように、二代は闇の中に落ちていく。 

 正純は検分の場にやって来た後輩の大久保と加納に問い掛けた。“やはり、ネシンバラがこの倒壊事故に巻き込まれた可能性がある、と?”
 《代表委員長》と《風紀委員長》である二人には、先ほどの「伊達家」との会談内容も知らされている。だが《書記》ならば当然、この重要な会談に出席しているはずだが居ないのは不自然だし、自分たちと別れた後の足取りがここで途絶えたのなら、ということだ。
 “死体はまだ発見されていない。”作り微笑いのまま倒れた装甲板を一枚一枚、巨大な義椀で丁寧に剥している立花・嫁の方を見る。崩れやすい足場の上方で誾に指示を出している夫を見ながら、誾は“「武蔵」《書記》の死体はまだ見つかっていませんね。面倒なのでなるべく早く、見つけて帰って宗茂様をお風呂に入れて差し上げたいのですが。”
 中盤で一回本音が出たような気がする立花・嫁に検分を任せ、正純と浅間は浅間・父から送られてきた情報を表示枠(サインフレーム)で見る。
 “《副長》本多・二代が襲撃を受けた?“、広報委員の通神帯(ネット)用サイトの掲示板の情報端(スレッド)の一つに、防犯用定置受像器の撮った画像がアップされている。時刻はほんの数分前、夜間状態なので画像は暗いが、人影が仰け反るように落ちていくシーンだ。影は右手に槍を持っていて、髪はポニーテール。二代が近辺を歩いていたと言う証言もある。
 画像をアップした者の見解では銃撃を受けたらしいというもので、早急に捜索の必要があるのではないかといものだ。これが情報端(スレッド)の中で転がされて事実となってしまったらしい。立花・嫁はその画像を分析して、ただの銃撃ではなく、もっと大きな面の打撃によるものだと言う。どちらにしても襲撃を受けた事実に変わりは無い。《書記》に続いて《副長》までとなると執行部の評判に関わる。まず、情報戦としてマルガ・ナルゼにダミー画像を流させる。
 浅間神社の通神権限で絶対に足のつかない方法でアップするよう浅間・父に手配を掛けている間に、ナルゼは二代が虚空投げ捨て型バックドロップで御広敷を太縄通路から放り出している画像を描き上げた。
 ネシンバラが居たら書き込みで潰しにかかるだろうが、ナルゼは別パターンも幾つかアップして攪乱を計ると言う。

 この執行部の暗躍を見ていた後輩の二人は首を傾げっぱなしだった。二代襲撃の情報は浅間・父から浅間・智に来たものなので、後輩たちは状況を把握していない。
 不意に加納が眼鏡の委員長、大久保の肩を叩き表示枠(サインフレーム)を見せる。すると、大久保の表情が変わった。驚きと疑念を秘めた表情に、なにか微妙なズレを浅間は感じた。
 大久保が浅間に《副長》が危険なことになっている、という情報が来たと告げると、浅間は“ええ、御広敷君をバックドロップで虚空の深淵に叩き込んだんですよ。”と笑みで言うと、大久保は眉を立てて“御冗談を”と真っ直ぐ浅間を見据える。正純が早速アップされた偽造画像を大久保に見せるが、“先ほど、被害者がそこを歩いていたような・・・”と言いつつ肩を落とし吐息をつく。これは違和感がない。先ほど感じた奇妙な異質感はなんだったのだろう。

 正純は点蔵にジュースを頼んだふりをして二代の墜落現場に向かわせていたが、不意に「BLUETUNDER」に向かってくれと指示を伝える。そして大久保に《副長》のことだがと言って、“《副長》は「BLUETUNDER」から動いていない”と告げた。
 ナルゼや浅間が“え?”という顔をするのに、“店主から通神文(メール)が来たんだ。向こうでも通神帯(ネット)の騒ぎに気付いたらしい。二代自身は椅子に座って寝ているようだ。”という。《第一特務》が確認すれば問題ないだろうと、表示枠を後輩二人に見せる。そこにはライヴ更新の画像で椅子に座って寝ている二代が映っていた。
 その時、上から資材の運搬指示を出していた立花・夫が叫んだ。“探し物が見つかりました!”

 二代は身体が脱力し、崩れかける感覚を覚えた。寝ていた? 不覚、と目を開けると予測していたものと違う風景が見える。たしか襲撃を受けたはずだが、目の前に居るのは店主殿だ。狙撃を受けて衝撃を受けた脇腹を見るが何もない。傷どころか痣もついていない。
 店主が苦笑して、訓練中に背中を打ったと言うから、寝ている間に神道式の治療術式の符を使ったという。血流改善を促し、疲労も取れるものだ。目の前にアイスココアの入った竹ボトルとパンの入った紙袋がある。ここで寝ていては商売の邪魔だし、退出すべきだろう。さっきのが夢だったならば、《蜻蛉切》を失って不抜けている自分への啓示だったのだろう。
 店主は正純達が「武蔵野」艦尾にいると通神文が届いていると伝えると、二代はあちらに付き合っているとずるずる夜更かしになるし、明日は別件で動くつもりだと答える。気合いを入れなければならない。だから、“師事の当てを探しに行くで御座る。”
 “えらいっ”と褒める店主が、じゃあ、早く寝ないとねェと言っている脇に表示枠(サインフレーム)が浮かび上がった。正純だ。ネシンバラが見つかったらしいが、とりあえずトーリの家の方の「青雷亭」へ運び込むらしい。余裕があれば点蔵と一緒にそちらへ来てほしいと告げる。
 なぜなら、“たぶん、変わったネシンバラが見られると思うから。”

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 次回、「変わったネシンバラ」とはなにか?
 「羽柴」の《十本槍》もいよいよ姿を見せる。その実力は?
 二代が師事に赴いた相手とは?
 伊達・正宗もいよいよ姿を見せる。

 お楽しみに!

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第344回 アクセル・ワールド(5)

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川原礫「アクセル・ワールド13―水際の号火(みぎわのごうか)―」
アクセル・ワールド13 ―水際の号火―

 ネタバレが含まれています。

 バトルロイヤルモードに3人目の乱入者が登場。
 対物理攻撃を無効化するウルフラム・サーベラスの装甲をも溶かす、アルゴン・アレイのレーザー攻撃をほぼ無効化するアクア・カレントの「理論純水」の屈折防御と、シルバー・クロウの「光学誘導(オプティカル・コンダクション)」に不利を悟ったアルゴン・アレイは撤退し、バトルロイヤルは痛み分けとなる。
 「第二次 黒のレギオン」に復活する三人目の《四大元素(エレメンツ)》アクア・カレント、氷見 あきら。

 ハルユキのハーレムモードの梅里中文化祭から一転、帝城の守護獣『セイリュウ』の特殊攻撃『レベル吸収(ドレイン)』を受け《EKフィールド》に囚われたアクア・カレント救出作戦と、ISSキット本体サーバー破壊のための「大天使メタトロン」攻略戦が始まる。

 また幾つかの謎が出てきましたね。
 前から、あれ? と思っていたけど、ブラック・ロータスとブラック・バイスって両方黒だが、同じ色が被ることは無い、ということはブラック・バイスは偽のアバターネームである?

11巻から始まった「メタトロン攻略編」は次回で終わりかな?

 追加
 グラファイト・エッジは「黒のレギオン」の人柱担当だったのか。さすがに絶対切断(ワールド・エンド)の攻撃を防げる三人の一角であるな。

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第343回 私立霧舎学園ミステリ白書シリーズ

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霧舎巧 私立霧舎学園ミステリ白書シリーズ 10 「一月は合格祈願×恋愛成就=日常の謎」
一月は合格祈願×恋愛成就

 本格推理小説における代表的なテーマやトリックを、毎回、一つ取り上げてきたシリーズ。
 四月から始まって一月ですから、残り二作となってしまいました。
 毎月、殺人事件が起こるとはとんでもない学校です(笑)。文科省や教育委員会の指導は入らないのか?

