まるでダメな男の日記

このブログでは趣味のゲームや読書感想など非生産的な駄文を書き連ねていく予定です。

第283回 境界線上のホライゾンⅢ(20)

Posted by ヒッター7777 on   0 comments   0 trackback

川上稔「境界線上のホライゾン Ⅲ(下)」 Horizon on the Middle of Nowhere
Episode Ⅲ-Part 3 適当ダイジェスト⑪

3-20.jpg

「第九十三章 帰れぬ空の行き手」「第九十四章 生き場所の探し人」「最終章 集まり場所の煽り手達」
最終章

 北条・氏直の知覚に巨大艦「安土」の姿があった。琵琶湖の巨大なステルス空間で建造されたものだろう。テスト航海で《竜脈炉》を発射したのだろうか。拡大補正した視覚に中央艦首に立つ幾つかの人影が映る。一番後ろに立つ「P.A.Oda」侍女型の自動人形は艦長型自動人形だろう。その前に立つ十と一人は。“―――羽柴と《十本槍》ですか。”
 男も女も異族もいる。誰も彼も若い。ひときわ小柄なのは、女? 「M.H.R.R」女子制服を着た少女は閉じた扇のような機械の翼を背負い、猿の面を付けていた。
 広域通神で聞こえてきたのは。
 “「P.A.Oda」「M.H.R.R」所属、「M.H.R.R」《副会長》羽柴・藤吉郎・秀吉。「P.A.Oda」旗艦「安土」の試験航海を兼ねて、「三方ケ原の戦い」の援助と「文禄の役」の前倒し歴史再現に参上しました。”

 武蔵アリアダスト教導院前の階段で“馬鹿なっ”と叫んだのは里見・義康だった。羽柴の朝鮮出兵を前倒しで行うつもりか。義康が振り返ると炎上し、応撃している房総半島が見える。
 いつの間にか全裸になった馬鹿が、飛び出して行こうとする義康を止める。
 “おいおいヨッシー、今から行ってどうすんだよ。間に合ってオメエが生きて帰ってこれるなら行って来いよ。そうじゃねえなら行くな。”
 羽柴の狙いは朝鮮出兵で「里見」を潰すだけではない。関東を押さえに来ているのだ。「安土」の他にも戦力は来ているだろう。自分が“義”で「里見」に向かっても途中で撃墜され終わることになる。私はどうすればいいのだ。そう思った時、背後の空から轟音が起こった。「安土」が「武蔵」を追って加速を開始したのだ。
 義康の視界の先に校舎の屋上に立つ銀の髪を風に流し、右腕に剣砲を下げた女が見えた。
 “アリアダスト・ホライゾン・・・”

 ホライゾンの眼前で幾つもの《重力障壁》が砲撃に砕かれていく。向こうは最新鋭の戦艦。こちらは十年前に改修したが、中古の貿易用輸送船だ。まず駆けつけてきたのは白と黒の魔女、そして、ミトツダイラが来て立花夫妻が来て、全裸の馬鹿が女走りでやって来た。「安土」が射程に入ると同時に、ホライゾンは幾枚もの表示枠(サインフレーム)を展開し「大罪武装(ロイズモイ・オプロ)」《悲嘆の怠惰(リピ・カタスリプシ)》を正面から「安土」にぶち込んだ。
 狙いは「安土」中央艦の艦橋部。黒い掻き毟りが悲鳴を上げながら斜め打ち下ろしの角度で飛ぶ。だが、「安土」の艦首部が白の息吹を広く破裂させた。「武蔵」がやった急速ブレーキングを「安土」がいきなりやったのだ。黒の砲撃がずれていくが辛うじて届いた。艦首甲板部に居る12の人影に対し、叩き込まれた黒の一撃が掻き消えた。
 ホライゾンは眉をひそめ首を傾げる。「安土」の甲板上の羽柴が上に上げた腕を下ろしていく。何かしたのだ。
 ホライゾンが成程と頷いて、手に持つ剣砲を見て、
“本気で使えない武器になってまいりましたねぇ。鳴物入りだった気がするのですが。”
 隣で立花・嫁ががっくりと膝をついた立花・夫に大丈夫ですかと声を掛けている。
 「安土」の甲板上でまた羽柴が動いた。懐からマイクを出したのだ。
 「今晩は。――羽柴・秀吉です。ここでは前田・利家の麾下という扱いです。次に「安土」が追いつくまでに決めてください。降伏するか。―――降伏しない場合は撃沈して「三方ケ原の戦い」を終了します。“
HIDEYOSI.jpg
 
 全裸の馬鹿が一歩、進み出る。“ああ?オメエ、何様だ?なにをそんなに偉そうに言いやがる!”
 秀吉が寒くないですか? と引くのに、
 “なんでオメエ、・・・俺達に降伏迫ってるんだ? 俺達が何か悪いことしたか?”
 メアリの手を引いて上がってきた点蔵は、“確かにそうで御座る。「三方ケ原の戦い」は「松平」の降伏で終わるものでは御座らぬ。”と言う。
 さらにホライゾンは問う。“何故です?《竜脈炉》などという大量破壊武装を用いながら降伏を?”
 問うた先、遠ざかっていく秀吉の声が小さくなっていくが、広域共通通神帯を使用して震える声が、こう言った。“それが、・・・私の、役目です。矛盾していようが、卑怯だろうが、恐怖だろうが、私が「極東」を支配します。そのためには、逆らう意思も何もかも奪い去る。そのつもりです。”
 “それって、恐怖政治?” すげえ・・・と皆が羽柴の能力に感嘆した。
 秀吉がちょっと肩をすぼめて、“えへへ”と小さく笑い、“い、いえ、そうじゃなくて、恐怖政治と言われましても、その・・・戦国の世も、三十年戦争も、早く終わるなら《竜脈炉》でも用い、逆らうとどうなるか知ってもらいます。”
 “戦争が長引くほど出る犠牲より、最低限の犠牲で済ませた。そう言います。そして全てをまとめ、信長様と共に「末世」を救います。”

 点蔵はそれは理想論だと考える。逆らう意思をすべて消し去ることは出来ない。だが、先ほど江戸湾を消滅させたが陸地側には直撃していない。示威行為であり、その方が最終的な犠牲が少ないと考えたのだろう。
 “それも戦争経済のひとつ。指導者としての一つの覚悟の在り方で御座るな。” メアリが頷く。
 こちらと違う方法で羽柴も未来を見据えている。
 秀吉は続ける。“貴方達は、その後の世界に必要だと思います。だから、生かそうと思い、ます。でも、今は、無駄な存在です。私達が「極東」をまとめ、「末世」を解決しますので、降伏してください。”

 正純は息を止める。どうする。決断を迫られている。打算や交渉の手順、妥協点の探り合い、交渉相手の選別。どうでもいいことばかり頭に浮かんでくる。“小さいなあぁ、おい“と、《教皇総長》に言われそうだ。自分を動かす大きな決断はどちらのものだ? 馬鹿とホライゾンに声を掛けようとしたら馬鹿が動いた。
 “おい、サル子。「末世」どうやって解決すんの? オメエ、「末世」解決したら、どうすんだよ。”
 秀吉はその問いかけに、わずかな間を置き、口元に笑みを作り小さく呟いた。
 “言えません。”

 “そっか。”馬鹿は「松平」の姫を見て頷きを躱しあった。笑みを作り、こう言った。
 “じゃあ、今は駄目だ。俺達は、オメエの敵だ。”

 広域通神で届く少年の声を《人狼女王》は表示枠(シーニャカドル)で聞いていた。
 “決めたんだ。俺、しっかりしねえとな、って。そして・・”
 《人狼女王》は微笑む。“そして?”
 “恥をかかせないようにオメエのやり方に対して、ちゃんと応えてやる。”
 “まあ”と《人狼女王》は笑みを濃くする。そして、頬に手を当てて、
 “その言葉、私が一番に聞いたと、そう、得意になっていいですわね?”

 秀吉は彼と彼女に頭を下げ、こう言った。
 “お相手、よ、宜しく、あの、お願いします。「極東」を支配し、「末世」を解決する。そのための争いなら、勝つのは、その、私です。何故なら、私が、先ですから。先に、支配する歴史ですから。”
 背後の皆に一歩下るように近づき、だから、
 “貴方達は、今は、その、まだ無駄だと、そう教えます。”

 「安土」との距離は離れていくが、その間に割って入ってくるものがある。「清・武田」と「長篠の戦い」を終えた「P.A.Oda」の艦隊だ。多くは傷ついているが、その数は空の一部の色を変えるほどだ。
 「長浜」「墨俣」「白鷺・改」の艦影も見える。
 その重厚な布陣の意味をネシンバラが答える。「三方ケ原の戦い」だ。

 秀吉の声が届いてきた。
 “犠牲の意味を知っていただきます。その、そのために。・・・ええと、「三方ケ原の戦い」の終了方法を、こうしたい、と思います。”
 “成瀬・・・、正義さんの、突撃と、死亡をもって、「三方ケ原の戦い」の終了とします。”
 それが嫌ならば、
 “降伏、・・・お願いします。”

 マルガ・ナルゼは皆が一斉に視線を向けたのを見返す。マルゴットは羽柴勢の方を見ているが、強くこちらの手指を握っている。
 “でも、頼まれちゃうと断れないのよね・・・”
 逃げ切れないのは判っている。《総長連合》関係者に送られてくる「武蔵」の状況を見ると、ほぼ、燃料が尽きかけている。それなのに、
“自分の頭に浮かんでくるのは同人誌の逃避行ネタばかりだ。”
“オメエそれ口に出して言えるのすげえな!”
 ナルゼはネシンバラに近づき、片腕を首に回して表示枠に向かって“はい、チーズ。送付先はシェイクスピアね。”
 “なにやってんだよ!、僕の人生の危険度上げるなよっ”
 騒ぐネシンバラを他所にマルゴットに声を掛ける。
 “一緒に行く?《白嬢》、明日直るの。《黒嬢》の後ろに乗せてくれる?”
 死ぬ気はない、生きに行くのだ。突撃して羽柴を討ち、進攻を止める。前向きでいい考えだ。
 だがホライゾンとトーリが止める。誰かが犠牲になるのを認めるのは2人の、皆の、「武蔵」の方針の外れるのだ。
 だから、マルゼは言う。
 “生きに行くのよ。死にに行くんじゃない。殺されに行くんでもね。だから私に命令してよ。羽柴を狩ってこいって。”

 “そうだな。―――生きに行く。そういうことだ。” 声が上から響いた。背に飛翔器を背負った武神が「安土」の方を見ながら言った。
 犬顔の頭部装甲の色は緑。“義”ではない。“忠”の白い文字を腰に書いた武神が、屋上の武蔵アリアダスト教導院の校旗を折り、飛翔器の隙間に刺す。
 “里見・義頼。―――成瀬・正義の臨時襲名として、行かせてもらおう。”

 その行為に最初に反応したのは「武蔵野」艦橋に居る鈴だった。思い至ることがある、「IZUMO」で、義頼はこう言った。いずれ、関東のことを「武蔵」側と話し合う時は“里見”が話し合う、と。自分以外の“里見”が。その時、もう覚悟は出来ていたのだ。