 いよいよ、これまでの事件が繋がりを持ってきました。22年前、一体何があったのだろうか。
 最終話の三月は「名探偵、最後の事件」が最初から決定だったそうで、二月はバレンタイン・デイと絡めて毒殺トリックが予定されています。
 

 既刊
 1.四月は霧の00(ラブラブ)密室
 2.五月はピンクと水色の恋のアリバイ崩し
 3.六月はイニシャルトークDE連続誘拐
 4.七月は織姫と彦星の交換殺人
 5.八月は一夜限りの心霊探偵
 6.九月は謎×謎修学旅行で暗号解読 
 7.十月は二人三脚の消去法推理
 8.十一月は天使が舞い降りた見立て殺人
 9.十二月は聖なる夜の予告殺人


 同じ世界設定の《あかずの扉》研究会シリーズ も再開してほしいものです。
 1.ドッペルゲンガー宮 《あかずの扉》研究会 流氷館へ
 2.カレイドスコープ島 《あかずの扉》研究会 竹取島へ
 3.ラグナロク洞 《あかずの扉》研究会 影郎沼へ
 4.マリオネット園 《あかずの扉》研究会 首吊塔へ

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第342回 境界線上のホライゾンⅣ(5)

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(上)」 Horizon on the Middle of Nowhere :
Episode Ⅳ-Part 1 適当ダイジェスト⑤


ちょっと戦闘シーンに熱が入ってしまった。大分縮めたのだが・・・・

「第十一章 黒き空の死人姫」
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 正面、広大な雪原は戦場跡となっていた。「上越露西亜(スヴィエートルーシ)」の魔神族戦士団・一向一揆衆の露西亜型制服の白が倒れている。撤退や救助活動をしているその向こう側に500m級の白い輸送艦が五隻。そこから揚陸したむすうの影が接近してくる。そして北西の空に黒い色が浮いている。「上越露西亜」の紋章を側面に付けて接近してくるのは巨大な浮上都市「ノヴゴロド」だった。
 “引っ張り出すのに時間がかかったな”と前田・利家は佐々・成政に言う。「上越露西亜」には珍しい、死者を主とした町。巨大な椀のように見える浅い半球形は直径10kmを下らない。「上越露西亜」最古の都市は最初からこの形状で存在したという。商業都市としての外交や商業活動は外縁部で行われ、中枢地域や都市部には誰も入れず、完全服従を迫った“雷帝”イヴァン四世に対し、都市の自爆をすると女市長マルファは宣言したという。
 その不可侵都市に南から「P.A.Oda」の800m級鉄甲艦が高速で激突した。

 その光景を不破・光治は確認した。マクデブルクで羽柴が手配した“えいっ”って感じの一撃(羽柴談)の再現を、柴田・勝家に頼んだのは彼女だった。続いてさらに二隻の鉄槌が激突する。だが轟音に耳を塞いだ彼女が見たのは無傷の「ノヴゴロド」だった。
 三隻の鉄甲船の残骸が散っていく。「ノヴゴロド」は自分たちの戦師団を下ろしている最中だった。そこを狙って撃ちこんだはずだが、完璧な防護障壁が張られている。仲間を見捨てて防御したのだ。羽柴なら最善の判断だと言うだろう。《現地会計》としての見積もりの甘さで、無人とはいえ三隻の鉄甲船を無駄な大破にしてしまった。
 戦闘には向いてないらしいと、利家と成政にそっちを任せ敵の数を数える方に回る。「ノヴゴロド」から降りてくる戦士団は七千。さらに「上越露西亜」方面からも艦船が近づいてくる。

 利家は戦場を確認する。先ほどまでの一向一揆魔神戦士団は北側に下がり、北東から倍以上の数の国境警備正規魔神戦士団が。北西からは「ノヴゴロド」の死人戦士団が降りてくる。その姿は粛清で人口が四分の一になるのを歴史再現として、四人を一人に合成したものだ。家族ぐるみで一緒になっているものが多いらしい。
 その「ノヴゴロド」の南外縁の突出した桟橋に、一人の人影が立っている。白い髪。花輪飾りでドレス状に改造した「上越露西亜」の女子制服は漆黒に染め上げられている。薄く笑みを作り、片手を挙げると雪原の上空に聖協式の2km四方ほどの巨大な表示枠(サンクト・アクノー)が展開し、彼女の顔を映す。
 女性にしては低い声で“初めまして、―――「P.A.Oda」の諸君。” その女は「ノヴゴロド」の粛清を見届けた女市長、マルファ・“裏切り自由(ヴェージャ)”・ボレツカヤ。上杉・景虎の二重襲名者である。

 マルファは眼下の諸衆に笑みを浮かべたまま告げる。
 “一向一揆と土着宗教の役を担う魔神戦士団の土地を、一歩一歩着実に攻略してきたことは称賛に値する。称賛の褒美として面白いものを見せよう。”言うなり、「ノヴゴロド」が震えた。三桁を超す砲音の数に発射された高速の徹甲弾が向かったのは「P.A.Oda」の本陣艦隊ではなかった。
 国境警備の正規魔神戦士団に向かった砲弾は五隻の輸送艦を撃沈した。マルファの眼下に整列していた魔神戦士団が抗議の声を上げる。“帰りの船が必要だと言うなら出してやろう。元スレイマンの麾下で「P.A.Oda」に抗った魔神戦士団。戦って生きるか死ぬか、選びやすくしてやっただけのこと。”
 そして雪原の向こうに立つ三人の「P.A.Oda」の若手主力に視線を向ける。
 “死者を扱う術式。「M.H.R.R」が私の祖先から盗み見て覚えたものをよくぞここまで。称賛に値する。”
 「M.H.R.R」の赤い制服を着た前田・利家が一礼する。マルファも会釈を返す。
 “この裏切り自由のマルファ、ひとつ貴様らを試すとしよう。この戦士団を切り拓き、謁見せんとするならば、「ノヴゴロド」は「上越露西亜」の手を離れて、独立を宣言してもいい。”

 雪原を三方から「P.A.Oda」本陣に向かって突進してくる死人戦士団、魔神戦士団に対し不和・光治がパニックになる。利家も成政もこれは勝家に茶目っ気で囮にされて、総軍を引っ張り出すのに使われたかと思った時、本陣の方から声が上がった。
 「M.H.R.R」女子制服の上に「上越露西亜」の上着を防寒で着込んだ彼女はこう叫んだ。
 “前田くぅん、佐々くぅん、不破さぁん、―――御飯ができましたよぉ”

 戦場図
戦場図4-5-2


「第十二章 白き野の変わり者」
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 “皆、早く来ないと、御夕食、無くなっちゃいますからねぇ。”
 ヤベえ! 最初に動いたのは佐々・成政だった。何がヤバいかは明確だ。こちらに手を振りながらやってくる御市先輩だ。既に両翼から敵が迫っている。
 光治を利家に任せ、《癒使(イスラフェル)》“百合花”を展開し、御市の方へ大跳躍する。300mの距離を一歩目で120mに縮め、二歩目の跳躍をしたとき障害物が割り込んだ。脚部を強化した動死体(リビングデッド)だ。直蹴りに切り替えて敵を空中で三回転させ、御市まで50mまで迫る。しかし、身体強化した死人や魔神族が御市に辿り着く方が早い。さらに先ほど蹴り飛ばした動死体が戻ってきた。そいつに“百合花”の拳を叩き込む。超音速のコークスクリュー・ブローを食らった死体弾は御市に迫る魔神族と動死体戦士団を前三列ほど打ち砕く。
 三度目の跳躍で御市まで届くと思った時、銃声が鳴り響き、御市が頬を押さえ倒れた。

 ヤベえ! 空中で成政は身を縮めた。着地のステップで雪面を深く蹴り込み急制動を掛ける。正面の敵団が御市を囲む。
 “柴田・勝家の妻、織田・信長の妹、―――御市の方、御命を頂戴する。”と言った瞬間、成政は見た。眼前、視界に入る至る所で色が走り抜ける。左右の戦士団の間を高速に抜け、数百人の身体が切断され黒の血飛沫を舞い上げる。

 “あれは―――”。光治が振り返った視界の先にいる御市は、先ほどまで見ていた者と違っていた。体格は同じ、髪も服も靴も変化はない。ただ、俯いている。首も下に折れ、頭は肩より低く臍に近いほど前傾している。髪の毛が筒のように顔を隠したまま、その中から聞こえてくるのは泣き声だった。
 全身を強く震わせ、御市は泣いていた。そして蛇のように髪垂れを艶やかに波打たせ、殺到する白の戦団に炸裂する。それは人の動きではない。捻じれ、崩れた旋回に首の関節が外れたように髪を遠くへ振り回す。
 一人の魔神族がその細身の身体を太い腕で抱え込み、“迷うな!”と叫ぶ。周囲の仲間たちは彼の望みどおりに槍、長剣、刀といった武装の全てを、彼の身体に叩き込んだ。タイムラグを置かず仕込んだ術式が火炎を吹く。だが、灰となった仲間の遺体の量が少ない。
 円陣を組むように集まっていた白い軍団の外側に御市はいた。魔神族が持っていた刀を引き摺るように切っ先で雪を削りながら突っ走ってくる。走りながら暴れるようにスピン運動を加速させ、黒の髪が白の円陣に激突する。
 回り、足を薙ぎ払い、武装を敵に叩き込んだら手を離す。転び散る敵から武器を奪い、それをまた全身で回してぶち込み、更に手放された武器を手に取り、また叩き込んでは放し、奪っては薙ぎ放つ。
 俯き、全身を震わせながら高速で回転し髪は黒い筒として顔を隠す。転びかける身を強引に旋回運動で跳ね上げ飛ばし、下がる相手を超える速度で追い越し、戦場にある武器を全部使うが如く敵を屠る。 