 “どういうことだ?” 義康は現状が理解できなかった。手元の表示枠に莫大な文字列が流れていく。“八房”の所有権と引継情報だ。義頼は義康をアリアダストに留学生扱いで預けることにしてあると告げる。「武蔵」と共に世界を回り、見聞を広めろと。そして、里見《総長》として最後の命を下す。
“「里見」総員は降伏を望むものは降伏を、抵抗を望むものは関東、もしくは全国で活動を行え。”
 全裸の馬鹿が“オメエ、何考えてやがる! 勝手に襲名とか、勝手に死んで解決とかするんじゃねえ!”と叫ぶ。
 だが、“忠”に乗る義頼は答えた。「文禄の役」の責任は私達にある、と。義康の手元の表示枠に“八房”の戦闘記録と運用の詳細が全て見えている。無論、姉が死んだ理由もだ。それは姉が残したメモのようなもの。
 「里見」が防衛のため武神戦力を揃え、力を得るのに前《総長兼生徒会長》は「P.A.Oda」と取引をした。しかし、“八房”の初陣で北条を通して侵攻する「P.A.Oda」を壊滅させ勝利した。その引責自害をしようとしたのだ。だが、自害では「里見」の恥となる。「P.A.Oda」に対しケジメをつけるため、主君の命により“忠”の男は主君を討ったのだ。
 跡を継いだ義頼は「P.A.Oda」から危険視され、羽柴侵攻の名目にされる「里見」本国の放棄も前提に「武蔵」と合流する必要があった。“里見“の継承者を預けなければならなかったのだ。そして、「文禄の役」は里見教導院の問題だと、里見《総長》はトーリとホライゾンに告げ、飛翔器の翼を広げた。

 “だれか、この馬鹿を止めろっ” トーリの言葉に、点蔵、ミトツダイラ、二代、ウルキアガ、ハッサンやネンジまでも武神に向かう。
 義康が“嫌・・・、待って!!“と懇願するのに”忠“の背中に朱い武神が降ってきた。「地摺朱雀」が”忠“を止めようとする。
 そのわずかな時間の間の中で、直政は義頼の言葉を聞いた。“我々が使う武神や“八房”の飛翔器、駆動機、OSは「武田」側での戦闘の際、先代達が集めた情報や図面が元になっている。恐らく、四聖、朱雀の飛翔器だ。“
 “なに?”思った瞬間、“八房“の権限移譲情報に触れた「地摺朱雀」の全身各部に朱雀の紋章付き表示枠が一気に展開した。共鳴によるOS起動だ。
 そして“有難う”と告げ、“忠”が飛んだ。

 義頼は飛翔の瞬間、“行かないで・・・”と言う義康の言葉を聞いた。泣いていた。叫んで手をこちらに伸ばしていた。だから決断できた。もう義康に与えてきた誤解は解けたのだ。
 約束を果たしに行こう。
 “安心しろ、私は死ににいくのではない―――。私はこれからようやく、何も諦めず、生きにいくのだ。”
 “忠”が爆炎の咲く空に道を作っていく。
 “聞こえるか、「武蔵」《総長》。かつて君は言った。たしかにこう言ったのだ。その姫のことを―――。死ぬしかない人間じゃない。殺されるしか他にない人間じゃなくぃ、と。”
 「三河」での放送を聞いていた時、理解したことがある。あの少年は仲間を得ようとしたのではない。姫を助けに行ける可能性があるかを確かめたかったのだ。死ぬべき運命がなければ、私達は生きていてもいい人間だったのだ。
 “敢えて言う。今後の戦闘において、君は笑え!そして私と彼女のような連中を救ってくれ・・・。”
3下

 対空砲火の密度が上がった。“忠”の各部が砕かれていくが速度は落ちない。前方に全長2kmの戦艦「長浜」がその身を盾に羽柴を護ろうとする。“忠”は加速しながら背の大刀を抜き、その賢鉱石(オロイメタロ)の刃に彫り込まれた「忠」の術式が面となって「長浜」を殴打した。100m強のハンマーが砕くように「長浜」を輪切りにする。高速の衝撃波によって既に装甲は大半が失われたが、“忠”は「安土」の甲板を目指す。火縄型三連主砲が火を噴き、“忠”も右半身が消えた。《重力障壁》を左膝で砕き、秀吉を目指す。“忠”と合一した義頼は最後に残った頭部装甲の牙で食らいつくように突撃した。

 空に爆砕の花が一つ開いた。
 秀吉の左腕、肩から上腕にかけて獣の牙が突き刺さっている。秀吉はその義椀を外し、目の前にあるものを見た。それは“忠”の残骸の中に立っている武蔵アリアダスト教導院の校旗。
 秀吉はその結果に深く頭を下げた。その上で彼女は、
 “里見《総長》が条件をクリアしました。「三方ケ原の戦い」を終了します。」
 北の方にいた「武蔵」はその姿を小さくしている。
 “・・・また、あの、どこかで・・・・”

 正純は呆然という言葉を感じた。皆、屋上から降りて教導院前の橋にいた。泣いている義康を浅間と喜美に支えさせる。鈴の報告では敵艦は感知できなくなったということだ。
 今度は「江戸」方面を羽柴麾下に占領された。一気に問題が増えた。羽柴の侵攻、「武蔵」の破損、燃料問題。正純は記録を打ちこんでいるネシンバラに評価を問う。
 橋上にいる皆がネシンバラを見る。
 “敗戦だね。それ以外に言いようがない。”
 トーリはどうしたろう、悲しむなよと声を掛けようとすると、全裸は振り向いてゆっくり一息ついて言った。“・・・笑えって、そう言ってサル子を討ちに行ったんだぜ、アイツは”。大丈夫のようだ。
 さて、これからどうしたものかと言おうとした時、鈴の声が表示枠から聞こえた。
“前方に、ス、テ、ル、ス。 なに、か、いる”
そこには“霧“があった。

 それは“隠れ里”だった。「武蔵」を“霧”が覆っていく。“霧”の底から無数の影が浮上してきた。航空艦の集合都市。どれも古い形式の100m足らずの輸送艦群だった。そして、その向こうから巨大なものが近づいてくる。正面に「IZUMO」の紋章を付けた巨大な浮きドック。「武蔵」専用“有明”の姿だった。
 里見《総長》、「IZUMO」本社、「六護式仏蘭西」からの情報で、「江戸」「里見」の住人を保護し、義経公の計らいで奥州勢に匿われていたと責任者の三科・翔一が告げた。

 トーリに手を引かれ、ホライゾンに支えられて橋上に来た向井・鈴は熱を感じた。おかしなことに、何もない。皆、座り込んだり、立ったまま視線を交わし合い、言葉を幾つか送りあっているだけだ。
 燻っている。動きたくて、だけど何かを堪えている。憤って、やる気を秘めている人がいる。だから。
 “大丈、夫”
 言うと皆がこちらに顔を向けた。そしてトーリが“なあ、ベルさん。ひょっとして心配させたか?”
 鈴は首を振り、“してたけど、してない、よ”と答える。
 ナルゼが立ち上がり“仕方ないわね、「三方ケ原の戦い」のアフターケアをしないとね。”と言う。鈴には彼女の熱がどこにも収まっていないのが判る。
 “え?まさか検便・・・”と腰を引いた全裸の横で、ホライゾンが茶碗と箸を無言で構えたが、それを無視してナルゼは魔術陣(マギノフィグーア)とペンを取り出す。
 「三方ケ原の戦い」で敗れた「松平」当主は、軽挙な戦闘で失ったものの大きさに気付き、己の憤りの顔を絵に残して反省した。
 “全員まとめて描いてあげるわ。生き抜いていった連中に、生かされた。そんな自覚を得た想いと顔を描いてあげる。”
 ネイト・ミトツダイラが唸るように、しかし、吠えぬように空の月へと言葉を送る。
 “私達は、いずれ必ず、その恩に報いましょう・・・”
 息を吸い、頷いたナルゼがペンを構えこう言った。
 “皆、いい顔をしてるわ。”
 だから
 ”次に歴史を動かすのは、私達の方よ。”
3END.jpg


------------------------------------------
下巻は調子に乗ってだいぶ増えてしまった。だんだんダイジェストが下手になっていったようだ。
だいたい3~5章ずつまとめるのがやりやすい。ギャグシーンはなるべく書きたいし、説明がないと解らないシーンが多いからだ。省略したくないセリフとか多いので文章が増えてしまう。

 引き続き第四部のダイジェストにかかりたいが、この作業は結構しんどいので、書き溜めてから発表しよう。他の本を読む時間が取れない。掲載は来年から始めるか。

 第四部は「奥州シベリア未踏地域」東側の伊達家、西側の最上家、「上越露西亜(スヴィエートルーシ)」の上杉家、「瑞典(スウェーデン)」を巻き込み「二境紋」の謎に迫ります。

 大きく兵装改造される「武蔵・改」。
《蜻蛉切》を失った本多・二代は?
意外な人物の意外な素性。
第三の四聖武神。「山川道澤」の“川”を司る「青竜」登場。
今回の敗戦責任を生徒会執行部に問う大論戦。
対「武蔵」戦闘部隊、羽柴の《十本槍》が徐々に姿を見せる。
羽柴側についた真田十勇士の暗躍。
浅井家を一人で滅ぼしたバーサーカー、お市の方と立花夫妻の激闘。
かつて交わされた「約束」とはなんなのか。
どこにもない教導院はどこにあるのか。
 
お楽しみに!(いや~、第四部もぶ厚いんだよな)

スポンサーサイト

第280回 境界線上のホライゾンⅢ(19)

Posted by ヒッター7777 on   0 comments   0 trackback

川上稔「境界線上のホライゾン Ⅲ(下)」 Horizon on the Middle of Nowhere
Episode Ⅲ-Part 3 適当ダイジェスト⑩


「第九十章 懐古の空の傭兵」「第九十一章 分岐点の交渉者達」「第九十二章 別れ場所の宣告者」
19-035.jpg

 「墨俣」の操艦を指示しながら前田・利家は懐かしさを感じていた。羽柴が名を挙げる歴史再現の時、手伝ったからだ。敵地で「墨俣」を造ることになったのは斎藤さんが対空結界を作っていたからで、極東式の航空艦を居城として持つのはステイタスだった。丸太と布張りでとりあえず浮く物を使った。確かに一日で作った航空筏のようなものだったが、織田家では誰も笑う者はいなかった。これは敵の防空結界を超える人数と資材があれば、奇襲用の艦隊を即日現地調達できるということだからだ。
 利家は砲撃の指令を出す。むかしは砲などなく個人用の対空砲や術式を使ったものだ。
“では、行こうか。”

 里見・義康は「墨俣」の攻撃を見ているしかなかった。「武蔵」が高速航行中では“義”を出すことが出来ない。教導院へ向かおうとした時、後ろから巫女と踊り子が来た。綺麗なな巨乳と邪悪な巨乳だ。
 二人も教導院に向かっていると話をしていると、三河湾の向こうから莫大な光が天を貫いた。
 30kmほど先の「清・武田」、源・義経の重機馬部隊の砲撃だ。あそこまで行けば「三方ケ原の戦い」が始まり、歴史再現に関わらないものは排除される。その時、「墨俣」がどう出るかだ。

 利家は手元に表示枠(レルネン・フィグーア)を出して正面を見る。三河湾の対岸に「清・武田」の主力がいる。先ほど対空砲撃を見せつけたのは「P.A.Oda」に対する警告だ。武田滅亡に繋がる「長篠の戦い」に対する警告でもある。「清・武田」も甘んじて滅びる気はないらしい。
 利家は表示枠に向かって告げる。“こちらは「P.A.Oda」「M.H.R.R」所属、《会計》前田・利家・ヴァレンシュタイン。「武蔵」を追撃中。攻撃を止められたし。”

 義経は歴史再現の邪魔だと突っぱねるが、利家も引き下がらない。「武蔵」は複雑な状況の「M.H.R.R」の歴史再現に干渉し、「M.H.R.R」領内を航行した。「マクデブルク」の歴史再現の後始末だと、「清・武田」領内の通過許可を求める。その言い分に同時通神されていた本田・正純が噛みついた。

 《人狼女王(レーネ・デ・ガルウ)は月光降る丘上で「狩猟館(パンション・ベルサイユ)」のMouri-01の送ってくる情報を自分の表示枠(シーニャカドル)》で見ている。
 「M.H.R.R」領内や瀬戸内海での「M.H.R.R」旧派の艦船展開図。「P.A.Oda」領内の航空戦力分布推測図。大分、「清・武田」側に偏っている。そして、「聖譜連盟」「K.P.A.Itaria」から届いた一枚の書状。
 “「武蔵」が危険ですわね。”
 やはりそう思うか、と問うのは巴・御前。“義経の馬鹿も危険だが・・”と東を見る。
 《人狼女王》はMouri-01にルイ・エクシヴと毛利・輝元の証書を要請し、巴・御前に連絡を取って欲しい場所があると頼む。それは巴・御前達の敵だった場所だ、と。
 手短な計画書を送り、東の空を見つめる。“間に合えばいいのですが・・・”

 「奥多摩」の教導院の橋前で正純は交渉に入った。義経から回ってきた通神では前田・利家は自分達の正当性を主張している。そして「墨俣」は砲撃を続けたままだ。これは戦闘が継続されているということだ。“マクデブルクでの歴史再現を乱した処罰の、必要不可欠な戦場の移動“という名目で関東に入っても追撃してくるだろう。場合によっては”「武蔵」が逃げ切るために他国を巻き込んだ“と理由を追加するかもしれない。だから、歴史再現を盾にされてはいけない。それを持ち出されると「正譜連盟」まで敵にまわる。だから。
 “口を挟ませて貰おう!”

 幽霊船の速度で飛ぶ高速打撃艦「墨俣」の前部甲板上に立つ利家は「英国」に続いて二度目の体面になる相手と論戦に入る。
 「武蔵」の《副会長》は「M.H.R.R」領内の航行を曳航と発射であると押し通すつもりだ。そして、一つ誤解を解いておきたいと言う。利家は興味が無いと突っぱねたが、正純は“一昨日の「M.H.R.R」旧派の威力偵察は信長公の暗殺前の時代。羽柴と松平は敵対していない状態での出来事。よって、アリアダスト教導院は「M.H.R.R」に対し敵対の意図は無い。“と言葉を作る。

 前田の歴史再現発言を逆手に取ったかと義経は腕を組んだが、“それは読まれやすいぞ、正純。“と呟く。

 正純は橋上から正面を見る。正面に見えるのは“後悔通り”だ。自分は臆病なのか。焦っているのか。視界の中に影が来た。巨乳が二人、無いのが一人。左手からアデーレとミトツダイラもやってくる。これで自分を入れて薄いのが四人で大きいのが二人。約分して二分の一と考え、落ち着け、逃避するなと気を取り直す。
 左舷後方から砲撃。「P.A.Oda」所属「長浜」が追いついてきた。「三方ケ原」に入る前にだ。
 前田・利家から通神が入る。“「武蔵」には敵対の意志有りとしか考えられない。「M.H.R.R」改派への行動的援助。領内航行。逃走。これに対し「M.H.R.R」旧派は「聖連」の査察を申請する。”
 “結果によっては「マクデブルクの略奪」のやり直しもあり得る。”
 これはブラフだ、と正純は考えるが、「清・武田」の通神網(ネットワーク)」を通して記録されている。ブラフだと突っぱねれば記録を公表された時に、改派(プロテスタント)を見捨てたことになる。
 だから、と利家は続ける。“敵対の意志が無いと言う証明なら、「武蔵」の武装解除、「M.H.R.R」旧派(プロテスタント)からの「聖連」査察団の常駐をさせてもらう。”
 正純は一つの結論に達した。そうか、「M.H.R.R」旧派と羽柴は「聖連」の代表、《教皇総長》を手にしたのか。

 毛利・輝元は「六護式仏蘭西」旗艦「狩猟館」の甲板上に敷いた畳の上で、膝に眠っているルイ・エクシヴの頭を乗せたまま《人狼女王》と通神を開いていた。「M.H.R.R」旧派が《教皇総長》に手を出したなど不可能な話だ。だが「K.P.A.Itaria」と「P.A.Oda」の戦いでインノケンティウス《教皇総長》は行方不明。枢機卿の多くも所在不明で選挙もできない。この場合、旧派の代表、守護者は誰になるのか?
 “申し訳ありません。”と《人狼女王が謝る。輝元が何故、謝られるのだろうと話を整理してみると思い当たった。旧派の守護者は《神聖ローマ皇帝》になるのだ。そしてそれはルドルフ二世《皇帝総長》である。しかし、「マクデブルクの略奪」の際、ルドルフ二世は行方をくらまし、弟のマティアスが《総長》を襲名した。そして、新たな《教皇総長》を指名した。インノケンティウスの義妹、オリンピアだ。

 “成程のう“と呟く義経。羽柴は《教皇総長》を傀儡とし、「聖連」の行う解釈は全て羽柴の利となる。「武蔵」だけでなく、こちらにも火の粉はかかってくる。前田・利家はそれを知って「武蔵」の《副会長》を釣り上げた。これでは「武蔵」が何を言っても無駄だ。
 “つまらん。ならばこちらが動くか。前田の策に嵌りに行く。そして、―――身軽になりに行く。

 正純は言葉を作ろうとする。このままでは「武蔵」の力と自由を羽柴に押さえられてしまう。それではいけない。
 皆の視線の中、正純は小さな言葉を作った。
 “解ったことがある。――――――――交渉決裂だ!
 周囲の皆が首をかしげる。初めから失敗していたのだ。敵はこちらを潰すつもりなのだ。真正面から戦うべきだったのだ。それは羽柴と完全に敵対するということだ。覚悟を決めた。
 皆の顔を見て言う。“「墨俣」と「長浜」を退かせることは可能か?”
 ネシンバラが“やれないことは無い。“と答える。
 “後悔通り”を歩いてくるのはトーリとホライゾンだ。ネシンバラは策を話す。“「長浜」にはアリアダスト君の「大罪武装」を、「墨俣」には浅間君の矢が効く。あとは「武蔵」を少々、ぶつける覚悟がいる。”
 だが、女装の馬鹿がそれを止めた。
 “セージュン、オメエ、なに切羽詰ってんだよ。”

 図星を突かれた。味方でも厄介な相手だ。“この状況を見ろ、打開が必要だ。”
 馬鹿が鬘を外すしてそのまま頭に被せてくる。顔が後頭部側の金色の髪で隠れる。サイズが小さめでなかなか外れない。
 そのまま馬鹿はアリクイの走狗(マウス)“ツキノワ”を通して義経と話す。“こいつを見ろ、こいつはセージュンじゃねえ。ニセモノだ。変装を暴いてやった。俺んとこの《副会長》はいつもにやにやしてんだよ。こんなキツイ状況って時こそ、すごいいい空気満ちてくる顔でな。”
 “なあ、義経。”馬鹿は義経にこう言った。”俺たちごと、全部撃てよ。“

 義経は馬鹿の言葉を確かに聞いた。
 “「三方ケ原の戦い」ってやつは、俺たちがかなりボロボロにやられんだろ? それがフツーなんだよ。セージュンがそれを回避しようとしたのも解るんだが。でもよ、それを回避できないのがフツーなんだよ。”
 “だから義経、俺達を撃とうぜ! 俺達はまあなんとかすっからr気にするな。”
 利家は慌てた。“待て。僕達を巻き込むつもりか!それは敵対行為そのものだぞ?”

 “あ?何言ってんの。羽柴と松平はマブダチだろ?今。”馬鹿は頭を掻き上げて台詞を繋げる。
 “「三方ケ原の戦い」で一緒に撃たれてくれるよな?”

 “待て。何故、僕たちが「三方ケ原の戦い」に巻き込まれなければならない。”

 “おーい、シロ。こいつ、雇っちまおうぜ。友情、金で買ってさ。なるたけ、こいつらを盾にするんだよ。いい作戦じゃね?
 “待て、貴様!何を言っている!”商人の言葉に利家は何度も頷いた。商人の顔がフレームに入ってくる。“いいか馬鹿、よく聞け。友情を金で買うなどとんでもないことだ。あんなもの、金を払う価値もない。”
 “よし、「M.H.R.R」《会計》。友情はサービスの一環だ。いいぞ、サービスは。後腐れもないし騙しても足がつきにくい。――じゃあ、サービスで先に死ね貴様らしかも無料で、だ”

 利家はどこかでなにかが変になったと考える。だが、優先順位はこちらが上だ。彼らの言は無視しようと考えた時、「武蔵」の馬鹿が“そろそろ「清・武田」領に入るが、義経に許可取ってんの?”と声を掛けてきた。
 “しまった!”。利家は冷たい息を詰めた。義経は許可を出していないと言う。許可を取ろうとした時、「武蔵」の《副会長》が口を出してきたのだ。

 正純は自分の為したことの意味を知った。初歩的とも言える重要な飛び込むが功を奏した。ふと頭を揺らす馬鹿の手がこちらの頭を上げさせ、“笑ってっか?”と問い掛けてきた。
 “―――偽物だろう?私は。”それ以上の手は打っていない。。正純は改めて肩を落とした。

 利家は航路図を見ていた。「清・武田」領まであと一分の距離だ。このままだと「墨俣」は領空侵犯で攻撃を受ける。だが「武蔵」から離れて「三方ケ原の戦い」をやらせれば、談合で済ませるだろう。
 ならば。利家は表示枠の義経と馬鹿を見て“「清・武田」に対し、敢えて告げる。「聖連」の指示の元、本艦と僚艦への妨害行為は敵対と見なし、その教導院支配地を「聖連」は暫定支配地とします・」