「第十三章 祭後の会話人」
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 光治は走っていた。利家と共に御市から遠ざかるように敵陣側に走っていた。振り向くと黒の旋風がこちらに向かってくる。敵の密集地は最も武器が集まるところだ。高速の蛇行で黒の俯きが泣き叫びながら突っ込んでくる。光治と利家の横を「ノヴゴロド」の動死体(リビングデッド)と「上越露西亜」の魔神族が走り抜け、“Cлава(マルファ様に) Марфа(栄光あれ)”と叫びながら御市へと向かって行く。
 御市が振り回し振り払って宙に捨てた武器に対し、露西亜側が使っている火炎術式を重ね爆発が鎖のように繋がる。その爆発を利用した大跳躍と高速旋回は御市に上下の回転も与え、両手に二本の大剣を持った御市が光治たちの方へ跳んでくる。
 御市が回転しながら正確に光治の背後に着地し、降下の勢いを前転で消そうとしながら、二刀が作る回転軌道の中に自分の身体があることが光治には判った。食らう、間に合わないと思った時、正面に風が割り込んだ。“ガード!”と言われX字型の両腕ガードを胸の前に組む光治に、“百合花”の掌底打ちが食い込む。
 骨が軋み、肩を脱臼しながら光治は背後方向に吹っ飛ぶ。しかし、今度は成政の背後に御市が迫る。“癒使(イスラフェル)”の紋章の再起動が間に合わない。
 三つのことが同時に起こった。後方に飛ばされた光治の右側に赤い「M.H.R.R」の制服を着た利家が立ったこと。そして光治の真下の地面から骨の腕が無数に生えて支えてくれたこと。最後の一つは御市と成政の間に三体の白の骨が屹立したこと。
 一瞬で砕かれた白骨だが、その僅かな時間で再起動した“百合花”の大跳躍で成政は逃れる。だが、空中で側転しながら光治に“馬鹿野郎!すぐ走れ!”と怒鳴る。御市がすでに次の加速を開始したのだ。
 利家の呼び出した霊の群れが不破・光治をウェーブ状態で送り運ぶが、黒の斬撃と泣き叫びが後ろの方から魔神族戦士団と霊をまとめて砕いていく。
 この状態の御市を光治は噂に聞いただけで目撃するのは初めてだった。成政も1度見たことがあるだけで事情は知らないらしい。利家は走りながら、あれが御市の本性だと話す。
 光治を挟んで反対側を走る成政は、いつも微笑んで料理や園芸を嗜む御市を思い浮かべる。“本性って?”という問いに利家は答える。“本来、「P.A.Oda」内で別の襲名者になろうとしていた御市様は、そのために身体能力などの改造を加えていったのだが、ある一点以上の強さを欲した時から、自分の持つ優しさを捨てねば強さを発揮できないと悟った。それ故に己を《切り替える》ことにしたんだ。”
 “だけど、御市様以上の適任者が現れ、その襲名を諦めて目標を失った。戦闘能力以外も優秀だったから「御市の方」の方を襲名したんだ。”

 信長の死後の柴田・勝家と御市の方の歴史再現は知っている。「羽柴」と敵対していく彼らには滅びの運命が待っている。御市の方を襲名した理由は「自分を大事にしてくれる人の元にだけいて、そこで終わりたい」からだ。
 浅井の教導院が「P.A.Oda」に反旗を翻した時、「P.A.Oda」軍の最後の敵は燃え上がる城砦型教導院の校舎の屋上で、浅井・長政の首を右手に下げ、俯いている御市先輩だった。総勢三千人はいた筈の浅井の戦士団はすべて御市に倒されていた。泣き叫ぶ御市のために利家の亡霊戦士団がごっそり削られたものだ。
 そこに、「P.A.Oda」本陣の方から波のように轟く突進音が響いてきた。御市の後から「P.A.Oda」戦士団が「上越露西亜」の魔神族戦士団に突撃を掛ける。だが成政は見た。黒髪の靡きがくねりながら頭上を越えた。明らかに重力加速より早く正面にある敵陣中央に落下する。
 回した全身、回す腕、三百六十度ほぼ全域に対し、隠し持った長剣が放り上げられ、向けられる。烈音が響き、空に舞う魔神族や死人の戦士団は武器に仕掛けられている術式により、御市が一回転するごとに炎に焼かれ炭化していく。そして敵を屠りつくし無手となった御市は成政と向かい合う形になった。
 ヤベえ!!! 予感は当たった。御市が向いているのは南側。「P.A.Oda」本陣の方だ。もはや敵も味方も無い泣き叫びが全てを喰らいに行く。
 成政は迷わなかった。“止める!”。こちらも無手である以上、近接格闘戦になる。“百合花”の紋章を足から膝、腰、肩と背に展開しながら加速した一撃を御市にぶつけに行った瞬間、成政の視界が黒で塞がれる。そして不意に白い色が足元から来た。雪を蹴り上げたのだ。横方向に黒の防御、上下から白の攻撃、そして本命はこれか! 成政の震脚でひび割れた雪原から長さ1mほどの氷の一片を御市が蹴り上げる。右手で掴みとった氷槍を成政の顔面目がけて突き込んでくる。成政は前に付いた右踵を震脚とし、全身を右半身とする。速度を堪えたため全身の力が前に集中する。腰を落とし右手を前に出し、立てた拳を真正面にゆっくり突き出す。インパクトの瞬間と震脚のタイミングを完全に合わせることで、振れただけで全衝撃が相手に入る。
 足の下で靴底の形を残し半径200mに至る雪面が砕け散る感触がある。拳に触れた氷の槍が砕け散っていく。そのまま御市の手に触れようとした時、垂直の白線が上空から真っ直ぐに降ってきた。御市が放っていた露西亜の戦士団が使っていた長剣。御市の誘った成政との交差軌道に踏み込んでいたら、この長剣に串刺しにされていただろう。
 成政の拳が長剣に触れる寸前、御市はその長剣の柄に足を掛け、そのまま跳躍して成政を飛び越す。

 御市が飛んだ先にはまだ息がある魔神族の一人がいた。その背には御市が叩き込んだ長剣がある。光治からは届く位置だ。逡巡していると20mほど後ろから利家がこっちへ来いと叫んでいる。“女の子捨てて逃げた!?”、“ふつう逃げるよ!!” 正論すぎるが、今、何をすべきか光治は結論した。自分だって「P.A.Oda」の女だ。武器が無くなれば御市先輩の攻撃を止めることが出来るかもしれない。
 “これしか思いつかないんだもん。” 目端に涙が浮いたのを実感しながら光治は歩を踏んだ。

 “おお、いい判断だ。―――不和を見習えよ利家。” 視界に飛び込んできた壁がある。低い宙から武器へと舞い降りようとする御市を、鬼の巨躯と右腕でかっさらった。
 “この戦場、もう終わりだ!―――こちらの勝ちだからな!!”
 たしかに御市が起こした突破と混乱と破壊量は全体の五分の一くらいだろう。だが、中枢部。指揮を取る部分が潰されている。帰りの船が無い彼らは抵抗を続けるだろうが、「P.A.Oda」本陣の地上部隊が掃討にかかっている。

 御市は勝家の腕の中で正気に戻っていた。“勝家さん? まだ幸せは続いていていいの? 幸せが終わるのなら殺してくださいね”
 “おうよ!”と勝家は答え、“御市様を殺せるなんて世界中探しても俺くらいしか居ないからな。浅井のとこで誓ったからな。”
 “あの時は、勝家さん、殺してくれても良かったのに、三十本くらい串刺しになっても動くんだもん。おもわず反撃を食らっちゃったわね。” 御市は首元のスカーフを緩める。そこには首を半ばまで断った傷跡だった。致命傷に近い傷は利家が御市を殺せる証明である。

 成政は本陣に向かう途中で足を止めた。左手側の雪の中に腹を長剣に貫かれた魔神族の戦士が倒れている。「上越露西亜」の制服を着ているが砂漠系の乾いた肌をしていた。
 “―――ウルージか”、“佐々・成政だ”そうか、と戦士は言った。
 “スレイマン様の指示でその名を得たのだったな。大王の妹御も極東側にでて・・・。妹御の殺害を指示したのは「聖連」だろうに・・・。”
 “裏切ったのはスレイマンだ。俺を置いてすべてを蜂起の口火としたのは誰だ。もはや俺は俺の道を行く。―――百合の花にそう誓ったんだ。”

 “後は頼むぜ、トシ“と言って光治を引き摺りながら本陣に成政が戻った後、いよいよ「ノヴゴロド」の女市長への謁見となる。既に勝家と御市は防水御座の上に座り、”勝家さん?はい、あ――ん“、”あ――――――――――――――ん“とやっているのを、人間駄目になるときは際限なくダメになるものだなあ、と利家は思いつつ夜空に浮かぶ黒い影を見上げる。
 “御望み通りの展開を作って差し上げましたよ。市長マルファ殿。”
 巨大な表示枠の中から女市長マルファは眉を立てた笑みで言う。
 “これは異なことを言うものだ。我が死人の戦士団は全滅。我らが「上越露西亜(スヴィエートルーシ)」の一向一揆魔神戦士団や西側の国境警備隊も壊滅状態。私は途方もない悲しみに打ちひしがれているぞ。”
 彼女が戦闘の始まりにおいて撃沈した「上越露西亜」の輸送艦群は、まだ黒煙を上げている。
 “もう、「上越露西亜」の救いも間に合うまい。私は優秀な戦士団と同士を失い―――。これはもう、我々は孤立したも同然だな。”
 マルファは桟橋の上に立ち上がり、その視線は真っ直ぐに弓となった瞳から柔かく注がれてくる。
 “孤立したならば仕方ない。「ノヴゴロド」は「ノヴゴロド」の利益を護るため、「P.A.Oda」との不可侵を前提とした協力態勢に入ることにする。”

 マルファは遥か眼下に立つ「P.A.Oda」の《会計》を表示枠(サンクト・アクノー)で確認する。
 “協力態勢、その意味が解るか?”、“戦力は貸すし、「上越露西亜」との戦闘もするが、中には入るな、ということですね。”。マルファはTes.と頷く。
 “古来、ここは抵抗の象徴。「P.A.Oda」はそれを覚えていないのか。それとも内部で秘匿ということか。”、“ぼくは知っていますよ。聞いた話ですけどね。”ほう、とマルファが眉を上げる。
 “現「上越露西亜」《総長》兼《生徒会長》イヴァン四世こと上杉・景勝は私の同級生でな。道は違えたものの、「大粛清」や「反乱者の襲名」など厄介事を頼んでくる。最近、顔も見ておらんが、少々、立場が欲しい。” 笑みを濃くしてマルファは言った。
 “「ノヴゴロド」を「七尾城」とするのはどうだ?”