 佐藤兄弟が憤るのを聞き、義経は“ナメおって”と呟く。「清・武田」は大国だが、「聖連」諸国とと「K.P.A.Itaria」を敵に回して持つとは思えない。問題なのは滅ぼされた後のことだ。
 関東を「P.A.Oda」から守っていた「清・武田」が、「武蔵」を護ることで「P.A.Oda」を関東に呼び込むことになる。逆に護らなければ関東の「聖連」支配を望まない関東諸国や、未来の支配者である「武蔵」が関東に来るのを嫌っている奥州勢は喜ぶだろう。
 “面白い”。「武蔵」勢も面白いが、この羽柴勢もなかなかだ。肝が据わっている。
 “前田、貴様の挑発。―――少々、乗ってやろう。」
 “「聖連」の指示による「武蔵」の追撃。許してもらえますか?”
 問いかけに義経は口だけの笑みでこう答えた。
 “誰が許すか馬鹿者。―――「聖連」や「P.A.Oda」の威なぞ、知ったことか”

 ホライゾンが正純に問う。
 “一体、どういうことです? チーンコ乗せたらキャラがデレた。そんな恐ろしいことがあり得るのか?”
 正純は金髪を掻き分けて答える。「武蔵」を通したら「清・武田」は「聖連」に暫定支配される。だが、「武蔵」にそれなりの負担をさせれば切り抜ける方法はある。
 同時に表示枠から義経の声が響く。
 “前田・利家。「清・武田」領通過の条件として、傭兵となれ。「三方ケ原の戦い」の実行権を与える。雇用期限は、「武蔵」が「三河」を失っているので、次の本拠地に到着するまで。「聖連」はその完遂状況を見て「武蔵」が歴史再現をする意思があるか判断しろ。”

 つまり、「武蔵」が「江戸」に着くまで「三方ケ原の戦い」が続くということだ。ネシンバラは歴史再現を逆手にとって前田・利家に傭兵を依頼したと判断した。「墨俣」だけで「武蔵」は落とせない。前田・利家が失敗すれば「聖連」は文句を付けられない。

 「武蔵」が「清・武田」の機馬軍団脇を通過していく。利家も律儀にこの間は砲撃をしない。
 義経は東へ向かう「武蔵」を見送りをせず、西を見ながら表示枠の利家に語る。おそらく「P.A.Oda」はこういう反応も予測していたはずだ。「三方ケ原の戦い」が義経=武田・信玄の手を離れた以上、次は何が待っているか。西方に見える「P.A.Oda」のオスマン側の艦隊全てを動員した総力戦。信玄の死後に始まる「武田」の滅びの始まり。
 「長篠の戦い」が始まる。

 表示枠に浮かぶ三者通神で利家と正純に告げる。“前田、この相対、お前たちの負けだ。「長篠の戦」が終われば歴史再現は大きく進む。この「武田」の領土は後に「松平」の支配下になる。正純よ、東に行って力をつけて来い。わしは誰にも従わぬままに、お前達に時代をつけよう、「武蔵」”
 そして正純の傍らの馬鹿を見て、“もっと、わしのように自由になってみろ。帝王としてのひとつの教えじゃ、全裸。”表示枠が消える。
 同時に「武蔵」内部から震動が走る。艦内通神で被害と破壊工作員7名の報告が上がる。真田教導院の7人が破壊活動をしながら逃走を始めたのだ。

 義経は佐藤兄弟に武田・勝頼を襲名させて「長篠の戦い」の指揮をとらせる。勝頼の最後である“自害”は二人で互いに半殺しで手を打っておけと言い、東に構えた大型浮上都市《弁慶》を見上げる。
 “昔通り、好きにするさ”

 「武蔵」の表層部と内部を破壊工作している7人の真田十勇士。猿飛・佐助と霧隠・才蔵は「奥多摩」の艦尾に向かっていた。彼らの目的は《武蔵王》ヨシナオの暗殺。白衣の少女と二人で歩いていたヨシナオを見つけた二人は背後から襲いかかったが、下方からカウンターで蹴りが飛んできた。咄嗟に躱したが、何処かで見たようで違和感のある攻撃だ。忍者として一度見た相手の剣筋や体の動きは把握している。
 刺客の端で相手を確認した。音も立てず近くの屋根に跳躍したのは“水戸の襲名者か!”

 ヨシナオは三科・大と共に走りながら安堵した。駆けつけてくれたか。“見直すべき所がおおくありそうだな。”

“破壊活動に気を取られて、要人の保護を怠るところでした”と銀の髪が話す。
 佐助と才蔵の周りに、筧・十蔵、穴山・小助、三好・伊佐、三好・清海、海野・六郎が集まる。
 《人狼女王》の娘が“お別れの挨拶ですの?”と言うと、彼女の周りにも「武蔵」の《第一特務》とメアリ、立花夫妻、《第二特務》の半竜、カレー鍋を持った印度人が立つ。最後のはよく解らないが隠し玉なのだろうか。カレーには隠し味が大事だ。
 佐助が“世話になった”と言い、才蔵が“御達者で“と言うと同時に《第一特務》が《王賜剣(エクスカリバー)》を投射してくる。これからは敵同士だ。甲板から飛び出した真下は関東の西側、真田の領地だ。

 「武蔵」は駿河湾をやや北に切り込みながら東へ進む。歴史再現中だから暫定国境上を進まなくていい。このまま「関東IZUMO」の専用ドックに逃げ込めば「三方ケ原の戦い」は一段落する。それまでに「墨俣」を撃沈する。
 「武蔵」は重力航行を開始した。外壁部の加速器から流体光を放つ。そろそろ燃料が心配だが決着を付けねばならない。
 幽霊船の特性を持つ「墨俣」は付いてくるが、「長浜」は遅れだした。いきなり「武蔵」に色がついた。前方に厚めの海を出現させたのだ。「墨俣」は膨大な飛沫に巻き込まれ、致命的な隙を作った。
 浅間は一瞬の隙を逃がさない。バインダースカートで身体を固定し、教導院に上がる橋の途中の踊り場から矢を放つ。対霊御禊術式を幾重にも掛け、追尾なし、強化、加速重視の矢の一撃が幽霊船に直撃した。空に霊達が光霧となって昇華する。
 直後、海を消して最大加速をかけた「武蔵」は一気に身を前に押し出した。

 「長浜」は追いつけず、幽霊船を失った「墨俣」も追撃が出来ない。“行ったか”と伏せた「弁慶」の上で義経はつぶやく。
 すでに「長篠の戦い」は始まった。「武田」の重機馬軍団と「P.A.Oda」の航空艦隊の砲撃戦だ。大小の防御術式が光り、応酬の砲撃が夜空を貫き合う。
 白い大型の機馬「静」のタンク上で巫女型走狗(マウス)“静”が広げる表示枠に映るのは北・氏直。
 「北条・印度諸国連合」はムラサイ教譜であり、暫定支配側のムガール朝は「P.A.Oda」の傘下だ。その氏直が「三河」の沖から相模方面の海を示した地図に航路予想図を示す。
 それを見た義経は頭を掻いた。そして歯を見せて笑みを作り、“里見の《総長》が「武蔵」に残ったのはこれを察知したからか。全く持って、世界が動き出す瞬間というのはまちどうしい。よくやった。”
 氏直は褒め言葉に礼を言う。義経は“すでにわしらは敗北している、と?
 “いえ、歴史再現で負けるのと、そうでなくて負けるのでは意味が違います。”
 義経は頭の後ろで手を組み、 “こっちはやるだけたるしかなかろう”と「弁慶」を起動させる。

 北条・氏直は居城・小田原の校舎で各地の物見櫓から送られてくる視覚情報を統合していた。自動人形である彼女の“見て”いるものは「P.A.Oda」航空艦隊、三重編成の“三段撃ちの構え”だった。箱根の山頂部の風魔忍者部の観測では義経の部隊は退き撃ちで対処しているようだ。距離を開けられよう前進する航空艦にカウンターで大型対空砲をぶち込む。だが「清・武田」が不利だ・
 「武蔵」が北条の北を抜けて東へ行き、西で「武田」が滅びるなら、両者に「北条」は護られたことになる。
箱根の山影の向こうに巨大な気配が立ち上がった。「清・武田」の打撃用対空武装、移動要塞「弁慶」が起立した。

 足裏に《重力障壁》を展開し、全高3km、横幅2kmの巨体が立ち上がり、広場のような肩上で義経がほぼ同高度となった「P.A.Oda」艦隊に手を挙げる。義経の手元に僧兵型走狗(マウス)“弁慶”が現れ、目標を全長2kmの打撃艦「清州」に合わせる。義経の命で「弁慶」の左腕フロントフォークが高速に動いた。
制御は「清・武田」特有の七部一仙道、千里行術の応用である。人を一晩で一千里走らせる術式が、膨大な量で展開し、巨大な装甲人形の腕を突っ走らせた。長さ2kmの腕の速度は一瞬で音速を超え、圧倒的な量の大気を押しのけて真空をつくった。その空間に大小の艦艇が吸い込まれてくる。そして「弁慶」の右手が《重力障壁》のナックルガードを付け、直径2kmの弧を描いて「清州」を破砕した。

 不意に周囲が暗くなった。周りの艦群が見えなくなる。暗雲が取り巻いて「弁慶」の身体が揺らいだ。
 義経は周囲の気配を感じ、身構えながら「武蔵」との通神を開く。
 “聞け、「武蔵」の馬鹿共。北へ行き「上越露西亜(スヴィエートルーシ)」を味方に付けろ”そして、“正純、「公主隠し」について無関係かもしれんが、ひとつ教えられることがある。かつて、この星に人々が降り立ち、人々を導くために「教導院」を作った。現在の教導院ではないそれは「天津乞神礼教導院」。北は古くを残した土地。きっと、過去の足跡はそこにある。行け!”
 ノイズを残して通神が遮断された。

 義経は暗闇の中、前方に力を感じた。これは「K.P.A.Itaria」の「厳島」を砕いた敵だ。義経は期待の笑みを持って、「弁慶」に攻撃をさせる。が、《重力障壁》ごと「弁慶」の右腕が上下に両断破壊された。そして重装甲の「弁慶」の巨体が爆砕する。義経は砕かれた「静」ごと闇の中へ落ちていった。

 正純はノイズと共に消えた通神枠を見ていた。西の方角から何か金属が砕ける音が聞こえた。“義経公・・・”と呟きを漏らした時、ミトツダイラが「江戸」が見えたと飛び込んでくる。
 皆の歓声が響く中、浅間は正純に問いかける。“何故、義経公は北へ向かえと、一番に言ったんですか?”やはり、そう思うか。「江戸」は東だ。何故?と言葉を続けようとした時、正面に太陽が咲いた・
 《竜脈炉》だ。

 その爆光は直径10km。消滅した空間に引き込まれるように「武蔵」は弧を描いて抉るように北に転進する。今度は衝撃波が北へ向いた「武蔵」に追いついてきた。上下に揺さぶられながら追突を避けるよう、牽引帯が外されて前部五艦と後部三艦が交差するように入り組む軌道をとる。
 なんとか凌いだ「武蔵」の乗員は三つのことを理解した。
 ひとつは江戸湾が消滅したこと。
 ひとつは「墨俣」「長浜」が追走し、「三方ケ原の戦い」が継続していること。
 最後は、艦尾側の空、江戸湾の上空に姿を現した巨大な艦影。「武蔵」のような準バハムート級全長7km弱の三胴型六艦連動式の艦体は、赤と黒に染められ舳先には「P.A.Oda」の紋章と艦名があった。

 巨大戦艦「安土」は外殻と内殻の隙間から流体光を漏らし加速を開始する。北へ向かう「武蔵」を追うために。

 次回、「境界線上のホライゾンⅢ(下)」適当ダイジェスト。最終回。

第277回 境界線上のホライゾンⅢ(18)

Posted by ヒッター7777 on   0 comments   0 trackback

川上稔「境界線上のホライゾン Ⅲ(下)」 Horizon on the Middle of Nowhere
Episode Ⅲ-Part 3 適当ダイジェスト⑨


「第八十七章 追い込み場所の突撃者」「第八十八章 コーナーの待ち人」「第八十九章 行き先の後輩」
18-034.jpg

 南南東に移動する「武蔵」に西から砲撃をかけるのは「M.H.R.R」の羽柴所属、旗艦「白鷺・改」。全長3km弱の打撃型戦闘艦だ。もともと高速機動が売り物だが、高高度用に改修されている。向井・鈴はステルス空間から漏れてくる加速風発射パターンから模造図を構築していく。その「白鷺・改」がステルスを解除し、通神を求めてきた。
 「武蔵野」艦橋に居るのは自動人形たちと鈴しかいない。自動人形は人がいる場合は指示を求めるので鈴は慌てた。“わ、わかん、ないっ”

 「白鷺・改」の天守閣艦橋の中央に立つのは「P.A.Oda」の女子制服を忍者仕様で着ている滝川・一益。彼女と「白鷺・改」の任務は対毛利の情報収集だが、「武蔵」が逃げようとしたら索敵全開で大阪湾まで追跡する。一益がとりあえず「武蔵」の返神を待っていると、通神器の神象板に文字が現れた。
 通神担当の忍者が告げる。“わかんない”そうです。情報によると今の返神は艦長代理の鈴っていう娘です。前髪枠です。
 艦橋中央に隠し撮りされたジャージ姿の少女が映し出された。皆がそれを見て“ほう”と息を吐く。
 一益は首をかしげ、話をしたいんだがもうちょっと強く撃ってみるかと、もう一度、通神を送らせる。

 「武蔵野」艦橋に通神が届く。“言葉通じる?”。鈴がどういう意味だろうと“武蔵野”に尋ねると、“言うこと聞けよ?”という意味では? と答える。

 「白鷺・改」の艦橋に返神が届く。“ごめんなさい すず”。さらに首をかしげる一益と、艦橋中央に集まってひそひそ審議を始める忍者たち。いまので胸がキュンとしたようだ。
 話が通じないようなので最終通告を送る。“「武蔵」の「M.H.R.R」領内航行行為禁止違反により捕捉制止する。”

 鈴は“航行”ではなく“発射”だと思うが解釈の相違らしい。とりあえず逃げる判断をする。「白鷺・改」は対毛利侵攻の再現に大きく関わるので、大阪湾まで逃げれば管轄外で追ってこないだろう。相手は高速艦だが最高速度は「武蔵」の方が上だ。だが、「武蔵」は各国の暫定国境上しか航行許可が許されていない。松永・久秀の領土まで4カ所の航路証明マーカーを打たないと、領土侵犯で攻撃される大義名分を与えることになる。問題は加速状態を保ったままだと、関東まで燃料が持たないので惰性航行しか出来ないことだ。

 「武蔵」は俯角15度で降下しながら逃げ出すのを、「白鷺・改」は背後に貼りついたまま監視追跡にかかる。後方から前田・利家が向かってきている。「M.H.R.R」旧派の艦隊の先行が海上に警戒網を敷く予定だ。「P.A.Oda」本国からも羽柴の要請で主力艦が出ると報告が上がる。わからないのは紀伊半島を抑える松永・久秀がどう動くかだ。

 「武蔵」は大阪湾に向かって北から南南西に進路を取り、最初の沿岸部のマーカーを南に抜けて南東へ針路をとる。2つ目のマーカーは進路上、3つ目は堺沖から紀伊半島へ向かう南への緩いコーナー。最後のマーカーは紀伊半島内部へ向かって東に切れ込む急コーナーだ。
 「武蔵」は海上のブイ型マーカーに航路証明のマーカーを射出し、南南東の第3マーカーに向かう。暗い夜空の先に大阪から紀伊半島にかけての影が見える。速度を落とさない「武蔵」に「白鷺・改」が追随してくる。
 紀伊半島の海岸沿いのマーカーに航路証明を落とし、最後のマーカーに向かう。そこで東に航路を取るため、西側から通過しなければならない。急カーブのため速度を落とすので、ここで「白鷺・改」を引き離したい。だが、前方に不意に霧が生じた。「M.H.R.R」旧派の戦艦群が先回りしていたのだ。十八艦がステルスを解除し、一斉砲撃をかける。

 西から響く砲声を聞きながら信玄餅を食っていた源・九郎・義経は重騎馬軍団を展開させる。対空用防御術式を書き込んだ母衣を着こみ、大型二輪機馬に跨った八大隊、二万七千人が一斉にライトを点ける。さらに全長100mの重機馬群二十四機、全てが背に旗を立てる。
 義経は白い大型の機馬に乗り、巫女型走狗(マウス)の「静」に声を掛けて西の空を見る。砲声が近づいてくる。

 砲撃は《重力障壁》で防げるが、その分速度が落ちる。重力加速をしたいが、次のコーナーを回るのが困難になる。鈴は前方の十八艦が配列を変えて上下左右に展開し、壁を作るのを感知した。ついに「P.A.Oda」陣営が「武蔵」を捉えたのだ。

 「P.A.Oda」の高速艦隊を指揮するのは魚類型魔人族、片腕を失った九鬼・嘉隆。今、取っている戦術は村上水軍が自分に行った戦術だ。
 傍らの表示枠(インシャ・コープ)に女忍者の姿が映る。滝川・一益から引き継ぎ要請だ。「武蔵」がどう行動するか興味があるようだ。自分はあの時、この壁を下に抜けようと判断した。だが「武蔵」は装甲を失っても直進してくるかもしれない。

 「武蔵」が動いた。やはり下方を抜けようとしていると考えた九鬼は上方から雪崩落としを掛けた。「武蔵」の巨体が抜けるには相当に下降する必要がある。
 突然、降下突進中の「武蔵」の艦首部に浮上用の海が発生した。降下して速度が乗った瞬間、艦首側に制動を掛ける。急激な前側ブレーキに艦尾側が持ち上がり、そこに重力加速がかかった。つんのめった状態の巨艦が浮上用の海を解除した瞬間に「武蔵」は縦になった状態で降下中の九鬼艦隊の上方を飛び越えた。
艦尾側から順番に重力航行を掛け、九鬼たちが振り返った時には海面を割るように、遠くへ去っていた。

 これはネイト・ミトツダイラの案だった。浅間・智の矢をしならせて弾いた実演映像を送ってきた。矢はクルクルと回り御広敷・銀二の尻に刺さった。一発勝負で実践機動したため、自動人形たちはかなりの演算処理をしなければならなかったが、鈴とネイトの称賛で報われる。
 だが、新たな艦影が探知された。左舷3kmに追走してくるのは霊体で出来た幽霊艦隊。前田・利家の《癒使(イスラフィル)》、独逸傭兵団(ランツクネヒト)だった。

 帆を立てた外洋船型の五隻の幽霊船は、ぼろぼろに千切れた服を着た船幽霊を乗せている。中央の指揮艦に前田・利家と光の翼を展開している《おまつ》がいた。
 紀伊半島の暫定国境に飛び込むマーカーへ「武蔵」は南進から東進へ90°ターンしなければならない。そのインコーナーを抑えれば、こちらの勝ちだ。ポイントをマーク出来なければ航路失効でこちらに大義名分が出来る。

 「武蔵」と五隻の幽霊船は空中で位置の取り合いをしている、幽霊船の特徴は相手がどれだけスピードを出そうと、くっついて離れないことだ。「武蔵」の左舷一番艦「浅草」に幽霊船が体当たりして南東に押し出そうとする。質量差があっても高速航行している「武蔵」はこの挙動で揺れてしまう。
 ネシンバラは「武蔵」からの砲撃を指示するが、小型の幽霊船の機動で成果が薄い。だが「武蔵」も各艦上下機動で的を与えない。だが利家は戦法を変えてきた。
 左舷前部に幽霊船が一隻突入し爆発する。加速器を狙ってきたのだ。一時、左舷加速も12%が低下するが「英国」での反省により「浅草」は咄嗟に衝突部位をパージしていた。次は左舷三番艦「青梅」が狙われる。自爆覚悟で相打ちを狙うのは後続艦隊のための捨て石のつもりか。

 「青梅」に突進した幽霊船が砕かれるのを利家は見た。光と共に消えていく幽霊船の向こうの「青梅」の艦体は無傷だ。“なぜだ?”船幽霊たちの挙動がおかしかった。皆、万歳をしていた? そして利家は「青梅」の甲板上に敵を見た。バインダースカートで己の位置を固定し、巨大な弓を手にした巫女だ。“忘れていた。あれはクリティカル巫女だ!”

 “だれがクリティカル巫女ですかっ”と言いながら遠ざかっていく三隻の幽霊船を見ながら浅間・智は安堵する。内燃拝気を補給するトーリが戻ったので良かったが、対霊砲撃一発で空になった。
 トーリの流体分配で充填するには時間がかかる。「浅草」の修理にも使っているのだと思った時、ふたたび幽霊船が近づいてきた。

 安全な「武蔵」後方から近付いた幽霊船が、ふたたび砕かれた。やはり昇華型の消え方だ。だが「青梅」上の巫女の砲撃ではない。利家は「青梅」の甲板縁から黄色い粉を撒いている二人を見た。一人は尻に矢の刺さったデブで、もう一人はターバンを巻いている。二人はカレー粉を撒きながら“カレーは神の国の食べ物ですからネー、邪霊も一発浄化ですネー”と言っている。
 “嘘だあー!”利家は叫んだ。“カレーなど、スパイスの集合体だ。いったい、何を調合した!”カレーを撒かれたら戦艦が砕かれるなどあってはならない事実だ。こいつらは危険だ。

 そろそろ最後のマーカーに近づいてきた。正純は前方に蜘蛛の姿を見る。「シギサン」。松永・弾正・久秀の居城だ。その平蜘蛛から無数の砲撃が飛んできた。

 利家は「武蔵」の右舷側に幽霊船を寄せた。紀伊半島側から砲撃が来たヵらだ。「シギサン」が放った砲弾が「武蔵」の左舷側全域の《に重力障壁》に火花を散らす。「シギサン」は弾幕を張ったまま最後のマーカーポイントの前に出ようとしている。

 ネシンバラは厄介かつ有り難いことになったと考える。松永公もウワサ通り天邪鬼な人だと口の端を吊り上げる。本多・正純との約束通り、自領土の国境線上での戦闘を行い「P.A.Oda」としての仕事をしているようで、「シギサン」を抜ければ暫定国境上は自由ということだ。ならば意地でも通らなければならない。

 利家は「武蔵」が加速するのを見た。コーナーへの突入速度が速すぎる。マーカーポイントのチェックを放棄する気か。幽霊船は「武蔵」の速度に合わせたままアウト側で付いて行くが視界が徐々に東から北へ回っていくのに気付いた。旋回を敢行するつもりか!