 成政に引きずられながら光治は息を飲んだ。“駄目だよ、前田。「ノヴゴロド」が「七尾城」になったら「手取川の戦い」に繋がり信長公の暗殺に繋がっていく。”
 “だが「聖連」を手中にしている「P.A.Oda」には「七尾城」の撤退戦などどういう形にも解釈可能だ。それこそ、「上越露西亜」を焦土と化してから撤退してもね。しして、市長マルファ、「七尾城」とすることで「ノヴゴロド」を「P.A.Oda」、「上越露西亜」双方から守ろうという考えかい?”
 左様だ、とマルファは告げた。
 “「P.A.Oda」に寝返った「七尾城」になっておけば、「P.A.Oda」が「ノヴゴロド」に手を掛けようとすれば「上越露西亜」に助けを求め、「上越露西亜」が粛清に来れば「P.A.Oda」に救いを求める。敵の敵は敵だ、そういう考え方じゃな。”
 利家は頷きながら、内容が難しいので他の代表と思案すると、答える。
 “新発田・重家の襲名には早い回答が得られるでしょう。ひょっとしたらあなたの本気を試すため、一度、出撃してもらうかもしれません。それくらいは、やってくれますよね? 「上越露西亜」の元《副長》”
 ”なるほど、まるで手切れのように渡されたものが、何であるか知っておるか。では、沙汰があるまで「ノブゴロド」は中立を宣言し、この地域を離脱する。こちらはこれから客人の迎えがあってな、さらばだ、「P.A.Oda」。いい結果を待っておるぞ。“

 「青竜亭本舗」の中、テュレンヌ公からミトツダイラに来た連絡で、「ノヴゴロド」が退いたと聞いた正純は眉をひそめた。情報源は巴・御前かスレイマンだろう。「ノヴゴロド」の動きは目視によるものだから確度は高い。聖譜記述によろ「新発田家の謀反」の歴史再現だろうか。何か大きな動きが生じているような気がする。だは、何か繋がっているようで、まだ、ピースが足りない。そんな感覚がある。
 考え込んでいると、点蔵・クロスユナイトが肩を叩いてきた。
 “ネシンバラ殿の足跡が、先ほど「武蔵野」艦尾の資材倒壊現場で途切れているで御座る。自分、これより、先に検分に出るで御座る。正純殿も余裕があったら来られるがいいかと。”

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第341回 バンシィ(10)

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バンシィ(10)

 そろそろ真面目にやろうと箱を開ける。
 まだぎんぎらデカールがこんなに残っている。
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 なにからやろうかと考え、シールドがやりやすそうだととりかかった。

 シールド部に貼るデカールは22個。特別デカールだからなのか、しばらく放って置いたので湿気がかぶったのか水につけてから浮き出すまで1分くらいかかった。
 ちょっと神経を使ったのでここでやめておく。

 トップコートは光沢にするか、半光沢にするか迷ったが、とりあえず光沢仕上げにする。

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 シールド上部のマークがユニコーンとは違う。

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第340回 忍法 魔界転生

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せがわまさき 「十(ジュウ) ~忍法魔界転生~」1巻(以下続巻)
十 ~忍法魔界転生~(1)

 「鬼斬り十蔵」以来のファンであるせがわさんの最新刊。
 山田風太郎さんの「柳生十兵衛三部作」の第ニ作、「魔界転生」のコミック化です。これが三部作の中では一番派手で人気のある作品ですね。
 すでに第一部「柳生忍法帳」は「Y十M 〜柳生忍法帖〜」として完結。
 「バジリスク 〜甲賀忍法帖〜」も良かったですね。
 短編をコミックした「山風短」も良かったですが、ここで大作が欲しかったところ。

 気が早いですが、柳生十兵衛三厳もの第三部「柳生十兵衛、死す」も描いてもらいたいものです。
 あと山田風太郎さんは「伊賀忍法帳」、「忍法忠臣蔵」も好きです。

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第339回 境界線上のホライゾンⅣ(4)

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(上)」 Horizon on the Middle of Nowhere :
Episode Ⅳ-Part 1 適当ダイジェスト④


「第八章 白き野の生え抜き達」「第九章 天井上の戸惑い娘」「第十章 天井上の謀り娘」
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 極寒の露西亜の地。黒皮の上着を着込んだ浅黒い肌の男は「P.A.Oda」五大頂の四番、佐々・成政。その隣に立つ赤い「M.H.R.R」の制服を着た霊体は同じく四番の前田・利家。その肩には「癒使(イスラフェル)」のまつがいる。その後方から声を掛けたのは眼鏡をかけ「P.A.Oda」の女子制服を着た少女。
 表示枠(インシャコトプ)を掲げ、肩から“北陸方面《会計》不破・光治”の腕章をつけている。三人の見つめる北北西方向十数キロ先にあるのは、「上越露西亜(スヴィエートルーシ)」の西にある露西亜最古の都市「ノヴゴロド」だった。
 八年前、聖譜記述通り人口八万人の内、六万人が大粛清された商業都市。指示したのは「上越露西亜」《総長》“雷帝”イヴァン四世。上杉・景勝との二重襲名者である。後継問題解決のため「ノヴゴロド」の女市長マルファにライバルとなる上杉・景虎を襲名させ部下共々粛清したとされる。そして、先日「清武田」が超特急で滅びた後、「関ヶ原」を見据えて《副会長》兼《副長》に直江・兼続。各地を転戦する《第二特務》に本庄・繁長を起用した。
 「P.A.Oda」と「M.H.R.R」が「マクデブルクの略奪」をやっている間に西側防備を固めたのだ。そして浮上都市「ノヴゴロド」の女市長マルファ・ボレツカヤは八年前の粛清時に市民全員を自害させ、動死体化して、相変わらず“露西亜の西側入り口”として守っている。
 不和の入手した情報によると「伊達家」が「武蔵」側に対し動きを取り始めたらしい。こちらも動かなければと言っている間に敵襲が来た。
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 半空間転移を用いた個人ステルス術式による魔神族戦士団の急襲は、その数、四桁を数えた。極寒の地でも活動可能な魔神族の甲殻は並の武器では砕くこともできない。どれも姿は2mを越え、四肢以上のものを持つものも居る。かつてムラサイの《大総長》スレイマン・顕如麾下だった一向一揆衆だ。
 三人に向かって最前列がダッシュを掛けてくる。前田・利家は「加賀百万G」で五万体の白骨の群れを地から沸かせ、佐々・成政は大跳躍からの一撃で魔神族を三人ほど穿ち払う。

 「P.A.Oda」と「上越露西亜」が北陸で激突を開始したという情報は、「M.H.R.R(神聖ローマ帝国)」改派(プロテスタント)《書記》巴・御前経由で「六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)」《副長》テュレンヌ公から「IZUMO」、「関東IZUMO」、水戸領主ネイト・ミトツダイラへ入ってきた。
 《人狼女王(レーネ・デ・ガルウ》はミトツダイラの表示枠(サインフレーム)から、「伊達家」の後継争い、政宗と小次郎の動きに何らかの変化があると正純に伝える。聖譜記述で政宗の従弟にあたる伊達・成実が来たことに関係があるはずだ。

 浮きドック「有明」の天面。伊達・成実は機械の足元から伝わる振動で「武蔵」の改修状況分析を行っていた。そこに正純らアリアダスト交渉団が到着する。12mの距離を開けて立つ両者に浅間・智が防音結界を掛ける。互いに挨拶を交わした後、成実は《生徒会長》は?と問うと、正純は“あれは駄目だ”と答える。では《総長》は?との問いに正純は“それも駄目だ”つまり二倍駄目だと考え、不意に二倍駄目って相当まずいことなのではと気付く。
 《生徒会長》も《総長》も駄目?と訝る成実に、これはいかんと言葉を選んで“すまん、誤解をさせた様だ。うちの《生徒会長》と《総長》は駄目という訳ではなく、”。
ここで「三征西班牙」の女子制服を着た馬鹿が表示枠に現れる。
 “凄く駄目だ・・・”と言い直した。
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 気を取り直して成実に今回の会議の目的を聞く。
 成実の返事は“一言で言うと、「伊達家」は「松平」と縁を切りたいんだけど、いいかしら?”
 続けて“「伊達家」にとって「松平」は有害だから絶縁しておきたいの。”
 初手から縁切り話になるとは思っていなかった正純は、これはまずいと考える。《副長》が単身で来るということは武力に任せて単独脱出できるということだ。
 “不転百足”と鋭く叫ぶと成実の背後に身長3mを超える「機動殻」が出現する。バックステップで乗り込む「機動殻」が閉じればそれで交渉決裂だ。今後、「武蔵」は「伊達」との関係修復というカードを掴まされる。
 “奥州は奥州のルールでやらせてもらうわ”と言う声と共に「機動殻」が閉じようとした時、背後のリフトから“待ていっ”と咆哮が響き渡った。

 成実の眼前、30mの位置に半竜が出現した。2m53cm。希少種族の航空系半竜。《第二億務》は「総長連合」では“司法”を担当する。今回の一方的な絶縁を国家間の法的在り方として正しいか判断できるだろう。叩き潰すか、離脱するか。もうすぐ「機動殻」が閉じようとした時、半竜が問いを投げつけた。
 “貴様に弟か妹はいるか?”

 正純は成実の「機動殻」が一瞬、膝を抜かしたようになったのを見た。良いリアクションだと思っていると、ふたたび開き始めた「機動殻」から成実が左右をあたふたと見回す。
 “貴様はだれかの「姉」なのか?答えろ!”

 外交ってこんな話をするの? 成実は頭を抱えていた。理解不能は判断条件を出された《不転百足》は再起動状態に入り、すぐには立ち去れなくなった。とりあえず“一人身よ”と返事をする。
 ウルキアガが広げた腕を下ろし、うなだれ、全身の排気口から流体光の吐息を漏らし、“拙者、来る意味はなかった。とんだ無駄足た”と正純に俯き顔を見せると、どうしたものかと思い、“まあ、飛んできたからにはとんだ無駄足が。”・・・滑った。
 直撃を食らったウルキアガは動かなくなった。成実も口を半開きにして正純を見る。慌てた正純は表示枠(サインフレーム)を開きミトツダイラに助けを求めた。

 “じゃ、そういうことで”と《不転百足》を再起動し、立ち去ろうとした成実の前に水戸領主が正対した。“必要なことだけ言ってさっさと帰る”予定が面倒なことになった。水戸領主は《第二特務》の肩を叩き、“我が校の《第二特務》がこうなったのは貴女のせいですのよ!ただでは帰しません!”
 なんか斬新、とか新感覚という言葉が心の中に浮かぶのを成実は感じ、《不転百足》がふたたびコケかけた。しかし、《第二特務》は“司法”の担い手だ。責任転嫁されてはたまったもんじゃない。
 “あのね?わたしのせいだなんて、そんなこと、あるわけないでしょ?”
 ミトツダイラは“ありますわ!! そうでしすわね?正純! 《第二特務》の落ち込みは「伊達家」《副長》のせいですわよね!”
なんか一回りして返ってきたが、ウルキアガの発言をなんか政治的に使うことは出来ないかと正純は考えた。落ち着け本多・正純。お前はやればできる子だ。
 “いいだろう、「伊達家」《副長》。《第二特務》の発言を貴女は少々誤解している。” 正純は内心、構えを取った。
 “聖譜記述によれば伊達・成実と伊達・政宗は義兄弟のようなものだったという。現在、貴女は政宗甲より年上なので”姉“という意味で《第二特務》は発言したのだ。友好的でありたいため襲名状況などに少々、踏み込んでしまったが、それが真意だ。誤解なきようお願いする。”

 「青雷亭本舗」で状況を見ていた立花・誾はかなり強引だがこの解釈はありだと判断する。“友好的でありたい”と逃走を封じ、“誤解するな”と釘を刺す。夫の宗茂に「伊達家」の情報を見せながら話すが「伊達家」の首長、伊達・政宗は二年生であり両脇を三年生の《副長》伊達・成実と《副会長》片倉・景綱が固め、《会計》、《書記》、《第三特務》以下を置かない中央集権型の教導院だ。その教導院の影響は大きく、政宗と同い年の里見・義康は腰に差した《村雨丸》に手をやり、関東北部の「里見・朝鮮」にから見ると奥州南の騎馬民族の侵攻に手を焼いていた話す。
 中央集権型は「上杉家」も同様。「最上家」は更なる集積型で教導院の運営に人材を増やすことをしない。それは「松平」の恩恵を信じていたからだ。だが「K.P.A.Itaria」を落とし「聖譜連盟」の中枢を握った「羽柴」に、現在の「松平」は抗う術がない。

 だから、伊達・成実は言う。“「伊達家」に関わらないで頂戴。”
 正純はなにか奇妙なものを感じた。ここまで完全拒否するのは何故だ? 国交は互いの了承があって成立するものだから、拒絶であれば無視すればいいのに、わざわざ接触してきたので言葉を交わすことになる。
恐らく二重三重に“理由”があるはずだ。それは“罠”かも知れないが。
 正純は成実に答える。“「伊達家」の忠告には、条件付きで了承したい。”
 
 この間に正純は情報担当の《第一特務》点蔵・クロスユナイトと相談する。点蔵も同じ考えだ。わざわざ接触してきたのには“理由”があるはずだ。

 正純は話を続ける。“条件とは、外交官として臨時の大使を派遣することだ。敵対的な国家同士でも今の時代では行われていることだ。” 正純は成実の視線を押し返すように己の瞳を正す。
 “そして、「最上家」、「上杉家」の合計三国へ「武蔵」アリアダスト教導院は臨時の大使を派遣する。それが「伊達家」への不可侵を約束する条件だ。”

 本多・正信邸では熾烈なコマ送りの権利争いが起こっていた。正信が献金手形術符を貼った拳を商工会長にぶち込み、床に叩きつけられてバウンドし天井にぶつかるのを見ていると、小西が「有明」天面での極秘会談で正純が面白い発言をしていると告げる。
 絶縁の申し出に対し、三国同時の外交官の派遣。疑心暗鬼に満ちた三国は“大使”という無難であるが、いざとなれば強固な関係を作れる存在が欲しい。他国に出し抜かれないよう、我先に欲しがるだろう。
 はは、と正信は笑う。“そうだ正純。攻め気の政治だ。それが本多の政治だ。「極東」の政治家は攻めねば滅ぼされるだけだ。”

 成実はやっかいな攻撃だと思った。外交官の派遣は聖譜記述によりこの時代でも行われており、「聖譜連盟」を主導する「K.P.A.Itaria」から始まったことなので、断れば「聖連」に異を唱えることになる。外交官といっても身内を担保とした外交システムだ。「最上家」が駒姫を「羽柴」に預けるのだから「伊達家」がこのような外交を飲んでも問題はないが。
 “外交官受入れの是非の判断は《副会長》クラスの判断が必要だわ。”
 「武蔵」《副会長》は表情を動かさず“検討してもらえるだけで幸いだ。”と答える。交渉専門でない成実はこのような事に不慣れであるからこそ警戒されているのかと、自嘲でなく、ふと可笑しくなり小さく笑みを得た。
 その笑みを捉えたのは正面にいる三人の内、半竜だけだった。今の笑いは不注意だったと思った時、半竜は言った。
 “久しぶりに笑う、という風情だな。―――いろいろ背負っているのだな。貴様も。”
 成実は沈黙しか選択できなかった。

 「青雷亭本舗」の中で声が生まれた。窓際の席で点蔵とテーブルを挟んでいるメアリの声だ。
 “ウルキアガ様が伊達・成実様の背を見つけられたみたいですね。” 点蔵は“背とは?”と聞く。
 メアリは点蔵に対して目を弓にして舌を出す。舌上に載っているのは結んだチェリーの軸だ。
 “点蔵様が私を見つけた時、一緒に拾って下さったものと同じですよ。”

 なぜか沈黙した伊達・成実にミトツダイラは戸惑いを得た。不似合いなタイミングを感じる。この空気は自分は不慣れで、正純も眉をひそめて解ってないが、これはひょっとして英語弁で言うと“ラヴ”で、西班牙語弁で“アモーレ”で、仏蘭西語弁では恥ずかしくて言えないようなものの始まりなのだろうか。
 半竜はこの場にいてもしょうがない、と下に控えていると言って立ち去ろうとしている。乙女脳を持つのは私だけなんだろうか?
 成実は会釈を一つ送って《不転百足》を起動させ、“収穫はあった。以後は「伊達」の《副会長》から連絡をさせる。”と言い帰投する。
 《不転百足》の背にボディと同系色の光の四枚翼が生まれ、足が浮いたと思ったらその姿が消えた。緩衝術式を掛けた高速飛翔だ。航跡すら残していない。上を見上げると《ステルス障壁》に小さな穴が開いている。直上に開いているのでどちらに向かったのか見当もつかない。

 成実は光翼に消光術式を掛け北に向かう。と、《不転百足》の顔横に消光設定の表示枠が生まれた。内部の成実に低音の男の声が響き、首尾を問う。「仙台城」の管理システムである留守・政景だ。名前がややこしくて居るのか居ないのかわからない。
 成実は大体は《副会長》片倉・小十郎の予想パターンに入ったと答え、音声記録を送る。成実の「武蔵」《副会長》の評価は堅物だが、無理な手を持って行っても、さらに手を加えて最善手に変えて使ってくる。 片倉も対応が大変だろう、というものだった。
 さらに鬼庭の方の首尾を聞いて「上越露西亜」方面に進路を向ける。「上越露西亜」と「P.A.Oda」の偵察に向かうのだ。
 その先には黎明の頃から飛び続ける抵抗の街「ノヴゴロド」がある。

 次回。「P.A.Oda」と「上越露西亜」の初戦の行方は?
 あの御方がいよいよ登場です。

 お楽しみに!

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第338回 お答えします

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最近、いくつかの質問が来たので、お答えできる範囲で答えます。

1.ペリーローダンのあらすじなど、どうやって書いたのですか?全部読んだんですか?