 「シギサン」中央艦の円盤状の屋上に敷いた畳の上で松永・久秀は茶碗で酒を飲んでいる。「シギサン」は砲撃を止めていない。それに対し「武蔵」は」左舷側の《重力障壁》を莫大な量で展開し、大気防護の緩衝を緩めた。それで左舷の速度を落としながら右舷側を加速する。右舷の加速器で流体光が爆発して艦の軋みが聞こえてくる。面白い。よし、と膝を叩いて叫ぶ。“「シギサン」機動。南へずれて「武蔵」をアウトコーナーへ押し出せ!“

 急旋回する「武蔵」の左舷前方にマーカーポイントがあるが、「シギサン」が邪魔だ。下部に設置されているマーカー射出機を人力で外して狙い撃つしかない。逆さまになって直径2m程のマーカー発行器を外しているのは足をネンジによって外壁に貼りつかせ、腰をイトケンに支えさせて巨大なプラスドライバーを持ったペルソナ君だ。だが艦の軋みで歪んだのか引き出せない。
 それを邪魔するように南から幽霊船が一隻体当たりを掛けてきた。その幽霊船が二つに割れ破壊される。半竜のウルキアガの旧派尋問セットその452.対幽霊船撃沈装備“成仏鉄棒(パロ・バチズモ)”、全長 10m超の鉄棒によって幽霊船は昇華された。
艦の内側からノリキの声が聞こえた。緩衝材を挟んで押し出すという。身構えて術式を放つ、“三発殴って、―――航路を開け!”
 
 松永・久秀は赤の光が交差するのを見た。“やりおったかよぅ、馬鹿共がよぅ”。「武蔵」がこれから行く航路は「三河」から脱出した際に用いた航路だ。それを逆に戻っていく。通り過ぎる艦の上で女装の馬鹿がワカメ入り丼を頭に乗せて訳の分からないことを叫んでいる。教導院の前の橋で酒井が片手をあげている。むかし、スレイマンの紹介でやって来た小僧は、これから《教皇》に喧嘩を売りに行くと言った馬鹿な野郎だ。
 幾つもの勢力を渡り歩き、馬鹿がどれだけ世の中を変えるのか、俺には解っちまう。その最大の馬鹿は“うつけ者”信長だった。
 「武蔵」が加速する音が聞こえる。「P.A.Oda」の追手がかかるのだ。急いだほうが良いだろう。そして久秀は前方を見据える。九鬼・嘉隆の編成した追撃艦隊、三百隻が現れた。

 正純とネシンバラは通神で打ち合わせをしている。後方で「シギサン」が防御用展開を始めた。歴史再現をするつもりだ。松永公はは信長の配下になった時、一度裏切っている。そして、二度目の謀反で平蜘蛛と共に爆死する。「P.A.Oda」の後続と相対するのは明らかに謀反だ。
 正純は苛立ちのような感覚を覚える。“松永公、くれぐれも間違ったことをしないでくれ”

 松永・久秀は紀伊半島の入り口で九鬼の追撃艦隊と向き合っていた。松永・弾正は多くのことをしてきた。主君を討ち、将軍を殺して戦国の乱世を呼び、東大寺を大仏ごと焼き払った。それまでの価値観を悉く壊してきた。そして、領民には善政を布いている。同じような人物を九鬼・嘉隆は知っている。
 織田・信長は松永・久秀以上の破壊者だ。だが、久秀は信長さえ壊すような馬鹿を見つけたらしい。信長がそれを破壊するのも良し。破壊者としての久秀はそれが見たいのだ
 九鬼の眼前で「シギサン」が付属の八艦を展開する。

 正純の表示枠(サインフレーム)に久秀の姿が映る。正純にとって久秀はやはり相容れぬ平行線の敵だった。久秀は自分が支えた「P.A.Oda」に対し、最強の敵を与えてそれを「P.A.Oda」が潰せるかどうかで自分の正しさを証明しようとしている。ただそれだけのために、彼はここで己を通す。
 不意に久秀が言葉を告げる。“「P.A.Oda」の「創世計画」について一つだけ教えよう。それは世界を終わらせて、しかし、終わらせないものだ。” 

 円形の大型艦「シギサン」と八隻の随伴艦は、三百隻の艦隊相手によく戦ったが戦力差はどうしようもない。二十隻以上は落としたがその先は数えるのを止めた。随伴艦はどれも沈黙した。残るは自分の中央艦のみ。久秀は自沈の操作をする。そして全裸の馬鹿と姫の下で新しい世界を創っていく連中のことを考える。最大の壊し屋と最大の作り手が激突したらどうなるか。どちらも認めた俺のひとり勝ちかなぁ。言葉と共に「シギサン」は破壊された。

 “中途半端に失せおって”。表示枠を見ながら義経は呟く。《静》のシートに身を置き直した時、佐藤兄弟が「武蔵」の進行ルートに被さってくる艦影を探知した。「P.A.Oda」領内からサガルマータ・天山回廊の西を回る形で航空戦艦三隻が「武蔵」に向かっている。信長直轄の主力航空艦「清州」、高速艦「墨俣」、軽打撃艦「長浜」。その後ろに百隻ほど追ってきている。義経は砲撃準備の命を下す。

 「武蔵」は紀伊半島半ばあたりで北方向から追撃を受けていた。三か月前の「三河」消滅地点は今は湾となっていて、そこを抜けて30km東が「三方ケ原」だ。その「武蔵」の追走をかけたのは羽柴所属に高速艦「墨俣」。かつて新米だった秀吉が有力大名の領土内で造った一夜城。側部砲門を幾つか削って代わりに加速器を付けてある。鈴がその姿を知覚すると、簡素な作りの船だ。その「墨俣」に前田・利家の幽霊船が接続した。すぐに幽霊船の特性で「墨俣」の速度が上がる。最高速が「武蔵」に等しい幽霊船を加速器にしたため、周囲を突っ走りながら砲撃を開始した。
 すぐに紀伊半島の出口が見えてくる。そこは「三河」の陸港だ。そして新名古屋城跡城を通過した時、「武蔵」の加速が乱れた。地脈への破壊の影響力だ。「武蔵」の速度低下に乗じ、「墨俣」が一気に距離を詰めてきた。
3-18.jpg

 次回、「三方ケ原の戦い」。義経=信玄の運命は?
 お楽しみに

第274回 境界線上のホライゾンⅢ(17)

Posted by ヒッター7777 on   0 comments   0 trackback

川上稔「境界線上のホライゾン Ⅲ(下)」 Horizon on the Middle of Nowhere
Episode Ⅲ-Part 3 適当ダイジェスト⑧


「第八十五章 謁見空の月女神」
17-033.jpg

 佐々・成政は東側の戦闘音が聞こえなくなったことから柴田・勝家が退いたと判断した。追撃してくる二人の魔女を躱しながら、大聖堂の向こう側の輸送船に向かう。
 三隻は既に浮いているが、極東勢を乗せた艦と《マクデブルクの半球》を積み込んだ艦は動いていない。《総長兼生徒会長》の合流を待っているのだろう。成政は《百合花》の術式で加速し大聖堂の屋根にジャンプする。魔女たちの攻撃はあと一歩、遅い。
 だが成政の視界に巨大なものが入ってきた。回避できない速度で「武蔵」から輸送船が突っ込んでくる。超巨大な狙撃だ。さっきの魔女達の砲撃は真上に視線を向けさせないためかと考えた時、カウンターで輸送船が直撃した。
 長さ100mの輸送船が三分の一に縮まる。大聖堂の屋根に金の翼と黒の翼が降り立った。身構えを崩してはいない。二人の視線の先には垂直に突き立った輸送船の上の成政を捉えていた。
 輸送艦をぶち抜いたのだろうが、右の拳が砕け、肩も妙な具合にへこみ、肩下あたりから骨が見えている。蒸気を纏ったまま割れたサングラスを鼻上に持ち上げ空を見る。
 空に何人か人を乗せた武神が見えてきた。「地摺朱雀」と“義”だ。輸送船への着艦軌道に入るのを見て成政は輸送船の艦尾を蹴って退いていく。「羽柴」の戦艦落としには続きがあったのだ。

 正純は夜空から落ちてくるものを見ていた。黒塗りのドラゴン級ガレー船だ。“義”も「地摺朱雀」も着艦直後で対応できない、落下軌道に向けて「武蔵」から来た外交艦と東側で上昇を掛けていた《半球》を乗せた輸送艦が割り込みを掛ける。
 壁となった2艦がガレー船と激突し、ひしゃげた。上空では「武蔵」が外部装甲の灯火を一斉に消す。敵艦突撃を受けないためだ。しかし、《マクデブルクの半球》は失われた。
ゲーリケ達の乗った輸送艦は西に向かい、「六護式仏蘭西」航空艦隊に合流するようだ。マクデブルクは水没し、「M.H.R.R」「P.A.Oda」の包囲軍も南方向に撤退している。戦闘は終結した。
肉を打つ音がしてアデーレが振り返ると喜美が「M.H.R.R」の制服を着た女子生徒の頬を叩いていた。
“誰です?”と聞くと女装の馬鹿が“俺だよ、俺”と言うので周囲で作業していた男子学生ともども、アデーレは敗北を感じ、膝を屈した。
 喜美が皆を心配させて言うことは無いのかと問うのに、トーリは“ありがとう、戻ってこられたよ”と答える。すまないと言わない所がトーリらしい。むかし、喜美と御菓子の家に行ったような気がすると喜美に言うと、“御菓子はもらった?”と返される。喜美はあの家のことを覚えていたようだ。
 
 下で成政と向き合っていたマルゴットとナルゼ、「武蔵野」にいる鈴から疑問が報告される。最後に降ってきた戦艦だけステルス仕様だったのだ。いきなり落ちてきて、鈴にも感知されなかったのは、先に落とした3隻が目暗ましになったからだ。だから、4隻目が本命のはずだ、だが何故撤退を始めてから落としたのか。気がつけば「M.H.R.R」艦隊は南東へ大きく距離を取っている。マルゴットとナルゼの耳に次第に大きくなってくる音が聞こえた。「鼓動」だ。