 これはネットで情報を集め続けてきたものをまとめたものです。
 「Perrypedia」というドイツ語のサイトがあります。ここには第1巻から最新刊までのペリーローダンの各巻のあらすじ、各サイクルごとのまとめが載っています。
 http://www.perrypedia.proc.org/wiki/Hauptseite

 ここには「アトラン」シリーズの紹介もあり、その内まとめようと思っています。

 日本語サイトではペリー・ローダンのファンサイトでは草分けの西塔礼二さんの「rlmdi」が詳しいです。
 http://www.rlmdi.net/rlmdi/rhodan/

 ここから登録するとメールマガジン「d-information」が毎週月曜日に届きます。
 http://www.rlmdi.net/rlmdi/di/ 現在、2685話が届いています。

 今は閉鎖していますが「無限架橋」というサイトもあり、年表などのデータが手元に残っています。
 早川書房のサイトにはタイトルリストが2400話以降まで載っていたようですが、最近見つからなくなりました。
 データだけ取っておいてよかった。

2.ソードアート・オンラインの整合騎士の名前の番号が変わったのですか?

 文庫版で人員整理しているようなのでまとめてみる。
 Web版にも全員出ている訳ではないので、出てこない人は省略。
 もとは50人いたが入団した順番に変えたようだ。

 2013年2月現在、名前が出てきたもの
 整合騎士
 順位  Web版名前                武器     文庫版  武器         
 1 ベルクーリ・シンセシス・ワン       時穿剣 →  ベルクーリの名は伝説に出てくる   ?
 2 ファナティオ・シンセシス・ツー      天穿剣 →  未登場   ? 
 7 デュソルバート・シンセシス・セブン    熾焔弓 →  11巻で出てきたが名乗らず ?
12 シェータ・シンセシス・トゥエルブ     黒百合の剣 → 未登場  ?
22 ダキラ・シンセシス・トゥエニツー     ? →    未登場   ?
26 エルドリエ・シンセシス・トゥエニシックス 星霜鞭→ エルドリエ・シンセシス・サーティワン 霜鱗鞭
49 レンリ・シンセシス・フォーティナイン   双投刃”比翼”→ 未登場  ?
50 アリス・シンセシス・フィフティ      金木犀の剣→ アリス・シンセシス・サーティ ?

 ファナティオの部下?の”宣死九剣”と呼ばれる整合騎士が9名いるが、ダキラ以外、名前もNo.も出てこない。
 アーシン、ビステン 整合騎士見習い

「ソードアート・オンライン」の12巻のタイトルは「アリシゼーション・ライジング」になったようだ。
ライジング


3.本は何処にしまっているのですか?

 古い本は段ボール箱に入れて押し入れに入っていたり、ベッドになったりしています。
 そろそろそれも限界を超えており、あちこちに積み重なったまま置いてあります。


4.氷と炎の歌の第4部はどうなったのですか?

 すいません。買ってありますがまだ読んでません。(-_-)ウーム

5.前に書いていたWORDGEAR REVERSEの内容は何ですか?

再配布禁止ですので、もう手に入らないでしょうが

・Sword Art Online #16.5
 SAO本編#16で、キリトが「詳細は説明は省」いた部分。
 ソードアートオンラインWikiにはこれについての記述がある。

・カラダの温度(一部九里筆) (キリト×リズベット)
・領主さん達の色仕掛け? (キリト×サクヤ×アリシャ・ルー)
・領主さん達の色仕掛けリアル編 (和人×薫×ルミ)
・アスナ●● (アスナ×ナメクジ) :●●はヒッターが伏せました
・ちょっと危ない勉強会? (アスナ×リズベット)
・心のリハビリ (和人×安岐ナース)
・第三回SAOシリーズ人気投票 裏結果発表!!

です。2006年ころまではあったようです。


 質問について
 毎回の小タイトルの下に小さく「comments」という文字があり、そこからコメントを送れるのですが、”管理者にだけ表示を許可する”にチェックを入れると返答ができない場合があります。
 見た後、削除希望と書いてくれれば削除します。

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第337回 敵は海賊

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神林長平 「敵は海賊・海賊の敵」 RAJENDRA REPORT

敵は海賊・海賊の敵

 6年ぶりの新作。またあの1人と1匹と1艦に会えてうれしい。
 昔、アニメ化されたのを友人と見ていたが、あのアニメのスピード感はハンパネェ感じだったな。
 今回もノリノリであっという間に読めました。
 やはり匋冥はカッコええな。


 既刊
 敵は海賊・海賊版
 敵は海賊・猫たちの饗宴
 敵は海賊・海賊たちの憂鬱
 敵は海賊・不敵な休暇
 敵は海賊・海賊課の一日
 敵は海賊・A級の敵
 敵は海賊・正義の眼
 敵は海賊・短編集

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第336回 境界線上のホライゾンⅣ(3)

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(上)」 Horizon on the Middle of Nowhere :
Episode Ⅳ-Part 1 適当ダイジェスト③


「第四章 暗中奥の揃い人」「第五章 現場倉庫の演技者達」「第六章 二重在所の立会人」「第七章 視えず場所の相談者」
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 午後八時半。「奥多摩」艦尾搬入出港。天井からの光に照らされる姿は1人。だが、影は4つ。「真田十勇士」の内、四人が潜入した。穴山・小助、根津・陣八、三好・伊佐、由利・鎌之助である。「IZUMO」で一般人として先行乗り込みしていた根津と由利の内応で侵入できたのだ。現在、三度の検疫と毎日変わる合言葉で「有明」に潜り込むのは不可能に近い。ちなみに合言葉は“壁に耳あり障子に”で、下の句は“あの野郎許さねえ・・・!”である。先日は“槍を揉んだら”で下の句は“あの野郎許さねえ・・・!”だったのでうっかり者しか引っかからないようだ。
 彼らの任務は「武蔵」の補修状況の把握、破壊工作の仕掛け、要人の暗殺である。そして、彼らの目前に現れたのはアリアダスト教導院《書記》トゥーサン・ネシンバラだった。

 ネシンバラは数人の護衛を連れて見廻りをしていた。同行の一人は一学年下の《代表委員長》大久保・長安と大久保・忠隣の二重襲名者の少女。一人は中東式の自動人形、《風紀委員長》加納だ。名門の令嬢とその侍女などとマルガ・ナルゼならネタにしそうなコンビだが、小説のモデルにしようと妄想していると、シェイクスピアから定時連絡の表示枠(サインフレーム)が開く。要職者共通の通神(チャットルーム)なので冷やかしやら冷たく白熱する会話が続くが、問題は現在の状況である。
 「武蔵」の改修に当って軽量化を行うため清掃を行ったのだが、ベッドの下や畳の裏に隠していたものまで、数十トン単位の書籍、雑誌、文庫、同人誌、瓦版が出てきた。「有明」のバックヤードで古書市を開いてもいいのだが、仕分けをしなければならない。検閲のため《風紀委員長》加納が管理系制御情報術式の表示枠を複数開いて検分を初め、大久保がその後の流れを承認していく。大久保が“男の人ってなんでこんなん好きやの?”と聞くのに、それはうちの《第四特務》が描いたやつですと心の中で答えていると、トーリから会議をするから「青雷亭」集合のコールが掛かる。
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 本多・正信邸。いつもながら怪しげな男達が集まっている。小西を筆頭に露西亜、奥州の動画番組八時間分編集版をネタに暫定議員たちは内部外部の不穏の洗い出しが始める。

 ネシンバラは「武蔵野」後部側の迷路のような資材置き場を歩いていた。その資材の陰になって目の届きにくい場所に巡回中の番屋の制服を着た四人が倒れている。襲われたのだと察し、通報のために表示枠を開くが通じない。
 違和感を感じ、創作術式《幾重言葉》を展開する。フード姿の小柄な少女の背後からの攻撃を“言葉”で回避すると、さらに長衣の姿が増えていた。“言葉”で風を創り、回避した敵に資材の鉄板を数枚落下させる。しかし、5m四方の鉄板の一枚の落下音が遅れて響いてきた。倒れている警備の者の刀で落下物のクリ アランスを作ったのだ。
 そしてネシンバラの背後から眼前に刃が回ってくる。“鎌?”
 回避しようとしたネシンバラの正面から女の声が聞こえた。その影の持っている武器を見てネシンバラは叫ぶ。“お、オマエは・・・”。そして攻撃が来た。

 「武蔵野」の通りを歩いているのは「英国」の夏服姿に青い瞳と金髪、着替えを入れた手桶を豊満な胸の下に抱えた姿と、その横を歩く忍者装束仕様の少年。
 少年は言った。“メアリ殿の真似はやめて欲しいで御座るよトーリ殿。”

 トーリは浅間神社の風呂を覗きに行って命を狙われているらしい。点蔵が上を見ると浅間神社から弾道予測放物線付きの照準型表示枠が幾つも放たれ、「武蔵」上空から獲物をサーチしている。点蔵はそれが対亜竜用射撃照準と知り、巻き込まれるのは嫌だから一人で死んでくだされと突き放す。
 トーリの護衛に付いていたアデーレはどうしたのかと聞くと、格差社会の不条理について考えながら風呂に浸かっていると女装が答える。
 以前の戦闘で破損した「機動殻」の補修は、なぜか武蔵王ヨシナオが整備知識に詳しく、「六護式仏蘭西」からパーツを取り寄せているらしい。「武蔵」の改修を含めて各自が強化を始めているが、現方針を打ち出しているのは女装の馬鹿を筆頭とする「生徒会」であり、明確な反抗を抑え込むため、各艦の居住区を分割して地上に下ろし、ネシンバラが通神帯(ネット)情報を管理して世論を監視しているからだ。
 対して敵は「P.A.Oda」、「織田家」とその跡を継いで極東支配の歴史再現を持つ「羽柴」だ。「羽柴」は「P.A.Oda」の主教導院P.A.O.M.のバックアップと、欧州列強の「M.H.R.R(神聖ローマ帝国)」の半権を持ち、さらに「K.P.A.Itaria」を制圧して《教皇総長》を手に入れ、実質的に「聖譜連盟」の支配権を持った。そんな敵に自分たちが勝てるのか。
 考え込む点蔵の行先の影が振り向く。本物のメアリだ。横の馬鹿が偽巨乳を腕に押し付けてくるのをむりやり引っ張っていき合流する。すると左舷後部側の資材置き場での方で立ち入り禁止警報が鳴り、大型表示枠が幾つも展開した。点蔵は《第一特務》麾下の構成員に現場調査指示を出し一息つく。
 メアリが「多摩」の「青雷亭」方面に行こうとするのと止め、行く先を示す。そこには一軒の住居兼店舗があった。看板には「BLUETHUNDER 青雷亭」。別名「青雷亭本舗」。葵姉弟の自宅である。ここでこれから伊達家の使者に対する会議と、今後の方針確認が行われるのだ。

 四人掛けのテーブルと二人掛けのテーブルがある軽食屋。バターと焼けた小麦の匂いが染み付いた空間で女装が裸エプロンで給仕をしている。浅間が半目で番屋になにか書面を送っているのを正純は確認した。
 「多摩」区画の「青雷亭」は母親の善鬼(よしき)がやっており、トーリはこちらのバイト店長なのだ。女装エプロンがロングタイプのピザをテーブルに置き、喜美はジンジャーエールのグラスを配っている。さらにタルトの皿をテーブルに並べていくトーリ。アデーレと里見・義康は外で警護を受け持つ。
 ホライゾンにピザカッターを渡しながら手を握り、“これで切るんだぞ、俺をビビらせるなよ”、“ほほう、メシが不味くなるので手を離して頂けませんかトーリ様”と言う会話に、ハイディはこれから会食があるからと言い、立花夫妻は夕食は済ませたと断る。マルガとマルゴットは自分たちの分を取って置けと通神を寄こし、向井・鈴はホライゾンからピザの皿を受け取り小さく笑う。
 ここで立花・誾が巨大な義椀を上げた。“呼集されましたが、私ども、ここにいる意味はあるのでしょうか?”これに対し、正純が答えた。
 まず緊急会議の最初の要件。一般生徒である立花・宗茂の臨時・《副長補佐》としての推挙。まだ決定ではないが、その用意がある。つまり、立花夫妻を前線に出せるなら出したいということだ。
 これに反応したのは誾だった。「三征西班牙(トレス・エスパニア)」を「武蔵」の復権に取り込もうというのか?と。
 警戒心を隠さない誾に正純は答える。「三征西班牙」の《第一特務》と《第三特務》が「武蔵」の《副長補佐》になることが復権になると?
 誾は“成程”と頷き姿勢を正した。《第五特務》ネイト・ミトツダイラは目的は純粋な戦力強化だと言う。なにしろ、「マクデブルクの略奪」の際、《副長》本多・二代が主武器の《蜻蛉切》を失ったので、敵将、柴田・勝家に並んだ力を借りたい。
 現在《蜻蛉切》の修復の目処はたっていないと《第六特務》直政が答える。「三河」特製の「神格武器」の心臓部が破壊されとなると「大罪武装(ロイズモイ・オブロ)」を造り直すに近い。そういえば二代は何処なんだと聞く直政に、間違って「多摩」の方の「青雷亭」に行ったと正純が答える。
 《書記》のネシンバラも来ていないが、とりあえず情報遮断の結界を張り、会議が始まろうとしたが浅間・智が声を上げる。
 「武蔵」の通神は浅間神社が統括しているが、ホライゾンの表示枠(サインフレーム)は独自の自動人形制御用OSで、今、張ったような情報遮断結界には並のOSなら弾かれてしまうはずだ。わずかなノイズが出ているが、防御系の制限情報術式に強引に無効化を掛けてきている。《走狗(マウス)》のハナミがホライゾンの方へ飛び、「三河」製のOSと同じ「三河」管轄の浅間系OSの同期を祝詞で取るため、管理者による奏填(インストール)確認を求める。
 浅間神社系表示枠をホライゾンの鳥居十字型表示枠が検査しながら読み込んでいく。
 「確認開始」の文字を皆が見る。続いて。
 「認証:浅間神社主祝詞」
 「検査:エロ検査・未遂:破廉恥検査・未遂:R元服検査・未遂」
 うわあ・・・と皆が引き、浅間・智は鈍い汗を流す。いやあ、規定チェックなんだがと思っている内に術式は組み込まれた。ホライゾンのOSに干渉せず共通通神帯にアクセスできるようにした呼び出しプログラムである。再起動して上手くいったことを確認していると、軽食屋のドアが開き金と黒の六枚翼が入ってきた。

 よし、と仕切り直して正純は口を開く。今夜の「伊達家」の使者との機密会談に向け、アリアダスト教導院「生徒会」、「総長連合」の主力による現状と今後の方針確認である。
 最優先は今夜の機密会談でどういう手段を用いようとも、「伊達家」とのパイプラインを築くことだ。最終的に奥州の覇権を握る「伊達家」は極寒の重層領域に守られた独特の種族分布ゆえ、「武蔵」以上の多種族構成を持つ戦闘系教導院、仙台伊達教導院を持つ。
 正純は「ツキノワ」に拡大した表示枠に地図を表示させる。
 極東北側は大きく三つの勢力に分かれている。奥州シベリア未踏地帯太平洋側の「伊達家」、日本海側の「最上家」、「上越露西亜(スヴィエートルーシ)」を支配する「上杉家」。この三国は談合などを用いて表向きは争いつつ、裏では平穏な歴史再現を行ってきた。
 図式的には「最上」は「伊達」と「上杉」と敵対。「上杉」は東では「最上」と敵対しつつ西で「P.A.Oda」と敵対しているが、現状、「伊達」と「最上」は非戦状態で沈黙を守っている。
 奥州の暫定国境は「羽柴」時代と「松平」時代に二回、刷新されていて、「羽柴」が関東に来たからには簡単に談合が出来なくなってしまった。これには理由がある。
 三国の衝突は織田・信長の暗殺に関係してくる。「羽柴」としてはこの三国の戦いをなるべく伸ばしたい。二度の「上杉」対「最上」、そして「最上」対「伊達」の戦いは信長の死後に起こるからだ。「マクデブルクの略奪」に柴田・勝家が参加したのも「P.A.Oda」対「上越露西亜」の戦いを遅らせるためだ。この最中に信長が暗殺されるからである。
 ここから複雑な歴史再現の手順があり、迂闊に動くと大きく国力を削ぐことになる。
・「手取り川の戦い」:「上杉」から「織田」に寝返った「七尾城」が討伐のため襲撃されたが援護に向かった柴田・勝家は落城を知らず撤退戦を余儀なくされる。しかし、この後も西で「新発田家」が反乱を繰り返し、東で「最上」と衝突が始まる。
・「十五里ケ原の戦い」:「最上」と「伊達」が衝突した際、「上杉」が「最上」領に侵攻。本庄・繁長が奪われていた土地を奪還する。
・「慶長出羽合戦」:「関ヶ原の戦い」に「羽柴」側として出陣しようとした「上杉」を、「松平」側についた「伊達」と「最上」が攻撃して止める。
・歴史再現として「最上」の当主、最上・義光の愛娘、駒姫が「羽柴」の甥、羽柴・秀次の側室に迎えられる。

 本気でやっかいだと正純は考える。「羽柴」の牽制で「最上」と「伊達」が動かないならこちらから動くしかない。信長の暗殺の条件が整うように「極東」を持っていく。
 ここで女装エプロンがストップをかけた。“暗殺”を強制するな。“死”の強制をしないのが俺達のスタートラインだ。
 “まいったなぁ”と呟きながら正純は自分を叱咤する。
 その時、マルゴット・ナイトの術式陣(マギノフィグーア)に魔女(テクノヘクセン)の警戒網から連絡が入った。何かが高速で「有明」に激突したのだ。

 「有明」上層部天面中央部付近。極東警備隊に囲まれたのは黒緑と朱色で彩られた直立の装甲。身長3mほどの百足(ムカデ)だった。
 女性の声で“解除:不転百足”と響くと同時に中央から割れて現れたのは、白と朱の露西亜系インナースーツを纏う少女。奥州シビル仙台伊達教導院、《副長》伊達・成実。
 “よろしく”と掲げた両手は鉄で出来ていた。そして四肢も全て義体の姿であった。

青雷亭

 次回、「P.A.Oda」と「上越露西亜」が北陸で激突を始める。
 極秘会議に来た伊達・成実の目的とは?

 お楽しみに!