 《竜脈炉》。爆発予測時間は1分後。爆発すれば半径5キロ圏内が消滅する。
「武蔵」は緊急上昇をかけたいが、輸送船がまだ到着しない。オリオトライは諦めたのか丼の蕎麦を食べ続ける。浅間は“「三河」をドカンしたものがボカンしたら皆ボンしてアレレな感じ”になると騒ぐし、ハイディは“輸送艦、盾になってくれないかな。死んだら本にしてあげる。タイトルは「盾になったウスノロども」、印税は全部、私。”と御願いする。
 里見・義頼の“八房”が輸送艦に追いついてきたが、《パレ・カルディナル》の姿が見えない。「六護式仏蘭西」艦隊の方へ去ったのかとアデーレが思ったが、「六護式仏蘭西」側もまだ退避が済んでいない。爆発の被害の範囲内だ。なんとかしなければと考えた時、《竜脈炉》を積んだ戦艦が動いた。

 《パレ・カルディナル》と合一したアンヌはぼやけた意識の中で自分のしていることを自覚していた。西にいる「六護式仏蘭西」艦隊を巻き込ませるわけにはいかない。彼らには未来がある。次の時代を任せたのだ。自分のやって来たことを無駄にはさせない。寒気が来ている。あと30秒持つかわからない。ずっとベッドで寝ていた小娘が、どれだけ空を見上げていたか、その意味を教えてあげるわ。
 《パレ・カルディナル》が6枚の飛翔翼を開き、空へと自分の身体を発射する。

 里見・義康の通神にアンヌの声が響く。“皆、覚えておいて。これが私の尽きる瞬間の在り方だと。皆を護って、最後まで私は私を使い尽くして、―――そして勝つの”
 “なぜだ、あれほど兄王たちに会うことを待っていたのに、残された者のことを何故考えない!と顔を手で覆う義康に里見・義頼は語る。”勘違いするな、彼女は残すのではなく、お前たちを送り、そして行くのだ。“
 北西の空に向けて銀の一線が空を昇っていく。視覚に補正を掛けたリュイヌが西の方角の「六護式仏蘭西」方面をアンヌに見せる。視線を眼下に下ろせば「武蔵」と「六護式仏蘭西」航空艦隊が見えた。超望遠、増光度された視覚には「三銃士」Mouriシリーズ、そして《人狼女王》がいた。来てくれたのだ。「武蔵」の上に居るのは娘だろうか。胸以外はよく似ている。
 リュイヌが到達点に着いたと告げる。アンヌはリュイヌに礼を言った時、夜空に太陽が生まれた。
 爆風で丸く暗雲を吹き飛ばした後に見えたものは月だった。
 img_0613.jpg

 南東の空を行く艦上で柴田・勝家は呟く。“とんでもねえ女だぜ。お前ら、覚えておけ。あの女は俺たちと同じ時代、自分の最後まで「六護式仏蘭西」を護ったんだ。”

 爆風が木々を揺らす中、上着をはためかせた輝元が隣のルイ・エクシヴに声を掛ける。周りから見えるぞと彼の頭に上着を掛けて隠す。
 ルイ・エクシヴは顔が隠されたことで、もはや憚ることなく・・・・
 
「第八十六章 行く道の待ち受け相手」
17-086.jpg

 艦首を空に垂直に向けたまま発射準備にかかる「武蔵」に輸送船が到着した。だがトーリは空を見上げたまま動かない。喜美が手を握っているから大丈夫だろうが浅間・智はその姿を見つめていた。
 トーリが“楽しかったのかな”と浅間に問うのに、反射的に“違います”と答えていた。これは自分の役目だ。楽しかったと言えばそれは故人が去ったことを認めたことになり、トーリは悲しむだろう。 神道の巫女としての自分に聞いてきたのは、アンヌがどうなったかを疑問したからだ。
 “彼女はいつものように皆を護ってくれたのです。”トーリはそれを聞いて、“そっか、ありがとうって言わなきゃな。借りはいつか返すから”。振り返るトーリの顔にはとりあえずという形でいつもの笑みがあった。

 「多摩」の港上には三年梅組の皆の顔があった。女装の馬鹿を先頭に輸送船から降りるとホライゾンがトーリを手招きする。右の平手を振りかぶるので、のけぞって制止するトーリに、ほほう、それではと「大罪武装」を取り出そうとする。あわてて話題を変えるためにホライゾンにとって重要なことがあるとネシンバラに話を振る。
 仕方ないなあと言いながらネシンバラが解説する。これから「武蔵」は「P.A.Oda」領を通過して「清・武田」と合流、「三方ケ原の戦い」の歴史再現を行わなければならない。ここで「松平」当主は恐怖でウ〇コを漏らす。これを自分が代理してやると馬鹿が言う。
 いや、それでしたらこれで充分とホライゾンは背後の格納空間から「BIGBEN回収箱」を取り出す。修学旅行用のケンベーンで代用の解釈が出来るという。これに動きを止めたのは馬鹿だけでなく、輸送船組の女衆だ。オリオトライの指示で9時までに(あと2分)提出しなければならない。
 幸い、アデーレの話で浅間が騒いだので結果は残してある。そそくさとホライゾンを片隅に連れて行って白い包み紙を箱に入れる。直政が名前を書き忘れたと言うのに、アデーレも書き忘れたと言い出す。直政はアデーレの顔をじっと見て、犬のやつを使わなかっただろうなと問い詰める。小学部の時それをやって、人類の範疇以外の反応が出て危うく学校全体が消毒されかかったようだ。

 「武蔵」再発射の時が来た。雲を抜けた八艦は浅い弾道軌道で「M.H.R.R」領を南南西に進路を取る。マクデブルクから輸送船は「武蔵野」のバウに設置され、「武蔵」を「M.H.R.R」外まで曳航・先導していることになっている。現在、「羽柴」領の東欧と「M.H.R.R」の暫定国境上を飛んでいるが、このまま瀬戸内海に出る予定だ。その後、松永・久秀の領地、紀伊半島へ向かう。
 「P.A.Oda」本体は北側のオスマン朝トルコで、久秀は南側のオスマンに滅ぼされたサファヴィー朝トルコの残党や諸部族をまとめている。その暫定国境を西から東に抜ければ「三河」だ。
 正純は今後の行動を考えながら、ネシンバラに「マクデブルクの戦い」の結果分析を問う。
 「六護式仏蘭西」にとってはアンヌ・ドートリッシュの意思が明確になり、士気の向上につながった。「M.H.R.R」改派は被害を想定内に収めたはずだ。ただし、《竜脈炉》以外はだ。あれがあと何発、「羽柴」や「P.A.Oda」が持っているのか。作り方は簡単だ。しかし、それは各教導院の持つ流体槽の容量による。「P.A.Oda」は比叡山焼き討ちでムラサイ本拠の流体槽を奪取した疑いがある。
 久々に副会長と書記の会話が出来たと正純が思っていると、今度はネシンバラが問いかける。今回の戦いは敗戦だったか?と。
 記録を取ろうと手を止めているネシンバラに、正純は歴史再現としては敗戦だが実質は勝利と言えるだろう。アンヌ・ドートリッシュが必要以上の破壊から皆を救ったのだと答える。そして、松永公との戦闘はネシンバラに任せると言って教導院の方へ戻ろうとする。ネシンバラは奥多摩IZUMOに槍本多が《蜻蛉切》の修理に行ったと告げる。

 瀬戸内海上空に出てマクデブルクの輸送船は「武蔵」から離れていく。その時、正純は西側の空の雲が揺らめくのを見た。背後のネシンバラが大声で一次ステルスの外部影響だと叫ぶ。
 艦内通神で「武蔵野」の探知確認が届く。あれは「M.H.R.R」羽柴所属の姫路城「白鷺・改」、打撃型戦闘艦だ。


 次回、「武蔵」を追撃する「P.A.Oda」軍。果たして逃げ切れるのか?
 松永・久秀は敵となるのか味方となるのか?
 「三方ケ原の戦い」はどうなる? 残り9章です。
 お楽しみに!


 Episode Ⅲ-Part 3 適当ダイジェスト⑨につづく。

第271回 境界線上のホライゾンⅢ(16)

Posted by ヒッター7777 on   0 comments   0 trackback

川上稔「境界線上のホライゾン Ⅲ(下)」 Horizon on the Middle of Nowhere
Episode Ⅲ-Part 3 適当ダイジェスト⑦


「第八十一章 足らず場所の参戦者」「第八十二章 崩れ場の使者達」
16-031.jpg

 メアリの下から《王賜剣一型(Ex.コールブランド)》がネイト・ミトツダイラの下へ飛んで行ったのは《インテリジェント・アイテム》としての自立行動だったようだ。
 トーリはその間、「M.H.R.R」「P.A.Oda」連合の陣地内で洋物エロゲを漁っていた。大量に確保したエロゲを見て点蔵も初回限定盤を見分けるとは流石だ。点蔵の親父は暫定議会の隠密任務でついでに手に入れたエロゲで摘発されたことがあるらしい(笑)

 ネイトは一気に力が抜けて座り込んでいた。《王賜剣(エクスカリバー)》の一撃と《銀十字(アルジョント・クロス)》の“戦乙女の神鉄槌”が相殺したのか、《人狼女王》は無事だった。
 ドレスの胸元に縦に切られた跡があるのは、《王賜剣》が打撃として当たったためで、そのまま胸で挟まれたらしい。「巨乳防御」である。
 ネイトママンはこれで“二勝一敗”だと言うが、ネイトは今回はノーカウントだと言う。
 自分は全力だったが《人狼女王(レーネ・デ・ガルウ)》には余裕がある。そもそも“獣変調(ベト・デ・モデュレシオン)”をしていないのだ。
 《人狼女王》は面白いものを見せてもらったと、ネイトが“王”について行くことを認める。そして早いとこ食っちゃえとそそのかす。

 マクデブルクの外での戦闘は西側の丘の下の荒れ地で行われていた。突撃する「六護式仏蘭西」武神団に対し、「M.H.R.R」「P.A.Oda」混成の防御隊1万が迎え撃つ。
 「P.A.Oda」軍の使う術式は唯教の唯術、中東の土着術と聖術を合成して作った異教の術である。”天使顕現術式(マラーイカ)”で左右4mの長さの光の両腕を作り出す。
 「M.H.R.R」機動殻部隊も旧派(カトリック)系の術式を展開する。

 「武蔵野」艦橋では向井・鈴が“音鳴りさん・改”を耳の上で押さえた。戦場の音が大きすぎるのだ。祝詞制御術式で抽出音平均化と音を低めにしってもらい、ついでに倫理制限の情報処理試験で語尾付き再生にする。
 “もっと!もっと増援をこっちに送ってくれみたいな感じ~!” 
 “くそ!いいところにもらっちまったみたいな感じ~!”
 “第7小隊、指揮系統を少し整えろみたいな感じ~!“
 言っている内容は変化がないが気分的に楽になる。だが、鈴は南の方向になにかあやふやな“概要”を感じた。

 「六護式仏蘭西」武神団の8機の武神が8つの刃のように防御陣に食い込む。しかし武神を引き込むかのような挙動に武神隊の隊長は位置を戻させ、一進一退の攻防となった。そこに「六護式仏蘭西」の「三銃士」隊が合流した。アンリの号令で戦闘装備の侍女型自動人形(ペル・デ・マリオネッタ)が足並み揃えて加速する。
 武神隊に向かって密集していた防御隊は背後から迫る銃士隊に反撃が間に合わない。