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第335回 絶対可憐チルドレン

Posted by ヒッター7777 on   0 comments   0 trackback

椎名高志「絶対可憐チルドレン 」(33)
絶対可憐チルドレン 33

 略称は「絶チル」なのか。「絶燐チルドレン」かと思ったのに。
 椎名さんのコミックは「GS美神 極楽大作戦」から集めていたのだが、「チルドレン」ももう33巻目か。
 そろそろ終わりが見えてきた。
 スピンオフの「THE UNLIMITED 兵部京介」のアニメが始まっているが、どうなのだろうか?
 ちょっと食指が動かない。もうちょっとネット情報を集めよう。

 エスパー物はどうしても一般人との確執ができるので、そこをうまく処理、利用して物語を造るのか難しい。良いラストを願っています。

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第334回 ソウルドロップ シリーズ

Posted by ヒッター7777 on   0 comments   0 trackback

上遠野浩平 ソウルドロップ孤影録「コギトピノキオの遠隔思考」
Remote Thinking of Cogito-Pinocchio


コギトピノキオの遠隔思考

「これを読んだ者の生命と同等の価値のあるものを盗む」という紙切れを残し、キャビネッセンスと言われる「魂の一滴(ソウルドロップ)」を盗んでいく怪盗ペイパーカット。
 7作目にしてロボット探偵・千条雅人と伊佐俊一コンビの初タッグ、エピソード0の登場。
 クローズドサークルの孤島に閉じ込められたサーカム財団の研究員たちと研究対象の7人。
 次々と殺されていき、最後に残ったのは伊佐と千条だけだった。


 なんといっても斎藤岬さんのイラストに慣らされてしまった。(「退魔針」好きです)
 もう他のイラストレーターの飴屋は見れないな。


 「ブギーポップ」シリーズ、「ナイトウォッチ」シリーズとリンクしているので全部読んでもらいたい。

 「天敵」と人類が定義付けた存在「虚空牙」。
 ”それ”はヒトが持つ「心」にのみ興味を持ち行動を起こしているが、あまりにも遥か遠くから見ているせいで「生命」とそうでないものの区別が微妙についてない。
 「統和機構」は”それ”を"牙"、"天から降りてきた者たち"と名付けた。
 世界4カ所で発見された”牙”の痕から、「虚空牙」が人類の調査のために送り込んだ”情報端末”は4体と推定された。
 「統和機構」がその1体「エコーズ」の回収に成功したが”マンティコア・ショック”の際に失われる。(「ブギーポップは笑わない」)
 2体目は「ブリック」、赤いレンガのような色の肌をしている。人の心の中にあるものを引きずり出し爆弾にする能力を持つ。(「ロスト・メビウス」)
 3体目は「ペイパーカット」。
 4体目は「才牙虚宇介&才牙そら」なのかな?

 既刊
 1.ソウルドロップの幽体研究 Spectral Speculation of Soul-Drop
 2.ソウルドロップ奇音録 メモリアノイズの流転現象 Phantasum Phenomenon of Memoria-Noise
 3.ソウルドロップ虜囚録 メイズプリズンの迷宮回帰 Labyrinthine Linkage Maze-Prison
 4.ソウルドロップ彷徨録 トポロシャドウの喪失証明 The Deprived Proof of Topolo-Shadow
 5.ソウルドロップ巡礼録 クリプトマスクの擬死工作 The Screened script of Crypt-Mask
 6.ソウルドロップ幻戯録 アウトギャップの無限試算 Infinity Inference of Out-Gap

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第333回 境界線上のホライゾンⅣ(2)

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川上稔「境界線上のホライゾン Ⅳ(上)」 Horizon on the Middle of Nowhere :
Episode Ⅳ-Part 1 適当ダイジェスト②


境界線上のホライゾン4〈上〉

表紙は伊達・成実(だて なるみ)ちゃん。


「第一章 不明足場の先見者達」「第二章 隠れ空の隠れ者」「第三章 穴あき場所の覗き屋」
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 巨大浮きドック「有明」内で改修中の「多摩」の学生寮付近。立花夫妻は戦闘訓練を兼ねた宗茂のリハビリを行っている。一段落したところで夕食の時間となる。二人は食事しながら話し合うが、どうやら《第一特務》の点蔵から、今夜、伊達家との非公式会談があるので招集をかけると連絡が来たらしい。
 二人とも仲間と認められたようだ。夕食を兼ねて訓練を続ける宗茂の視界に二代の姿が映った。
 本田・二代は「武蔵野」の外壁の壁と向かい合っていた。先に点蔵がリハビリとして宗茂にやらせた“壁登り”の訓練である。宗茂と二代の加速術は根本的に異なる。祓禊(みそぎ)により余分なものを全て払っていく《翔翼》を使わず素の力と技術だけで宗茂の立つ位置まで届こうとした時、のけぞった身体が落下していく。
 それを見た立花・誾は「三方ケ原」の敗戦以来、どことなく気が抜けていると呟く。
 二代は落下したまま仰向けの状態で倒れたままだ。形見の《蜻蛉切》は失われ、今、持っているのは形状も重量もそっくり同じの《蜻蛉スペア》だ。伸縮機構も疑似割断能力もあるのだが、OSが主人と認めてくれくれなければ使用できない。
 二代は自分に問う。「拙者は不抜けてしまったのだろうか・・・」

 夜の森。水戸領域の北方、米沢の地で伊達方面の空域警戒をしているのは真田教導院の猿飛・佐助と霧隠・才蔵だった。彼らの潜む森が轟音と共に一気に薙ぎ払われる。精霊系異族の“風精”である才蔵はいきなり月光を浴びて身体が竦みあがるのを、佐助に引っ張られて闇の中に身を隠す。
 なにかが落ちてきた。そして夜空には「伊達」の紋章を付けた5体の飛行武神。その先頭にいる鬼角を有した武者型武神は伊達教導院《第二特務》鬼庭・綱元の騎乗する「左月」だ。
 「左月」が大槍を抜いているということは、落ちてきた物も教導院の上位役職級だろう。才蔵が理解したものは、その青い色、その速度は視線で追うのが間に合わないということだった。そして竜にも似た咆哮を上げて鬼庭の「左月」を蹴り飛ばし、二つ在る月に向かって飛翔する。
 大槍を振るって防戦する「左月」に、さらに飛翔用主翼を近接戦闘に使用して押していく竜型武神。爆発的な加速を受け流し切れず、右肩の重装甲をもぎ取られ大槍も折られた。その瞬間、「左月」は全ての装甲を術式火薬でパージする。戸惑う竜型武神に控えていた四機の武神が長銃を発射した。弾丸は流体系防御を突き破れる術式弾だ。
 光の四撃が竜型武神に当たったと思った瞬間、八本の青雷が天と地を繋ぐ。青光がうねる破壊の中、四機の武神を突き飛ばし、退避させる鬼武者型武神「左月」。一機が投げて寄こした槍で迫ってくる青光の一本に叩き込み、二つの月を頭上に浮かべる竜型武神に腰の二刀を抜いて飛びかかった。

 佐助と才蔵が見守る中、宙に浮いているのは左右の肩角と両手に持つ二刀で三日月を描く「左月」だけだった。突然、姿を消した竜型武神。あれは「伊達家」のものとなったはずの四聖武神「青竜」ではないのか。

 浮きドック「有明」内の「武蔵野」表層部に不意に馬鹿の声が生まれた。浅間神社でマルゴット・ナイトに治療を受けている二代を覗きに行こうというのだ。浅間神社の風呂は使用時に《天面ステルス》をかけるのだが、トーリの頼みで浅間の親父さんがステルス死角を仕込んだらしい。“若いっていうのはいいなあ”と言ってる場合か親父さん。ノリキが半目で女装の馬鹿を見る。
 アデーレはふと下を見ると直政の「地摺朱雀」と並んでジャージ姿のネイト・ミトツダイラが、「地摺朱雀」が手にしている庭石と同じ大きさのものを片手で掲げている。
 「有明」ごと「武蔵」が水戸を避難地にしたのはミトツダイラの領地であり、歴史再現上、水戸・光圀に羽柴が直接手を出せない土地だからだ。だが不穏はあるので文系要職は油断はできない。
 早く風呂に行こうと急かすトーリの視線の先に正純がいた。

 “セージュン、どこに行くんだ。”と名前ではない仇名を呼ばれた正純はアデーレとウルキアガ、ノリキと見慣れない「英国」の女子生徒を見る。
 女装の馬鹿だと解り、あの「三方ヶ原」でいつも違うと諭してくれた馬鹿はあの中に居るのだろうかと考えながら、両手の親指を下に向けて見せる。すると馬鹿は“おい。ペタ子、オメエどこ行くんだ。”と声を掛ける。

 異名を呼ばれ里見・義康は振り返る。従士と半竜の《第二特務》、同級生では比較的まともなのと、、、、、、、全裸が居た。
 傍にいる「武蔵」《副会長》に押し付けるが、あちらも迷惑そうだ。里見が羽柴に制圧され、亡命の身だが、誰も彼も気の遣い方の難度が高く、対処不可能なことが多い。半目がちの《副会長》が表示枠(サインフレーム)を開く。
 そこに現れた文字は“3時間後に伊達の交渉役が非公式にやってくる。これから風呂に行き、機密の護れる場所で食事しながら作戦会議を行う。”と書いてある。
 否応なく里見・義康も風呂に行く羽目に。

4-1.jpg 「有明」内部

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