 鈴は南の方向の気配を思い出した。「英国」で一度だけ遭遇したことがある。五大頂の四番の二、前田・利家の“癒使(イスラフィル)”「加賀百万G(カガ・ミリオネンガイスト)」だ。
南の空から迫る「K.P.A.Itaria」からの増援艦体の艦上、前田・利家が呼び出した動白骨(リビングボーン)の戦士団1万が参戦した。

 数を頼りにした動白骨戦士団に対し、長銃では射撃効果が低いと判断した600名の銃士隊は中核の槍陣を前に出し、ローテーションで動白骨の遅滞用防御陣を砕いていく。
 「三銃士」アンリが巨大な4本のブレードを空中から召喚し、アルマンが地面を本のように持ち上げ動白骨ごと閉じる。イザックが砲台として後方から砲撃支援する。
 だが「六護式仏蘭西」武神団と「銃士隊」が合流した時、ふいに背後から攻撃が来た。
 砕いたはずの動白骨が復活してくる。しかも形状と速度がが違う。倒された動白骨百体が体長3mの大猿のような動白骨として蘇る。その数、百体。百体分の密度の人型に突撃用の槍が通らない。
 長銃を持つ自動人形隊は対機動殻用の鋼弾を関節に撃ちこみ打ち砕く。
 しかし動白骨はさらに再生した。その姿は武神に似ている。10体の大猿動白骨から1体の動白骨の巨大人形が完成した、
 アンリはさらに2本のブレードを召喚し、片手で3本のブレードを操作して1体の巨大人形を倒すが、大猿動白骨は仲間同士で壊しあい、新たな巨大人形となって現れる。まともに相手が出来るのは「三銃士」だけで銃士隊の自動人形の手には負えなくなってきた。
 アンリは自分の数が足りない、どうするか判断を迷った時、2機の武神が現れた。
 里見の重武神“八房”と八犬武神“義”だ。
 
 里見・義康は状況を確認する。戦場は4つ。マクデブルク内部、外壁近くの「六護式仏蘭西」武神団と「M.H.R.R」「P.A.Oda」合同隊の密集戦、自分らの居るとこる、最後のひとつは空だ。
 「六護式仏蘭西」航空艦隊と「M.H.R.R」艦隊が砲撃戦を開始した。そして、この場の戦闘も激化する。新たな「加賀百万G」1万が追加され、互いにつぶし合いながら大猿へ、巨大人形へと変わっていく。

 マクデブルク市の攻防は2箇所に分かれた。一つはエルベ川方面。佐々・成政と二人の魔女が戦いながら大聖堂に向かっていく。
 もう一方は水没した街の上で本多・二代と柴田・勝家が対峙していた。二代は大聖堂のある北を背にし、防御に徹している。勝家を輸送船に行かせないためだ。
 勝家の《瓶割》は刃に映したものを割り砕く。だからこちらを向く前に《蜻蛉切》の先端を撃ち込む。
 槍の方が直線的で早く、両手構えで力も入れられるが、鬼型長寿族の勝家の膂力に少しずつ押されてしまう。足場の悪い屋根の上では、自分の速度を出せない。
 勝家もこのやり取りにじれてちゃんと戦えと挑発するが、二代は足止めが目的なので乗ってこない。
 二代がやっているのは「三征西班牙」の《副長》弘中・隆包のやったバント戦法だ。自分はあのバント技を抜くことが出来なかった。いざ、自分でやってみると高度な技だと解る。自分はまだ未熟だ。
 勝家が打ち合いの速度を上げてくる

 マクデブルクの略奪開始から12分。いよいよ佳境を迎える。

「第八十三章 再会場所の皆」「第八十四章 水没都市のサムライ」
16-032.jpg

 マクデブルク西側の市壁近くまで来ていたトーリたちも動白骨に襲われていた。メアリが戦っている中、トーリは収穫品の洋物エロゲの山を抱えて遅れている。
 点蔵が本場の金髪巨乳ジャンル以外は捨てろというので投げ捨てると、動白骨数体が動きを止めた。皆でじっと囲んで見つめ始める。人間の時の記憶があるようだ。
 点蔵が銀髪ジャンルものを捨てたのでトーリが泣きまねを始めた時、骨の大猿2体が迫った。
 メアリが残り1本の《王賜剣(エクスカリバー)》を振り、点蔵が腰の短刀で下から切り上げる。馬上の敵を撃つ技だ。最終訓練では本物の馬を使うらしい。師範である点蔵の父が“見本を見せよう、なに、馬の脚など恐れることは無い”と言った5秒後に、大地に臥して動かなくなった時、訓練生たちが皆緊張した良い思い出だ。
 さらに市壁に接近した時、今度は巨大人形型白骨が現れた。点蔵が防御にかかるが近くの幕舎を蹴ってきて視界が塞がれる。打撃に対し構ええる点蔵の目の前で巨大人形型白骨の右腕が粉砕された。
 もう一本の《王賜剣》を持った《第五特務》ネイト・ミトツダイラだ。そして、残った本体を空から降ってきた鉄塊が叩き潰した。着地用緩衝機構のパーツを外すのは《第六特務》直政の「地摺朱雀」。
トーリたちを迎えに来たのだ。 
 挨拶もそこそこに「地摺朱雀」の飛翔器を展開し始める直政。「六護式仏蘭西」突撃隊を支援していた“八房”と“義”もこちらに気付いたようだ。“義”はあちこちの装甲が破損している。あそこも激戦のようだ。
 ネイトはメアリに礼を言って《王賜剣》を返す。そしてエロゲの入ったザックを後ろに隠した女装の馬鹿に振り向いて言葉を作る。
 “もどりましたわ、―――我が王。”
 馬鹿は頭を掻きながら言う。
 “違うだろ、ネイト。”
 ネイトは間違いに気づく。“Jud.付いていきますわ。我が王。”

 「M.H.R.R」「P.A.Oda」連盟の「マクデブルクの略奪」は十五分の期限の前に、市街南部の破壊と浸水を成果とし、包囲戦士団が撤退を始めた。
 成政と堕天、墜天の魔女達は戦闘しながら市街を北へ移動している。
 東側では単身で輸送船に攻撃を掛けようとする勝家を二代が食い止めていた。互いに《副長》を務めるが勝家はただの剛力型ではなく柔の力を持ってバランスが良い。二代の加速は累積型の術式だが、勝家は瞬間型で、しかも種族特性なので体に負担が無い。
 二代は初動見切りに努め、出鼻を挫き続ける。頭に来た勝家が挑発するたびに《蜻蛉切》が同じ言葉を返す。負けず嫌いな神格武装である。
突然、《蜻蛉切》が空を切った。勝家が《瓶割》を手放したのだ。《蜻蛉切》の穂先を握り手前に引いて脇の下に挟む。刃に自分を映さないためだ。そして落下する《瓶割》を蹴り上げ左手で掴む。
至近距離で“かかれ、《瓶割》”
 二代は咄嗟に《蜻蛉切》の伸縮機構を最大限に伸ばし、一気に身を後ろに飛ばす。水平に発動された割砕力は二代の髪を数房持って行ったが躱せた。
 だが勝家も《蜻蛉切》の柄に添って向かってくる。二代は《蜻蛉切》を戻しながら刃を下へ向け、戦場自体を割断した。
 V字型に割れた屋根の上で中央に勝家、端に二代を乗せたまま、真ん中から折れていく。互いに位置を変えながら《瓶割》の割砕力と《蜻蛉切》の割断力が交差する。勝家が《瓶割》を振り切った瞬間、二代に勝機が来た。これを外せば返しの《瓶割》を食らう。割断力を放つ《力ある言葉》が響いた時、東側から光が来た。勝家と二代の間を一直線に貫く。
 そして破壊が生じた。《蜻蛉切》の穂先の割断力展開機構が“過剰―――”と快音と共に破砕した。

 勝家は“馬鹿野郎・・・”と東の方角を見る。「M.H.R.R」の艦群の中の白い旗艦。その上に立つのは前田・利家とマティアス。マティアスは巨大な白と黒を纏う大石弓を持っていた。
「大罪武装(ロイズモイ・オプロ)」“飽食の一撃(フィオゴス・ガストリマルジア)”。
 彼こそ「飽食」の八大竜王。その「大罪武装」の能力は“出力過剰にして内部破壊を誘う”。
 勝家は“今のコレは美しくないが、背を見せて先へ行かず、殺すことで礼儀とさせてくれ”と《瓶割》を二代の首に振った。
 その刃がいきなり軌道を変える。背後から刃を打たれた。新手の敵は屋根の北側に立っていた。
 “立花の婿養子か!!”
 北に立花・婿、南に本多・娘、“東西無双”に背を見せるのは危険な判断だ。マティアスの要らん厚意で水を差されたが二対一なら気兼ねなく楽しめる。
 二代は死んだ「神格武装」の石突きを向けているが、動揺は隠せない。鉄槍を持つ宗茂と二代が並び立つ。勝家は《瓶割》と腰の脇差の二刀を持つ。
img_0583.jpg

 火花が散り、風が切り結びあう。宗茂が脇差に、二代が《瓶割》に専念し撃音を上げる。既に脇差は欠け、《瓶割》も表面装甲に傷のない部分は少ない有様だ。鬼を追う二人に対し、勝家がいきなり腰を落とし、身を低くする。
 勝家の頭の在った場所を砲弾が通過する。立花・嫁の“十字砲火(アルカプス・クルス)”だ。“読み“で躱して、”前に見たものが通じるか!“と笑う勝家の顔面にハンマーが撃突した。
 “ならば一発目は食らうということだな。”と巴・御前。そして勝家の背後で銀の十字架が展開を終えた。
 “穿ちなさい、―――戦乙女の神鉄槌(ワルキューレ・マルトー)”
 零距離からの直撃打が勝家の背中を襲った。水面をバウンドしながら飛ぶ勝家の行先に立つ巴・御前が、“死ね”小僧“とフルスイングするハンマーを、勝家は《瓶割》の割砕力を真下に向けて発動させて上方に飛び越える。
 五つ離れた屋根の上に着地した勝家は、膝を突き、口から大量の血を吐いた。粘るような汗を流し、全身が衝撃に震えている。
 口から血だまりを吐き捨てると、勝家は東のエルベ川の対岸へと跳躍する。
 “逃げるんですの?”と聞く《人狼女王》に、“勝ち逃げってやつだ、見てると死ぬぜ。すぐ逃げるんだな!”と黒の空気に身を消した。


 いや~、強いね、柴田・勝家。
 次回、「マクデブルクの略奪」終幕。アンヌ・ドートリッシュの運命は・・・
 「武蔵」は何処へ向かうのか?「M.H.R.R」、「P.A.Oda」の追撃がかかる!
 お楽しみに!

 Episode Ⅲ-Part 3 適当ダイジェスト⑧につづく。

制服4